ザ・メカニカル・ドローイング 我流と本流 - 製図のお作法 -プロフェッショナル連載記事

換骨奪胎(かんこつだったい)!構造を真似て付加価値を与える設計
コストダウンは小さな共通化の積み重ねから-共通化は好きだ。でも後戻りしたくない!

設計中に共通化ネタがわかるときもある

今回のシリーズ記事では、木製のスライドゲート機構を参考にして、金属製部品を使って高級感を出すとともに信頼性の高い製品の設計と製図する過程を紹介します。
第5回目の今回は、リンクセットと接続する駆動側板と底板を機械部品に変更する手順や製図のポイントについて解説します。

今回の設計の中で、前回解説した軸❼とスペーサー❽と同じ機能を持つのに長さ違いの部品が生じたことが判明します。実務設計では設計の手戻りになりますが、機能上問題なければ共通化するように設計をやり直すべきです。

■部品共通化のメリット
設計時の課題にコストダウンがあり、コストを下げるための手段がいくつかあります。

  • 小型化して材料コストを抑える。
  • 単純な形状にして加工コストを抑える。
  • 部品を共通化して量産効果によってコストを抑える。

■部品共通化のデメリット
部品の共通化が設計の中で多用されますが、次のようなデメリットが存在します。

  • 共通化によって設計自由度が減り設計変更がしにくくなる。
  • 共通化部品で不具合が発生した場合、大規模なリコールにつながる。
  • サプライチェーンの観点から部品調達先の加工業者に火災などのトラブルが生じた場合に部品調達ができず、多岐に渡る製品の組み立てが止まるリスクがある。

今回は、元となる木製のおもちゃの構造を踏襲するため、サイズ違いのまま設計を進めることにしましたのでご了承ください。

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1.木製おもちゃの小物パーツ類の機能ばらし

木製の部品のうち、駆動側板⑩と底板⑪、リンク板④、スペーサー⑤、軸⑥、モータの機能を確認しましょう。ちなみに、スペーサー⑤と軸⑥は前回解説した部品と共通です(図5-1)。

図5-1 駆動側板⑩と底板⑪、リンク板④、スペーサー⑤、軸⑥、モータの機能ばらし

図5-1 駆動側板⑩と底板⑪、リンク板④、スペーサー⑤、軸⑥、モータの機能ばらし

2枚の駆動側板⑩はモータを挟みボルトナットで締結することで間隔を保持しています。つまりモータ幅に依存して取り付けられていることになります。
底板⑪は2枚の駆動側板⑩に差し込んで固定されています。丸穴と長穴には2本の軸⑥が挿入され、スペーサー⑤でリンク④の位置を決めています。

2.木製パーツ類の投影図例

オリジナル設計への配慮として木製部品の寸法記入例は省略し、投影図からポイントのみを解説することとします。

1)木製の駆動側板⑩の投影図例

駆動側板⑩の正面図を見ると全体的には対称形状ではありません。しかし、「モータの取り付け関連の形状群」と「リンク機構の関連形状群」がそれぞれの中で対称になっているので、それぞれに対称中心線を明示してセンター振り分け寸法で指示できるようにします(図5-2)。

図5-2 木製の駆動側板⑩の投影図例

図5-2 木製の駆動側板⑩の投影図例

2)木製の底板⑪の投影図例

底板⑪は上下左右完全対称のため、対称中心線を明示してセンター振り分け寸法で指示できるようにします。中央の角穴はモータの突起部の逃がし穴になります(図5-3)。

図5-3 木製の底板⑪の投影図例

図5-3 木製の底板⑪の投影図例

3.金属部品に設計しなおした構造例

駆動側板⓫と底板⓬、軸⓭、スペーサー⓮、リンク板❺の相互関係を2次元組立図と3次元組立図で確認しながら、筆者の設計意図と想定する組立順を説明します(図5-4、図5-5)。

【設計意図】

木製おもちゃと同様にモータの厚みで2枚の駆動側板⓫の間隔を決める構造とします。モータだけで2枚の駆動側板⓫の間隔を保持できますが、木製おもちゃの構造を踏襲して底板⓬も追加し駆動側板⓫にねじ止めします。木製のおもちゃでは固定ゴムによって目分量でリンク板⑤の位置を決めていましたが、専用のスペーサーでリンク板❺を位置決めし、Eリングによる固定方法を採用しました。

【組立順】

モータを2枚の駆動側板⓫と底板⓬で挟み込み、ねじで固定します。
2枚の駆動側板⓫に軸⓭を挿入しながら、スペーサー⓮とリンク板❺を挿入し、最終的にEリングで固定します。

図5-4 駆動側板⓫と底板⓬、軸⓭、スペーサー⓮、リンク板❺の関係(2次元組立図 抜粋)

図5-4 駆動側板⓫と底板⓬、軸⓭、スペーサー⓮、リンク板❺の関係(2次元組立図 抜粋)

図5-5 駆動側板⓫と底板⓬、軸⓭、スペーサー⓮、リンク板❺の関係(3次元組立図 抜粋)

図5-5 駆動側板⓫と底板⓬、軸⓭、スペーサー⓮、リンク板❺の関係(3次元組立図 抜粋)

