高硬度鋼材の一つに「NAK(ナック)材」があります。大同特殊鋼が販売しているSCM系のプリハードン鋼で、金型の材料などにも使われる鋼材です。「硬い」「早い」「安い」「錆びにくい」という4大特長をもつNAK材について解説していきます。
目次
NAK材とは
NAK材は、大同特殊鋼が販売するプリハードン鋼の一種で、SCM材に熱処理を施したものです。樹脂の射出成形用の金型材料として広く使用されており、その優れた特性から多くの製造現場で採用されています。
NAK材の物理特性は以下の通りです。
熱膨張係数 (×10-6 /K)
鋼種名 | 20~ 100℃ | 20~ 200℃ | 20~ 300℃ | 20~400℃ | 20~ 500℃ | 20~ 600℃ |
NAK55 | 11.4 | 12.3 | 12.9 | 13.5 | 13.9 | 14.4 |
NAK80 | 11.5 | 12.4 | 13.0 | 13.5 | 14.0 | 14.5 |
熱伝導率 (W/m・K) ※
鋼種名 | 20 | 100℃ | 200℃ | 300℃ | 400℃ | 500℃ | 600℃ |
NAK55 | 27.2 | 30.5 | 30.2 | 31.8 | 32.4 | 32.5 | 31.1 |
NAK80 | 26.9 | 31.3 | 32.5 | 31.8 | 32. 9 | 31.7 | 30.3 |
※繰り返し測定精度は±10%程度
磁気特性
鋼種名 | 最大比透磁率 | 飽和磁束密度
(T) |
残留磁束密度
(T) |
保磁力
(A/m) |
NAK55 | 380 | 1.635 | 0.850 | 1100 |
NAK80 | ||||
(S55C) | – | – | 1.380 | 1200 |
NAK材の種類
NAK材の主な種類としては、NAK55とNAK80が挙げられます。これらは、いずれも高硬度鋼に分類される金属材料であり、高い硬度と優れた切削性を兼ね備えています。
NAK55
NAK55は、硬度が37~43HRCで、耐摩耗性に優れています。
切削加工後や放電加工後の研磨が容易で、肉盛溶接が行いやすい素材です。使用後の歪みが少なく、精密型に向いています。鏡面加工やシボ加工にも適しています。
NAK55は、高性能・精密プラスチック金型やゴム金型、プレス金型、産業機器等各種部品に使用されます。
NAK80
NAK80は、1980年に誕生したことからNAK80と名付けられました。
組織が緻密でNAK55の鏡面みがき性、靭性をさらに改善した材料です。放電加工後の肌が非常に美しく、硬度はNAK55と同等です。切削性は良好ですが、NAK55に比べるとやや劣ります。加工肌を重視する自動車のヘッドパネル、化粧品の容器、バイクの風防などに使用されています。
NAK材が分類される「高硬度」鋼とは
素材の分類にはさまざまな方法が、ありますが、そのうちの一つに材料の「硬度」で分類する方法があります。NAK材は硬度による分類で「高硬度」分類される素材です。
硬度とは材料の変形しにくさや傷つきにくさを表す数値
材料の機械的性質には、強度(引っ張り強さや圧縮強さなど)や靱性の他に「硬さ」という項目があります。硬さとは「変形のしにくさ」を表すものですが、強度や靱性などは材料全体に荷重を加えるのに対し、硬さの評価では、材料表面に局部的に荷重を加えるのが特徴です。
金属の硬さの主な評価方法
金属の硬さの試験には押し込み試験法と動的試験法の2種類があります。押し込み試験法では圧子とよばれる硬いパーツを試験片に押しつけ、できたくぼみの大きさを測定します。動的試験法では重量物を試験片に落下させ、跳ね返りの大きさを測定します。
硬さ試験で使われることが多い4つの評価を紹介します。
- ロックウェル硬さ(押し込み試験)
円錐または球の圧子を使い、くぼみの深さを測定する試験です。圧子はダイヤモンドや超硬合金で作られています。小さな圧痕で測定できるのが特徴で、ロックウェル硬さはHRCと表記されます。 - ブリネル硬さ(押し込み試験)
