2足歩行ロボットの頂点を決める格闘競技大会「ROBO-ONE」(ロボワン)。
毎年2回開催される本大会では、国内外問わず多くの参加者がしのぎを削っています。直近では2017年 9月23・24日の2日間、「MISUMI presents 第31回ROBO-ONE」が開かれました。
2012年に5pb. (ファイブ・ピー・ビー)から発売された科学アドベンチャーゲーム『ROBOTICS;NOTES』にもROBO-ONEの名前が登場するなど、ここ数年は熱心なファンたちの間でロボット格闘技ブームが起こっています。
ロボワン常連の中でちょっとした有名人が、夫婦で出場している「くぱぱ」さんと「くまま」さん。くままさんは、21・22・23回大会で史上初の3連覇を果たした実力者です。
今年7月に開かれたアーム型ロボットによる剣道大会「第5回ROBO-剣」の決勝戦では、まさかの“夫婦対決”が実現しました(※結果はこちら)。
まさに格闘ロボット夫婦のこのお二人は、いったい何者なのでしょうか。今回のインタビューで、その強さの秘密を探ってきました。
くぱぱさん(左)とくままさん(右)
ロボワン常連出場のご夫婦。お二人とも同じ建築系の会社に勤務し、趣味でロボット活動をしている。夫のくぱぱさんが主にロボットの製作を担当し、妻のくままさんが製作指揮などのブレーンを務める。
ロボットづくりを始めたきっかけ
――お二人はご夫婦でさまざまなロボットの格闘大会に出場されています。いつ頃から出場されているんですか?
ぱ 大会の本戦に出始めたのは2006年の第9回ロボワン大会からですね。だいたい11年ほど前でしょうか。
ま ROBO-ONEに出始めてから、地方で行われるロボット大会にも遠征するようになりました。今では年間20大会くらい出場しています。
――そもそも、ロボットを作り始めたきっかけは何だったのでしょうか?
ぱ 二人とも動く機械やメカが好きで、実は最初からロボットを作ること自体が好きだったわけではないんですよ。
ま もちろんロボットは好きなんです。グッズを集めたり、ロボットアニメを観たり、ロボットを見学したり。そんなある日、これを見つけたんです。
――こちらは?
ぱ アニメ『装甲騎兵ボトムズ』に出てくるロボットの外装です。当時、近藤科学さんが2足歩行ロボットキット『KHR-1』を発売していて、そのロボットに取り付けることができます。
ま 自分たちの好きなボトムズが実際に動くところを見たくて、このロボットキットを購入したのがロボットを作り始めたきっかけですね。これ以降、ROBO-ONEに出場するなど、様々な大会に参加するようになりました。
――初めは好きなアニメロボットへの興味からだったんですね。たしかにこの部屋の至る所にロボットグッズがあります。ちょっと見てみてもいいですか?
ご夫婦のロボットコレクション
――さっきから気になってたんですが、こちらの部屋っていろんなものがコレクションされていますね。このガンプラなんて、いくつあるのかわからない数です。
ま このガンプラは、ほとんど私の趣味ですね。敵キャラのジオン系が好きで、作ったものから作りきれないものまで、たくさん集めています。
ぱ 実はここの部屋は、主にロボットの練習用にと考えたのですが、だんだん物が増えてきました。自宅に入り切らないものを置いているスペースなんです。
――ロボットのために、自宅とは別の部屋を用意しているとは!
ま こちらは自宅の写真で、この棚にはソニーの犬型ペットロボット「AIBO」(アイボ)をコレクションしています。発売されたものはほとんど買っているので、古いものから新しいものまで全部で14体以上あります。
ぱ AIBOはもう販売終了してしまったので、悲しいですね。大切に扱っています【※】。
【※】AIBOは1999年の第1号機から約15万台以上を販売したが、2006年3月に生産終了となり、2014年3月に修理窓口も閉鎖された。その後、ソニーはロボット事業への再参入を発表。2018年春にもイヌ型の家庭用ロボットを発売するとしている。
――AIBOって、こんなに種類があったんですね。ちなみに、この攻殻機動隊のタチコマみたいなロボットはいったい……?
ぱ これはロボット開発会社のテムザックから、2003年に発売された家庭用ユーティリティーロボット『番竜』です。4本足でちょこちょこ動いて屋内を警備してくれます。
――こんなロボット、初めて見ました!
ぱ もともと出回ってる数が少なくて、壊れて動かなくなったものを格安で譲ってもらったんです。ツノが取れちゃっているのが残念ですが、私が持っているロボットの中でもけっこう珍しいほうですね。
ま これ、すごく重たくて、大人二人がかりでやっとのことで運びこまれてきたんですよ(笑)。家庭用のロボットだけど、家に置いておくのは大変だったんじゃないですかね。
普段どのような生活をしているの?
――こちらは、ロボワンなどに出場している、くぱぱさんのクロムキッド(左)とくままさんのガルーですね。年間20大会も出場しているとなると、普段どのような暮らしをしているのか気になります。やっぱりロボット中心の生活なのでしょうか?
ぱ うーん、そうですね……。会社が終わって家に戻ってご飯を食べたら、ずっとロボットをいじっていますね。
ま 大会が近い日は1日6時間くらい作業しています。それ以外だと、3〜4時間くらいかな?
