プロフェッショナル連載記事 金型づくり3D利活用のすゝめ

金型設計製造のあるべき姿に向けて

みなさんこんにちは!
電通総研の金型ソリューションチーム“Mold Planner”です。

私たちは金型設計製造を行われている製造業のみなさまへ、30年以上にわたりCAD/CAM/CAEなどのITツールをご提供し、業務改革のお手伝いをしています。

 

「金型づくり3D利活用のすゝめ」というテーマで連載しております本ブログは第12回となり、今回をもって最終回となります。

今回は「金型設計製造のあるべき姿に向けて」と題し、今まで紹介させて頂きましたIT施策の検討活動を推進する上で重要だと考えていることをお伝えします。

これからお話する内容は、次の通りです。

● 金型づくり改善活動の目的
● 改善活動が想定通りに進捗しない要因
● 「グランドデザイン」の重要性
● グランドデザイン策定の進め方
● まとめ

1.金型づくり改善活動の目的

金型設計製造に携わる方々は、日々忙しい実業務と並行し改善活動を推進されているかと思います。企業によって異なりますが、改善活動は以下の2つを目的とされることが多いのではないでしょうか?

  • 金型設計製造リードタイムを短縮する
  • 設計製造業務を効率化し作業工数を削減する

これらの目的を達成するための施策方針も以下の3つとしているケースが多いと思います。【図1】

  • 金型設計・製造準備作業の効率化
  • 金型部品加工時間の短縮
  • 成形不具合の削減
【図1】金型づくり改善活動の目的

【図1】金型づくり改善活動の目的

このように、多くの企業が同じような施策方針を立てられますが、具体的な改善活動となるとスムーズに推進できている企業と想定通りに推進できていない企業に二分されます。

それでは、想定通りに推進できてない要因について掘り下げてみます。

2.改善活動が想定通りに進捗しない要因

私たちは多くの企業をご支援させて頂き、改善活動の難しさを日々感じつつ、改善活動を阻害する要因は、「部門間の壁」「モチベーションの低下」「活動の迷走」の3つだと考えています。

それらの要因について、以下にご説明します。

【部門間の壁】

一般的に改善活動は、部門ごとに個別に取り組むケースが多いかと思います。部門内の改善は即効性があるメリットもありますが、大胆に業務を変えることができず効果も限定的です。

本来、大幅な改善効果を得るには部門を越え、複数タスクのマージ、タスクの前倒し、情報伝達手法の変更、体制変更などが必要だと考えられます。

ただし、各部門間の壁は高く、業務の押し付け合い、効果の奪い合いをしているケースが多いのではないでしょうか。

例えば、金型設計部門と加工部門は実業務としては密な連携をしていても、改善活動となると部門間の壁ができ、他部門に影響を及ぼす改善は手間なため無意識に部門内で収めるようにしていないでしょうか。

【モチベーションの低下】

実業務でも同じですが、自分がこの仕事をすることにより、会社や部門にどのような成果をもたらし、どのくらい貢献できるのかが分からなければ、やらされている仕事に感じます。

やらされ仕事のアウトプットは、取り繕ったものになり、想定通りの効果を得られない結果となります。

特に、改善活動は地道な作業が多く、長期的に活動しなければ成果を確認できず、困難も多いため担当者のモチベーションをどのように維持・向上させるかは重要な課題です。

【迷走する活動】

一般的に、新しい活動を開始するときは士気が上がり、良いスタートを切れることは多いと思います。ただし、途中で降りかかる難題(例えば「実業務の負荷増加に伴うリソース不足」や「ハードルが高い技術課題」など)をクリアにするには大変な労力がかかります。

当然、このような問題を解決しなければ前に進めませんが、それらの問題を潰していくことが活動となり、本来の目的や進むべき方向性を見失い、迷走してしまうケースも少なくありません。

3.「グランドデザイン」の重要性

前章でお伝えした想定通りに改善活動が推進できない要因を解決するには、以下の観点が重要だと考えています。

  • 自分達の置かれている状況や技術レベルなどの「現状」が、客観的に把握できている。
  • 部門間を超え、大きな効果を得られる「あるべき姿」を明確に定義できている。
  • 「現状」から「あるべき姿」へ向かうための最適な方針や施策が決まっている。
  • メンバー全員が現状を認識し、「あるべき姿」を合意できている。

 

メンバー全員が同じ方向を向き、進むべき道を理解していれば、道に迷っても元の道に戻ることができます。

自分たちの現状を認識し、あるべき姿を描き・合意し、目標に向かっての施策を定義して計画を立てる。このような業務改善を導く全体像を、私たちは「グランドデザイン」と呼び、活動を推進する上では最も重要な位置づけと考えています。

