板金加工は、薄い板状の金属に力を加えて変形させ、立体的な形状を作りだす加工技術です。板金加工の加工法は、ハンマーなどの工具を使い、手作業で金属の板に力を加えて成形する手板金と、材料を型にはさんで油圧などの機械的な力を加えて成形する機械板金に大別されます。今回は、工業製品で一般的に用いられる加工法である機械板金を「板金加工」、板金加工で作る部品を「板金部品」として、設計者が知っておきたい板金加工の基礎をご紹介します。
目次
板金加工のポイント
板金加工では、板状の金属にさまざまな方法で力を加えて目的の形状を作りだしますが、その原理には金属材料の性質が関係しています。金属材料に荷重が加わると、材料は構成する原子間の距離を変え、ひずみを生みながら変形していきます。その際、最初は金属が元に戻ろうとする力(内力)がはたらくので、荷重が小さい場合は荷重を取り除けば金属は元の状態に戻ります(弾性変形)。金属に荷重を加え続けてあるポイント(降伏点)を越えると、金属は元に戻れなくなります(塑性変形)。そして、さらに荷重を加え続けると、堪えきれずに破断します。板金加工では、塑性変形で目的の形状を得られるように調整しながら加工する技術が重要になります。
板金加工の工程
板金加工には、出荷までに大きく分けて8つの工程があります。各工程を具体的に見ていきましょう。
- 展開・プログラム
設計図面は3D CADで描かれている場合も多くありますが、板金加工では必ず1枚の板から加工するので、CADや専用のソフトを使って加工前の1枚板の状態に「展開」する工程が必要です。図面の展開ができたら、定尺材から効率的に無駄なく部品を取れるようにレイアウトする「ネスティング」を行い、並行して加工プログラムも作っていきます。
展開前後の図
ネスティング - 抜き・切断
ブランクとも呼ばれる金属板の外周や内側の穴などを切り出す工程で、主にレーザ切断機とタレットパンチプレス(タレパン)という2種類の加工機で加工します。大きく分けてレーザ加工機は外周や大きな穴の高速切断を得意としており、タレットパンチプレスは多数の穴加工や成形加工にも対応できるなどの特徴があります。両方のメリットを同時に実現した「レーザ・パンチプレス複合機」もあり、板金工場により保有する設備が異なるので、発注の際には委託先の設備に合わせて加工を振り分けるといいでしょう。
- バリ取り
前工程でいずれの加工法を取っても、レーザの切断バリ(ドロス)やパンチプレスのせん断バリ、カエリなどはある程度発生します。それらを除去するのがバリ取り工程です。ハンドグラインダーやヤスリを使って手作業で行う場合と、大きなサンドペーパーを回転させるバリ取り機で加工する場合があります。板金加工のバリ取りでは、切削加工のようにC0.2やR0.2などの微細な寸法管理は困難です。その点「バリなきこと」という図面指示は曖昧ではありますが、「手を切らない程度にバリを取って欲しい」という場合には有効と思われます。発注の際にバリの許容範囲について委託先と認識を合わせておくことが望ましいでしょう。
- 曲げ
プレスブレーキという機械に金型を取り付け、切断した板材に圧力をかけて一定角度で直線的に曲げる手法が、機械板金における一般的な曲げ加工です。プレスブレーキでは装置上部にオス型(パンチ)、下部にメス型(ダイ)を取り付けて、装置上部を上下させて金属板を曲げますが、材料のロットや圧延方向によって曲げで得られる角度が異なるため、毎回細かな調整を行う必要がある難しい加工です。しかし曲げ工程の精度によって後工程の溶接で加工のしやすさや美観が大きく変わってくるので、板金加工で最も重要な工程のひとつといえます。なお、「プレスブレーキ」は「ベンディングマシン」「ベンダー」などと呼ばれることもあり、どれも同じ機械をさしています。
- 溶接
金属に熱をかけて溶融させ、冷却することで金属を接合するのが溶接加工で、板金加工ではTIG溶接とレーザ溶接が主に用いられています。タングステン電極を用いるTIG溶接は、シールドガスにアルゴンを用いるため「アルゴン溶接」と呼ばれることもあります。TIG溶接は、溶融部に溶加棒を加える肉盛り溶接が可能ですが、一方で材料への入熱が多いのでひずみが発生しやすい工法です。加工結果は職人の熟練技術に寄るところが大きくなります。レーザ溶接は熱ひずみを抑えられる加工法で、加工技術を標準化しやすいというメリットがありますが、母材溶接が基本なので肉盛り指示のある部品には使いにくく、工法変更などの手続きが必要になります。 - 仕上げ
