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SUJ2(高炭素クロム軸受鋼)とは?特性・用途・加工ポイントを徹底解説

SUJ2とは、高い硬度と耐摩耗性を兼ね備えた高炭素クロム軸受鋼です。ベアリング用材料として広く採用されており、機械部品の長寿命化に欠かせない鋼材のひとつです。 

 

本記事では、SUJ2の基本的な成分や特性、用途例、加工時の注意点までをわかりやすく解説します。他鋼材との比較やRoHS対応といった環境規制面の考慮にも触れるので、設計・開発担当の方は最後までご覧ください。 

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SUJ2(高炭素クロム軸受鋼)とは

SUJ2は、日本産業規格(JIS G 4805)で規定された高炭素クロム軸受鋼です。化学組成は以下のとおりです。

単位%

C 

Si 

Mn 

P 

S 

Cr 

Mo 

Ni 

Cu 

0.951.10 

0.150.35 

0.50以下 

0.025以下 

0.025以下 

1.301.60 

0.08以下 

0.25以下 

0.25以下 

高炭素高クロムの成分により高い耐摩耗性と優れた強度・疲労特性を備えており、ベアリングの玉やレース軌道輪に求められる厳しい性能に応えられます。 

SUJ2は出荷時には球状化焼なまし(焼鈍)された状態で供給されます。球状化焼なましとは、鋼中の炭化物を球状にして柔らかく加工しやすい組織にする熱処理で、高炭素鋼であるSUJ2では必須の処理です。

JISではSUJ1〜SUJ5までの5種類の軸受鋼が規定されていますが、SUJ2が一般用ベアリング材の標準鋼種として最も広く使われています。

SUJ2の特性(硬度・強度・耐摩耗性)

SUJ2の主な物性値は以下のとおりです。

物性項目   
硬さ(ロックウェル硬さ)  約60~66 HRC 
硬度(ビッカース硬さ)  約700~850 HV 
比重  7.83 
ヤング率(縦弾性係数)  約2.08×10^5 MPa 
ポアソン比  0.28~0.30 
引張強さ(極限強度)  約1570~1960 MPa 

高硬度・高耐摩耗性

SUJ2の最大の特徴は、熱処理によって非常に高い硬度と耐摩耗性を実現できる点にあります。球状化焼なまし状態ではHBW201以下ですが、適切な焼入れ・焼戻し処理を施すと高硬度化が可能です。

たとえば、SUJ2素材を油焼入れした後、低温で焼戻すと、一般的な炭素工具鋼(SK鋼)と同等レベルの硬さとなり、優れた耐摩耗性・耐久性をもたらします。

高強度・高耐疲労性

SUJ2の引張強度について、公称値はJISに明記されていませんが、機械部品用材料として非常に高い強度を持ちます。転がり疲労寿命を左右する耐疲労強度も重視されており、非金属介在物の低減や組織制御によって疲労特性が高められています。

高強度かつ優れた耐疲労性から、SUJ2製の軸受部品は長時間の繰り返し荷重にも耐え、摩耗やフレーキング(表面剥離)を起こしにくくなっています。

焼入れ性

SUJ2は合金元素としてクロムを含むもののモリブデンやニッケル等は含有していないため、焼入れ性は中程度です。厚肉の大径部品では表面から芯部にかけて硬度差が生じやすく、芯部まで均一に硬化させることは困難です。

大型のベアリングなど、芯部まで高い硬度が必要な場合は、焼入れ性を高めたSUJ3やSUJ4といった鋼種が用いられます。

耐食性 

SUJ2の耐食性の低さには注意が必要です。他の一般的な炭素鋼同様に湿気や水分のある環境では錆びやすく、腐食環境下での使用には不向きです。 

耐食性が求められる用途で高硬度の軸受材が必要な場合は、ステンレス系軸受鋼であるSUS440Cマルテンサイト系ステンレス鋼への置き換えを検討しましょう。SUS440Cは焼入れによりSUJ2同等の硬さが得られ、耐食性を備えた材料です。 

