ザ・メカニカル・ドローイング 我流と本流 - 製図のお作法 -プロフェッショナル連載記事

風林火山!製図の4つの心構え
紛らわしい投影図め。後工程の担当者の苦しみと憎しみを知るがいい‐固定軸の例

設計の意図が伝わり加工しやすい投影図の描き方
本シリーズ「ザ・メカニカル・ドローイング 我流と本流 – 製図のお作法 -」第2クールでは、実際に運用されている図面を例にして、JIS製図のルールに沿った描き方、ルールから逸脱している描き方、ルールからは逸脱しているけど誤解することがないため許容できる描き方などに着目し、MISUMI(Web総合カタログ)の図表から標準的な機械部品の選定方法、投影図や寸法の意味を解説しました。

第3クール「風林火山!製図の4つの心構え」(全5回)では、見やすい投影図、加工の容易さ、関連する寸法、公差や粗さの妥当性を考えて既存図面の悪さを指摘し、改善する過程を“ビフォー・アフター”形式で解説します。

「どいった図面が悪い図面なん?」「投影図に寸法を記入するだけやから、良いも悪いもないんとちゃうん?」とモヤモヤしながら図面を描いている人も多いと思います。
悪い図面を反面教師にして読みやすく理解しやすい図面、加工しやすい図面、設計意図が伝わる図面を描きましょう!

 

第3クールのテーマは、

風林火山!製図の4つの心構え

~戦における四つの心構え~

 

今回は、旋盤で加工する円筒形状の部品図に着目して解説します。旋盤の特徴や加工の手順などを知りましょう。

 

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1)旋盤加工の特徴

製図の際の投影図の姿勢は加工と密接につながっています。設計者が加工の知識もなく図面を描いてしまうと現場の加工者は悩み苦しみます。
金属や樹脂を切削加工する部品は、“丸物(まるもの)”と“板物(いたもの)”の2つに分類されます。

・円筒状の材料から旋盤(せんばん)で加工するものを丸物といいます。
・ブロック状の材料からフライス盤で加工するものを板物といいます。

旋盤とは、高速回転させた円筒状の金属や樹脂材料に、作りたい形状に応じた刃物を当てて形状を削り出す工作機械のことをいいます。

旋盤は次の2つに大別されます。

汎用(はんよう)旋盤

加工者が手作業で目盛などを調整して加工する工作機械です。試作品や少量生産部品で単純形状の加工に適します(図1-1)。

図1-1 汎用旋盤の外観

図1-1 汎用旋盤の外観

NC(Numerical Control:数値制御)旋盤

加工者がプログラムを入力し自動で刃物が動いて加工する工作機械です。大量生産部品や曲面が存在するような複雑形状の加工に適します(図1-2)。

図1-2 NC旋盤の外観

図1-2 NC旋盤の外観

旋盤加工の形状と投影図の向き

旋盤ができる加工形状の種類としては、外径切削、端面切削、内径切削(中ぐり)、穴あけ、ねじ加工、突切りなどがあります(表1-1)。

表1-1 旋盤ができる加工形状の種類 

表1-1 旋盤ができる加工形状の種類
旋盤加工の特徴は、加工者から見て左側のチャックで材料を掴み、刃物が右から左へ移動して削ります(図1-3)。

図1-3 旋盤の構造

図1-3 旋盤の構造

JIS Z 8316の2.4項「投影図の選択」によると「投影図は機能的な姿勢で描く。あらゆる姿勢で用いることができる部品は加工や組付けを考慮した姿勢で描くことが望ましい」とあります。

つまり軸は様々な姿勢で組付けることができますので特に決められた姿勢は存在しません。そこで加工のしやすさを優先した投影図を選択することがマナーといえます(図1-4)。

図1-4 丸物で推奨される投影図の向き

図1-4 丸物で推奨される投影図の向き

 

2)参考とする図面のビフォー・アフター(固定軸の例)

本来であれば、組立図からその部品の機能(基準となる取付面や関連する寸法など)を見極めて、投影図や寸法などを記入しなければいけませんが、今回のシリーズで使用する部品図は組立図のない単品図しか所有していません。そのため筆者の経験からその機能を想像ながら解説します。ご了承ください。

今回事例として取り上げる図面は、丸棒の段付き部にねじのある「固定軸」という名称の部品になります(図1-5)。

図1-5 固定軸の3Dモデル

図1-5 固定軸の3Dモデル

固定軸のビフォー図面

それでは現状の固定軸の図面の悪さを、事実として列記していきます。
なお解説の前提条件として、下図における下側の図を正面図、上側の図を平面図と呼びます(図1-6)。

