設計を行う上での、「最適化:英optimize(オプティマイズ)・optimization(オプティマイゼーション)」という言葉を以前より耳にしますが、皆さんご存知でしょうか?
また最近では、「ジェネレーティブ デザイン(英 Generative Design)」という言葉を聞くことが多くなりました。
そのような中、私ですが、株式会社構造計画研究所主催のSBDソリューションカンファレンス2019で、最適化についてお話させていただく機会がありましたので、これをきかっけに、最適化に関わるお話しをしていくこととしましょう。
エンジニアがすべきこと
私が尊敬する経営者にこんなことを言われたことがあります。
「エンジニアは、機能を満足する上で、最も軽量化を行う必要がある。これを逃げてはいけない。ここを攻めるべきである。」
これは、筐体設計のデザインレビューの一コマで、元エンジニアの経営者から発せられた言葉でした。
「象が踏んでも壊れない」という言葉はご存知でしょうか?
昭和時代の有名な筆箱のCMのキャッチコピーです。
この筆箱はポリカーボネート製で出来た透明なもので、デザイン性の良さと「象が踏んでも壊れない」“ほど”の耐久性を兼ね備えていて、今でも製造・販売されているロングセラー製品です。
ただ、機械産業の中でこの言葉が引用されるときは、この素敵な筆箱とは相反した「過剰な剛性」を意図しています。
言い換えれば、「過剰性能 和製英語 オーバースペック」と言うこともできます。
このオーバースペックですが、設計仕様の中のひとつとなる強度について注目すれば、「必要とされる強度に対して、過剰な強度を持っている」ことになります。
原価低減・納期短縮を経営目標としてかかげるメーカーにとっては、要求仕様に対して「過剰であること」つまり「不要であるもの」は取り除く必要が本来はあるはずです。
このデザインレビューではこんな話もありました。
「同じ原価だったら、過剰だっていいじゃないか」
これを受けて経営者は、「最適な設計を行わない設計は、そんなもん設計じゃない」と反論しています。
「枕を高くして寝る」ということわざがありますが、はご存知でしょうか?
設計者は、過剰な剛性を持っているものを設計すれば、ことわざ通り「枕を高くして寝る」ことができます。つまり剛性という品質については、「気にかかることがない・心配事が全くない」ということです。
でも、これでは、コストダウンは実現できないでしょう。
設計も「逃げる」わけなので、要求仕様を満足する「最適な剛性」を実現するような設計を「攻め」で行うわけではなく、設計力を伸ばす経験もなくなってしまいます。
ここでは、剛性についてお話していますが、サイズ公差や幾何公差を設定する場面でも同じようなことありますよね。こんな公差は不要だと思っても、チャンピオンの公差を設定していたりしませんか。「枕を高くして寝る」ために。
また、同じ経営者から、『零戦:その誕生と栄光の記録』 (角川文庫) 著 堀越二郎氏を読むことを、奨められたことがありました。堀越二郎氏は航空技術者、零式艦上戦闘機(零戦)の設計者として有名です。
映画となった『風立ちぬ』(スタジオジブリ 宮崎駿監督作品)の主人公です。
(この映画は小説『風立ちぬ』著 堀辰雄氏からの着想が盛り込まれているとのことです)
現在のようにコンピュータを駆使して開発設計・評価を行う環境がない時代に、「速力、上昇力、航続力を満たすための軽量化」を目指した人たちの姿が描かれています。
技術論だけではなく、様々な視点でこの書籍から感じるものがあるとは思いますが、私は一人の設計者として、軽量化を行う上でその要求仕様を満足させようとする開発設計の姿に感銘を受けました。
(この開発設計では要求仕様を満足するために、トレードオフ※として、犠牲にしなければならない機能もありました)
(※トレードオフ:一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態・関係)
このお話も「最適化」について書かれているものだと私は思いました。
私もぜひ、エンジニアの皆さん、エンジニアリングに関わる皆さんに、読んでいただくことをお勧めします。
きっと、私が尊敬する経営者も、この書籍から、エンジニアリングに関わる者として、何かを感じてほしかったのでしょう。
設計者CAE
現代では、3DCADとCAEを連携して使用することにより、コンピュータ支援による開発設計を行い、その検証も行うことができるようになりました。
しかし、これらのツールを使用する上でバックボーンにあるものは、工学であることは何も変わってはいないのですが、基本的な工学知識を理解することや、その検証内容に応じて専門的な知識を理解することで、難しい運動方程式を解かなくても、解析はできるようになりました。
「カジュアルで高度な設計検証」ができるようになったわけです。
もちろん、特別な理論を展開して、その計算方法を解析で使用するような解析専任者による解析も必要です。
でも、これまで解析専任者しか解析できなかったものの、「ある程度の内容」すべてができるとは言いませんが、設計者自身が解析を行うことができるようになってきています。
設計者が試行錯誤する場面で、これができることにはとても有効性があります。
でも、誤解はしないでほしいのは・・・
私はいきなり3D図面を描いて解析することを推奨してはいません。デジタル(PCに向かって操作する)だろうが、アナログ(紙に手描き)だろうが、設計者は構想図を考えるべきだし、必要に応じた設計計算書を作成する必要があります。
これって、設計の起点ですが、この起点で作られたものが間違っていたら、この後進む設計の方向性は大きく反れていってしまいます。
と余談でしたが、設計者自身が設計内容を検証していく設計者CAEには、次のような特徴があります。
設計者CAEと解析専任者CAEの違いって(筆者解釈)
構想設計での方向性を決めることや、詳細設計で設計パラメータを決めることが、設計者CAEです。「Simulation Based Design」という言葉が設計者CAEを表すのにしっくりときます。(実は冒頭のSBDソリューションとは、このSimulation Based Design から作られたものだとお聞きしています)
「設計者CAEの実践は、<フロントローディング>である」
と言う人もいますが、私もその通りだと思います。
CAEをできる限り早い段階で行うことで、「CAEは開発設計プロセスの一部」になります。
「カジュアルで高度な設計検証ができる」CAEは、「電卓代わり」と言われることもあるので、「誰でも簡単に使えるチープなツール」と誤解されてしまいまいそうですが、決してそうではありません。
開発設計プロセスで使用する以上、その解析結果をすぐに設計に反映させる必要があるので、解析スピード、解析精度など、3DCADとの親和性など、ツールには高いパフォーマンスが求められます。
詳細設計は、限られた時間(工数)の中で行います。
最近では受注から出荷までが短納期化する傾向があるので、詳細設計の時間でさえ十分に確保することが難しいこともあります。
この限られた開発設計時間の中で、解析作業に1週間かかるようであれば、解析の運用は設計者には受け入れられないことでしょう。私の感覚では、待てても数日、理想は数時間ですね。
そんなことから、解析の設定や準備にかける時間もできる限り短くする必要もありますが、設計者CAEは3DCADと連携する(親和性が高い)ので、わざわざ解析モデルを作成する必要もなく、その解析を行うための準備時間も少なく、解析結果と3DCAD設計を行ったりきたりできるのも特徴です。
そんなことからも、設計者CAEには、次のような結果が求められます。
- 比較検証ができること
- 解析の設定条件(境界条件)と解析対称モデルの設計値
(パラメータ)の変更が簡単なこと - 解析結果は絶対値よりも相対値として比較検討する
- 解析の設定条件(境界条件)と解析対称モデルの設計値
- 設計者が設計パラメータとして解析結果を反映できること
- 解析結果は最終的に設計値を決めるものに使う
次回に続く