C1100(タフピッチ銅)は、銅純度99.90%以上の純銅材料で、優れた導電性と加工性から、生活に欠かせない電気・電子部品に広く使用されています。一方で、微量に含まれる酸素が原因で高温環境下で水素脆化を起こすという弱点を持つため、用途に応じてほかの銅合金と使い分けなければなりません。
本記事では、C1100の基礎知識から、機械的・物理的特性やメリット・デメリットについて解説します。用途やほかの材料との比較、加工時の注意点にも触れるので、設計・開発の担当者は最後までご覧ください。
C1100(タフピッチ銅)とは?
C1100(タフピッチ銅)とは、日本産業規格(JIS H 3100)で定められた純銅(純度99.90%以上)の一種です。最大の特徴は、製造工程で意図的に残された約0.02〜0.05%の酸素にあります。酸素が不純物を酸化物として取り込み、銅の純度を高めて、高い導電性を実現しています。
酸素をほとんど含まないC1020(無酸素銅)と比較して、純度自体はわずかに低いものの、ほぼ同等の優れた導電率を発揮できるのが利点です。JIS規格の呼称「C1100」の「C」は銅を、4桁の数字「1100」は純銅系であることを示しています。
C1100の特性
C1100の機械的特性
C1100は非常に柔らかく、伸びやすい「展延性」に優れた金属です。そのため、曲げ加工や深絞り加工といった塑性加工が容易に行えます。
一方で、材料を引っ張る力に耐える強さを示す「引張強さ」は、ほかの金属に比べて高くありません。例えば、一般的な鉄鋼(SS400)の引張強さが400〜510N/mm²であるのに対し、C1100(軟質状態)の引張強さは195N/mm²以上と半分以下です。冷間加工によって強度を高められるものの、それでも鉄鋼には及びません。大きな荷重がかかる構造部材としての使用には不向きです。
硬さも鉄より低く、C1100のビッカース硬さは概ね55〜120HV程度(加工度による)で、SS400の120〜140HVに比べ低い値です。切削加工時には刃物への素材の食いつきやバリ発生に注意しなければなりません。
C1100の物理的・化学的特性
C1100の最も際立った特性は、市販の金属の中でもトップクラスの電気伝導率と熱伝導率です。電気の通しやすさの基準となるIACS(国際焼鈍銅線標準)で100%に達し、コストパフォーマンスの高さから電気・電子分野で広く採用されています。
物理的には、比重が約8.94と鉄(約7.9)より重く、融点は1083℃です。磁石に引き寄せられない非磁性体であるため、磁気の影響を避けたい用途にも適しています。
化学的には非常に錆びにくい金属です。空気中では表面に茶褐色の酸化皮膜が、湿気の多い環境では緑青と呼ばれる青緑色の錆が生成されます。これらが保護膜となり、内部の腐食を防ぐため、屋外でも長期間にわたって高い耐久性を発揮するのです。
C1100のメリット
非常に高い導電率と熱伝導率
C1100最大の長所は、電気・熱を極めて伝えやすい点です。導電率はIACS値で100%に達し、高価な銀に次ぐ性能を誇ります。実用金属の中では最もコストに対する導電効率が高く、エネルギー損失を抑えたい電線や電子部品に不可欠です。熱伝導率も非常に高いため、熱を素早く逃がすヒートシンクや放熱部品としても優れた性能を発揮し、機器の安定動作と長寿命化に役立っています。
優れた加工性(展延性)と安定した供給体制
非常に柔らかく伸びやすいC1100は、曲げや深絞りといった塑性加工が容易です。小さな曲げ半径でも割れにくく、複雑な形状の部品も高い精度で成形できます。この扱いやすさは、生産性の向上に直結します。さらに、工業用途で最も広く使われる純銅であり、板材や棒材などさまざまな形状で安定して市場に流通しているため、入手しやすく優れたコストパフォーマンスを実現できる材料です。
高い耐食性と美しい外観
C1100は錆に強く、長期にわたり性能を維持できる点もメリットです。空気中で表面に生成される緻密な酸化皮膜や、湿気により生じる緑青が内部を保護し、鉄のような腐食を防ぎます。また、赤みを帯びた美しい光沢は独特の高級感を持ち、時間と共に深みを増す経年変化も魅力です。建材や装飾品、工芸品など、耐久性と意匠性が求められる分野でも広く採用されています。
C1100のデメリット
高温環境での水素脆化リスク
C1100最大のデメリットが、高温下で起こる水素脆化です。内部に含まれる微量の酸素が、約600℃以上の環境で水素と反応して、高圧の水蒸気を内部に発生させてしまいます。発生した水蒸気は内部に微細な亀裂を生じさせ、強度や靭性を著しく低下させます。したがって、溶接やろう付け、熱間鍛造といった高温を伴う加工には適しません。予期せぬ破損につながる危険があります。
強度が低く荷重部材には不向き
柔らかく加工性に優れるC1100は、機械的強度が低いのが弱点です。一般的な鋼材の半分程度の引張強さしかなく、ジュラルミン等のアルミ合金より劣る場合もあります。冷間加工で強度を上げても黄銅などには及びません。大きな荷重や応力がかかる構造部材や機械部品には使用できず、用途は導電性や耐食性を活かす分野に限られます。
