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インコネルとは?特性・用途・加工・設計選定時の注意点まで製造業向けに徹底解説

インコネル®(Inconel®)はSpecial Metals社が商標を保有するニッケル基耐熱合金で、航空・原子力・化学プラントなどの高温・腐食環境で広く使われています。 

本記事では、この優れた特性を持つ材料であるインコネル®(およびその相当材)の特性、加工性、設計時の留意点について、わかりやすく解説します。 

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インコネルとは? 

インコネルは、ニッケルを基にクロムなどを加えたオーステナイト系のニッケル基超合金で、高温での高強度・高耐酸化性・耐クリープ性を有します。 

主成分のニッケル(50%以上)にクロムや鉄、モリブデンなどを添加することで、優れた耐熱・耐蝕性を発揮する合金です。またニッケルとクロムの含有率が高いため腐食性の環境下でも特性が安定しています。 

代表的なインコネル合金の種類 

代表的なインコネル合金は大きく600/625/718/X-750の4系統に分けられます。 

  • インコネル600は、約1090でも高い強度を保ち、クリープ変形や塩素ガス・強アルカリ環境下でも優れた耐食性を示します。 
  • インコネル625はモリブデン含有量が多く、海水や化学プラントなど塩化物が豊富な環境でもさらに高い耐食性を発揮します。 
  • インコネル718は析出硬化型で、時効処理後の引張強さが1240N/mm²を超えます。高温域はもちろん、極低温でも靭性を維持できる点が特徴です。 
  • インコネルX-750は析出硬化により高いばね性と耐酸化性を両立し、高温クリープ強度にも優れています。 

なお、日本産業規格(JIS)では商品名「インコネル」は用いず、NCF600 などの相当記号で規定されています。主な対応表を以下に示します。 

【主なインコネル/JIS(相当品)対比表】 

インコネル®
合金 
JIS相当
記号 
主なJIS規格  主な特徴 
インコネル®
600 
NCF600  JIS G 4902(板・帯)
JIS G 4901(棒) 
高温酸化・応力腐食割れに強い
汎用性が高い 
インコネル®
625 
NCF625  塩化物環境に強い
Mo添加で耐孔食性に優れる 
インコネル®
718 
NCF718  析出硬化型
高強度・耐疲労性に優れる
航空用途に最適 
インコネル®
X750 
NCF750  高温クリープ強度・耐酸化性に優れる
ばね材や原子炉構造材に使用 

 インコネルのメリット・デメリット 

メリット 

項目  説明 
耐熱性  1000℃超でも強度と酸化耐性を維持し、タービンや排気系での連続使用に対応 
高耐食性  酸・アルカリ・塩化物環境でも腐食に強く、化学プラント・海洋用途で高い信頼性あり 
高強度・耐クリープ性  常温〜高温域で高強度を保ち、クリープ変形にも強い 
低温特性  極低温環境(液体窒素温度など)でも靭性を維持し、低温用途での使用が可能 
非磁性  基本的に非磁性で、磁場環境でも磁化しにくい 

デメリット 

項目  説明 
難削性  熱伝導が低く高温強度が高いうえに加工硬化しやすいため、工具摩耗が激しく加工性に劣る 
高コスト  ニッケル等の希少金属を多く含み材料価格は高く、商標登録された特殊合金のため流通量の制約から調達コストが高い 
比重の大きさ  同体積での重量は、チタンの約2倍、アルミ合金の約3倍となり、軽量化の用途に不向き 
設備の制約・高度技術  高精度な設備・高度な技術が必要で、対応可能な加工業者が限定される 

インコネルの用途と活用事例 

インコネルは、優れた耐熱性と耐食性を備えており、幅広い産業分野で活用されています。以下に、代表的な用途や製品例を紹介します。 

分野  用途例  適用材料と製品例 
航空宇宙  ジェット・ロケットエンジン部品  718:ジェットエンジンディスク・ブレード 
発電・エネルギー  原子炉の蒸気発生器管、ガスタービン、ボイラー過熱器  600:PWR原子炉配管、熱交換器管 
化学プラント  化学処理設備の熱交換器、反応容器、廃液設備  625:原子力廃液処理装置や超臨界水処理装置 
自動車  エキゾーストマニホールドやターボチャージャー部品、耐熱ナット・ボルト類  718:高強度ホイールナット、排気バルブ 
海洋・プラント  海水淡水化装置の配管・バルブ  625:海水ポンプシャフト、海洋構造物 
電子・計測  高温計測機器のセンサー部品、発電タービン内部のスプリング  X750:耐熱スプリング 

このようにインコネルは、「高温・高圧・腐食」などの過酷な環境下で優れた性能を示し、航空機や化学プラントといった安全保障上重要な分野で幅広く使用されています。 

インコネルの加工種類と注意点 

インコネルは代表的な難削材であり、加工時には熱がこもりやすく加工硬化もしやすいなど、いくつかの課題が発生します。ここでは切削・溶接・3Dプリントの3つの加工方法について、主な課題と対策を解説します。 

