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粉体塗装とは?メリット・デメリット、不具合とその対策から最新技術まで

粉体塗装は、環境にやさしい塗装技術として注目を集めています。
本記事では、粉体塗装の仕組みから、メリット・デメリット、トラブルとその対策、さらに低温硬化塗料や自動化システムといった最新技術まで、幅広く解説します。

粉体塗装とは?

粉体塗装に使われる「粉体」は、顔料、硬化剤、添加剤、樹脂などを細かく粉砕してパウダー状にしたものです。この粉体塗料を、直接金属などの対象物にコーティングする方法を粉体塗装と呼びます。

粉体塗装には、主に静電粉体塗装法、流動浸漬法、静電流動浸漬法の3つの方法があります。

静電粉体塗装法は、マイナスに帯電させた粉体塗料を噴射し、静電気で対象物に付着させます。最も一般的な粉体塗装方法です。

流動浸漬法は、加熱した対象物を粉体が入った流動層に浸漬させる方法です。

静電流動浸漬法は、帯電させた塗料が入っている流動層の中に対象物を入れ、塗料が対象物に吸引されることを利用して塗膜を形成させる塗装方法です。

一般的な塗装方法が有機溶剤を使用するのに対し、粉体塗装は静電気もしくは熱を利用して微細な粉末塗料を金属表面に付着させます。そのためVOC(揮発性有機化合物)の発生がなく、環境にやさしい塗装技術として知られています。
加熱して塗料を溶融・硬化させるため、粉体塗装は焼付け塗装の一種とも考えられます。
両者の違いは、使用する塗料の形状です。粉体塗装では粉末状の塗料を使用しますが、一般的な焼き付け塗装では液体状の塗料を使用します。
粉体塗装は、後述するメリットから自動車部品、家電製品、建築資材など、幅広い産業分野で活用されている塗装方法です。環境への配慮や作業効率の向上が求められる現代において、粉体塗装の重要性はますます高まっています。

粉体塗装のメリットとデメリット

粉体塗装は多くの利点があり、様々な分野で活用されていますが、デメリットもあります。ここでは、粉体塗装のメリットとデメリットを簡潔に説明します。

粉体塗装のメリット

  • 環境対応
    有機溶剤を使用しないため、VOCの排出がありません。人体にもやさしい塗装方法と言われています。
  • 省資源
    塗料の利用効率が高く、無駄が少ない塗装方法です。未付着の塗料も回収・再利用でき、廃棄物が少ないというメリットがあります。
  • 生産性
    一回の塗装で厚い膜を形成できるため、工程の短縮が可能です。
    また、一般的な液体塗装は、塗装ムラやタレが発生しやすく、技術や経験が必要です。粉体塗装は自動化が容易で、安定した品質を維持できます。
  • 耐久性
    均一で厚い塗膜を形成できるため、耐久性・耐食性・耐薬品性に優れています。
  • 安全性
    粉末状の塗料のため、引火の危険性が低く、作業環境が改善できます。

粉体塗装のデメリット

  • 膜厚の制限
    薄い膜厚の制御が難しく、微細な部品や精密機器への適用に制限があります。
  • 色の切り替え
    色の切り替えに時間がかかり、少量多品種の生産には不向きです。
  • 初期投資
    専用の設備が必要なため、初期投資コストが高くなる傾向があります。
  • 被塗装物
    加熱して塗料を溶融・硬化させるため、耐熱性のある材料にしか塗装できません。

粉体塗装のトラブルシューティング

ここでは、粉体塗装でよくあるトラブルの原因とその対策について詳しく説明します。

粉体塗装が剥がれる

原因

  1. 前処理の不足が原因で塗料が密着しない。
  2. 素材と塗料の相性が悪い。
  3. 焼付け条件が適切ではない。

などが考えられます。

対策

  1. 表面の油分や汚れ、錆は密着不良の原因となるため、前処理で完全に除去します。
  2. 素材ごとに最適な塗料が異なるため、素材(鉄、ステンレス、アルミ、メッキ鋼板など)にあわせた塗料を選定する。
  3. 塗料メーカーが推奨する時間と温度を守る。炉温を測定し、正しい条件で焼付けを行う。

