ザ・メカニカル・ドローイング - 幾何公差のお作法 - プロフェッショナル連載記事

慇懃無礼(いんぎんぶれい)!
データム!!(基準の呪文)-データムの意味と記号の使い方-

データム(Datum)とは英語で”基準”を意味する

このシリーズ記事では、グローバル図面に必須となる幾何公差の意味と図面のルールを解説します。第3回目は、データムの意味と記号の使い方について詳しく解説します。

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1. データムとは

データム(Datum)という言葉は英単語として存在し、和訳すると「基準」を意味します。
設計者は最初に基準の線や面を決めてから寸法を記入します。
基準は理論的に正確な面や線、点などの形体をいい、次の項目に該当します。

  • 取付基準
  • 機能基準…軸受や軸を挿入する穴、スライドする面など
  • 加工基準…加工時に基準となる面や穴など
  • 検査基準…検査時に定盤やゲージなどを当てる面や穴など

データム形体が点、直線、軸直線、平面、及び中心平面の場合には、それぞれ「データム点、データム直線、データム平面、データム中心平面と呼ぶ」と規定されています。
このデータムに関連付けて指定された他の部分が許容範囲の中におさまることを要求するものに姿勢偏差、位置偏差、振れ偏差があり、データムはこれらの特性を指示するためには不可欠な要素です。

測定する際に部品に指示したデータム形体よりも精密で形状的に信頼できるもの(定盤やゲージ)にデータム形体を密着させて計測を行うことが一般的です。この定盤やゲージを「実用データム形体」と呼びます(図3-1)。

図3-1 データムの指示と計測の関係

図3-1 データムの指示と計測の関係

精密定盤(せいみつじょうばん)
精密な平面を使用面として上面に備え、一般的に花崗岩(かこうがん)などの石または鋳鉄(ちゅうてつ)で作られた盤状の構造体です。検査部門や工場の片隅に行けば見ることができます。
精密定盤_石製定盤・・・非磁性(ひじせい)

石製定盤・・・非磁性(ひじせい)

  • 傷ができてもカエリが生じない
  • マグネット治具が使えない
  • 錆びが発生する可能性はない
精密定盤_鋳鉄製定盤・・・磁性(じせい)

鋳鉄製定盤・・・磁性(じせい)

  • 傷ができるとカエリが生じる
  • マグネット治具が使える
  • 錆びが発生する可能性がある

 

CNC(Computer Numerical Control:コンピュータ数値制御)3次元測定機を使用する場合、定盤やゲージの面を測定基準として計測を行いますが、部品のデータム面を直接触って測定基準とすることもできます(図3-2)。

図3-2 CNC3次元測定機によるデータムの設定例

図3-2 CNC3次元測定機によるデータムの設定例

2. データム三角記号の記入法

データムを図示する場合は、データムであることを示す三角記号とアルファベットの大文字を四角で囲った枠を結んで表します。
データム三角記号の△と▲に意味の違いはありません。また、データム記号の向きによる意味の違いもありません(図3-3)。

図3-3 データム記号の図示例

図3-3 データム記号の図示例

データム記号は、投影図の形状線、寸法補助線、引出し線、公差記入枠に接して、上下左右の向きに関係なく任意の位置に配置できます(図3-4)。

図3-4 データム記号の記入場所

図3-4 データム記号の記入場所

3. 公差記入枠内へのデータムの記入法

データムの図示は、公差記入枠内にデータムの大文字を記入する場合もあります。公差記入枠では、左から3番目以降の区画がデータム記入場所に相当します(図3-5)。

図3-5 公差記入枠内へのデータムの記入例

図3-5 公差記入枠内へのデータムの記入例

2つ以上のデータムによって設定されるデータム系の場合、データムの大文字を左から3番目以降の別々の区画に、左から右へ向かって優先順に並べます。
優先順とは設計者が想定する部品を製品に取り付ける順番を示し、検査の際にもブロックゲージなどへの当て付ける順番となります(図3-6)。