切削加工(機械加工) 

インコネルを切削する際に最大の障害となるのは、熱伝導率の低さと加工硬化の起こりやすさです。切削熱が工具先端に集中しやすいため、切削速度は3050m/min程度に抑え、一刃当たり0.1mm前後のやや大きめの送りを与えると安定します。 

工具はTiAlNやAlCrN系のコーティング超硬工具が効果的で、ポジティブすくい角や強ねじれ角を持つ鋭利な形状を選ぶと切れ味が向上します。刃数は4枚刃以上の多刃・高剛性タイプが望ましく、びびりを抑えるために機械本体や治具の剛性も確保してください。 

さらに高圧クーラントや内部給油で発生熱と切りくずを排出し、極圧添加剤入りの切削油で潤滑性を高めると工具寿命を延ばせます。切り込みは浅めに設定し、無理な切削を避けることで表面荒れと硬化を防止できます。近年はセラミック工具やPCD工具による高速加工も試みられていますが、高度な加工ノウハウが不可欠です。形状によっては放電加工(EDM)や研削加工への工法変更も検討するとよいでしょう。 

溶接加工 

インコネルは優れた耐熱・耐食性能を持つ一方で、溶接割れや組織変化が起こりやすい難溶接材です。析出硬化型の718やX-750を溶接するときは、溶接熱で組織が脆化しやすいため、溶接後に時効処理や固溶化処理を行って強度と靭性を回復させる必要があります。 

熱影響部の組織変化を抑えるには、電子ビームやレーザーなど低入熱のプロセスが有効です。フィラー材は母材と同系列の合金を選び、異材を使用して腐食や強度低下を招かないよう注意します。抵抗溶接の場合、インコネルは電気抵抗が高いため厚板では大電流・高加圧が必要です。条件出しと事前検証を十分に行い、割れや欠陥を防止してください。 

3Dプリント(積層造形)加工 

金属3Dプリンター、とくにレーザーベースの粉末床溶融結合法(PBF)の発展により、インコネル718でも高精度造形が可能になりました。ただし留意点として、造形直後の硬度はHRC30程度と低いため、必ず時効硬化などの熱処理で所定硬度まで引き上げます。真空熱処理炉を保有しない加工会社もあるため、後処理体制を事前に確認しておくことが重要です。 

また、積層方向による機械的異方性が生じやすいため、造形姿勢やサポート配置を最適化し、必要に応じて全体熱処理で特性を均一化します。さらに、ねじ穴加工や表面仕上げなどの追加機械加工が前提となるため、設計段階から公差・面粗さを適切に設定し、コストと納期を見積もっておくとスムーズです。 

他材料との比較(ステンレス・チタン・鉛フリー材との違い) 

高温用途でインコネルと比較検討されることの多い材料として、耐熱ステンレス鋼(耐熱鋼)やチタン合金などがあります。それぞれ性質が大きく異なるため、設計段階での適材適所の判断が重要です。以下に主な相違点を示します。 

インコネルvsステンレス鋼 

インコネルは耐熱性・耐酸化性・耐食性に優れる高機能合金であり、ステンレス鋼とは性質や適用分野が大きく異なります。 

比較項目  インコネル  ステンレス鋼(SUS304/316) 
耐熱性  優れる(800〜1000℃、インコネル600は約1090℃)  実用上限は約650℃、それ以上は酸化被膜劣化・強度低下 
高温クリープ耐性  極めて高い  高温で強度低下 
耐酸化性  高温下でも安定  高温下で酸化被膜が劣化 
常温〜中温域強度  インコネル600: 

約550MPa(SUS304と同程度) 

SUS304: 

約520MPa(インコネルと同程度) 

耐食性  ・塩化物応力腐食割れ(SCC)に強 

・ハロゲンガス・高温水蒸気中でも耐久性あり 

不動態皮膜で良好だが、塩化物SCC・強酸に弱い 
コスト  高価  安価 
加工性  難削材  良好 

インコネルvsチタン合金 

インコネルとチタン合金は、いずれも高性能な金属材料ですが、比重・耐熱性・加工性・耐食性の性質が異なるため、用途によって適材適所の選定が求められます。 

比較項目  インコネル  チタン合金 

(Ti-6Al-4Vなど) 

比重・軽量性  約8.4、構造安定性に優れる  約4.5、比強度が高い 
耐熱性  800〜1000℃近くで使用可能  約600℃(それ以上で酸化・強度低下が進行) 
耐食性  塩酸や高温濃硫酸などの環境に強い(インコネル625など)  海水や多くの酸に強いが、フッ酸・高温濃硫酸に弱い 
加工性  難削材  熱伝導が低くびびり振動が起きやすいが、切削速度を上げやすい傾向にある 
用途  最高温度・耐ガス腐食を重視する用途  軽量化最優先・中温域での用途 

