今回はAIを使って設計データを検索することができないのだろうか、そのベースになる機械学習についてお話します。
設計工程では、設計データを探すという設計の付帯作業がたびたびあります。その探している時間も少なくはなく、設計の効率化を行う中で課題になります。
目次
3D CAD類似形状検索とソリューション
3D CADが運用される中、私が興味をいだいたのが類似形状検索です。
3Dデータにはジオメトリが存在します。ジオメトリ(英:Geometry)は、幾何学、形状などの意味がある英単語です。3次元コンピュータグラフィックス(3D CG)でも使われるようです。
3D CGを操作するシステム側では、表示する立体は、その形を表す数値などのデータの集まりとして管理しています。そのデータの集まりには外形を構成する点や直線・曲線・面の位置・長さ、関数や数式とそのパラメータがあります。
3D CADも3D CGとは使用目的や精度は違うものの、同じようなデータの集まりによって、できていると私は考えます。これらのデータを意識しながら3D モデル化しているわけではありませんが、作られた3Dモデルには必ずデジタルデータとしてのジオメトリが存在しています。デジタルデータが存在しているということは、このデータを使わない手はありません。
3D CAD連携 類似検索ソリューション「3DPartsFinder」
私は、2012年SOLIDWORKS社の年次イベントSOLIDWORKS WORLD2012(米国カリフォルニア州サンディエゴ、2012年2月12日(日)~2月15日(水))に参加した際に、カナダ3DSemantix社の「3DPartFinder」という3D ソリューションに出会いました。
「3DPartFinder」は3D CADで設計された3次元モデルの類似部品データを形状検索するもので、過去に設計された3次元モデルから検索に必要な形状比較データを自動作成し、類似の3次元形状部品を検索し、検索結果を3D CAD上に表示するという仕組みです。
設計者がほぼ同じ寸法の部品があるに関わらず部品の再利用や、標準化されていない既存の部品を知らずに、また新たに部品を設計してしまうことを防ぐことで共有化を促すことになります。その結果、「製品の開発期間短縮が可能となる」と当時、会場で感じたことを今でも覚えています。
この製品は、現在もSOLIDWORKS社のパートナー製品としてWEBから確認ができます。下図のように3DPartFinderを使用することで類似形状のパーツを表示することができます。設計者は表示された類似形状パーツから、さらに理想的なものを検索することが可能になります。
![3DPartFinderで類似形状のパーツを表示|類似形状検索をしたいパーツを参照先のアセンブリから指定|類似形状部品が表示](https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/wp-content/uploads/2023/08/02.png)
3DPartFinderで類似形状のパーツを表示
出典 3DSemantix Inc.
類似形状検索の一例ですが、類似形状検索を行いたいパーツを参照先のアセンブリから選択後、検索を行い、多くの類似形状部品が類似性をランク付けした状態でソリッドワークス上に表示しています。
他に「3DPartFinder」は、さまざまなCADソフトに対応しています。
<3DPartFinder対応CADソフト> ・CATIA:Dassault Systèmes ・SOLIDWORKS:Dassault Systèmes SolidWorks Corp. ・NX、Solid Edge:Siemens ・Creo(旧Pro/ENGINEER):Parametric Technology Corporation ・Inventor:Autodesk, Inc. |
この製品はジオメトリから形状比較データを作成し、検索を行っているものでしたが、データが登録されるたびに、システムが機械学習をし、類似検索をしてくれることが可能なのでは?と私は想像します。
機械学習となればAI(人工知能、英: artificial intelligence)が役立ちます。
機械学習を学んでみた
AIが話題になり始めた数年前、私が所属する長野県知的産業技術研究会の事務局でもある長野県工業技術総合センター環境・情報技術部門で機械学習に関わるハンズオンセミナーがあり、私も参加しました。
「TensorFlow」と「keras」 を使用したディープラーニング入門 Windows 版としての講座になり、学習済みの画像データから、新たな画像データのクラス分類を行うというシンプルなものでしたが、これが私にとってAIの始まりでした。
![クラス分類の説明図|判定 この画像は犬です](https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/wp-content/uploads/2023/08/03.png)
クラス分類の説明図
このクラス分類は、正解ラベル(犬または猫だという答え)とセットになった画像を大量に読み込むというディープラーニングによる学習によって、犬と猫の画像を判別できるニューラルネットワークの重みと、パラメータといわれる複雑な計算式が習得された後、未知の画像を読み込むと、それが犬の画像なのか、猫の画像なのかを判別し判断結果にその確率が得られるというものでした。
