大手企業では既にAI活用に取り組まれている企業があると聞いていたその当時、人・モノ・カネの多大なリソースが必要だといわれたAIはまだ私には手の届くものではないと考えていました。ですが、ChatGPTなど最近の状況から、会社のサイズに関わらず製造業でも「近い将来、利用できるものではないか」と感じています。
DXにより仕事のやり方を変え、さらにAIによって何ができるのでしょうか?
私の主観では、インダストリー4.0という言葉をめっきり聞かなくなったような気がしますが、世界ではDXという言葉を使わなくても、一気にデジタル化を進めて仕事のやり方を変えようとしている今、AIをひとつの切り口にして、開発設計製造環境はどのように変化していこうとしているのでしょうか。
「デジタルトランスフォーメーションの先をよむ」の新シリーズでは、開発設計製造環境の今と未来の可能性を考えていきます。
目次
インダストリー4.0としてのAI
DXブームよりも少し前にインダストリー4.0として、IoT(Internet of Things モノのインターネット)といわれるさまざまなセンシングによってデータを採取し、採取されたデータをクラウドコンピュータ上に集めて、データ処理を行う仕組みや、そのデータ処理を人工知能AI(Artificial Intelligence)によって行うというようなという話を聞く機会が多くありました。以来、IoTとしてのAI利用は、製造業でも進んでいます。
次の画像は2017年開催されたソリッドワークスジャパン社の年次イベント内の講演で話があったものです。画像のものは火災検知器ですが、気象のモニタリングを行う機能を持っています。

「IoTの仕組みを提供」 2017年ソリッドワークスワールドジャパン2016にて
製品設計を3D CADやさまざまな解析方法で設計検証を行うだけではなく、この製品からセンシングされた情報を、3D CADソリッドワークスと連携できるIoTプラットフォームとして、当時、xively(ザイブリー)によりクラウド連携を行い、3DEXPERIENCE NETVIBESによってビックデータ分析や、ユーザーに火災情報や天気情報を提供するというサービスまでを製品設計段階から考えたデジタルツインといわれるものです。
インダストリー4.0(Industry 4.0)とは: ドイツ政府が2011年に打ち出した産業政策。製造業におけるオートメーション化およびデータ化・コンピュータ化を目指す技術コンセプトの名称。 中核の部分はデジタルツインともいわれる技術で、モノのインターネット (IoT) 、クラウドコンピューティングによって、実態と仮想現実を結びつけるものである。第四次産業革命といわれている。 |
今、話題のChatGPTとは
ChatGPTは、米国のOpenAI社が開発したチャットボットで、テキストデータから言語学習を行い、まるで会話しているように自然な文章を生成することができます。
ちなみに、GPTとはGenerative Pre-Trained transformerの略で、「何千億個ものパラメータを用いた文章生成言語モデル」のことをいいます。
今、毎日のように対話式AI ChatGPTについて報道が行われています。ChatGPTは、2022年11月にリリースされ、そこから2か月ほどで1億ユーザーを突破したといわれています。
私自身が触りはじめたのは、この1~2か月ですが、非常に興味深いものと実感しています。
ビジネスでのChatGPTの利用率の調査結果を見ると、日本ではわずか7%です。利用していない人が42%で、知らないという人が46%もいます。
一方、米国では、利用率が51%を超え、知らないという人はわずか9%という結果です。

ビジネスにおけるChatGPT利用率
出典:株式会社MM総研 「日米企業におけるChatGPT利用動向調査」(2023年5月末時点)
ChatGPTに聞いてみた。「ChatGPTとは何ですか?」
ChatGPTに「ChatGPTとは何ですか?」と質問してみました。すると、こんな回答がありました。
<ChatGPTの回答> ChatGPTは、OpenAIが開発した大規模な言語モデルです。ChatGPTは、自然言語処理のタスクに対して非常に優れた性能を持ち、人間のような対話を行うことができます。ChatGPTは大量のテキストデータを学習し、その知識をもとに質問に答えたり、対話を進めたりすることができます。ChatGPTは、テキストベースのインターフェースを通じて対話することができ、さまざまなトピックや質問に関する情報を提供することができます。また、文脈を理解し、回答を生成する能力を持っており、対話の流れを維持することができます。ただし、ChatGPTは人間の知識の集合体であり、情報の正確性や最新性については保障できません。また、倫理的な問題に対する認識や判断力を持っていないため、利用者の責任で利用する必要があります。 |
ChatGPTは生成AI (Generative AI)といわれるものです。画像、文章、音声、プログラムコード、構造化データなどのコンテンツが生成することができます。
他にAIにできることには、「分類」「回帰分析」「学習」などさまざまな機能があります。
ChatGPTのようにディープラーニング(深層学習)を活用したものとして、周囲の状況を判断しながら機能する自動車の自動運転はよく耳にするものです。
AIの可能性と影響
AIというと、AIにとって代わる仕事のことがよく話題になりますが、私はそうではなく、仕事の質が変わると考えています。
AIの利用でより効率的に仕事ができることで、「時間を産む」ことができるようになります。