表面に錆が発生する

原因

  1. 素地の調整が不十分で、表面に微細な凹凸や不純物が残っている。
  2. 作業中に汚れた作業着や手袋、あるいは素手で対象物に触れてしまい、油脂などの汚れが付着した。
  3. 水切り乾燥が不十分で、表面に水分が残っている。
  4. 塗料に含まれる樹脂や顔料の防錆性能が不十分である。
  5. 塗膜の厚さが薄すぎて、十分な防錆効果を発揮できていない。
  6. 湿度が高い場所で保管している。

などが考えられます。

対策

  1. 研磨等で対象物の表面を調整する。
  2. 清潔な作業着と手袋を使用し、素手での接触を避ける。必要に応じて作業手順を見直し、衛生管理を強化する。
  3. 水切り乾燥炉の温度を適切に調整し、十分な乾燥時間を確保する。また、前処理出口でエアブローを行い、残留水分を事前に除去する。
  4. 防錆性能の高い塗料を選ぶ。必要に応じて塗料メーカーと相談し、塗料組成の変更や最適な製品の選定を行う。
  5. 十分な防錆力が得られるまで塗膜の厚さを厚くする。
  6. 湿度80%以下の環境で保管する。

塗膜表面が波打つ(ゆず肌)

原因

  1. 塗装時の膜厚が不足している、または過剰である。
  2. 静電塗装時の電圧が高すぎる。
  3. 焼付け乾燥炉に入る前に、風や振動などの影響で塗料が落下している。
  4. 塗装後、加温状態で長時間放置している。
  5. 静電反発(逆電離現象)が発生している。
  6. 対象物の温度が高すぎる。
  7. 焼付け温度が適切ではない。
  8. 一度、静電気がかかった対象物を再塗装している。

などが考えられます。

対策

  1. 塗装時間、吐出量、作業方法などを再検討し、適切な膜厚を確保する。
  2. 対象物に適した電圧設定を行う。
  3. 作業場の風の流れや振動を制御し、塗料の落下を防止または緩和する措置を講じる。
  4. 加湿環境に放置しない。
  5. 電圧を下げて静電反発を抑制する。
    対象物とガンの距離を適切に保つ。
    アースが正しく接続されていることを確認する。
    バージン塗料と回収塗料の割合を適切に調整する。
  6. 対象物の温度を下げて塗装する。
  7. 焼付け条件は、塗料メーカーが推奨する時間と温度を守る。炉温を測定し正しい条件で焼付けを行う。
  8. 除電装置を取り付ける。
    時間を空けて自然放電させる。
    対象物を軽くアルコールで拭く。

粉体塗装の最新技術

粉体塗装技術は、環境への配慮と効率性の向上を目指して日々進化しています。ここでは、この分野における最新の技術革新について解説します。

低温硬化塗料

低温硬化塗料とは、従来の粉体塗料よりも低い温度で硬化する特殊な塗料です。一般的な粉体塗料が170-200℃の高温で硬化するのに対し、低温硬化塗料は130-150℃程度の比較的低い温度で硬化します。
硬化に必要な温度が低いため、焼付け工程でのエネルギー消費を大幅に削減できる塗料です。粉体塗装のメリットである環境対応性をさらに高めることができます。

塗装の自動化

近年、環境規制の強化と企業の環境意識の高まりにより、粉体塗装の需要が増加しています。この需要に応えるため、自動化技術の進歩が急速に進んでいます。
塗料供給システム、床面自動清掃システム、レーザー検知による対象物の3D自動認識と無人制御システムなどが開発されています。

まとめ

粉体塗装の利点は、環境負荷の低減、高い塗料利用効率、優れた耐久性にあります。
規制の強化や企業の環境意識の高まりを背景に、より効率的で環境にやさしい塗装方法として、粉体塗装の重要性はますます高まっていくでしょう。