SUJ2の用途・使用例

SUJ2はその高い硬度・耐久性から、主に回転運動部の軸受要素に広く使われています。代表的な用途は下記の通りです。

用途 

適用例 

適用される理由 

転がり軸受(ベアリング) 

・ボール 

・ローラー(ころ) 

・軌道輪(レースリング) 

常に高い接触応力と繰り返し荷重がかかるため 

軸・シャフト類 

・工作機械や産業ロボットのガイドシャフト 

・金型のガイドポスト 

・往復・回転摺動する部品 

摺動部で相手材との摩擦による摩耗が発生するため 

ピン類 

・ノックピン 

・ダウエルピン 

・軸受用の保持器ピン 

・位置決めや部品の固定・支持に使うピン 

せん断応力に対する強度と、摩耗を防ぐための高い表面硬度が要求されるから 

工具・治具部品 

・プレス金型のパイロットピン 

・生産ラインの治具 

・ワークと直接接触する消耗部品 

ワークとの接触による摩耗が激しい部品の寿命を延ばすため 

その他機械部品 

・歯車 

・高強度ナット 

・テンションベアリングの構成部品 

「硬くて減りにくい」という特性が求められるため 

SUJ2の加工性と加工時のポイント 

SUJ2の加工性

SUJ2は高炭素鋼ではあるものの、適切に焼なましされていれば加工性(被削性)はそれほど悪くはありません。球状化焼なましされたSUJ2の切削性は機械構造用炭素鋼S45Cとほとんど変わらないとされています。

「削りやすい」というのはあくまで焼なまし軟化状態である点に注意が必要です。SUJ2は硬化能力が高い鋼材であり、焼入れ後は市販超硬工具でも歯が立たない硬度になります。加工は必ず焼入れ前の軟らかい状態で行い、仕上げた後に焼入れ・焼戻しを実施するのが原則です。

SUJ2加工時のポイント 

高精度な部品を製作するためには、以下の点に注意しましょう。 

  • 工程計画
    焼入れによって寸法変化や歪みが発生するため、高精度が要求される箇所は熱処理後に研磨仕上げをするのが一般的です。設計段階で、「加工熱処理仕上げ研磨」のプロセスを考慮して図面寸法に加工代(研磨しろ)を設ける必要があります。 
  • 切りくず処理
    高炭素鋼は切削時に硬く長い切りくずが出やすく、放置すると切りくずによる仕上げ面への傷や、加工不良の原因となります。切削条件の最適化やブレーカ付きチップの選定、高圧クーラントの活用などにより、切りくずを細かく分断し、効率的に排出する対策が有効です。 
  • 工具の選定
    被削性向上のため、コーティング超硬工具やセラミック工具など、耐摩耗性に優れ長時間安定切削が可能な工具を使用します。SUJ2加工では工具寿命も短くなりがちなので、コストと精度のバランスを見て工具交換時期を管理します。 
  • 熱処理歪み対策
    加工完了後に焼入れする際は、真空焼入れ炉や塩浴焼入れなど変形を抑制する方法を選択し、焼戻しも適切に行います。必要に応じて高周波焼入れ(表面焼入れ)を採用し、部品全体ではなく表面層のみ硬化させることで歪みを低減することも検討しましょう。 
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鉛フリー材との比較・環境規制への対応

鉛は鋼材の被削性を向上させるために広く使われてきた金属です。有害重金属であるため、近年では、RoHS指令などの環境規制により使用が厳しく制限されています。機械加工用途の金属には例外的に鉛含有が認められているものの、経過措置であるため将来的には規制対象となる可能性が高いです。

このような流れから、鉄鋼材料においても鉛フリー快削鋼の開発が進められています。鉛を使わずに被削性を改善するため、硫黄、カルシウム、テルル、ビスマスなどを添加した鉛フリー快削鋼の開発が進められています。