図1-6 固定軸のビフォー図面

図1-6 固定軸のビフォー図面

① 加工のしやすさ

正面図において段付き部分が上側に向いているため、この向きのままでは旋盤のチャックに固定できず旋盤で加工する際の取付姿勢として不適切であることがわかります。

② JIS製図のルール(中実軸)

正面図が全断面図で示されています。中実軸(ちゅうじつじく: 中身が詰まった軸のこと)はJIS製図のルール上、全断面にすることができません。なぜなら中実軸は全断面にしても投影図に変化がないことから断面にする意味がないとされるからです。

③ JIS製図のルール(円筒軸)

単純な円筒軸の図面に正面図と平面図の2つが配置されています。JIS B 0001によると「必要十分な投影図の数とする」という基本原則が明記されています。寸法補助記号「φ」を使用すれば円筒形状であることが表現できますので、平面図を抹消して直径の寸法を正面図に記入することで投影図の数を削減できます。一般的に旋盤加工だけで加工が完結できる丸物は正面図1つだけで図面を描くことができます。

④ 加工の知識

これは製図の問題ではなく形状設計の問題です。青丸部の段差根元部分までねじ加工されている投影図になっています。残念ながら段差の根元までねじを加工することができません。なぜなら、ねじ加工する刃物が段差部に接触してしまうからです。この投影図のまま出図すると、加工者は段差の根元部の形状をどうすればよいのか判断が付かずに困ってしまうことになります。

⑤ JIS製図のルール(引き出し線)

ねじを側面から見た図において、ねじ部の側面に引き出し線の矢を当てる記入法は旧JISのルールです。

⑥ JIS製図のルール(面取りの個数表記)

正面図を見ると右側の端面と左側のねじ部先端部に面取り形状が見えます。そのため2か所であることを指示するために「2-C1」と記入しています。しかし個数表記する場合は「-(ハイフン)」ではなく「x(かける)」を使用するようにJIS製図が改定されています。さらに2つの間違いがあります。

・1つ目は、そもそもJIS製図のルール上、面取りの個数表記はできません。しかし、多くの企業でC面取りやR面取りに個数表記しているのが実情です。
・2つ目は、両端面の面取りは機能的に関連性がないため、それぞれ分けて寸法記入する必要があります。

⑦ 加工者への気づかい

青枠の寸法を足せば全長の46.4mmであることは、わかります。しかし小数点のある寸法数値の場合、計算に時間がかかったり計算ミスを誘発したりする可能性があります。全長寸法は材料準備やコスト計算等にも利用されるため、参考寸法として表記した方が親切な図面になります。

固定軸のアフター図面

次に改善した図面例を確認しましょう。
なお解説の前提条件として、投影図が1つになっており、これを正面図と呼びます(図1-7)。

図1-7 固定軸のアフター図面

図1-7 固定軸のアフター図面

❶ 投影図の向き

旋盤加工しやすい向きとして、加工の多い部分を右側に向けるよう修正しました。

❷ 断面にしてはいけないもの

正面図を外形図に修正しました。

❸ 必要な投影図の数

寸法補助記号の「φ」や「M」などを使用することで、正面図だけでも形状を把握することができ、図面の簡素化につながります。

❹ 加工できない形状

段差の根元部までねじ加工できないため刃物が段差に当たる前に刃を逃がして不完全ねじ部を設けた形状としました。
その他の形状設計として、刃物が段差に当たる直前に工具の移動を止めてもいいように逃がし溝を設けた形状にすることもできます(図1-8)。

図1-8 逃がし溝の形状と寸法記入例(該当部詳細)

図1-8 逃がし溝の形状と寸法記入例(該当部詳細)

❺ 引き出し線の間違い

ねじの寸法線の引き出し線の矢の位置を端部の中心点から引き出すように修正しました。

❻ 面取りの個数表記

ねじ部先端の面取り「C1」と左側端部の面取り「C1」は機能的に関連する形状ではないため、個別に寸法指示するように修正しました。

❼ 参考寸法の活用

計算しなくても全長が一目で分かるように参考寸法を追加しました。

3)まとめ

今回は、旋盤加工する丸物の図面の悪さと改善点を紹介しました。
図面を見て加工する担当者がいて検査や手配する担当者がいます。後工程で作業する人に向けて優しい気遣いのある製図を心掛ける必要があります。
いくつか図面の悪さを指摘して修正しましたが、JIS製図のルールにおいて、新旧の指示の違いは実際には大きな混乱を生みません。加工できない形状を設計者の無知からそのまま加工現場に提出してしまうことが大きな問題であると思います。加工上の制約を知って形状設計をしなければいけないことが分かったと思います。

次回は、フライス盤で加工する板物を製図する際に、その悪さと改善点のポイントをビフォー・アフター形式で解説します。

 

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