ダッソー・システムズのSOLIDWORKSおよび3DEXPERIENCE Worksコミュニティの年次イベント『3DEXPERIENCE WORLD 2024(3DXW2024)』に、参加しました。
■3DEXPERIENCE WORLD 2024 会期:2024年2月11~14日 会場:ケイ・ベイリー・ハッチソンコンベンションセンター |
今年の開催場所は米国南部、テキサス州北部の都市、ダラス(Dallas)です。ダラスはダラス北部プレイノ(Plano)にトヨタ米国本社機能があるなど発展をし続ける大都市です。
2019年、SOLIDWORKS WORLD2019で訪れて以来となります。
今回は、25周年を迎える年次イベントとなりました。この歴史的なイベントでは、今後のSOLIDWORKSの方向性を示すために発信された3D CADとCAE機能を中心に、レポートをお届けします。
目次
1.テーマは「IMAGINE」、キーワードはAI(人工知能)
昨年のイベントから使われているテーマ「IMAGINE」です。昨年来、世界で大きく変化したことはAI(人工知能)が日常的に使用されるようになったことです。
クラウド/Webブラウザベースのモデリングツール「3D Creator」「3D Sculptor」には、AIをベースとする設計支援機能「デザインアシスタント(Design Assistant)」がすでに搭載されています。
1)進化するAIによる設計支援
① 画像からの3Dモデル生成
例えば、エッジ選択、合致操作など、設計者が反復的に行う操作を自動化するように設計されています。設計者にとって、1回の作業短縮がわずかであっても、1日、1週間となればそこから生まれる時間は少なくありません。
これまでは、「設計支援」がAI活用のメインとなっていましたが、ダッソー・システムズ SOLIDWORKS CEO 兼 R&D担当バイスプレジデントのマニッシュ・クマー氏より、画像やデザインを3D CAD上に取り込み3D モデルを自動生成する「Image to Sketch」の紹介がありました。
これは設計支援とは異なる自動生成的なAIの活用をイメージできるものでした。
従来2次元のデザインから3D モデル化を行う場合、3D CAD上に取り込んだ2Dデザインの上に外形線(スケッチライン)を描くようにしてスケッチを完成し、その後フィーチャーにより3D化を行っていました。
この作業はアナログ的なものであるとともに、時間がかかるものでしたが、Image to Sketchは、その作業効率化するばかりではなく、AIによって自動生成されていくものなので、単なる支援ツールとは異なっていました。
② 3Dモデルからの2D図面自動生成
その他には、3D 図面から2D 図面をAIによって自動生成する機能の紹介もありました。
図 3D 図面から2D 図面をAIによって自動生成する機能
①では、3D モデルデータを認識することで、2D図面に必要な情報をジオメトリ(形態)から読み取ります。
②では①で読み取ったデータから図面を自動生成します。
詳細機能はまだ不明ですが、自動生成される2D図面は単にジオメトリを読み取るだけではなく、過去の図面を参考にして断面図など図形の詳細を表示するなど、図面の品質をあげることが予想できます。
この二つの機能は、「設計者がイメージ、要求仕様を与えたものを自動生成する」というものではありませんが、設計支援ツール以上に「人に代わって仕事をしている」ものです。
2.AIもビックデータなしでは機能しない
「AIで何でも人に代わって仕事をしてくれる」と思われがちですが、AIはこれまでのデータに基づいて動いています。ChatGPT-4は、2023年4月までの最新情報に基づいてアップデートされています。
AIは機械学習によって成り立っているので、AIによる設計支援も機械学習が必要になります。
ここで紹介した機能の詳細は今後体験する機会によって明らかになることと思いますが、デスクトップではなく、クラウドコンピューティング環境が多くを学習できる環境だといえます。
その環境が「安全・安心」な環境だったとしても、機械学習前提で考えた場合、それぞれの企業の秘密がどう守られるのか興味があります。
3.ここまでやるのかCAE
昨年発信された「MODSIMU(モッドシム)」という開発設計プロセスにおいてCAEと設計を連携し、CAEも多岐に渡る運用によって、短い開発期間の中で完成することができた製品も見ることができました。
この事例を見て、私もこれから始める製品設計で、「徹底的にシミュレーションを行い、開発設計時点での完成度をあげたい。」と考えていました。
QARGO社は、イギリスに本社を置く企業です。共同創業者のAlok Das氏は、インドの交通量の多い都市部における物流手段として、通常の二輪車と小型トラックの間の積載量の領域を埋めるために考案されたモビリティを提案しました。
この開発には、ダッソー・システムズのスタートアップ支援プログラム「3DEXPERIENCE Lab」が活用され、開発設計プロセスではMODSIMが行われています。またプロジェクトもダッソー・システムズのENOVIA(エノビア)によりPDM(プロダクト・データ・マネジメント)、E-BOMデータ管理やプロジェクト管理が行われていました。プラットフォーム運用におけるDXそのものでした。
設計:SOLIDWORKS 解析:SIMLIA 空力性能:流体解析
PLM:ENOVIA |
この事例の何がすごかったと言えば、スタートアップ企業がここまでModelingとSimulationの連携を初めから行ったことです。日本ではそこまでできるのかを考えると、「できていない」と言わざるをえません。
4.最後は人
優れたAIも機械学習をさせる人も、支援ツールによってCADを操作するのも「今は人」です。
CAEの妥当性判断やトポロジーによる検証結果の採用も「今は人」です。
「設計の本質とは何か?」と考えた時、考えるのは人であり、試行するのはAIによるコンピューティングになります。今後の設計者は”より設計に集中する”ことが可能です。
SOLIDWORKSおよび3DEXPERIENCEWorksの能改善要求や、ユーザーコミュニティを作ることもパッションのあるユーザーが行っています。
AIというと、「人が不要になるのでは?」と考える人もいます。
繰り返し行われる作業や、複数のアイデアを出すことはAIが支援することで、効率的な開発設計が可能になります。
これらの仕組みは、「人によって作られ、人によって判断する。」ということから「最後は人」ということが言えるでしょう。
まとめ
3DEXPERIENCE Works&CRE担当 シニアバイスプレジデントのジャン・パオロ・バッシ氏によって次回開催地がヒューストンであるという発表により3日間の開催は幕を閉じました。
ジャン・パオロ・バッシ氏からは、「寂しくて楽しい」という言葉がありましたが、SOLIDWORKSおよび3DEXPERIENCEWorksコミュニティが集うイベントが閉幕となる寂しさと、安堵の気持ちを表したものですが、さらに言えば来年に向けたスタートとも言えます。私自身も同じ気持ちでした。
今回のTOPICSは何かと言えば、
- AIによる設計支援の可能性が見えたこと
- 昨年発表されたMODSIMが具体的な事例が示されたこと
- クラウドプラットフォームの定着
があげられます。
すでに定着に向かおうとしているクラウドプラットフォームという環境と、MODSIMによる開発設計環境、最新のAI技術による設計支援というデジタルを徹底的に使っていくことが、今回のイベントで示されました。
2024年スタートととなるこの時期のイベントで発信された内容が、来年に向けて具体的に動いていきます。イベント開催25周年を迎えた今、これからの25年はどんな進化を遂げていくのでしょうか。
その進化はヒューストン(Houston)で発表されることでしょう。期待せずにはいられないというだけではなく、3D推進者としてこの潮流をいかに捉えて展開すべきか考えるものとなりました。