4.金属製部品の図面例

金属シャッター機構に使用する各部品の寸法記入順序を解説します。

駆動側板⓫の製図

1)駆動側板⓫の材質と表面処理

前々回に解説した固定側板❸❹と同じ板厚として同じ色目になるめっきを選択しました。

材質:SPCC-SD
表面処理:Ep-Fe/Ni5b(光沢ニッケルめっき)

2)駆動側板⓫の寸法記入例

木製の駆動側板の部分でも解説したように、複数の穴形状は3つの関連形状群に分かれます(図5-6)。

図5-6 駆動側板⓫の機能ばらし

図5-6 駆動側板⓫の機能ばらし

最初に外形形状の板厚と縦幅寸法「47」、横幅寸法「72」を記入します(図5-7)。

図5-7 外形形状の寸法記入例

図5-7 外形形状の寸法記入例

リンク動作に使用する「リンクの関連形状群」の寸法を記入します(図5-8)。

図5-8 リンクの関連形状群の寸法記入例

図5-8 リンクの関連形状群の寸法記入例

リンクの基準穴(φ3.1)からモータ取付穴(2つのφ3.5)の位置を記入します(図5-9)。

図5-9 リンクの基準穴とモータ取り付け穴の寸法記入例

図5-9 リンクの基準穴とモータ取り付け穴の寸法記入例

モータ取付関連形状群の寸法は、2つのφ3.5穴を基準にしながら記入します(図5-10)。

図5-10 モータ取付関連形状群の寸法記入例

図5-10 モータ取付関連形状群の寸法記入例

底板⓬はリンクやモータ取付関連の形状とは無関係に取り付くので、端面から寸法を記入します。底板の取付穴は前々項で指示したリンク基準穴(φ3.5)と同じサイズであるため、個数を3個に修正します(図5-11)。

図5-11 底板⓬の関連形状群の寸法記入例

図5-11 底板⓬の関連形状群の寸法記入例

底板⓬の製図

1)底板⓬の材質と表面処理

M3のねじ加工があるため1.6mm厚として、他の部品と同じ色目になるめっきを選択しました。

材質:SPCC-SD
表面処理:Ep-Fe/Ni5b(光沢ニッケルめっき)

2)底板⓬の寸法記入例

最初に板厚を記入し、取り付けに関連する形状の寸法を記入します。ここで正面図の立ち曲げ部の寸法は表記できますが、正面図奥にある立ち曲げ部の寸法を表現することができません。そこで、正面図に見える立ち曲げ部を「面A」と名付け、奥にある曲げ部は「面Aと同じ」であることを注記で指示しました(図5-12)。

図5-12 板厚と取付形状の寸法記入例

図5-12 板厚と取付形状の寸法記入例

片側のねじの固定が1か所しかないため、ドライバーでねじを回すと底板⓬が回転してしまいます。そこで回り止めの差し込み形状の寸法を記入します(図5-13)。

図5-13 板厚と取付形状の寸法記入例

図5-13 板厚と取付形状の寸法記入例

モータに突起部があるので、干渉しないように逃がしの角穴形状の寸法を記入します(図5-14)。

図5-14 モータ突起部の逃がし穴の寸法記入例

図5-14 モータ突起部の逃がし穴の寸法記入例

軸⓭の製図

1)軸⓭の材質と表面処理

軸❼と同じ機能であることから、同じステンレス鋼を選択しました。

材質:SUS303-D

2)軸⓭の寸法記入例

前回解説した軸❼の長さ違いになります。軸❼と同様にEリング溝の両外面が基準となり、組立を保証するためにプラス公差を指示します(図5-15)。

図5-15 寸法記入例

図5-15 寸法記入例

スペーサー⓮の製図

1)スペーサー⓮の材質と表面処理

スペーサー⓮も前回解説したスペーサー❽と長さ違いの部品を選定します。

引抜き材パイプ形状、肉厚1mm、長さ8mm
材質:ナイロン66

2)スペーサー⓮の投影図と寸法記入例(参考)

今回は購入品を選定しましたが、専用の部品として図面を描くとしたら次のように製図します。設計する際にはパイプ材の内径を基準とするのが一般的です(図5-16)。

図5-16 寸法記入例と注記の指示例

図5-16 寸法記入例と注記の指示例

まとめ

今回は、駆動側板⓫に取り付く底板⓬、軸⓭、スペーサー⓮のそれぞれの関係を見て、寸法を記入する手順を解説しました。
駆動側板⓫は共通部品として2個使いできることで部品単価、あるいは部品管理費という面でコストダウンに寄与できます。底板⓬は元となったおもちゃの製品に存在していたので構成を合わせるために設計しましたが、駆動側板⓫はモータを挟んで固定できるため抹消しても問題ないと考えます。
軸⓭とスペーサー⓮は、固定側板に組み込む軸❼とスペーサー❽と長さ違いのため、固定側板R❸と固定側板L❹の幅を2枚の駆動側板⓫の幅と合わせれば共通化できます。今回のシリーズでは、木製のおもちゃの構造を踏襲するため形状違いのままで設計しました。本来は設計の手戻りの影響が少ないので軸とスペーサーの共通化のために修正設計すべきと考えます。

次回は、モータ軸に取り付け駆動するためのホイールなどを解説します。

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