図3-6 データムの優先順

図3-6 データムの優先順

4. データム三角記号の付ける場所による意味の違い

データム三角記号を付ける場所によって、表面形体を基準とするのか中心形体(誘導形体とも呼ばれる)を基準とするのかに分かれます。

① データムを表面形体に指示する場合

表面形体のイメージを示します(図3-7)。
※母線とは、表面上の任意の位置にある実体のある線を意味します。

図3-7 表面形体

図3-7 表面形体

表面形体を指示する場合、寸法線から明確に外してデータム三角記号を付けます。これによって基準が表面あるいは母線であることを表現できます(図3-8)。

図3-8 表面あるいは母線へのデータム指示

図3-8 表面あるいは母線へのデータム指示

② データムを中心形体に指示する場合

中心形体のイメージを示します(図3-9)。

図3-9 中心形体

図3-9 中心形体

中心形体を指示する場合、寸法線の延長線上にデータム三角記号を付けます。これによって基準が中心点あるいは中心線、中心平面であることを意味します(図3-10)。

図3-10 中心線あるいは中心平面へのデータム指示

図3-10 中心線あるいは中心平面へのデータム指示

5. 共通データムの意味

共通データムとは、「二つのデータム形体によって設定される単一のデータム」と定義されます。つまり2つあるデータムを1つとして取り扱うという意味です。
公差記入枠の一つの区画に「A-B」あるいは「B-C」のように2つのデータムをハイフンで結んで記入することで、それらは1つのデータムとして設定することを意味します。
この時、2つのデータムに優先順はなく、互いに対等であると考えます。
設計意図として回転軸に用いることが多く、データムの指示される場所は軸受(転がり軸受やすべり軸受など)を挿入する円筒の中心線に指示されます(図3-11)。

図3-11 共通データム

図3-11 共通データム

例えば円筒軸の中心線をデータムとして検査する場合、Vブロックに乗せることで基準とします。逆に円筒軸の母線をデータムとして検査する場合はブロックゲージの上にのせて基準とします(図3-12)。

図3-12 計測時の中心線基準と母線基準の受け方

図3-12 計測時の中心線基準と母線基準の受け方

共通データムが指示されている場合、分離した2つのVブロックに乗せた状態で計測することができます(図3-13)。

図3-13 計測時の共通データムの受け方

図3-13 計測時の共通データムの受け方

Vブロック(別名:ヤゲン台)
90°のV形の溝をもち、円形工作物の精密ケガキ用、測定治具用保持台として使用され、一般的に2個1組で販売されています。
定盤の上において使用することが基本です。

Vブロック(別名:ヤゲン台)

Vブロック(別名:ヤゲン台)

6. 三平面データムの意味

データムの優先順を表現する場合に三平面データム系があります。
設計者は直交する3つのデータム面を図面に指示し、組立時に部品を当て付ける順序を決めて位置決めします。検査者は図面指示に従い部品を直交する3つの治具に当て付けて測定を行います(図3-14)。
※図中のXYZの白矢印は、拘束されていない方向を指します。

図3-14 3平面データムの例

図3-14 3平面データムの例

7. データムターゲットの意味

データムターゲットとは、「データムを設定するために加工、測定及び検査用の装置、器具などに接触させる対象物上の点,線または限定した領域」と定義されます。
設計の構造上、面全体で部品を当てるのではなく、1つあるいは複数の狭い領域や点などに当てて位置決めする構造に限って、その当たる部分に「データムターゲット記号」という風船マークを指示します。

データムターゲットは、横線で2つに区切った円形の枠(データムターゲット記入枠)によって図示されます。データムターゲット記入枠の下段には、データム三角記号を指示したアルファベットと同じ文字に続けてデータムターゲット番号(優先順ではなく単なる通番と考えてよい)を表す数字を記入します。
データムターゲット記入枠の上段には、相手部品の接触部分の形状とサイズを記入します。領域を表記する場合は、細い二点鎖線で形状を示しハッチングを施します(図3-15)。

図3-15 データムターゲット記号とその領域

図3-15 データムターゲット記号とその領域

データムターゲットを示した図面から作成した測定治具の例を確認しましょう。データムターゲットの位置を示す寸法は理論的に正確な寸法を記入します(図3-16)。

図3-16 データムターゲット図面とその治具例_a) データムターゲットを示した図面

図3-16 データムターゲット図面とその治具例_b) データムターゲットを接待した測定治具

図3-16 データムターゲット図面とその治具例

まとめ

今回は、設計意図を明確に表現するための基準となるデータムについて紹介しました。
設計者から見たデータムは取付基準や機能基準を表現し、加工者から見たデータムは加工基準となり、検査者から見たデータムは測定基準となることがわかりました。
ところが、設計者が描く図面に指示されたデータムは、加工者や検査者にとって都合の悪い位置に指示されている場合があります。設計者は製品の機能を保証するための図面を描いていますので、「ここにデータムを指示されると加工基準にならない」あるいは「ここにデータムを指示されると測定基準にならない」というクレームを受けることがあります。
残念ながら、設計・加工・検査の3者が満足して納得のできる図面を描くことはできません。この場合は設計意図を表した図面を“正(しょう)”として、加工できない場合や検査できない場合はそれぞれの担当者が第二基準を作り、足し算や引き算をして最終的に図面の精度を保証するように協力してもらうしか手段がありません。

次回は、14種類ある幾何特性の全体像と幾何公差を指示するための公差記入枠を解説します。

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