――ほとんど副業レベルじゃないですか!
ぱ いろいろ道具も取り揃えていますからね。たとえばこれは、アルミの切削機です。これがあれば、機体に使うアルミ板の加工もできますから。パーツはどこかに発注することが多いのですが、私たちの場合は家で作れてしまうので、そのあたりは楽ですね。
――自前のアルミ切削機まであるとは……。
ま 普通の家庭だったら、夫がずっとロボットをいじっていると、その様子を見た妻が「またロボットばっかりやって!」と思うでしょうけど、うちは両方がロボット大好きですからね。むしろ私が、「動かしたいから、これ早く作って!」なんて催促したりしています(笑)。
ぱ だいたいいつも一緒に作業していますね。ロボットの話もできるし、毎日とても楽しいですよ。
――やはり、ロボット同士を戦わせて練習していたりするんでしょうか?
ぱ いえ、大会前に調整するくらいで、普段はあまりスパーリングみたいなことはしないですね。
ま 知っている人と対戦するとロボットの動きのパターンが読めてきちゃうので、あまり実戦的な練習にならないんですよ。だから練習会や「ROBOSPOT」【※】とかで知り合いと戦うのが一番の練習になります。
【※】東京都荒川区にある近藤科学のロボット練習場(http://www.robospot.jp/)
――強さの理由は、日頃から夫婦でロボット同士を戦わせて実戦経験を積んでいるからだと思っていました! ちなみに、お二人が考える自分たちの強さの秘密って何ですか?
ぱ やはり移動の安定性と、機体の丈夫さですかね。試合中にロボットが壊れてしまっては勝負にならないですから。あとは試合前にロボットが動かなくなる事態を防ぐために、メンテナンスはできる限りしっかりしますね。
ま 私は、いろんな人と戦うことで蓄積されるノウハウだと思います。自分の操縦も上達しますし、相手の動きのパターンも読みやすくなりますから。でも、勝負は時の運なので、これだけやったから絶対勝つという法則はありません。これが逆に面白いところでもありますね。
ぱ あと、大会では操縦者のそばにセコンドがつくので、私たちの場合はお互いがその役割を担っています。まあ、気心の知れた仲ですから、連携がとても取りやすい。
ま 私が出場するときは夫が、夫が出場するときには私が、お互いに声をかけ合っています。操縦していると周りが見えなくなって間合いがずれてしまうので、そばにいてくれるととても心強いですね。
――一人じゃなく二人で戦う、いわば二心同体ですね。ロボットの大会に出るようになって、どんな変化がありましたか?
ま たくさんの大会に出るようになって、ロボット仲間がたくさんできましたね。地方に遠征すると、そこで友達ができて情報交換したりするようになりますから。今では日本各地に仲間がいます。
ぱ 自分よりアニメやマンガの幅広い知識をもった人が多いですし、同じロボット好きとしていろんな話ができるので、たくさんの濃いつながりができました。やはりこれもROBO-ONEに出続けて来た財産みたいなものでしょうか。
――ちなみに、ロボットが好きな人なら絶対に知ってるアニメやマンガ作品ってあったりしますか?
ぱ うーん、何だろうな……。やっぱり『プラレス3四郎』じゃないですかね?
――プラレス3四郎? すみません、初めて聞きました。
ま まあ、20代だと知らないかもしれませんね。簡単にいうと、今のROBO-ONEのように、ロボット同士を戦わせるバトルマンガです。ROBO-ONE関係者の中でもファンが多く、ロボット大会に参加しているような人なら、おそらくみんな知っているんじゃないかなぁ。
ぱ 先日、「プラレス3四郎」の記念大会があったので、私たちも作中に登場するロボット「エル・ウラカン」を作りました。原作者の牛次郎さん、神矢みのるさんもいらしていたので、ファンにはたまらなかったです。
――子どものころ、憧れたマンガやアニメのファンが集って、作者と交流できる場があるのは最高ですね。今後、ロボットの大会でお二人が達成したい目標はありますか?
ぱ やっぱりロボワン優勝ですね。あとは3Dプリンターで外装を作るなど、いろんなことにチャレンジしていきたいです。
ま 私はクマみたいにモコモコでかわいいロボットを作りたいですね。今は格闘ロボットがほとんどなので、隣にいて心が安らぐようなかわいいやつ!
ぱ それでいうと、しゃべったり会話ができたりする自律型ロボットを作るのも、ロボット作りの一つの夢ですね。かなり難易度が高いですけど。
ま わー、そんな夢、いま初めて聞きました。応援しなきゃ!
ぱ やっぱり自分たちはロボットが大好きなので、もっと大会に出ていければ。そして、格闘ロボットに限らず、これからもたくさんのロボットを作っていきたいです。
最後に見せていただいたのは、くままさんのロボワン優勝チャンピオンベルト。
取材中も気さくに意見を交わし合うお二人からは、共通の趣味を持つ者同士、そして戦友のような絆があるように感じられました。一人じゃなく二人で戦うこと。それがくぱぱ・くままチームの強さの秘密なのでしょう。
(神田 匠/ノオト)