レーザー溶接の基礎知識とコツ

レーザー溶接はレーザーを活用した金属加工技術の一分野で、自動車や精密機器、電化製品、航空宇宙、医療など、さまざまな産業分野で活用されています。今回は数あるレーザー溶接の用途の中から、特に板金加工の分野で用いられるレーザー溶接について、基本的な事項をご紹介します。

レーザー溶接とは?(特徴)

まず「レーザー」とは、英語の「誘導放出による光の増幅」という意味の言葉の頭文字を取った造語です。

頭文字を取ってLASER

意味を考え始めると複雑に思われるかもしれませんが、要は「人工の光」と理解しておけば間違いはありません。私たちが日常的に目にしている太陽光や照明などの一般の光と比べて、人工の光であるレーザー光は「波長」「位相」「方向」が一定という特徴があります。「コヒーレンス性」と呼ばれるこれらの3要素を調整・利用することで、さまざまな加工に活用できるのがレーザーです。

レーザー溶接は、人工の光であるレーザー光を集光して対象物に照射し、金属を局所的に溶融・凝固させることで金属を接合する加工方法です。板金加工の分野でレーザー溶接を導入する場合、従来工法のアーク溶接よりも熱ひずみを抑えやすい、溶接条件を管理しやすい、溶接ビードが目立ちにくい、などのメリットがあります。

レーザー溶接の原理

レーザー溶接では、熱源となるレーザー光をレーザー発振器で発生させて増幅し、光ファイバーで伝送して、まずワークの近くまで光を届けます。この段階で必要なのがレーザー加工ヘッドです。レーザー加工ヘッドの内部にはレンズが組み込まれており、伝送されてきたレーザー光を、加工に適した状態に集光します。レンズを通して光を集光することで小さい面積に光のエネルギーを集中させることができ、金属をも溶かす高いパワーを得ることができます。溶融金属の酸化を防ぐため、アルゴンや窒素などのシールドガスを吹き付けながら溶接するのが一般的です。

レーザー溶接の原理

レーザー溶接の原理

レーザー溶接の種類

では、板金加工の手溶接に適したレーザー溶接の種類を見ていきましょう。1990年代から日本でいち早く普及が始まったのが、YAGレーザーを用いたハンド型レーザー溶接機です。以来、日本の板金業界では長らく「レーザー溶接機=YAGレーザー」と認識されてきましたが、2010年代半ばにファイバーレーザー溶接機が発売されてから、近年ではファイバーレーザーがハンド型レーザー溶接機の主流に置き換わりつつあります。他にディスクレーザーを活用したハンド溶接装置もあります。

ファイバーレーザ溶接機による手溶接

ファイバーレーザ溶接機による手溶接

  • YAGレーザー溶接
    YAGとはイットリウム・アルミニウム・ガーネット (Yttrium Aluminum Garnet)という結晶のことで、YAGレーザーではYAG結晶に向けて強い光を照射してレーザー光を生み出します。YAGレーザーは金属が吸収しやすい1064nmという波長を持つため、少ないエネルギーで金属を溶融させることができる点がレーザー溶接に適しています。一方で、レーザー光を生み出すためにはフラッシュランプを点滅させる必要があること、発熱が多いため発振器からトーチまでをチラーで冷却する必要があることなどから消費電力量が大きく、使った電力の割には加工に使えるエネルギーが小さいので溶込みも物足りないという一面もあります。冷却水やランプなど消耗品にかかるメンテナンスコストの負担が大きい点も、運用面のデメリットだといえます。
  • ファイバーレーザー溶接
    ファイバーレーザーは、生成した励起光の増幅と伝送にファイバーを用いるレーザーで、金属が吸収しやすい1070nmという波長を持ちます。数あるレーザーの中でも特にエネルギー密度が高く、ビームを集光しやすいという特徴があり、金属に対して深い溶込みを得られる点が大きなメリットです。YAGレーザーと比べて溶込みが深く、ランニングコストが安い、調整やメンテナンスの手間・コストがほとんどない、など利点が多くあり、近年普及が加速しています。高出力・高効率が特徴のファイバーレーザーではありますが、板金の手溶接では出力が高すぎると作業者に危険があるため、一般的には出力を1kW程度までに制限して製品化されています。より高い出力や溶込み深さを求める場合は、機械溶接やロボット溶接を検討することになります。
  • ディスクレーザー溶接
    ディスクレーザーは、生成した励起光を円盤状のYAG結晶で増幅させてからファイバーで伝送するレーザーです。ドイツのトルンプ社が高出力化と安定化に成功したことから工業用レーザーとして広く普及しており、近年その可能性が改めて見直され、新たな用途の開発も進められています。日本ではディスクレーザーで手溶接できる単体設備はありませんが、トルンプ社のレーザー切断機を保有しているユーザーであれば、手溶接用のトーチをオプションで導入することができます。

