絞り加工は、1枚の板から継ぎ目のない容器状の形をつくるプレス加工です。鍋やフライパン、飲料缶、モーターケースなど、身のまわりの多くの部品がこの方法で作られています。
溶接や切削では出せない一体構造が得られる反面、プレス加工のなかでは難易度が高い工法です。今回は、絞り加工の原理と種類を押さえたうえで、工程設計で実際に使う絞り率とブランク径の計算、そして品質を左右するしわと割れの考え方まで解説します。
目次
絞り加工とは
平らな板をダイの穴に押し込み、底のある容器状に成形する加工です。パンチが板を押し下げると、周囲のフランジ部の材料がダイの中へ引き込まれ、側壁になります。
重要なのは、材料が「引き込まれる」という点です。板をその場で伸ばしているわけではないため、板厚をほとんど減らさずに深い形を作れます。これが絞り加工の最大の特徴です。
絞り加工と張り出し加工の違い
見た目が似た加工に張り出し加工があります。違いは、材料がどこから来るかです。
絞り加工ではフランジ部の材料がダイの中へ流れ込みます。張り出し加工ではフランジを強く押さえて材料を流れ込ませず、その場の板を引き伸ばして形を作ります。板厚が減っていくため、成形できる深さには限界があります。
実際の製品では、1つの形状のなかで絞りと張り出しが同時に起きていることがほとんどです。どちらが支配的かによって、割れやすい場所が変わります。
絞り加工に使う金型の構成
絞り型は3つの要素でできています。
| 部品 | 役割 | 設計で効いてくること |
| パンチ | 板を押し込み、内側の形をつくる | 先端のRが小さいと底で割れやすい |
| ダイ | 外側の形をつくる。材料の入口 | 肩のRが小さいと材料が流れ込みにくい |
| ブランクホルダ | フランジ部を押さえ、しわを防ぐ | 押さえる力の強弱がしわと割れを分ける |
表1 絞り型の3つの要素
抜き型と違い、絞り型ではパンチとダイの角に大きなRを付けます。角が鋭いと材料がそこで引きちぎれるためです。ブランクホルダは、絞り型に特有の部品です。
絞り加工の種類
形状による分類
- 円筒絞り:もっとも基本的な形。材料が全周から均等に流れ込む
- 角筒絞り:コーナー部だけ材料の流れ方が違うため、直線部との差が不良の原因になる
- 異形絞り:楕円や多角形など。場所ごとに流れ込む量が変わり、難易度が上がる
円筒絞りが基本とされるのは、計算で工程を組み立てられるからです。角筒や異形では計算だけでは決まらず、試作と修正が必要になります。
深絞りとしごき加工
絞りの深さが直径を超えるようなものを深絞りと呼びます。1回では絞りきれないため、絞りを何度も繰り返します。
しごき加工(アイオニング)は、パンチとダイのすきまを板厚より狭くして側壁を薄く延ばす加工です。絞りが材料を流し込むのに対し、しごきは板厚を減らして高さを稼ぎます。飲料缶のような薄くて背の高い形状で使われます。
工程設計の進め方
絞り加工の工程設計は、次の順で進みます。製品図から逆算していく流れです。
| 順 | 決めること | 内容 |
| 1 | トリミング代 | 絞ると縁が不揃いになるため、切り落とす余肉を先に見込む |
| 2 | ブランク径 | 製品の表面積からブランクの直径を計算する |
| 3 | 絞り回数と各工程の径 | 絞り率を掛けていき、何回で目的の径になるかを決める |
| 4 | 各工程の高さ | ブランク展開の式を高さについて解き直して求める |
| 5 | 金型の各部R・クリアランス | パンチRとダイRを決め、材料の流れを設計する |
表2 円筒絞りの工程設計の流れ
絞り加工では、絞った後の縁が必ず不揃いになります。丸いブランクから絞っても、材料の異方性によって縁は四角に近い形になるためです。トリミングは避けられない工程として、最初から見込んでおきます。