板金加工の仕上げ工程としては、溶接で発生する熱ひずみの除去、肉盛り溶接で盛った凸部をグラインダーで削り落とす作業、そして溶接で発生する焼けを電解研磨で除去する工程、表面研磨処理(磨き・バフ)などがあります。 - 組立
複数の部品を組み合わせ、主にボルト・ナットやリベットなどの締結部品を用いて組み立てる工程です。溶接ほどの強度が必要でない場合や、後に分解作業が必要になる箇所などで採用されることが多い工法です。組立作業は別名「アッセンブリー」とも呼ばれており、部品単位の小さな組立から中規模のユニット単位、最終的な機械・装置全体の組立まで、幅広い作業・工程が対象となります。なお、板金加工業界では前述の溶接による組立工程のことを「組立」(溶接組立)と呼ぶ会社もあります。 - 検査
板金加工品の出荷前検査では、寸法検査と外観検査を目視で行うのが一般的です。寸法検査では主にノギスやスケール、角度計などを用い、寸法や穴位置、精度に間違いが無いかどうか、図面と完成品を見比べて確認します。外観検査では製品にキズやバリがないかどうかを目視確認していきます。工場によっては検査に画像測定機や三次元測定機を用いるところもあります。
板金加工で用いる加工機の種類
板金加工では、上述のように各工程で色々な機械を使用します。ここでは、板金加工に用いる主な加工機をご紹介します。
- レーザ加工機
レーザ加工機は金属材料に高出力のレーザを照射して局所的に溶融させて溶けた金属を気体で吹き飛ばして切断する加工機で、切断する周長が長い外周や長穴などの高速加工を得意としています。一方、板に穴数が多い場合には貫通穴開け(ピアス)の回数が増えるので加工に時間がかかるといわれてきましたが、近年はレーザの高出力化により、穴開け加工も含めた高速加工が可能になっています。しかし、タップ穴やバーリングなどの成形加工はできません。
- タレットパンチプレス
タレットパンチプレス(略称:タレパン)は、タレットと呼ばれる金型ホルダーに小さな金型をたくさん取り付けて、金属を高速でプレスして抜いていく加工機です。1回のプレスで1個の穴が開くため穴数の多い部品の高速加工に向いているほか、タップやバーリング、ザグリ穴、ルーバー加工などの成形加工が可能です。一方で外周や長穴を抜くにはたくさんのパンチ回数が必要になるので、加工に時間がかかります。
- レーザ・パンチプレス複合機
前述の2種類の加工機を同時に搭載した複合機です。時間のかかる外周や大きな穴をレーザで加工し、穴加工や成形加工をパンチプレスで行うなど、抜き・成形の加工を1工程で行います。加工によって装置を変える必要がないため、ワークの持ち替えによる加工位置のズレが発生しにくいというメリットがあります。
- バリ取り機
従来、板金工場ではハンドグラインダーやヤスリによる手作業でバリ取りをするのが一般的でしたが、近年はバリ取り機を導入する工場も増えてきました。バリ取り機ではコンベアの上にワークを吸着させ、サンドペーパーを取り付けたブラシを回転させることで均一にバリを取ります。
- プレスブレーキ
プレスブレーキでは装置上部にオス型(パンチ)、下部にメス型(ダイ)を取り付けて、装置上部を移動させ下向きに圧力をかけて金属板を曲げる加工を行います。圧力のかけ方によって機械式、油圧式、サーボモータ+ボールネジ式などがありますが、今はNCで加圧量を調整できるモデルが一般的です。近年ではバックゲージ(突き当て)がプログラムにより自動で移動する機種が普及しており、曲げ精度の向上に一役買っています。最大加圧力(トン数)と加工できる長さにより、加工できる材料の素材、板厚、長さなどが決まってきます。
- レーザ溶接機
レーザ溶接は溶込みが細く深く、そして熱影響層が小さいため、熱ひずみが発生しにくい溶接方法です。レーザ溶接のうち、先行して普及したのは「YAGレーザ」で、ひずみを抑え美観を保つ溶接工法として知られてきました。そして2015年頃から登場した「ファイバーレーザ溶接機」は、YAGレーザで懸念された強度不足を解消し、低ひずみかつ強度も確保した溶接が可能な工法として急速に普及しています。レーザ溶接の最大のメリットは薄板でもひずみが発生しにくい点で、TIG溶接では熟練の職人しかできなかった加工や極薄板の加工が、非熟練者でも実現できる工法です。今後設備の軽量化に伴い薄板の採用が進めば、レーザ溶接はより一般的な加工として普及する見込みです。
- TIG溶接機