AIが雇用に与える影響(国内外各種分析結果)より抜粋
出典:総務省 AIネットワーク社会推進会議 AI経済検討会(第8回)
製造業を含め、創造的な仕事や、人と人が直接関わることでサービスや価値を生む仕事は代替えされるわけではありません。その仕事も定型的な作業は自動化やAIによって処理は行われるものの、判断や非定型な業務は人によって行われるものだと考えています。
だから、人が考えることはなくなるはずもないわけです。
今、リスキリングの話題があがることもとても多いのですが、同時にアップリスキリングも重要です。
プロフェッショナルなサービスや、専門知識を求められるような業務のためのスキルがAIによって創出され、求められていくことでしょう。
リスキリング (Reskilling) 新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する(させる)こと アップリスキリング(Upskilling) 既に持っているスキルを改善することや、さらにパワーアップさせるスキルアップのこと |
どうなる?これからの製造業の開発設計環境
2023年6月2日にミスミグループ本社にて、meviy事業の説明会が開催されました。そこでは、meviyのこれまでの取り組みや進化、さらにはAI徹底活用についてのお話を聞くことができました。
これまで私自身が体験してきているDXの取り組みや、日本国内外で先を行く方々から聴いた話、さらにこの事業説明会で聴くことができた話から、製造業界ではAIなどの技術によってどのようなイノベーションが起こるのか、まずは私自身が関わる開発設計領域を考えます。
V字プロセス
V字プロセスはご存じでしょうか。
開発設計を行う環境では、V字プロセスに沿って開発が行われることが多くあります。

V字プロセスに沿った開発工程
V字プロセスには設計プロセスと検証プロセスがあります。
設計プロセスは、システム設計→ユニット設計→部品設計というように詳細化されていきます。
設計プロセスが終わると、試作品を製作し検証プロセスにより製品品質について妥当性検証を行います。
検証によって設計への手戻りが生じることも多く、そのたび試作が繰り返され、検証を行うので、開発コストも開発期間もかかるといわれていました。
この設計プロセスをデジタルモデルとシミュレーションを繰り返すことで、デジタルモデルの完成度を上げることによって、試作や検証プロセスの手戻りを削減しようとするものが、新たなV字プロセスになります。
この代表的な試みがMBD(Model Based Design モデルベース開発)というもので、これもまた数年前より開発設計業界では騒がれています。
設計プロセスの品質を効果的に上げるために、AIは使えるのか?
V字プロセスにおける設計プロセスを例に、AIの活用の可能性を想像してみましょう。
これは私の想像ですが、さまざまな設計業務でAIが使えそうです。
このMBDは3D CADによるデジタルデータとデジタルエンジニアリングによって実現可能となります。
<システム設計領域> ■コンセプト設計・構想設計
■ユニット設計・部品設計
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今すぐではなくても、デジタルデータをうまく利用して開発設計を行えば、今後AI活用の可能性は広がるように思えます。
まとめ
製造業で必要となる技術データを探すことや、最適な設計諸元を決める上でのアドバイスを導くことは、ChatGPTのような対話型AIによって実現可能です。AIの支援によって、設計者はより付加価値が高く、設計の本質といえる構想設計や詳細設計に集中することができることでしょう。
果たして、こんなことが実現できるのか想像だけの話なのか?
次回は、まず初めに、私自身がもっとも馴染みのあるGenerative Designを取り上げていくことにしましょう。