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FKM(フッ素ゴム)とは?特性・用途・設計選定時のポイントを徹底解説【設計・開発担当者向け】

FKM(フッ素ゴム)は、自動車や化学プラントなど、過酷な環境下で使用される高性能なゴム材料です。優れた耐熱性・耐薬品性を備え、さまざまな産業分野でシール材などに広く使用されています。

本記事では、FKMの基本特性、メリットとデメリット、設計選定時のポイントについて解説します。材料選定に携わる設計・開発担当者の方々は、ぜひ最後までご覧ください。

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FKM(フッ素ゴム)とは?

FKMは、フッ素を含む合成ゴム(フルオロエラストマー)の一種で、「フッ素ゴム」とも呼ばれます。ASTM規格では「Fluoro」「Kohlenstoff(炭素)」「Mクラス」に由来し、旧ISO規格の「FPM」と本質的には同じ材料です。

代表的な製品としては、デュポン(現ケマーズ)社のViton®(バイトン)が広く知られています。その他、ダイキン工業のDAI-EL(ダイエル)やAGCのAFLAS(アフラス)もあり、特にAFLASは別系統のFEPM(エチレン系フッ素ゴム)に分類されます。

市場ではFKM系が約8割を占め、残りは高性能なFFKM(パーフロロエラストマー)が特殊用途で使われます。FKMはフッ化ビニリデンや六フッ化プロピレンなどを重合して作られ、フッ素含有率は約66〜70%と高く、これが優れた耐熱性・耐薬品性を生み出しています。

NBR(ニトリルゴム)とFKM(フッ素ゴム)の違い

シールに使われるゴム材料は多くありますが、中でも代表的なのがNBR(ニトリルゴム)とFKM(フッ素ゴム)です。両者の特性と用途を理解することは、適切な材料選定にはとても重要です。

NBRは耐油性に優れ、低コストで加工が容易であり、自動車のガスケットや油圧シール、耐油ホースなどに広く使われています。しかし、使用温度は約120℃が上限で、オゾン・紫外線・酸・アルカリに弱いという短所があります。

一方、FKMは200℃近い高温でも性能を保ち、燃料、溶剤、酸・アルカリに高い耐性があります。さらに、耐候性や長期シール性に優れ、航空宇宙、化学プラント、半導体製造装置などで多く使われます。しかし、比重は1.8(NBRの約2倍)、材料費もNBRの4~6倍と高いため、用途次第ではオーバースペックになることもあります。

表1 FKM-NBR比較表

項目 フッ素ゴム(FKM) ニトリルゴム(NBR)
耐熱温度(目安) –20 ~ +200 ℃ –40 ~ +120 ℃
耐油性 ガソリン・混合燃料に強い 鉱油・燃料油に強い
耐薬品性 広範な化学薬品に強い 酸・アルカリに劣る
耐候性

(オゾン・UV)

良好 やや劣る
コスト 高価(NBRの4~6倍) 安価
比重 約1.8 約1.0
主な用途 化学装置、半導体装置など 自動車部品、油圧シールなど
使用環境 高温・高信頼性・長期使用環境 中温・定期交換前提の汎用用途

FKMの特性

グレードや配合によって物性や特性は大きく異なるため、用途や使用環境に応じて、各メーカーが提示する物性データを確認し、最適な材料を選定することが重要です。米国ASTM規格やJIS規格では、各種の試験方法や評価基準が定められています。

表2 FKMの物性表(例:ダイキン工業のフッ素ゴム DAI-EL G-701)

項目 数値・内容 試験方法
外観 乳白色または淡黄色 目視
フッ素濃度 66mass%
比重(23°C) 1.81 JIS K 6268
ムーニー粘度
(ML1+10
55(100℃)、41(121℃) JIS K 6300-1
溶解性 低級ケトン・エステルに可溶
100%引張応力 5.2MPa JIS K 6251
引張強さ 14.0MPa JIS K 6251
引張伸び 190% JIS K 6251
圧縮永久歪み 17% 200°C×70h, 25% 圧縮
(P-24 Oリング)
硬さ(ショア A) 72(peak),68(3sec) JIS K 6253
低温弾性回復値
(TR10)
-18°C JIS K 6261
用途 Oリングなどの圧縮成形品 比較的単純な形状に適する