SUJ2はJIS成分範囲上、もともと鉛を含まず、RoHS対応上有利です。高炭素軸受鋼であるSUJ2は被削性よりも耐久性重視のため、鉛添加は一般的ではないものの特殊注文鋼として鉛や硫黄を添加した例もあります。

環境規制に適合する製品では、材料選定時に鋼材の鉛含有量を確認しなければなりません。快削鋼を検討する際は、鉛レス仕様であるかを確認し、調達先のデータシートで鉛含有量を確認すると良いでしょう。

SUJ2と他材料の比較(他の軸受鋼・鋼種との違い)

SUJ2と類似材料、代替材料との主な違いを見ていきましょう。

SUJ2と類似材料の違い

日本産業規格(JIS G 4805)で規定された高炭素クロム軸受鋼の化学組成は以下のとおりです。

単位%

種類  C  Si  Mn  P  S  Cr  Mo  Ni  Cu 
SUJ2  0.951.10  0.150.35  0.50以下  0.025以下  0.025以下  1.301.60  0.08以下  0.25以下  0.25以下 
SUJ3  0.951.10  0.400.70  0.901.15  0.025以下  0.025以下  0.901.20  0.08以下  0.25以下  0.25以下 
SUJ4  0.951.10  0.150.35  0.50以下  0.025以下  0.025以下  1.301.60  0.100.25  0.25以下  0.25以下 
SUJ5  0.951.10  0.400.70  0.901.15  0.025以下  0.025以下  0.901.20  0.100.25  0.25以下  0.25以下 

SUJ3は、シリコン、マンガンを添加し焼入れ性を向上した材料です。主に大径軸受に使用されています。モリブデンを添加したSUJ4は、さらに焼入れ性を向上させています。大型・高速軸受など特殊用途向けに使用される材料です。SUJ5はSUJ3にモリブデンを添加した鋼種です。

SUJ2と他種の鋼材との違い

SUJ2と他種の鋼材との主な違いを以下にまとめます。

材料鋼種 

主な特性 

耐摩耗・疲労特性 

耐食性 

被削性(加工難易度) 

主な用途・備考 

SUJ2(高炭素軸受鋼) 

C≈1.0%Cr≈1.5% 

 

極めて良好 

劣る 

焼なましで良好 

・ベアリング玉・軌道輪 

・シャフト等 

・標準軸受鋼 

SUS440C(軸受用ステンレス鋼) 

C≈1.0%Cr≈18% 

良好 

優れる 

やや難削 

・防錆型ベアリング 

・精密部品 

・腐食環境下で使用可 

S45C(機械構造用鋼) 

C≈0.45% 

やや劣る 

劣る 

容易 

・一般機械部品 

・軸・歯車など 

・低コストで汎用 

SK鋼(炭素工具鋼) 

C≈1.0%前後 

やや劣る 

劣る 

焼なましで良好 

・刃物、金型 

・清浄度や信頼性でSUJ2に劣る 

SKD11(合金工具鋼) 

Cr≈12% 

良好 

やや劣る 

やや難削 

・金型 

・刃物 

・靭性が低く、転がり疲労には不向き 

設計段階ではまずSUJ2を基準に検討し、必要に応じて「錆びるからステンレス材に」「硬くなくてもよいからS45Cに」といった代替案を比較するのが良いでしょう。

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まとめ

SUJ2(高炭素クロム軸受鋼)は、ベアリング用途を中心に機械部品の材料選定でしばしば登場する定番の特殊鋼です。高い硬度と耐摩耗性・耐疲労性を持ち、長寿命で高負荷に耐える部品を実現できます。防錆性の低さや加工後の熱処理の必要性など取り扱い上の注意もあり、そうした特性を正しく理解して使うことが大切です。

本記事で紹介した内容を参考にSUJ2の特性を理解し、材料選定や設計検討にご活用ください。

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