金属加工 ものづくり基礎知識

アルミダイカストとは|ADC材の選び方、鋳巣への対策方法

アルミダイカストは、溶かしたアルミニウム合金を金型へ高速・高圧で押し込み、複雑な形を一気に作る鋳造法です。エンジン部品からハードディスクのケースまで、量産される金属部品の多くがこの方法で作られています。

一方で、アルミダイカストは「ADC12を使えば安心」といった単純な話では済まない部分があります。とくに、JISが機械的性質を規定していない点は、発注時にもっとも見落とされやすいポイントです。

本記事では、工法の原理と型構造、ADC材の選び方、そして鋳巣への対策方法などを整理します。

ダイカスト金型

アルミダイカストとは

ダイカストは、金型に溶けた金属を高い圧力で流し込む鋳造法です。英語では die casting と表記し、日本語では「ダイカスト」「ダイキャスト」の両方の表記が使われます。どちらも同じものを指しますが、業界団体である日本ダイカスト協会やJIS規格の名称では「ダイカスト」が使われています。

アルミニウム合金を使うものがアルミダイカストです。軽くて熱を逃がしやすく、複雑な形を一体で作れるため、自動車部品、電子機器の筐体、放熱部品などに広く使われています。

鋳造との違い

鋳造という言葉は、砂型鋳造から精密鋳造まで幅広い工法を含みます。ダイカストはその中の一つで、次の点が特徴です。

項目 ダイカスト 砂型鋳造 重力鋳造(金型)
金属型を繰り返し使う 毎回壊す 金属型を繰り返し使う
注入 高速・高圧で圧入 重力で流す 重力で流す
寸法精度 高い 低い
薄肉化 得意 苦手
初期費用 高い 安い
向く数量 量産 少量・大物 中量

 

金型を使うことで精度と速度を、圧力をかけることで薄肉と複雑形状を得ているのがダイカストの工法的な特徴です。その代わり、金型費が先に発生します。

ダイカスト金型の主な部位

部位 役割 押さえておくこと
スリーブ・プランジャ 溶湯を押し込む射出部 アルミはコールドチャンバー式を使う
ランナー・ゲート 溶湯をキャビティへ導く通路 ゲート位置が湯の流れと鋳巣を左右する
キャビティ 製品の形をつくる空間 固定型と可動型にまたがる
オーバーフロー 最初に入る湯と空気を逃がす ここがないとガス巣が増える
押出しピン 固まった製品を型から突き出す ピン跡が製品表面に残る
パーティングライン 型の合わせ面 バリが出る位置。外観面には置かない

押出しピンの跡とパーティングラインのバリは、必ずどこかに出ます。外観が重要な面やシール面にこれらがかからないよう、設計段階で位置を金型メーカーと決めておくことが重要です。

ADC材の選び方

アルミダイカストの材質はJIS H 5302(アルミニウム合金ダイカスト)で規定されています。ADC1、ADC12のような記号がそれです。

規格には従来からのADC系に加え、ISO規格に対応した記号も規定されています。実務でよく使われるのは次の合金です。

記号 合金系 規格に記載された特色
ADC1 Al-Si系 耐食性、鋳造性がよい。耐力が幾分低い
ADC3 Al-Si-Mg系 衝撃値および耐力が高く、耐食性もADC1とほぼ同等。鋳造性はADC1より若干劣る
ADC5 Al-Mg系 耐食性が最もよく、伸び、衝撃値が高いが、鋳造性が悪い
ADC6 Al-Mg-Mn系 耐食性はADC5に次いでよく、鋳造性はADC5より若干よい
ADC10 Al-Si-Cu系 機械的性質、被削性、鋳造性がよい
ADC12 Al-Si-Cu系 機械的性質、被削性、鋳造性がよい
ADC14 Al-Si-Cu-Mg系 耐摩耗性がよく、湯流れ性がよく、耐力が高く、伸びが劣る

主なADC材と特色(JIS H 5302:2006 表1より)

ADC12

国内でもっとも多く使われているのがADC12です。機械的性質、被削性、鋳造性のバランスがよく、材料の流通量も多いため入手しやすく、コストも安定します。特別な要求がなければ、まずADC12を前提に検討するのが現実的です。

用途が絞られる場面では他の合金を選びます。海水環境など耐食性が最優先ならADC5やADC6、摺動して摩耗する部位ならADC14が候補です。ただし、いずれもADC12より鋳造性が劣るか、伸びが小さいという代償があります。

記号の末尾にZが付くADC10Z、ADC12Zもあります。それぞれADC10、ADC12より耐鋳造割れと耐食性が劣るとされています。北米調達では図面にADC12Zと指示されることがあります。

JISが規定していないもの

ここが発注時にもっとも見落とされる点です。JIS H 5302は化学成分(表2)を規定していますが、機械的性質は規定していません。規格の本文では次のように書かれています。