(引用:ダイキン工業 フッ素ゴム DAI-EL G-701

FKMのメリット

耐熱性

FKMは熱に非常に強く、連続使用温度で200~250℃、短時間であれば300℃前後の高温にも耐えます。たとえば204℃に数千時間さらされても弾性を維持でき、316℃でも短時間なら実使用例があります。高温ラインや排気系シールなど、長期にわたり温度負荷を受ける用途で信頼性を発揮します。

耐油・耐薬品性

FKMは耐薬品性・耐油性に極めて優れ、非常に広範囲の化学物質に対して安定です。鉱物油、燃料(ガソリン・軽油など)、有機溶剤、各種薬品に対し、FKMは膨潤や劣化が起こりにくく、シール材として信頼性が高いのがメリットです。このため、自動車の燃料系や化学プラントの配管シールにFKMが採用されています。

耐久性(経年劣化・耐候性)

FKMは分子構造に二重結合を持たないため、酸素・オゾンによるひび割れが発生しにくく、屋外曝露や高温環境下でも物性を長期間保持できます。多くのゴムでは耐熱・耐候性向上のため劣化防止剤を添加しますが、FKMは素材そのものが高い耐熱・耐酸化性を備えているため、添加剤に頼らずとも安定性を確保できる点が特長です。

FKMのデメリット

低温特性が弱い

一般グレードのFKMは動的使用で–20~–25℃が限界です。これを下回ると硬化や亀裂が生じ、弾性を失うリスクがあります。寒冷地や極低温環境では、シリコーンゴムやエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などとの適材適所な使い分けが求められます。

特定の薬品に弱い

ケトン(アセトンなど)、エステル、アミン、有機酸など極性の高い薬品には不向きです。特にアセトンや酢酸では膨潤・劣化が顕著で、苛性ソーダやアンモニアなど強アルカリにも耐性がありません。こうした環境では、EPDMなど耐アルカリ性ゴムや特殊グレードのFKMが有力候補となります。

高コスト・高比重

FKMは原材料となる含フッ素モノマーの製造が複雑で、一般ゴム(NBRやEPDM等)より価格が高価です。比重も約1.8と重いため、シリコーン(約1.1)やNBR(約1.2)と比べて部品重量が増す点に留意が必要です。

FKMの主な用途と他材料との比較

これらの特性により、シール用途をはじめ多様な産業で広く使用されています。

表3 FKMの用途

用途 使用例 選定ポイント 他材料との比較
自動車 オイルシール、ガスケット、燃料ホース、Oリング 高温・高圧・油浸環境下に強く、長期間のシール性能保持 NBRは高温で劣化(使用温度120℃程度)
VMQ(シリコーンゴム)はオイルに弱い
化学プラント ポンプ、バルブ、配管ガスケット 酸・溶剤への高耐性、薬品の劣化を防ぐ NBR,VMQは薬品劣化する
半導体製造装置 プラズマ処理部、薬液槽シール 腐食性環境でも安定、低アウトガス性 耐薬品・耐熱に優れるFFKM(例:Chemours社のKalrez®やダイキンのパーフロ®)の検討
医療機器 内視鏡の挿入部チューブ
医療用ポンプのシール
生体に無害、且つ耐薬品性 VMQ(シリコーン)は透明性や生体適合性で優位
食品製造設備 高温油や清掃用薬品(洗浄剤・殺菌剤)に触れるガスケットやOリング 抽出物が少なく臭い移りが起きにくい
住宅設備 水道栓パッキン、ポンプパッキン 塩素や温水に比較的強く、長期間の使用が可能 EPDMは高温スチーム環境に強い
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FKMの主な加工方法と取扱注意点

加硫成形(モールド)

FKMを金型内で加熱・加圧し硬化させる最も標準的な方法です。Oリングや大型シールなど幅広い形状を高い寸法精度で成形でき、試作から量産まで対応します。

反面、金型製作コストとリードタイムが発生するため、製品立ち上げ時には費用・スケジュールは確認が必須です。ゴム収縮を見込んだ金型設計と加熱時間・温度の厳密管理、成形後のバリ取りが欠かせません。

射出成形(インジェクション)

