
直径記号「φ(ファイ)」は、円の直径を示すために図面で用いられる、JIS規格で定められた重要な寸法補助記号です。正確な図面を作成し、意図を正しく伝えるには、使い方を理解しておかなければなりません。
ただし、半径記号「R」との違いや、PC・CADでの入力方法など、正しく運用するにはいくつかの知識が求められます。本記事では、直径記号の基礎から正しい使い方、入力方法まで解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
直径記号とは?
直径記号「φ(ファイ)」は、図面上で円の寸法を明確に示すための記号です。ここでは、その基本的な定義や役割、そしてJIS規格における公式な位置づけについて解説します。
直径記号「φ(ファイ)」の定義と意味
直径記号とは、図面上で寸法が「直径」であることを示す記号です。一般的に、ギリシャ文字の「φ(ファイ)」が用いられており、寸法数値の前に付けると、数値が円の端から端までの長さ(直径)を表す、という意味を付与します。
例えば「φ10」とあれば、「直径10mmの円」であるという意味です。現場では「ファイ」の他に「まる」と読まれる場合もあり、いずれも同じ直径寸法を指します。直径記号は円形要素のサイズを簡潔かつ正確に伝えるための、製図における基本的な約束事です。
円・穴・円筒形状の寸法指示における役割
直径記号「φ」の役割は、寸法が半径なのか直径なのかを明確に区別し、誤解を防ぐ点にあります。もし直径記号がなければ、「10」という数値が半径10mm(直径20mm)なのか、直径10mmなのか判別できず、重大な設計ミスにつながりかねません。
特に、丸穴や丸棒の寸法を指示する際に「φ」を付ければ、寸法が直径であることを一目で理解させ、半径記号「R」との混同を避けられます。このように、直径記号は円形状の寸法指示において、正確な情報伝達を保証する上で不可欠な役割を担っているのです。
JIS規格における位置づけ
直径記号「φ」は、日本産業規格(JIS B 0001:機械製図) において、寸法補助記号の一つとして定義されています。この規格では、「φ」は円の直径を示す記号とされ、その読み方は「まる」または「ファイ」 と規定されています。
また、寸法数値の直前に、数値と同じ大きさで記入するというルールも定められています。半径記号「R」や球の直径を示す「Sφ」など、他の寸法補助記号と同様の扱いです。このように、直径記号は日本の工業製品の図面における標準的な表記法として位置づけられており、その使用法はJIS規格によって明確にルール化されているのです。
直径記号の使い方と表記ルール
直径記号を正しく使うための具体的なルールを解説します。図面への基本的な記載方法と、JIS規格で定められた少し特殊な扱いについて見ていきましょう。
図面での記載方法

図1 図面での記載例
図面における直径記号の基本ルールは、寸法数値の前に「φ」を付けて表記することです。「φ20」のように記号と数値を続けて書き、寸法が直径20mmであることを明確に示すためです。
寸法線は、円の中心を通って両端に矢印が付く形で描くのが一般的で、図形的に直径を示します。記号を数値の後ろに「20φ」のように書いたり、半径寸法と混同したりするのは誤りです。常に「記号→数値」の順序を守り、誰が見ても誤解が生じないように記載し、正確な図面を作成しましょう。
JIS規格上の取り扱い
JIS規格では、特定の条件下で直径記号の表記を省略できるルールが定められています。図面の描き方から直径であることが明らかな場合、作図の手間を省くためのものです。以下に主なルールをまとめます。
・180°を超える円弧又は円の図形に直径の寸法を記入する場合で、寸法線の両端に矢印が付く場合

図2 直径記号を省略した場合の記載例
図から直径であることが明らかなため、直径記号「φ」は省略してもよいとされています。
・引出線によって寸法を示す場合

図3 引出線を用いた記載例
片側の矢印だけでは半径寸法と誤解されやすいため、直径であることを明確に示すために直径記号「φ」を必ず付けなければなりません。
・円形の断面形状であることを図示せず寸法だけ記入する場合

図4 円形の断面形状であることを示す表記例
数値が円の直径であることを示すために、直径記号「φ」を必ず付ける必要があります。
・寸法数値の後に加工方法を併記する場合

