ポリ塩化ビニル(PVC、塩ビ)は、耐薬品性、難燃性、耐久性が高く、比較的安価なプラスチックの一種です。高い汎用性をもつ樹脂素材であり、薬液を用いる装置などの工業分野だけでなく、日常的なシーンにおいても多く使われています。この記事では塩化ビニルの用途や特徴、類似素材について解説します。
目次
ポリ塩化ビニルとは
ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)は、熱可塑性プラスチックの一種でPVCともよばれます。塩ビやビニールと呼ばれることもあり、ソフビと呼ばれるものは軟化ポリ塩化ビニルです。石油から得たエチレンと塩素を反応させてできた塩化ビニルの単量体を付加重合させることでポリ塩化ビニルになります。
一般に樹脂は石油を主原料としますが、ポリ塩化ビニルはエチレンと、苛性ソーダを生産する際に発生した副生物の塩素を利用しています。苛性ソーダを生産する際、食塩水を電気分解し、その際発生した塩素を利用しているのです。そのためポリ塩化ビニルは食塩と石油をから作られているともいわれます。
高い難燃性を有するために、完全燃焼させるためには一定以上の高温が必要になります。塩化ビニルは不完全燃焼すると環境物質であるダイオキシンを発生するため、焼却の際には条件が設けられています。
しかし現在では、材料に石油だけでなく食塩を使っていることや、製品にした際の長寿命、さらにリサイクル性に優れることから、省資源のプラスチックとして注目を集めています。
ポリ塩化ビニルの特徴
ここではポリ塩化ビニルの長所、短所などについて解説していきます。
物性
硬質 | 軟質 | ||
比重 | – | 1.30-1.58 | 1.16-1.35 |
引張強さ | MPa | 41-52 | 11-25 |
引張弾性率 | MPa | 2400-4100 | – |
圧縮強さ | MPa | 55-89 | 6-12 |
曲げ強さ | MPa | 69-110 | – |
長所
ポリ塩化ビニルの長所には次のようなものが挙げられます。
- 難燃性が高い
引火温度は391℃、着火温度は455℃です。紙や木材、ポリエチレンなどに比べ、引火や着火しにくく難燃性が高い素材です - 耐久性に優れている
空気中の酸素による酸化反応を起こしにくく、耐久性に優れます - 耐薬品性が高い
酸やアルカリをはじめ、ほとんどの無機薬品に対して高い耐薬品性をしめします - 電気絶縁性が高い
耐アーク性60~800secと、高い電気絶縁性をもちます。塩化ビニルよりも高い絶縁性をもつ樹脂もありますが、塩化ビニルは難燃性が高いことから、電線の被膜などに使われます。 - 加工性に優れている
カレンダー成型や熱成型、ディッピング加工、射出成形、切削加工など、さまざまな加工が行えます
短所、デメリット
- 耐熱性・耐寒性が低い
熱可塑性樹脂であるため、熱を加えると変形しやすくなります。また耐寒性も低く、低温脆性があります - 有機溶剤に弱い
無機薬品には強いものの、有機溶剤には弱いのが短所です
ポリ塩化ビニルのおもな用途
ポリ塩化ビニルは、硬質塩化ビニルと軟質塩化ビニルの2種類に分けられます。可塑剤を含まないものは硬質塩化ビニルとよばれ、硬く強度に優れます。一方で可塑剤を含んだものは軟質塩化ビニルとよばれ、人の手でもかんたんに変形できるほどの柔軟性をもちます。そのためポリ塩化ビニルの用途は軟質と硬質で大きく分かれています。
硬質ポリ塩化ビニルは次のような用途に使用されます。
ビニールシート
薄く引き延ばされたポリ塩化ビニルは、ビニールハウスに代表されるような農業用のフィルムや、ビニール袋に使用されます。材料を熱したロールで圧延し、それを冷やして巻き取るカレンダー成形という方法で、シート状の塩化ビニルを成形します。
被膜
電気コードや金網の被膜に使われます。シート状の材料を、熱した金型で成形する熱成形や、塩ビ樹脂溶液に加工物を浸して熱乾燥させるディッピング加工が行われます。
繊維、合皮
繊維状に引き延ばし、合成繊維として衣類にも使われます。また布に対してポリ塩化ビニルを塗布し、合皮として使用することもできます。
硬質ポリ塩化ビニルの用途は次のようなものがあります。
塩ビパイプ
硬質ポリ塩化ビニルの代表的な用途のひとつが、パイプです。水道管をはじめ、住宅資材や設備など、多くの場面で活用されます。耐久性と難燃性が高い一方、-20℃以下の低温域では脆化するため注意が必要です。
カード
クレジットカードや銀行のカードの材料にもなります。絶縁性が高く耐久性も高いため、丈夫な材料として活用されています。
機械部品
硬質塩化ビニルは、射出成形や熱成型だけでなく、切削加工も可能です。そのため、機械部品や自動車部品としても多く使われています。
ポリ塩化ビニルの加工
ポリ塩化ビニルは、さまざまな加工が行えます。
軟質塩化ビニルでは次のような加工が可能です。
カレンダー成形
熱した複数のロールの間に材料を通して圧延し、最後に冷却ロールに通して厚みを調整する加工方法です。シートやフィルム状のものを成形する際に使われ、ビニールシートや袋などの材料を作るために行われる加工です。
ディッピング加工
塩ビ樹脂を溶液にしたものに、加工物を浸し、乾燥させる方法です。工具の取っ手部分など、主に皮膜を作る際に使用される加工です。
コーティング加工
やや粘度の高い塩ビ樹脂溶液を布などに塗布する方法です。合皮や壁紙などを作る際に使われます。
軟質塩化ビニルでは次のような加工が可能です。
押出成形
熱して溶かした材料を口金から押出し、口金と同じ形状の断面を持った製品を作る方法です。パイプや板などの成形に適した方法です。
軟質塩化ビニルでも軟質塩化ビニルでも行える加工方法には次のようなものがあります
射出成形
金属の型に、加熱して溶かした材料を射出し、冷やして固める方法です。パイプの継ぎ手やバルブを作る際に使われます。
熱成形
熱成形は、押出成形やカレンダー成形で作った板状の素材を熱した型で挟んで加工する方法です。トレイや建材用の波板の成形を行います。
ポリ塩化ビニルとPE、PET、PPの違い
ポリエチレン(PE)
ポリエチレンもシート状にして使用されるケースが多い素材です。ポリ塩化ビニルから作られた袋はビニール袋、ポリエチレンから作られた袋はポリ袋とよばれます。ポリエチレンも、耐薬品性や電気絶縁性に優れた素材です。
ポリエチレンテレフタレート(PET)
ポリエチレンテレフタレートは、ポリ塩化ビニルよりも高い電気絶縁性をもちます。しかし難燃性ではポリ塩化ビニルに劣ります。
ポリプロピレン(PP)
ポリプロピレンは、耐熱性や耐薬品性の点でポリ塩化ビニルより優れています。しかし紫外線により白化しやすく、耐久性では劣ります。
まとめ
ポリ塩化ビニルは熱可塑性プラスチックの一種で、エチレンと塩素を反応させて得ます。可塑剤を添加しないと硬質ポリ塩化ビニルとなり、パイプやカードの材料になります。可塑剤を添加すると軟質ポリ塩化ビニルとなり、農業用フィルムや皮膜、合成繊維、合皮などに使われます。難燃性、耐久性、電気絶縁性に優れる一方で、耐熱性が低く、低温脆性があります。