材料を溶融して高圧射出し、短時間で加硫硬化させる量産向けプロセスです。高速充填により複雑形状でも安定成形でき、自動車用Oリングやバルブシールなどの大量生産に広く採用されています。

取扱い時は、高温条件下で硬化不良が起こりやすいため、シリンダー・金型温度および保圧・冷却時間を厳密に管理し、加硫不足や過加硫を防ぐことが重要です。また、配合時に用いる乾燥剤(シリカゲルなど)が残留するとブリスターや剥離の原因となるため、原料を十分に予備乾燥し、均一に分散させてから成形することが重要です。

切削加工

ゴム板やブロックを直接削るため金型が不要で、1個からの試作や少量生産に最適です。NC旋盤やウォータージェットを用いれば自由度が高く、開発段階の評価サンプルに向きます。

一方、柔らかいゴムは加工時に変形しやすく、薄肉や微細形状では寸法誤差(±0.5 mm 程度)を見込む必要があります。工具は鋭利なものを選び、低速切削や冷却で毛羽立ち・変形を抑えると仕上がりが安定します。

フッ素ゴム選定時の設計ポイント

設計時におさえる材料特性

FKMを選定する際は、まず比重と硬度を確認する必要があります。比重は約1.8とニトリルゴム(NBR:約1.2)より高く、製品重量や材料コストに影響します。硬度はJIS Aで50〜90から選択でき、高くするほど耐圧性は向上するものの、初期シール性や追従性は低下しがちです。たとえば低圧配管用Oリングには硬度60のFKMを採用し、初期密着性を確保するといった使い分けが行われます。

圧縮永久ひずみの小さいグレードを採用すると、長期的なシール性能が安定し、交換サイクルを延長できます。一方、一般的なFKMの使用下限温度は−20℃前後です。これを下回る環境では弾性が低下し漏れリスクが高まるため、−30℃に達する油圧装置などではダイキン DAI-EL LTシリーズのようなLT-FKMを選定することで漏れを防止できます。

適切な使用環境(温度・圧力)

FKM の常用温度範囲は−20℃〜200℃が目安で、250℃を超える場合はFFKMなど上位材料への切替えを検討します。温度だけでなく圧力条件も重要で、高圧流体にさらされるO-リングでは、流体が溝すき間から押し出されるエクストルージョンを防ぐために、バックアップリングの併用や硬度の検討が欠かせません。

成形・加工上の留意点

金型設計ではFKMの収縮率(2.5〜3%)を考慮し、仕上がり寸法よりやや大きめのキャビティ(製品形状を形成する金型内空間)を設定します。射出成形では高粘度ゴムに対応できる射出圧力と、エア抜きを適切に配置したゲート設計が必要です。

さらに、離型剤の選定や金型温度の精密な管理によって離型トラブルや寸法バラつきを抑制できます。これらの要素を最適化することで、成形不良を減らし歩留まりを向上させられます。

他材料との比較・選定フロー

材料選定は「使用温度→接触流体→圧力→交換可否→コスト」の順で進めるのが効率的です。NBRは120℃以下での汎用用途に適し、EPDMは−40℃近くまでの低温環境で威力を発揮します。FKMは油・燃料・酸化燃料に強く、高温域の使用にも適合します。

これらの条件を整理したチェックリストを作成し、必要最低限の性能を満たす材料を選ぶことでコスト最適化が可能になります。

Oリング・パッキン設計の実務ポイント

FKM Oリングは断面径方向で8〜30%の圧縮率を確保し、溝空間への充填率は90%以下に抑える必要があります。詳細寸法はJIS規格や各メーカーの推奨値を参照してください。組付けの際は適切な潤滑剤を塗布し、Oリングのねじれや損傷を防ぎます。

真空チャンバーで標準FKMを使用するとアウトガスが問題になる場合があります。その際は低アウトガス仕様のグレードを選定することで、真空特性を維持しやすくなります。

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まとめ

FKM(フッ素ゴム)は、優れた耐熱・耐油・耐薬品性を備えた高機能ゴムで、エンジンや化学プラントなど過酷な環境に不可欠なシール材です。採用により製品の信頼性と安全性が大きく向上します。

一方で低温特性やコストに課題があるため、用途に応じた他材料との比較検討が重要です。
設計者は必要な性能を整理し、本記事を材料選定の参考にしてください。

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