TIG溶接(ティグ溶接)は電気を用いたアーク溶接の一種で、現在機械板金の現場で最も一般的に用いられている溶接の工法です。不活性ガスとしてアルゴンを用いることが多く「アルゴン溶接」と呼ばれることもあります。TIG溶接は電極に高圧の電気をかけて金属を溶融させて接合するため、機密性や水密性に優れ、溶接強度が高いという特徴があります。一方で金属への入熱が大きいので、溶融池の周囲に熱が伝わる熱影響部の範囲が広く、製品に大きなひずみが生じます。このひずみをなるべく抑えて溶接する技術、発生したひずみを取る技術が大変難しく、TIG溶接は「職人技」と呼ばれています。
板金加工で用いる材料と表面処理
板金加工に使われる材料は、ステンレス、鉄鋼材(SPCC、SECC)、アルミなどの種類があります。板厚も、素材によりt0.1~22mmまでさまざまです。製品の用途や加工特性を考慮して選定しましょう。
板金加工で用いる材料と表面処理についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
板金加工のメリット・デメリット
板金加工の最大のメリットは、少量多品種生産に向いていることです。塑性加工の代表的な加工法であるプレス加工は、同じ形状の部品をたくさん製造する量産に向いていますが、製品ごとに金型を製造する必要があるので大量生産しなければ製品価格が高くなってしまいます。
その点、板金加工は「抜き」「曲げ」「溶接」など、どの工程でも汎用的な設備を用い、曲げ加工でも汎用的な金型を使います。そのため少量多品種製造に対応できるほか、設計変更が発生した場合にも柔軟に対応可能です。また、「抜き」「曲げ」「溶接」の組み合わせにより、1枚の板材から複雑な形状の製品を作ることもできる点も大きなメリットだと言えます。
逆にデメリットとしては、部品を一点ずつ加工するため、同じ部品を大量に作る場合は生産に時間がかかります。特に溶接などはまだ職人技に頼る部分が大きく、誰でも加工できるわけではないので、量産には向きません。
板金加工のコストダウン方法
板金加工でコストダウンを実現するためのヒントを4つご紹介します。
- 加工メーカーの得意分野を踏まえて発注する
一言に「板金加工メーカー」といっても、各社の設備はさまざまです。加工機の特徴を踏まえて発注するだけでコストダウンできる可能性があります。たとえば前述のように、レーザ切断機は全周や長穴の高速加工を、タレットパンチプレスは大量の穴加工や成形加工を得意としています。ブランク工程をレーザ切断機メインで加工しているメーカーに穴加工と成形中心の製品を発注すると加工コストは上がり、タレットパンチプレスを中心にやっているところに大判の外周カットを発注すると加工コストが上がりがちです。加工メーカーの得意分野を見極めて発注するだけでコストダウンできる可能性が高くなります。 - 溶接を減らし、曲げられるところは曲げる
「TIG溶接」の項でご説明したとおり、少量多品種の溶接加工は職人の熟練技術に頼らざるを得ない部分が大きく、加工単価が高くなりがちです。たとえば2枚の板を90度に合わせるような場合、曲げが可能であれば、曲げの方が加工単価が下がる傾向にあります。曲げ加工の特徴(材料・金型との干渉など)を踏まえて選定するといいでしょう。曲げ加工以外にはリベット接合もコストダウンに繋がりますが、図面内すべて溶接レスにする必要があります。 - バリ取りの指示を再検討する
図面では「全周バリなきこと」という指示が目立ちますが、加工メーカーではバリ取りにもかなりの設備費・人件費をかけて対応しています。バリ取りの指示を本当に必要な部分に絞ることで、工場側でバリ取りにかかる作業費を削減できる可能性があります。また、闇雲に高精度を求めるのではなく、加工側が実際のところどの程度まで精度を実現できるか、発注側がバリ取り品質についてどこまで許容可能か、などについて打ち合わせすることで、コストダウンの道筋が見えてくるかもしれません。 - 肉盛り溶接の要否を再検討する
角継ぎ手溶接などでは強度を確保するために肉盛り溶接の指示を入れることが一般的だと思いますが、薄板で低ひずみ溶接を容易に実現できるレーザ溶接は肉盛り溶接を苦手としています。近年はファイバーレーザ溶接など母材溶接でも十分な強度が確保できる工法も普及してきたので、強度確保のための肉盛りに固執せず、工法転換を検討するのもコストダウンの一手となる可能性があります。
まとめ
板金加工は少量多品種の加工に柔軟に対応できる加工技術ですが、まだまだ職人の直感的な感覚が必要な部分も多く、難しい加工分野だといえます。また、加工機や加工法の選定によって製造コストが変わってくるので、板金加工の特徴を理解して効率的に設計するようにしましょう。
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