ブランク径の求め方
ブランク径は、絞る前と後で表面積が変わらないという前提から計算します。板厚が変化しないことが前提なので、しごきが入る形状には使えません。
フランジのない円筒絞りの場合、製品の表面積は底の円と側面の和です。
製品の表面積 = π × d² ÷ 4 + π × d × h
ブランクの面積 = π × D² ÷ 4
この2つを等しいとおいて整理すると、ブランク径が求まります。
D = √(d² + 4 × d × h)
ここで D はブランク径、d は絞り径、h は絞り高さです。いずれも外形寸法を使います。内径ではなく外径を使うのは、ブランク径が大きめに求まり、トリミングの余裕が残るためです。
※なお、精密な計算では板厚の中心線(中立面)の寸法を用いますが、ここではトリミング余裕を見込んだ簡易計算として外径で算出しています。
計算例
絞り径φ36、高さ50mmの円筒を作る場合を計算します。
D = √(36² + 4 × 36 × 50)= √(1,296 + 7,200)= √8,496 ≒ 92.2mm
ここにトリミング代を加えます。トリミング代に明確な基準はなく、製品の大きさに比例して決めます。この規模なら片側2mm程度を見込み、ブランク径はφ100前後になります。
底と肩のRが大きい形状では、この式の前提が崩れます。形状を要素に分けてそれぞれの表面積を計算し、合計から求めるのが確実です。
絞り率と絞り回数
1回の絞りで小さくできる径には限界があります。無理に絞ると材料が破断します。この限界を扱うための指標が絞り率です。
絞り率 m = 絞り後の径 ÷ 絞り前の径
絞り比 Z = 絞り前の径 ÷ 絞り後の径 = 1 ÷ m
絞り率が小さいほど、1回で大きく絞ることを意味します。加工現場では絞り率のほうがよく使われます。
工程ごとの絞り率の目安
絞りを繰り返すと材料は加工硬化して硬くなるため、後の工程ほど絞れる量が減ります。工程が進むにつれて絞り率を大きく、つまり控えめにしていきます。
| 工程 | 絞り率の目安 | 備考 |
| 第1絞り(m1) | 0.50 〜 0.60 | 材料がまだ軟らかく、もっとも大きく絞れる |
| 第2絞り(m2) | 0.75 〜 0.80 | 加工硬化が進むため絞れる量が減る |
| 第3絞り以降(m3) | 0.80 〜 0.90 | 以降の工程も第3絞りに準じる |
表3 円筒絞りの絞り率の目安
順送加工やトランスファー加工では大きめの数値を、手作業では工程を減らすために小さめの数値を選びます。条件が厳しい製品では、材質ごとの限界絞り率を使います。
計算例
φ100のブランクからφ36まで絞る場合を計算します。
| 工程 | 絞り率 | 絞り後の径 |
| 第1絞り | 0.55 | 100 × 0.55 = φ55 |
| 第2絞り | 0.78 | 55 × 0.78 ≒ φ43 |
| 第3絞り | 0.85 | 43 × 0.85 ≒ φ36 |
表4 絞り回数の計算例
3回でφ36に届きます。絞り回数が決まれば、必要な金型の数と工程数が決まり、それが金型費と加工賃に直結します。
板厚も効いてくる
絞り率の計算には板厚が入っていません。同じ絞り率でも、薄い板ほど絞りにくくなります。これを見るための指標が相対板厚です。
相対板厚 = 板厚 ÷ ブランク直径 × 100(%)
相対板厚が小さいほど、板がしわになりやすく難易度が上がります。絞り率だけで判断せず、この値もあわせて確認します。
しわと割れ
絞り加工の代表的な不良はしわと割れです。この2つは別々の問題ではなく、同じ調整の両端にあります。
しわ