機械的性質は、受渡当事者間の協定による。(JIS H 5302:2006 5. 品質 d)

機械試験についても「受渡当事者間の協定による」とされています。つまり、「ADC12だから引張強さは○○MPa」と規格を根拠に言うことはできません。

なお、化学成分についても表2に規定のない元素まですべてが固定されているわけではありません。表2に記載のない成分は、こちらも「受渡当事者間の協定による」とされています(同5. 品質 c)。ADC12という記号だけで成分・性質のすべてが一意に決まるわけではない、という点は覚えておく必要があります。

技術資料やメーカーカタログで見かけるADC12の強度値は、あくまで参考値であり、出典によって数値が異なることもあります。極めて良好な条件で別に鋳込んだ試験片の値であることも多く、実際の製品から切り出した試験片が同じ値になる保証はありません。JISとISO規格の対比表(附属書2)でも、ISO規格側の指針値の位置づけについて注記があります。強度計算の根拠として数値を引用する場合は、規格票の原文で該当箇所を確認することをおすすめします。

実務上は、次のように進めます。

  • 強度が効く部品では、必要な機械的性質を図面または仕様書に明記する
  • どの位置から試験片を採るかを含めて、金型メーカーと合意しておく
  • 参考値をそのまま強度計算に使わない。安全率の置き方を設計側で決める

寸法公差はJIS B 0403

形状と寸法についても、規格は「ダイカストの寸法は図面による。寸法許容差は注文者の指定による」としています。特に指定がない場合には、JIS B 0403(鋳造品−寸法公差方式及び削り代方式)が適用されます。

JIS B 0403の鋳造公差等級はCT1からCT16の16段階です。等級の数字が小さいほど公差は厳しくなります。同じ図面のなかでも、肉厚に対しては他の部分より1等級大きい(=粗い)公差が適用される点に注意が必要です。

※ アルミダイカストに実際に適用する公差等級の範囲は、鋳造方法と生産条件によって変わります。図面に等級を指示する前に、加工先と相談しましょう。

鋳巣への対策方法

ダイカストの代表的な欠陥が鋳巣です。製品内部にできる空洞のことで、外からは見えません。機械加工して初めて表面に現れることも多く、その段階で発覚すると加工費まで無駄になります。

ガス巣

高速で溶湯を押し込むときに巻き込んだ空気や、離型剤から出たガスが原因です。丸い空洞が散らばる形で現れます。ゲートとオーバーフローの設計で減らせるほか、キャビティ内を減圧する真空ダイカストという方法もあります。

引け巣

凝固するときに体積が縮み、そこへ溶湯が補給されないとできる空洞です。不定形な形で、肉厚が厚い部分に集中して出ます。

引け巣は設計側で減らせる余地が大きい欠陥です。肉厚が急に変わる形状や、局所的に厚い部分が引け巣の温床になります。剛性が必要なら肉厚を増やすのではなくリブを立て、肉厚は薄く均一に保つのが基本です。

完全にはなくせない前提で設計する

鋳巣をゼロにすることは現実的ではありません。重要なのは、鋳巣が出ても困らない場所に追いやることです。耐圧が必要な部位、シール面、ねじを立てる部位に鋳巣がかからないよう、ゲート位置と肉厚配分を設計段階で決めておきます。

規格上も、ダイカストは埋め金や溶接で補修してはならないとされています。ただし、欠陥が小さく注文者が使用上差し支えないと認めた場合に限り補修でき、注文者の承認を得て漏れ止め処理を行うこともできます。含浸処理を前提にするなら、この承認を先に取っておく必要があります。

まとめ

アルミダイカストは、金型に溶けたアルミニウム合金を高速・高圧で押し込み、複雑な形状を一体で量産できる鋳造法です。軽量で放熱性が高く、自動車部品や電子機器の筐体など幅広い分野で使われています。

材質選定では、機械的性質・被削性・鋳造性のバランスがよいADC12がまず検討対象になりますが、耐食性が重要ならADC5・ADC6、耐摩耗性が重要ならADC14が候補になります。

設計・発注で見落としやすいのは、JIS H 5302が化学成分を規定していても、機械的性質までは規定していない点です。強度が効く部品では、必要な性質を図面や仕様書に明記し、参考値をそのまま強度計算に使わないことが重要です。寸法公差についても、指定がなければJIS B 0403のCT等級が適用されるため、精度が必要な部位は等級を個別に指示する必要があります。

鋳巣はゼロにできない前提で、ゲート位置や肉厚配分によって「出ても困らない場所」に追いやる設計が基本です。材質記号、機械的性質、公差等級、鋳巣を避けたい部位、パーティングラインや抜き勾配の指示は、発注前に図面へ落とし込んでおきましょう。