被削性が低く切削加工では工夫が必要
C1100は柔らかく粘り気が強いため、切削性が低い点が課題です。切削加工時に切りくずが分断されず、長く伸びて工具に絡みつくため、加工精度を著しく悪化させてしまいます。また、摩擦熱で切りくずが刃先に溶着し、加工面を荒らす原因にもなります。精密な加工には工具の選定や冷却方法に特別なノウハウが求められ、加工コストの上昇は避けられません。
C1100の用途
優れた導電性と加工性を持つC1100の代表的な用途は下記のとおりです。
分野 | 用途・使用例 | 理由 |
電気・電子分野 | ・電線、ケーブル
・コネクタ、端子 ・バスバー(配電盤の導体) ・プリント基板の回路パターン ・モーター、変圧器の巻線 |
・高い導電性により、効率よく電気を流せるため
・優れた加工性によって、複雑な形状にも対応できるため |
建築分野 | ・屋根材、外壁パネル、雨樋
・教会のドームや装飾品 ・ドアノブ、手すり |
・耐食性により、長期間建物を保護できるから
・美しい外観と経年変化が、意匠性と高級感を与えるため ・抗菌作用も期待できるため |
自動車・輸送分野 | ・ワイヤーハーネス
・EV、ハイブリッド車のバスバー ・モーターや発電機のコイル ・各種リレーやヒューズ |
・高い導電性により、大電流をロスなく流せるため
・高い熱伝導性により、発生する熱を効率よく放熱できるから |
C1100と他材料の比較・選定ポイント
C1100と類似するほかの材料を比較した内容を以下の表にまとめます。
材料名 | 導電率 (%IACS) | 引張強さ (N/mm²) | 溶接性 | 水素脆化 | 特徴・用途 |
C1100(タフピッチ銅) | 約100 | 195〜315 | × | △ | ・導電性、加工性、コストのバランスに優れる
・電気部品、装飾品 |
C1020(無酸素銅) | 約101 | 195〜315 | ◎ | ◎ | ・水素脆化がなく高温・真空用途に適するが、高価
・真空部品、高信頼導体。 |
C1220(りん脱酸銅) | 約85 | 195〜315 | ◎ | ◎ | ・溶接性・ろう付け性に優れる
・配管、熱交換器 |
C3604(快削黄銅) | 約26 | 335以上 | ○ | ○ | ・被削性に優れ、強度は高いが導電性は低い
・ネジ、バルブ、機械部品 |
選定時には、以下の4つの要素を総合的に判断するのがポイントです。
- 高温環境で使用するか(溶接含む)
- 高い強度が必要か
- 最高の導電性が必要か
- コスト
C1100の加工種類とポイント
切削加工(工作機械加工)
C1100は柔らかく粘り強い特性を持つため、切削加工には専門的な工夫が求められます。加工時に切りくずが長く伸びて工具に絡みついたり、摩擦熱で刃先に溶着して加工面を荒らす「ビルトアップエッジ」が発生しやすいためです。対策として、すくい角が大きく鋭利な刃先を持つ工具を選定し、切削抵抗を低減させることが鉄則です。
また、銅は熱伝導率が高いため、高速で切削すれば熱を切りくずと共に効率よく排出し、加工面への熱影響を抑えられます。さらに、油性の切削油による十分な潤滑と冷却が品質安定の鍵となります。手間はかかりますが、これらのポイントを押さえれば精密な部品製作も可能です。
塑性加工(曲げ・プレス成形)
C1100の優れた展延性は、曲げやプレスといった塑性加工において利点です。板厚に対して小さな半径で曲げても割れにくく、複雑な形状の深絞り加工にも良好に対応します。また、加工後の「ばね戻り(スプリングバック)」がほかの金属に比べて小さいため、設計通りの寸法精度を出しやすいという特徴も持ちます。
ただし、冷間加工を繰り返すと材料が硬くなる加工硬化が起こり、成形能力が低下する点に注意が必要です。特に複雑な加工を行う際は、途中で材料を加熱して柔らかい状態に戻す中間焼鈍(アニール)を工程に挟んで、割れを防ぎ、良好な加工性を維持することが重要です。
溶接・接合加工
C1100は高温下での水素脆化リスクがあるため、原則として溶接やろう付けといった高温接合には適しません。溶接熱によって材料内部に亀裂が生じ、強度が著しく低下するからです。
溶接が必要な場合は、水素脆化を起こさないC1220(りん脱酸銅)やC1020(無酸素銅)などの代替材料を選定しましょう。一方で、300℃程度で行うはんだ付けは水素脆化の温度域に達しないため可能です。ただし、熱伝導率が高く熱が逃げやすいため、十分な熱量を持つはんだごてで一気に加熱するのがコツです。
また、リベットやボルトを用いた機械的接合は、強度的に確実なため広く採用されています。
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まとめ
C1100(タフピッチ銅)は、高い導電性や優れた加工性、耐食性、そしてコストパフォーマンスを兼ね備えた、純銅の中でも重要な材料です。一方で、微量な酸素に起因する「水素脆化」には注意が必要です。
本記事の内容を参考にすれば、C1100の特性を深く理解し適切な加工や使用方法を選択できるでしょう。設計・開発業務にぜひご活用ください。