球形の超硬合金の圧子を使い、くぼみの表面積を測定する試験です。大きなくぼみができるため、面が粗い材料でも測定できるのが特徴です。ブリネル硬さはHBと表記されます。 - ビッカース硬さ(銅、亜鉛)
ダイヤモンドで作られた四角錐を使い、くぼみの対角線の長さを測定します。とても小さな圧痕で測定できるのが特徴で、ビッカース硬さはHVと表記されます。 - ショア硬さ(動的試験法)
ダイヤモンドチップを埋め込んだハンマーを試験片の表面に落下させ、ハンマーの跳ね上がり高さを測定します。小さな測定機で試験片に傷を残さず測定できるのが特徴です。ショア硬さはHSと表記されます。
高硬度鋼の定義
高硬度鋼とは、ロックウェル硬さ(HRC)では28~48HRC、ブリネル硬さ(HB)では270~450HBのものを指します。炭素鋼よりも硬く、焼き入れを行った鋼よりはやわらかいと考えておくといいでしょう。
ロックウェル硬さ(HRC) | プリネル硬さ(HB) | 代表的な素材例 | |
---|---|---|---|
軟材 | – | 110~125 | アルミ合金A5052 |
中硬度 | ~22 | 160~235 | 炭素鋼S50C |
高硬度 | 28~48 | 270~450 | プリハードン鋼NAK55 |
超高硬度 | 52~65 | (500) | ダイス鋼 SKD11 軸受鋼SUJ2(焼き入れ) |
硬度の高い材料は素材自体の価格も高く、加工にも時間がかかるため、コスト負担が大きくなりがちです。そのため、硬さは必要としつつも削り量の多い加工を行いたい場合や、超高硬度鋼ほどの硬さが必要ではない場合には高硬度鋼を選択するといいでしょう。
プリハードン鋼は調質鋼ともよばれ、熱処理が施された材料でありながら切削などの機械加工が行いやすい材料です。プリハードン鋼は、ほとんどの素材においてHRC40~45程度になっており、プリハードン鋼は高硬度鋼の代表的な素材になっています。
NAK材の特徴
NAK材は大同特殊鋼が販売しているプリハードン鋼で、SCM材に熱処理を施したものです。樹脂の射出成形用の材料として広く使われており、なかでもNAK55とNAK80が特によく知られています。NAK材の特徴を下記にまとめます。
硬い
NAK55(NAK80)の硬度は37~43HRCで、高硬度鋼の中でも比較的高い硬度をもっています。樹脂の射出成形に使われる金型は、高温下で繰り返しの荷重に耐えたり、繰り返しの摩擦に耐えたりする機能が求められるため、NAK材のような硬い素材が多く使われます。
【NAK材と熱処理品の比較】
材質 | 熱処理(℃) | 機械的性質の代表値 | 物理的性質の代表値 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
引張り強さ (N/mm2) |
耐力 (N/mm2) |
伸び | 硬度 | 比重 (20℃時) (g/cm3) |
線膨張係数 (20~100℃) (× 10-6/℃) |
||||
HRC | HB | ||||||||
NAK55 | – | 1255 | 981 | 15% | 37~43HRC | (344~400HB) | 7.8 | 12.5 | |
HPM1 | – | 1215 | 1010 | 10% | 37~41HRC | (344~381HB) | 7.8 | 11.4 | |
S50C | 焼きならし | 810~860 空冷 | 610以上 | 365以上 | 18%以上 | (8~22HRC) | 179~235HB | 7.87 | 11.7 |
焼鈍 | 約800 炉冷 | – | – | – | (0~10HRC) | 143~187HB | |||
焼入れ | 810~860 水冷 | 740以上 | 540以上 | 15%以上 | (18~29HRC) | 217~277HB | |||
焼戻し | 550~650 急冷 |
※上記特性値は参考値であり保障値ではありません。
※括弧は硬さ換算表(SAE J 427 * 1983年改訂)
早い
NAK材は、熱処理済みの素材であり、高い硬度を持ちながら、切削性に優れているのが特徴です。そのため、焼き入れ材などに比べて切削加工や仕上げにかかる時間を短縮できます。
