ガス溶接は金属接合の基本技術として広く利用される方法です。本記事では、その原理や手順、アーク溶接との違い、さらに設計者が注意すべきポイントをわかりやすく解説します。
また、溶接全般については以下の記事で解説しています。こちらもぜひご覧ください。
目次
ガス溶接とは
ガス溶接とは、アセチレン・LPガスなどの可燃性ガスと酸素の支燃性ガスを混合し、高温の炎を作り出して金属を溶かして接合する技術です。他の溶接方法と比較して、熱影響やコスト・作業性などの点で異なる特性を持ちます。
製造業の設計者は、ガス溶接をはじめ各種溶接の特徴を押さえ、製品の品質やコスト・製造プロセスを考慮して最適な溶接方法を選べるようにしておく必要があります。
ガス溶接とアーク溶接の違い
ガス溶接とアーク溶接の一番の違いは、熱源です。アーク溶接は電気を利用して金属を溶かすのに対し、ガス溶接はアセチレンなどの可燃性ガスを用います。アーク溶接のほうが高温となるため、溶接速度は速くなる傾向にあります。また、アーク溶接は厚板の溶接や大量生産に向いており、ガス溶接は薄板の溶接や精密な作業に効果的です。双方の違いを理解し、溶接する材料や目的に合わせて、最適な溶接方法を選択することが大切です。
ガス溶接のメリット・デメリット
ガス溶接のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット
ガス溶接のメリットには、作業のしやすさが挙げられます。ガス溶接の場合、アーク溶接のように強い光や火花が出ることがなく、溶接箇所がクリアに見え、細かな作業や修正が容易に行えます。溶接不良のリスクが減るため、仕上がりの品質向上につながります。
デメリット
ガス溶接はアーク溶接に比べて熱源温度が低く、厚板の溶接には不向きで作業効率が落ちやすくなります。熱が広範囲に伝わりやすいため、歪みなどのリスクも高まります。大量生産や厚板対応が必要な場合は、別の溶接方法の採用を検討する必要があります。
また、アセチレンや酸素などの可燃性・高圧ガスを取り扱うため、ガスの管理・保管には十分な注意が必要です。ガスボンベは倒れないように転倒防止措置を施し、直射日光や高温を避けた安全な場所に保管しなければなりません。高圧ガスは、漏れが発生したり、誤って火花が引火したりすると、火災や爆発など重大な事故につながる危険性があるため、定期的な点検とガス漏れ検知の対策を徹底することが求められます。
また、電気を必要としないため、電源のない場所でも溶接作業ができる点もメリットです。ガスの流量調整で熱量を細かくコントロールできるため、緻密な作業が必要な薄板や異種金属の溶接にも適しています。
ガス溶接の原理・手順
ここからは、ガス溶接の原理と手順について解説します。
原理
ガス溶接は、可燃性ガスと酸素の化学反応によって生じる高温の炎を利用して、金属を溶融・接合します。炎の種類には、主に以下の3種類があります。
- 中性炎:酸素とアセチレンを適切な割合で混合した炎。鋼材の溶接で広く用いられる。
- 炭化炎:アセチレン濃度が多めの炎。熱に弱い金属のろう付けや溶接で使用する。
- 酸化炎:アセチレンよりも酸素が多い炎。黄銅などの溶接に使用される。
炎の種類を理解し、溶接する材料に合わせて最適な手法を選ぶことが重要です。
手順
ガス溶接の手順は、安全確認から始まります。ボンベや調整器に損傷がないか点検してから、酸素ボンベ・アセチレンボンベの順にバルブをゆっくりと開けます。調整器で適切な圧力に設定し、火口(チップ)は溶接する材料の厚みに合わせて選びましょう。
点火器で火口に点火したら、アセチレンガスを少しずつ出して炎を安定させ、酸素を加えて炎の種類を調整します。溶接棒は母材と同じ材質のものを選び、溶接箇所を予熱してから、溶接棒を溶かし込んで接合します。溶接後は、火口を冷却し、ボンベのバルブを閉めてガスを遮断することを忘れないようにしてください。
設計者が押さえておくべきポイント
ガス溶接を使用する際、設計者には押さえておくべきポイントがあります。ここでは以下の3つのポイントについて解説します。
材料特性と熱影響
設計者がガス溶接を検討する際、材料特性と熱影響に注意が必要です。ガス溶接はアーク溶接に比べて熱影響範囲が広いため、溶接箇所の周辺材料に強度や耐食性の低下をもたらす場合があります。材料によっては、溶接時に有害なガスが発生したり、溶接後の冷却時に割れが発生したりするリスクも考慮しなければなりません。
設計段階で適切な材料を選定し、溶接による影響を最小限に抑える必要があります。溶接後の熱処理や補強設計の検討も重要です。
作業効率
ガス溶接はアーク溶接に比べて溶接速度が遅く、作業時間は長くなる傾向にあります。特に、厚板や長尺物の溶接では作業効率の差が顕著に現れます。
製品の納期やコスト競争力を確保するためには、設計段階でガス溶接以外の溶接方法を含め、複数の選択肢を比較検討することが望ましいです。製品の形状や材質・必要な強度などを総合的に評価し、最適な溶接方法を選ぶ必要があります。
コスト
ガス溶接のコストは、材料費や人件費・設備費などさまざまな要素で構成されます。ガス溶接は、アーク溶接に比べて設備投資が少なくて済む一方で、溶接速度が遅いため人件費はかさむ傾向にあります。さらに、ガスにかかる費用や安全対策にかかる費用も含め、総合的に検討することが重要です。
製品の利益率を確保するためには、設計段階から溶接方法も含めてトータルコストを最小限に抑えるアプローチが求められます。複数の溶接方法を比較検討し、コストパフォーマンスに優れた方法を選択することが重要です。
ガス溶接に必要な資格
最後に、ガス溶接に必要な資格「ガス溶接技能講習」「ガス溶接作業主任者」について紹介します。
ガス溶接技能講習
ガス溶接作業に従事する人には、労働安全衛生法に基づく「ガス溶接技能講習」の修了が義務付けられています。ガス溶接に関する基礎知識や溶接技術、安全衛生に関する知識などを学びます。学科と実技の両方で構成されており、修了試験に合格すればガス溶接作業を行う資格が取得可能です。
可燃性ガスと酸素を使用するガス溶接は、取り扱いを誤ると爆発や火災などの重大な事故につながる危険性があります。適切な知識と技術を習得して、安全にガス溶接作業を行うことが欠かせません。
ガス溶接作業主任者
ガス溶接作業主任者は、作業者を指導・監督する責任者です。ガス溶接作業主任者となるには、一定の実務経験に加え、都道府県労働局長が指定する講習を修了する必要があります。
危険を伴うガス溶接作業は、作業全体を安全に管理し、事故を未然に防ぐ必要があります。そのため、作業主任者は、作業計画の作成や作業者の安全教育・作業環境の点検などを行い、ガス溶接作業の安全を確保しなければなりません。
まとめ
本記事では、ガス溶接の基本原理・アーク溶接との違い・必要資格などを解説しました。ガス溶接は適切な知識と技術があれば、さまざまな金属接合に活用できる汎用性の高い技術です。材料特性やコスト・作業効率を総合的に検討し、最適な溶接手法を選択することが求められます。
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