<用語解説(筆者解釈)> ●TensorFlow (テンソルフロー、テンサーフロー) Google が開発し オープンソース で公開している、 機械学習 に用いるための ソフトウェアライブラリです。 ●オープンソース コンピュータプログラムのソースコードを広く一般に公開し、誰でも自由に扱ってよいとする考え方とそのソースコード自身のことをいいます。 ●Keras(ケラス) Googleが開発したプログラム言語Pythonで書かれているニューラルネットワークのライブラリです。構造がシンプルでよみやすく、ユーザーフレンドリーなライブラリであるといわれています。 ●ニューラルネットワーク 人間の神経細胞(ニューロン)が相互に網状に繋がった構造を数式化した仕組みで、入力層、出力層、隠れ層から構成されています。 ●ニューラルネットワークの重み 学習するための入力値の重要性を数値化したもので、重みが大きければ大きいほどその入力値は学習のための特徴に深く関連しているものになります。 ●Python(パイソン) 高水準な汎用プログラミング言語です。AIの分野でよく利用されています。ライブラリやひな形が豊富で、深層学習を行うためのTensorFlowといったツールが利用できます。 ●Deep Learning(ディープラーニング) 深層学習ともいいます。機械が自ら学習していく機械学習の一部としてディープラーニングがあります。 ●機械学習 人間が行う学習能力と同様の機能をコンピュータで実現する技術のことをいいます。 ●クラス分類 与えられたデータをどのクラス(カテゴリー)に分類されるのか学習するものです。その機械学習の方法にニューラルネットワークがあります。 |
私はソフトウェア開発者ではないので、ソースコードの知識はないため、指示されたコードを入力するというものになりましたが、全く素人の私でも機械学習によるクラス分類を経験することができました。
![クラス分類ソースコードの例](https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/wp-content/uploads/2023/08/04.jpg)
クラス分類ソースコードの例
過去の設計・製造ノウハウを活用
さて、このように機械学習を使ってクラス分類ができるのですから、開発設計製造を行う企業では機械学習で何ができるのかを考えます。
3D CADデータが保存されているフォルダやPDM(Product Data Management 製品データ管理システム)内にある3D 部品図のジオメトリ(形)とパラメータ(サイズ/材質)について、AIが学習することができれば、3D モデリング(モデルの作成手順)が違ったとしても、「こんな形状の部品を探している」という情報からその部品を見つけて、そのまま使用することも、設計パラメータだけ編集して利用することができそうです。
同一品の過去の製造実績があれば、新たに設計する必要はなく、設計時間削減が可能です。
また、加工先にその加工データがあれば、加工コスト削減に繋がることでしょう。類似部品があれば、パラメータ編集だけの効率的な設計ができます。
この効果は、設計業務や部品加工業務だけではありません。検索されるデータに実績金額・納期、調達先が紐づけば、可視化された形状データから製造データが参照できるようにもなります。
これまでもさまざまな業務の中で、「探している時間」は多く存在していました。
属人的に記憶の中でしか探すことができなかったものから、機械学習によるシステムによって、誰もが同じように探すことが可能になり、探す時間が省かれるのであれば、生産性の効率は上がります。
そのような中で、設計者について考えれば削減された時間を付加価値の高い設計に向けることができるでしょう。
設計の本質は、構想設計と詳細設計にあります。
この本質を充実させるために、合理化できるところは合理化すべきで、ここにAIの可能性を感じます。
製造業のDX×AIによる形状検索
meviyや、ミスミのデジタル戦略の要(かなめ)となっているDTダイナミクス社について知る機会がありました。ここではmeviyに適用できる可能性ある技術が検証されています。その中にも「形状認識」が取り上げられていました。meviyにとっても、形状認識精度を上げることは、大きな強みに繋がります。
設計製造業界でも、GD&TやセマンティックPMIという言葉を聞く機会が多くあります。
●GD&T(Geometric Dimensioning & Tolerancing) 幾何公差設計法:無駄な公差をなくし、形状定義のあいまいさをなくす、幾何公差による設計手法です。 ●セマンティック(Semantic Product Manufacturing Information) 寸法や公差、注記などの製品製造情報:これらは機械が読み取れる情報であり、設計~測定まで一貫した正しい情報であるべきです。そのためには正しい公差と幾何公差が必要となります。 |
これらが3D 図面上で正しく設定できるようになれば、この形状認識から読み取ることのできる情報はさらに高度なものになることが期待できます。
![ミスミだからできること|meviyのこれ迄の歩みと進化の鍵より「ミスミだから出来る事」](https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/wp-content/uploads/2023/08/05.png)
ミスミだからできること
meviyのこれ迄の歩みと進化の鍵より
また、meviy Labから2D図面を対象としたAI活用のコンセプトについての話もありました。ミスミの2D図面におけるAI2Dの目的は、ミAI自身の作業の効率化と自動化にあります。
●図面の情報を読み取り、データベースにある図面との類似検索を行う ●類似検索を行った結果から、過去実績データを導き最適な部品工場を選定する |
まとめ
AIを利用した類似検索は、前回お話したV字開発プロセスで、設計者が行うべき設計の本質に集中するための効率化策のひとつです。調達部門もmeviyを利用するユーザーが増えれば増えるほど、蓄積されるデータが増え、効率化と自動化ができるようなことが、私たち自身にも実現可能です。
AI活用の効果は身近なものと移っています。
余談ですが、AI画像生成ツール「Bing Image Creator(Microsoft)」を使って、『類似形状を検索する』というキーワードから今回のコラムのイメージ画像を作成してみました。キーワードを入力するだけで、複数の画像を作成してくれます。
今回作成してみた画像では、似たような形を複数並べたようなものが生成されました。その形もとてもユニークなものだったので、イメージ画像に採用したかったのですが、お見せできないのが残念です。
※「Bing Image Creator」とは、Microsoftが開発したAI搭載の画像生成ツールで、商業利用を明示的に許可する文言は見受けられないため、今回の掲載を断念しました。
次回は製造業×AIについて、IT全般、働き方改革分野を得意分野とされるエバンジェリストとのお話からAIの可能性を探っていきます。