図5 加工方法を併記する場合の表記例
寸法が穴の直径であることは文脈から明らかなため、直径記号「φ」を省略してもよいと定められています。
直径記号の入力方法(環境別)
PCやCADソフトで直径記号を入力する方法はさまざまです。ここでは、ビジネス文書で多用されるWord・Excelと、設計の現場で使われるCADソフトでの入力方法を解説します。
Word・Excelでの入力方法
WordやExcelで直径記号を入力する方法は、日本語入力(IME)で「ファイ」と入力し変換すると簡単です。変換候補の中から「φ」を選択できます。また、メニューから挿入する方法もあり、Wordでは「挿入」タブの「記号と特殊文字」から選択すれば、簡単かつ確実に入力可能です。いくつかの字体(縦棒あり/なし)が表示される場合もあるものの、いずれも直径記号として通用するため、文書全体のデザインに合わせて選ぶと良いでしょう。
CADソフトでの入力方法
多くのCADソフトでは、寸法記入機能を使えば直径記号は自動で付加されます。円の直径寸法を指示すると、寸法数値の前に自動的に「φ」が表示されるため、ユーザーが手動で入力する必要はほとんどありません。
もし、注記などで手動入力したい場合は、AutoCADでは特殊コード「%%c」と入力すれば「φ」に変換されます。他のCADソフトでも同様の機能や記号パレットが用意されており、それらを使うのが最も確実です。これにより、JIS規格に準拠した正確な図面を効率的に作成できます。
直径記号と他の記号の違い
直径記号を正しく使うには、似た記号との違いを理解しなければなりません。ここでは、特に混同しやすい半径記号や、その他の類似記号との使い分けを解説します。
半径記号「R」との違い

図6 直径記号と半径記号の違い
直径記号「φ」と半径記号「R」の最大の違いは、示す長さが2倍である点です。半径が円の中心から円周までの長さであるのに対し、直径は円の端から端までの長さであるため、同じ円に対して「φ100」と「R50」は等しい寸法を意味します。
この2つを混同すると、部品の寸法が倍になったり半分になったりする致命的な設計ミスにつながりかねません。図面上では、円全体を示す場合は「φ」、半円以下の円弧や角の丸みを示す場合は「R」と使い分けるのが基本ルールです。
真円度・球直径など類似表記との違い

図7 真円度・球直系の表記例
直径記号は、形状の完璧さを示す「真円度」や、球体を示す「球直径」の記号とは明確に区別されます。
真円度は、形状がどれだけ真円に近いかという幾何公差を示す記号(○)であり、寸法そのものではありません。また、球直径は、球体の直径を示すための記号で、「Sφ」と表記します。ボールベアリングの玉のような完全な球体を指示する場合にのみ使用されます。
直径記号の読み方・単位との関係
直径記号「φ」の読み方は、JIS規格で「ファイ」または「まる」と定められています。教育現場などでは正式名称の「ファイ」が使われる一方で、製造現場では「まるじゅう(φ10)」のように、直感的な「まる」という呼び方も一般的です。どちらの読み方でも意味は同じ直径寸法を指すため、会話の文脈に応じて使い分けられます。
一方、単位との関係では、直径記号「φ」自体は単位を含みません。図面上の寸法単位は、通常「(単位:mm)」のように図面の注記欄で一括して指定されます。「φ10」とあれば、図面の単位系に従って「直径10mm」という意味です。よって、「φ10mm」のように記号と単位の併記は、図面上では行いません。
記号はあくまで寸法の種類(直径)を示し、単位は図全体のルールに従う、と理解するのが基本です。
よくある間違いと注意点

図8 直径記号の表記でよくある間違い
直径記号の運用では、思わぬ誤解やミスが生じることがあります。ここでは、特に頻発する間違いや注意すべき点をまとめました。
・記号の付け忘れ・付け間違い
円の寸法に「φ」を付け忘れたり、半径を示すべき箇所に誤って「φ」を付けてしまうミスです。寸法が2倍になったり半分になったりする致命的なエラーにつながるため、細心の注意が必要です。
・記号の位置が逆になっている
「φ10」が正しい表記であるのに対し、「10φ」のように数値の後に記号を記載する間違いです。JIS規格のルールに反しており、図面の読み手を混乱させる原因となります。
・類似記号の誤使用
見た目が似ているアルファベットの「Ø」や、数学記号の空集合「∅」などを代用する間違いです。これらは正式な直径記号ではないため、文字化けや意図しない表示トラブルの原因となります。
・フォント依存による表示トラブル
使用するフォントによって「φ」の字形(縦棒あり/なしなど)が変わることや、特殊なフォントを使った場合に相手の環境で文字化け(「□」表示など)が起きる問題です。
・直径記号自体の認識違い
読み方が同じ「ファイ」であることから、円周率の「パイ(π)」と混同したり、図面を読み慣れない人が記号の意味を理解できないケースです。コミュニケーションの際には注意が必要です。
まとめ
直径記号「φ(ファイ)」は、機械図面において円の直径寸法を示す、JIS規格にも定められた重要な寸法補助記号です。最大の特徴は、寸法数値の前に表記することで半径記号「R」との混同を防ぎ、設計意図を正確に伝える点にあり、誤解のない部品製作に不可欠な役割を担っています。
また、PCやCADでの入力方法も確立されていますが、その役割を最大限に活かすには、JIS規格に基づいた正しい表記ルールを理解し、類似記号との違いを明確に区別する知識が不可欠です。
本記事の内容を参考にして、直径記号「φ」を正確な図面の作成や読解、部品発注の業務にぜひご活用ください。