熱処理による寸法変化や歪みの心配もないため、修正にかかる時間も必要ありません。
また、すでに熱処理が行われた状態で納品されるため、加工後の熱処理も必要なく、短時間で製品を完成できます。
【NAK材と熱処理品の加工工程の違い】
安い
NAK材は、短時間で加工できるのが特徴です。そのため加工にかかるコストも抑えることができます。一般に材料は硬度が上がるとコストも上がりますが、NAK材であれば全体のコストが抑えられ、結果として安く製品を作ることができます。
【NAK材の加工条件】
D:工具径
加工 | 加工工程 | 工程材質 | 切削速度 m/min |
送り mm/1刃 |
切込深さ mm |
---|---|---|---|---|---|
旋削加工 | 荒加工 | 超硬(コーディング) | 40~60 | 0.7mm/rev | 6~8 |
仕上げ | 超硬(コーディング) | 40~60 | 0.7mm/rev | 2~3 | |
フライス加工 | 荒加工 | 超硬 | 80~90 | ≦0.12 | ≦3 |
超硬(コーディング) | 100~120 | ≦0.15 | ≦4 | ||
エンドミル加工 | 荒加工 | 超硬 | 30~35 | ≦0.12 | 0.25D(径方向) 2D(軸方向) |
仕上げ | 粉末ハイス | 20~25 | ≦0.10 | 0.2D(径方向) 2D(軸方向) |
|
ドリル加工 | – | Co系ハイス | 12~15 | 0.05~0.2 | – |
タップ加工 | – | 高V系ハイス | 5 | – | – |
錆びにくい
NAK材は、Ni・Cu・Mo・Alなどの添加により、一般的な炭素鋼よりも優れた防錆性を持ちます。Niは耐食性と靱性を高め、Cuは保護的酸化膜で赤錆を抑制し、Moは局部腐食を防ぎ、Alは酸化被膜の生成を促進します。水回りや湿気の多い環境下での金型にも適していますが、ステンレス鋼には及ばないため、環境に応じた防錆処理とメンテナンスが重要です。なお、これらの特性は合金組成や使用環境によって変化する可能性があります。
【NAK材の化学成分】
鋼種名 | 化学成分(wt%) | |||||||
C | Si | Mn | Ni | Cu | Mo | Al | 快削元素 | |
NAK55 | 0.15 | 0.3 | 適量 | 3.0 | 1.0 | 0.3 | 1.0 | S添加 |
NAK80 | NAK55の鏡面みがき性等改善材 S無添加 |
メビーのNAKの加工事例
メビーでは切削角物にてNAK55(相当)を選択できます。 標準6日目出荷、最短3日目出荷から対応します。
「高硬度を求めるなら熱処理材しかなく、納期やコストがかかるのを諦めていた」「熱処理材ほどの硬度は必要ないが、ちょうどいい硬度の鋼材を知らない」「硬度材を調べる時間がないから、摩耗が激しく交換頻度が高いいつもの素材を採用していた」という方におすすめです。
※NAK55(相当)とは、37~43HRCのプリハードン鋼の相当品を使用する可能性があることを指します。
品名 | ベースプレート |
材質 | NAK55(相当) |
サイズ | W75mm×D75mm×D20mm |
出荷日 | 6日目~ |
参考価格 | 16,636円 |
写真 | ![]() |
※表中は2025年1月時点の情報
「NAK材」いかがだったでしょうか?
高硬度を求めるなら熱処理材しかない、納期やコストがかかるのを諦めていた。
熱処理材ほどの硬度は必要ないが、ちょうどいい硬度の鋼材を知らない。
硬度材を調べる時間がないから、摩耗が激しく交換頻度が高いいつもの素材を採用。
そんな想いや悩みを抱えている方には、とってもおすすめの「NAK材」です。 ぜひ、ご利用ください!
まとめ
NAK材は大同特殊鋼が販売するプリハードン鋼の一つで、高硬度鋼に分類される金属材料です。熱処理済みの材料で硬い一方、切削加工がしやすいのが特徴です。そのため、加工にかかる時間が早く、結果として安く製品を作ることができます。
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