インコネルと鉛フリー快削材の違い 

鉛フリー快削材(環境規制対応で鉛を含まずに高い切削性(快削性)を実現した金属材料)とインコネルは、どちらも「鉛を含まない金属材料」ですが、使用目的・機能・加工性がまったく異なります。 

項目  インコネル  鉛フリー快削材
(快削鋼・快削黄銅など) 
分類  ニッケル合金  鉛無添加の鉄系または銅系快削材 
鉛含有の有無  鉛フリー(もともと含まない)  鉛を除去して環境規制対応 
用途目的  高温・高腐食環境下での使用  加工性重視の一般部品 
加工性  難削材  鉛除去でやや加工性低下あり 
環境規制対応  RoHS適合材料  RoHS規制対応のため 

主な材料比較と設計時の注意点 

材料特性の比較(インコネル600 / SUS404 / Ti-6Al-4V) 

インコネル600と他の代表的な材料(SUS404、Ti-6Al-4V)の物性・特性の比較表です。 

インコネルは、優れた耐熱性・耐食性を持つニッケル基合金です。設計時には、ステンレス鋼やチタン合金などの他材料と比較し、性能・コスト・加工性のバランスを踏まえた材料の選定が重要です。 

項目  単位  インコネル600  ステンレス鋼
SUS404 
チタン合金
Ti-6Al-4V 
密度  g/cm³  8.47  7.75  4.43 
融点    13541413  約1450  約1600〜1660 
耐熱温度    1093  800  600 
引張強さ (常温)  MPa  550760  約600  約1010 
引張強さ (650℃)  MPa  約500(推定)
※インコネル718の場合約800–900
(推定) 
約250〜300
(推定) 
約500
(推定) 
比強度  MPa/g/cm³  約83
(700MPa ÷ 8.47) 
約77
(600MPa ÷ 7.75) 
約228
(1010MPa ÷ 4.43) 
耐酸化性(高温)    ◎酸化雰囲気下で優れた安定性  △800℃以上で酸化皮膜が劣化  〇600℃程度まで安定 
耐食性(一般)    ◎酸・アルカリ・塩化物に強い  △塩化物環境に弱い  〇海水・酸に比較的強い 
加工性(切削)    △難削材  〇一般的な加工  〇難(要加工対策) 
溶接性    △難溶接材(後処理必要な場合あり)  ◎良好  〇やや難(専門性あり) 
材料コスト    ×高価
(ニッケル主体) 
〇汎用ステンレスよりやや高  △軽量高強度だが高価 

※上記は代表値です。合金種別や処理条件で数値は変動します。 

インコネル採用時、設計上の留意点 

インコネルの採用にあたっては、以下の設計上の留意点を事前に把握しておくことが重要です。 

  • 必要性の検討
    インコネルの性能が本当に必要なのかを十分に検討します。他の安価な材料で代替可能なら無理に使わないことを選びます。(コスト増・納期遅延要因となるため) 
  • 部品形状の簡素化
    インコネルは加工費が高いため、設計段階で形状をできるだけシンプルにします。複雑形状が避けられない場合は、3Dプリントや鍛造材の活用も検討します。 
  • 加工方法の最適化
    切削が難しい場合は、放電加工・研削・積層造形などの加工方法を検討します。また、公差や表面仕上げの要求を適正化し、加工負荷を軽減する工夫が重要です。 
  • 溶接・組立方法の見直し
    インコネル同士の溶接は避け、機械的接合(例:ボルト締結)を検討します。やむを得ず溶接が必要な場合は、溶接後の熱処理や異材接合の可否について、事前に専門家との調整を行います。 
  • 調達性と実績
    インコネルの入手性(規格サイズの有無、ロット要件)や加工業者の実績を確認します。国内では日立金属や日本冶金工業がインコネル相当材を製造していますが、特定の規格外サイズでは海外調達になる場合もあります。早めに材料・加工の手配を進め、納期に注意する必要があります。 
  • 加工図面への材料指示
    材料指示の誤解等を防止するため、『材料名+規格+処理条件+設計意図の補足』をセットで記載するなどを行う。
    例えば、材質:Inconel 718(UNS N07718)、規格:ASTM B637 / AMS 5662、熱処理:時効処理済(H900相当)、形状:鍛造材 φ50mm、注記:高温強度・耐酸化性重視。代替材不可。 
  • 材料種の確認
    インコネルは商標であるため、インコネル相当品を選定する際には、メーカーの材料情報を入手し確認の上、選定することが品質確保の上で重要となります。相当品の場合には、メーカーにより組成、特性など微妙に異なります。 

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まとめ 

インコネルは、「極限環境に応える高性能合金」です。使いこなすには材料特性への深い理解と、加工・設計の工夫が不可欠です。本記事が材料選定や設計の参考となり、インコネルの力を最大限に活かした製品開発につながれば幸いです。 

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