前回はSOLIDWORKS WORLD 2019のレポートをお届けしました。
今回は、「私が考える3D CADのトレンド」についてお話しします。
ダウンロードコンテンツで執筆したプロジェクトの例の中で、「3D CADを良く知ること」と解説しています。
「それでは、3D CADは今どうなのか」という視点で3D CADの特徴を紹介します。
・・・と、その前に・・・。
「3D CADのトレンド?それってツールでしょ?」と言う人もいることでしょう。
私の身近にも、「単なるお絵かきでしょ?」だなんて言う人もいます。
私の役目は、そんな人に「3D CADで出来ること」を知ってもらうことなのですが、
「話せばわかる」は成り立たないと日々実感しています。
一方で、私は昨年、工科短期大学校の機械系の1年生の皆さんに、3D CADを教える機会を頂きました。勉強のひとつの効果測定として、ソリッドワークス社の認定試験CSWA※1をカリキュラムの中に採用させていただいた結果、なんと全員がCSWAになっています!!
※1 CSWA (Certified SOLIDWORKS Associate)
CSWA認定は、SOLIDWORKS® の専門知識を持っていることの証明であり、企業が求める最先端のスキルに匹敵します。(SOLIDWORKS社Webより抜粋)
学生の皆さんは、放課後まで残って、熱心に学んでいました。
これからの未来のエンジニアに期待を持ちます!!
私は授業の中で、ツールの使い方だけではなく、機械設計の考え方、工学的な基礎知識、最新の3D CADとそのソリューションの情報を織り交ぜながら指導してきています。
「設計経験者であり現役の3D CADに関わる者だからこそ、これができる」と自負しています。
さて、今年も新入社員を迎える季節となりました。
機械設計の経験はなくとも、その可能性を感じているエンジニアの卵を受け入れる会社が、「たかがツールでしょ?」なんて言わないですよね?
3D CADの最も大きな特徴は、「見えること」です。
フラットモニタ上ですが、奥行き感のある3次元形状で見ることができます。
この見えることの定義は、更に拡大されました。
「シミュレーション(Simulation)」はご存知かと思いますが、これまではCAE(Computer Aided Engineering)による解析を示すものだったのが、「現物が出来る前に検証する」(私の解釈)へと変わってきています。
数年前にAR・VR※2が登場し、製造業にも活用されていることはご存知のことでしょう。
※2
AR(Augmented Reality:オーグメンテッド・リアリティ)
人が知覚する現実環境をコンピュータにより拡張する技術、およびコンピュータにより拡張された現実環境そのもの
VR(virtual reality:バーチャル・リアリティ)
現実ではないが、機能としての本質は同じであるような環境を、コンピュータにより作り出す技術とその作り出された環境そのもの
ARとVRの区別はつきにくいかもしれませんが、「ポケモンGO(AR+)」はご存知でしょう。これはARです。現実の世界に、キャラクターがあたかも本当に存在するように見せてくれます。「Facebook space」はVRです。自分のプロフィールを登録した「アバター」※3が、VR空間上で、同じようにアバターになった友人とコミュニケーションをとることが可能です。この機能が製造業へ普及することになります。
※3 アバター(avatar):自分の分身となるキャラクター
その一例が、SOLIDWORKS eDrawingsを利用したVRとなります。
VRの一例(SOLIDWORKS eDrawings)
これまで、eDrawingsというと、3D CADのViewerという位置付けでした。
とはいえeDrawings+iOSを使用したeDrawing professionalによるARの仕組みもありました。
それは小型のものを見るには十分でしたが、大型の設備・機械を見るには工夫が必要でした。
この仕組みはあくまでも立体的に見ることを目的にしていましたが、新たなVRの仕組みによって、「モデルの中に入り込む」没入感を体験することで、より高度なレビューによって「実物ができる前に検証する」というSimulationが可能になります。
同様にPTC社Creoでは、全てのライセンスにAR機能が搭載されました。
また同社はSimulationの異なる視点として、CADベンダーの中で特に、IoT(Internet of Things)との連携を強化しています。実際の製品データを収集し、そのデータを3D CADによる設計にフィードバックすることを目指した「Creo Product Insight Extension」というものがあります。これもまた、実物を作る前の検証=Simulationと言えるのでしょう。
3D CADは、属性情報を持つことが可能です。モデルの形状の可視化とともに、
この属性情報を使い倒すことで、3D CADの導入効果が得られるといっても過言ではないでしょう。ではどんな情報を持つことができるのでしょうか?
- 属性情報
- 部品名
- 型式
- ファイルネーム(部品番号)
- 発注先/メーカー名(購入品)
- コード
- 表面処理
- 熱処理
- 価格(見積原価・実績原価・販売価格)
- 納期(基準となる納期)
- 公差(サイズ公差・幾何公差)
- 工程情報
- 加工データ(CAM)
- 測定内容と測定結果
初めの部品データは3Dモデルと共に開発設計部門で作成されます。
開発設計部門では、部品表を作成し、E-BOM(Engineering Bill of Material:設計部品表)と呼ばれています。E-BOMはその後、新たに情報が追加されます。
加工部品については、例えば、原材料手配~加工~表面処理のように工程が追加され、階層化される可能性もあります。
製造工程では、組立手順を考慮したサブアセンブリごとの「かたまり」を作る場合もあります。
このような製造工程で用いられる部品表をM-BOM(Manufacturing Bill of Material:製造部品表)と言います。更には、保守部品管理を行うものとして保守用の部品表が作成される場合もあります。
これまでは、付加される属性情報は3Dモデルに反映されずに、部品表に付加されるだけだったかもしれませんが、双方向に、つまり3Dモデルに属性を付加することもできるようになってきています。それが、MBD(Model Based Definition:モデルベース定義)という仕組みです。このMBDによってモデルに属性を取り込むことが可能になりました。
3D CADデータ管理を行うPDM(Product Data Management)システムとの併用によってモデル依存するデータの一元管理化が可能になります。
さらには、モデルの属性情報の入力については、ミスミさんのinCADのように3D CADが他のシステムと連携できるようになってきています。
iCAD-SX(iCAD社)とinCAD(ミスミ)との連携
これまでも、3D CADデータをカタログからインポートする仕組みはありましたが、このinCADの仕組みでは、規格値をパラメトリックに選択した結果、モデル形状とその型式を決めることが可能です。設計者は選定後、そのモデルのインポートを行うのと同時に型式をプロパティ情報として持つことができます。
inCADの画面からは、単価・出荷日・カタログPDFも参照できるので、これらの情報もモデルから一元管理できるようになれば、PDMシステムの併用によって他の設計者との情報共有も可能になるでしょう。(続く)