4.グランドデザイン策定の進め方

このグランドデザイン策定は企業によって異なりますが、一般的な進め方には、以下6つの工程で作り上げていきます。【図2】

【図2】グランドデザイン策定の進め方

【図2】グランドデザイン策定の進め方

(1)現状業務ヒアリング

一般的なグランドデザイン策定の進め方について、はじめに「(1)現状業務ヒアリング」と「(2)現状業務分析」の工程をご説明します。【図3】

【図3】(1)現状業務ヒアリング (2)現状業務分析

【図3】(1)現状業務ヒアリング (2)現状業務分析

はじめに部門の役割、目標、方針、組織、対象部品、連携する工場などの基本的な会社や部門情報をヒアリングします。

その後、現状の業務内容をヒアリングしながら業務フローを作成し、合わせて業務上での問題もお聞きします。

お聞きした問題の中から、リードタイム短縮などの部門目標に大きく寄与する問題を抽出します。

(2)現状業務分析

抽出された解決する優先度の高い問題に対し、そのような事象が発生してしまっている要因をヒアリングし、ロジックツリーなどにまとめていきます。

金型設計工数削減などの課題は、詳細に工数分析する必要があるため「タスク分析シート」を利用しながら、詳細タスクを可視化していきます。

IT活用レベルを他社と比較したい要望を頂いた場合、アンケート形式によりレベル診断できるツールも準備しています。

ここまでの工程により、現状の問題と要因が整理され、解決するための施策方針(課題)を立てることができます。

(3)あるべき姿検討

次に「(3)あるべき姿検討」と「(4)GAP分析」の工程をご説明します。【図4】

【図4】(3)あるべき姿検討 (4)GAP分析

【図4】(3)あるべき姿検討 (4)GAP分析

現状が把握できたら、次は向かうべき先となる「あるべき姿」を検討します。

あるべき姿は、何年後に実現するかによって姿が異なるため、ある程度目安を決めるためにプロジェクト統括責任者の方に、部門の目標や中期計画をメンバー全員に改めて説明して頂きます。通常は3年~5年後を「あるべき姿」に設定します。

ある程度の方向性を合わせた上で、上記「(1)現状業務ヒアリング」で作成した業務フローを眺めながら、将来どのような業務に変えていきたいかメンバー個々に考えて頂きます。

各メンバーが自分で記入した「あるべき姿」を説明しながら『思い』をメンバー全員に伝えて頂きます。

各メンバーの意見を集約し、全メンバーで議論しながら部門目標を実現する「あるべき姿」を描きます。

ここで重要なことは、先程お伝えした改善活動を阻害する要因の「部門間の壁」「モチベーションの低下」をクリアにできることです。

このような活動により各部門を越えて議論することで部門間の壁を取り払うことができ、自分の意見が全体の「あるべき姿」になることで全メンバーが当事者意識をもつことができます。

(4)GAP分析

これまでの活動で導き出した「現状」と「あるべき姿」を並べることによりGAPが明確になり、そのGAPを埋めるためのステップを議論します。

議論した結果、あるべき姿達成までの各ステップにおける状態が定義され、これがロードマップとなります。このロードマップにより、改善活動を阻害する3つ目の要因である「活動の迷走」をクリアにすることができ、部門目標を達成するためのシナリオができます。

5施策検討

最後に「(5)施策検討」と「(6)計画立案」の工程をご説明します。【図5】

第12回【図5】(5)施策検討 (6)計画立案

第12回【図5】(5)施策検討 (6)計画立案

作成したロードマップの各ステップを実現するための具体的なツールを含めた施策を検討します。

その施策の多くは、電通総研がこれまで30年以上培ってきた実績のあるソリューションを提示させて頂くことが可能です。いくつかの具体的な施策事例については、第11回までに書かせて頂きました本ブログをご参照ください。

もし新規性の高い施策であれば、電通総研が協調している数多くのベンダーと一緒に新たなソリューションとしてご提示させて頂くこともできます。そして、それぞれの施策に対し、どの程度の効果を見込めるのか協議した上で予測効果を算出します。

全体の予測効果が目標に達しない場合、追加施策を検討し、再度予測効果を算出する作業を繰り返します。

6計画立案

ロードマップのステップを達成できる施策がまとまれば、後は計画立案となります。ここでは、体制、WBS、会議体など推進活動に必要な内容をプロジェクト計画として定義します。

このようにグランドデザインを策定できれば、後は計画に基づきプロジェクト管理していけば目標を達成できるはずです。

まとめ

最終回のテーマ「金型設計製造のあるべき姿に向けて」としてお伝えしたかったことは、大きな成果を得られる改善活動を推し進めるには、部門を超えた推進メンバー全員が同じ「考え」と「志」をもち、活動に臨むことが大切であるということです。

また、それは社内メンバーだけではなく、協調されている仕入れ先やITベンダーを含んだ一つのTeamである必要があります。

 

電通総研は、これまで培った経験を活かしながら、みなさまが決められた目標を達成するため、寄り添ってご支援させて頂きたいと考えています。金型づくりを3Dにより大きく業務を変革させ、大きな効果を得たいと考えていらっしゃる企業様がいらっしゃれば、お気軽にお声がけください。

 

冒頭でお話させて頂いた通り、1年半にわたり掲載させて頂きました本ブログは今回をもって最終回とさせて頂きます。長い間、お読み頂きましたみなさま、ありがとうございました。

 

また、ミスミ様には多大なご支援を頂いたおかげで、何とか12回投稿し続けることができました。この場をお借りして御礼申し上げます。

機会があれば、別のテーマで投稿させて頂きたいとも考えていますので、その際はよろしくお願いいたします。

ありがとうございました。