材質を変更することで設計自由度を上げる
今回のシリーズ記事は、木製のスライドゲート機構を参考にして、金属製部品を使って高級感を出すとともに信頼性の高い製品の設計と製図する過程を紹介します。
第6回の記事では、木製のホイールや接続板を金属部品に設計しなおした場合の構造例や製図のポイントの解説、そしてOリングを選定する際の留意点も説明します。
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木製のおもちゃではホイールの表面にギザギザの歯形形状を採用していました。しかしホイールと接する面が机のような硬くて滑らかな面だとスリップしてしまいます。グリップ力を上げるためにゴムの採用が望ましいといえ、ゴムを使うための設計を行いました。
目次
1.木製のホイール関係の機能ばらし
木製おもちゃの部品のうち、ホイール⑫と接続板⑬の機能を確認しましょう(図6-1)。
板金の形状と名称
代表的な板金に使われる形状と名称を列記します。
表6-1 板金形状の呼び名
アングル・L曲げ(一方が曲がった板) | チャンネル・コの字曲げ(両側が曲がった板) |
Z曲げ(両端を反対側に曲げた板) | 鋭角曲げ(平板から90°以上曲げた板) |
U字曲げ(U形に曲がった板) | ヘミング(端部を折り返した形状) |
切り欠き・スリット(狭い打抜き溝の形状) | だるま穴(大小の円を連結した穴) |
Dカット穴(D形の抜き穴)
軸の周り止めに使われる |
ダブルDカット穴(二面幅をもつ穴)
軸の周り止めに使われる |
2.木製パーツ類の投影図例
オリジナル設計への配慮として木製おもちゃの部品の寸法記入例は省略し、投影図からポイントのみを解説することとします。
1)木製のホイール⑫の投影図例
ホイール⑫は円形で、穴が左右に均等配置されているため対称中心線を使います。一部の歯の形状を示しつつ、全周の歯の形状は省略します。これは手書きの時代の投影図記入法です。CADで投影図を作図する場合は、コピー&ペーストすれば歯形を360°描くことは容易ですので全周に歯形を描いても構いません。
この歯形は歯車に類似した形状をしているため歯車製図を踏襲し、次のように投影図で表します(図6-2)。
- 正面から見た歯先円は太い実線で表す
- 正面から見た歯底円は細い実線で表す
- 側面から見た外形図の歯底円は細い実線で表す
2)木製の接続板⑬の投影図例
接続板⑬は上下左右対称のため、対称中心線を使います(図6-3)。
3.金属部品に設計しなおした構造例
ホイール⓯と接続板⓰、Oリング⓱の関係を2次元組立図と3次元組立図で確認しながら、筆者の設計意図と想定する組立順を説明します(図6-4、図6-5)。
【設計意図】
第1回目で解説した木製のおもちゃの改善点として机との摩擦力不足でスリップする不具合があることから、グリップ力を上げるために市販のOリング⓱をホイール⓯にはめ込む構造としました。モータ軸の駆動力を確実にホイール⓯に伝えるため、木製のおもちゃと同じようにダブルDカット穴をもつ接続板⓰をホイールにねじ止めする構造としました。
【組立順】
- ホイール⓯に接続板⓰をねじで固定します。
- Oリング⓱をホイール⓯にはめ込みます。
- 上記を2セット組立後、モータの出力軸の両端にねじ止めします。
4.金属製部品の図面例
金属シャッター機構に使用する各部品の寸法記入順序を解説します。
1)ホイール⓯の製図
ホイール⓯の材質と表面処理
U字形の溝加工があるため板金素材ではなく切削加工を前提として材質を選定し、他部品と同じ色目になるめっきを選択しました。
材質:SS400 表面処理:Ep-Fe/Ni5b(光沢ニッケルめっき) |
ホイール⓯の寸法記入例
ホイールは切削加工を前提としているので、大部分が同じ表面性状であることを示す粗さ記号を投影図の近辺に記入します。
最初に素材の大きさに関連する寸法を記入します(図6-6)。
Oリング⓱を組み込む溝の寸法を記入します。Oリング⓱の用途はシールではなくタイヤとして使用するため、JISやメーカカタログに記載されている溝径寸法φ46に適用する公差は省略します。Oリングの本来の使い方は気体や液体の密封が目的のため、ゴムの接触面であるU溝の表面粗さは一般的にRa1.6(平均粗さ1.6μm以下)かそれ以下にしなければいけませんが、今回は密封目的でないため、代表記号のRa6.3をそのまま適用することとします(図6-7)。