フランジ部の材料は、ダイの中へ引き込まれる過程で円周方向に圧縮されます。この圧縮に耐えられなくなると座屈し、波状のしわになります。ブランクホルダで押さえるのは、この座屈を防ぐためです。
薄い板ほど座屈しやすいため、相対板厚が小さい形状ではしわが出やすくなります。
割れ
割れは、底とパンチの角が接するR部に出ます。この部分は材料が引っ張られる一方で流れ込む余地がなく、力が集中するためです。しわ押さえ力が強すぎて材料が流れ込めないとき、絞り率が小さすぎるとき、パンチRが小さすぎるときに起きます。
調整が難しい理由
しわを抑えようとしわ押さえ力を上げると、材料が流れ込めなくなって割れます。逆に割れを避けて力を下げると、しわが出ます。両方が出ない範囲を探す作業になるため、絞り加工は難しいと言われます。
しわ押さえ力だけで解決しない場合は、ダイRとパンチRの見直し、潤滑油の変更、絞り回数を増やして1回あたりの負担を減らすといった手を組み合わせます。
へら絞りとの違い
へら絞り(スピニング加工)は、回転させた材料にへら状の工具を押し当てて成形する方法です。同じ「絞り」でも、金型を使うプレス絞りとは別の工法です。
| 項目 | プレス絞り | へら絞り |
| 初期費用 | 金型費がかかる | 型が簡易で安い |
| 生産速度 | 速い | 遅い |
| 向く数量 | 量産 | 試作・少量 |
| 形状変更 | 金型改修が必要 | 比較的容易 |
| 作業者の技量 | 設定が決まれば安定 | 技量への依存が大きい |
表5 プレス絞りとへら絞りの比較
試作でへら絞り、量産でプレス絞りという使い分けもあります。ただし工法が変わると成形履歴が変わるため、板厚分布や強度が同じにならない点には注意が必要です。
よくある質問
Q. 絞り加工に向く材質は何ですか
伸びが大きく、絞り性の指標であるr値(ランクフォード値)が高い材料が向きます。深絞り用として供給される冷延鋼板や、オーステナイト系ステンレス、アルミニウム、銅などが使われます。逆に、伸びの小さい高張力鋼板や硬質材は難易度が上がります。
Q. 1回でどこまで深く絞れますか
材質と板厚で変わりますが、1回の絞りで破断せずに絞れる限界を限界絞り比(LDR)と呼びます。特殊な条件でなければ、通常の金属薄板ではおよそ2前後とされています。つまりブランク径の半分程度までが1回の目安です。それより深い形状は、絞りを繰り返すことになります。
Q. なぜ絞り加工の金型は高いのですか
工程数だけ金型が必要になるためです。3回絞る形状なら、絞り型が3組と、ブランク抜き型、トリミング型が加わります。さらに、しわと割れが出ない条件を出すためのトライと修正に時間がかかります。
Q. 絞った製品の板厚は変わりますか
理論上は変わらない前提で計算しますが、実際には変化します。底のR部は引っ張られて薄くなり、フランジに近い側壁は圧縮されて厚くなる傾向があります。板厚を規定したい部位がある場合は、図面で指定して金型メーカーと事前に確認してください。
Q. 図面ではどこに公差を入れるべきですか
絞り加工では、すべての寸法を同じ精度で出すことはできません。パンチで直接形が決まる内径は比較的安定しますが、高さや外径は工程条件の影響を受けます。機能上どこが重要かを絞り込み、そこに公差を集中させてください。
まとめ
絞り加工は、1枚の板から継ぎ目のない形状を作れる一方、しわと割れの両方が出ない条件を探す難しさがある工法です。ブランク径と絞り率の計算で工程数の見通しを立てられますが、実際の条件出しには試作と調整が欠かせません。
金型は工程数だけ必要になるため、絞り回数が増えるほど金型費と開発期間に影響します。形状が固まる前に、絞り回数の見積もりとR・クリアランスの方針を金型メーカーと共有しておくと、後工程での手戻りを減らせます。