取付穴に関連する寸法を記入します(図6-8)。
2)接続板⓰の製図
接続板⓰の材質と表面処理
モータ軸の差込みの掛かりを厚くするため厚めの2.3mm厚とし、同じ色目になるめっきを選択しました。
材質:SPCC-SD Ep-Fe/Ni5b(光沢ニッケルめっき) |
接続板⓰の寸法記入例
板厚と外径、モータ軸挿入穴の寸法を記入します(図6-9)。
ホイール⓯との接合用ねじ穴の寸法を記入します(図6-10)。
3)Oリング⓱の製図
Oリング⓱の材質と表面処理
Oリングは、オリジナルで設計すると高コストになるため既製品を使用します。
今回はシール目的ではなく大気中に暴露した状態でタイヤとして利用するため、材質選定時の留意点を説明します。
Oリングの材質はニトリルゴム(NBR)が安価なため、一般的によく利用されます。ニトリルゴム(NBR)は、ゴムの表面にオイルを塗布したうえで、密閉された環境下で使用する分には劣化しません。ところがオイルを塗布せず伸ばした状態(応力のかかった状態)で大気中に暴露するとオゾン劣化によって数年後にはゴム表面に亀裂が入り破断するリスクが生じます。
皆さんの身の回りにある輪ゴムは天然ゴム(NR)でできています。使用しない状態で放置していてもそれほど劣化するものではありませんが、輪ゴムを伸ばして結束状態で大気中に暴露させておくと1年ほどでゴムが劣化して切れるといった経験をした人も多いと思います。これと同じ原理がニトリルゴム(NBR)にも発生するのです。
オゾン劣化 オゾン劣化とは、ゴムに応力を掛けた状態で大気中に放置し時間が経つとオゾンによりゴムが化学変化を起こし、ゴムの表面に無数の亀裂(オゾンクラックと呼ぶ)が入る現象をいいます。耐オゾン性のあるゴム材料には次のものがあります。 ・フッ素ゴム(FKM) ・シリコンゴム(Q)*今回はこれを採用します。 ・エチレンプロピレンゴム(EPM) ・アクリルゴム(ACM) |
OリングはMISUMI(総合Webカタログ)から選定できます(図6-11)。
今回はオゾン劣化を防止するためシリコンゴムを採用することとします。カタログを確認すると乳白色(硬度50度)と朱色(硬度70度)があります。グリップ力に有利と考えられる硬度の低い乳白色(硬度50度)を採用しようと考えましたが、乳白色だとゴミの付着で汚れて見栄えが悪くなると考え、赤い色を取り入れることでデザイン的なアクセントにもしたいという理由から朱色(硬度70度)を採用することにしました。
参考:MISUMI(総合Webカタログ)>FA用メカニカル標準部品カタログ>P2-1481
ホイール径に見合うサイズのOリングを選定します(図6-12)。
ホイール溝の内径がφ46でありタイヤ外径を直径φ50にするため、Oリングの線径がφ2のものを選定します。
しかし、今回は密封を目的として使用せず、タイヤとしてのフリクションゴムとして使用するためゴムがホイール⓯から外れにくくするために若干引き延ばした状態で使うべく、内径φ42のOリングを採用することとしました。
参考:MISUMI(総合Webカタログ)>FA用メカニカル標準部品カタログ>P2-1481
材質:シリコンゴム(朱色) |
仕様として、シリコンゴム、線径2mm、内径42mmから型番を選定しました。
ミスミ型番:NSSK42
Oリング⓱の寸法記入例
Oリングの寸法を記入します。Oリングは内径が基準寸法となります(図6-13)。
まとめ
今回は、ホイール⓯と接続板⓰、Oリング⓱のそれぞれの関係を見て、寸法を記入する手順を解説しました。
木製のホイールは、グリップ力を高めるためにギザギザの歯形がありましたが、硬い机の上では滑りやすいものでした。そのため、グリップ力を確保するために、Oリングをタイヤのゴムとして採用した設計例を紹介しました。これで、全部品の設計図の解説を終わります。
これまでに解説した金属製部品は、「meviy(メビー) 2次元図面加工品サービス」を使って手配しました。
次回は、筆者が初めてミスミに登録して「2次元図面加工品サービス」を利用した際の手順に加えて、材質や表面処理などを選定した際の所感などを紹介します。
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