レーザー溶接のメリットとデメリット

板金加工で用いるレーザー溶接には、これまで広く使われてきたTIG溶接と比べて次のような特徴があります。

レーザー溶接とTIG溶接の断面イメージ

レーザー溶接とTIG溶接の断面イメージ

メリット

  • 薄板でも熱ひずみが少ない
    TIG溶接は溶込みが浅くて熱影響層が広いため、金属への入熱が多くなり、製品に大きな熱ひずみが発生します。発生した熱ひずみの処理は職人技によるところが大きく、ここがTIG溶接のいちばんの難しさといます。一方のレーザー溶接では、レーザー光を集光して小さな焦点に高いエネルギーを集めて金属を溶融させるため、溶込み幅が細く、熱影響層も小さいため熱ひずみが発生しにくくなります。さらにレーザー光のON/OFFを細かく繰り返す「パルス発振」では、溶融と凝固が1秒に数回~数十回も繰り返されるため、ひずみをより抑制することができます。
  • 溶接部の十分な強度を確保
    レーザー溶接では溶接ビードが細いため強度不足が心配されることもありますが、溶込みは深く入っているので、見た目とは裏腹に十分な強度を確保することができます。レーザー溶接で一旦溶融して凝固した合金部分は滅多なことでは破断することはなく、工業試験場で実施した強度試験でもTIG溶接を上回る強度を確認しています。

    ファイバーレーザー溶接の深溶込みの断面(写真提供:株式会社レーザックス)

    ファイバーレーザー溶接の深溶込みの断面(写真提供:株式会社レーザックス)

  • 仕上げの工数削減
    レーザー溶接は入熱が小さくひずみを発生させにくいことから、ひずみ取りの工数を大幅に削減することができます。また、レーザー溶接は母材溶接が基本になるため、肉盛り部分を研磨する工程を省くことも可能です。さらに加工条件が整えば溶接焼けもほとんど発生しないので、電解研磨の工程も削減できる可能性もあります。これまで苦労して対応してきた仕上げ工数を削減できれば、生産性向上と製造原価低減を推進できることでしょう。
  • 溶接条件を管理・再現しやすい
    レーザー溶接機には溶接条件をレシピ化して登録して後から呼び出しができる機種もあり、溶接条件を管理・再現しやすいことは大きなメリットといえます。この場合のポイントは、熟練者が条件出しを行うことで、それにより非熟練者でも熟練者の加工条件を再現しやすくなります。これにより薄板溶接を非熟練者でも担当できるようになれば、熟練者は付加価値の高い仕事に集中することができるので、溶接工程全体の生産性向上につながります。

デメリット

  • スキマに弱い
    レーザー溶接はφ0.1~φ0.6mm程度の非常に小さな焦点にレーザー光のパワーを集めて金属を溶融させるという性質上、スキマがあると溶接できないという弱点があります。スポット径がφ0.1mmの機種の場合、0.1mmのスキマがあるとレーザーは間を抜けてしまって溶接できないので、曲げ工程の精度向上や治具の整備などの対策が必要です。
  • 肉盛り溶接が苦手
    レーザー溶接は母材溶接を得意としており、肉盛り溶接は得意ではありません。溶接棒を溶融させたところでレーザーのパワーが尽きて母材まで届かない可能性があるほか、溶接点/溶接棒/焦点が全てピンポイントで同一線上に揃えるのが大変難しく、十分な強度を確保できなくなる可能性もあるためです。図面に肉盛り溶接の指示がある場合はレーザー溶接を採用すべきかどうかを検討する必要がありますし、逆に強度や美観を確保するためにレーザー溶接を希望する場合は肉盛り指示を入れない方が良いでしょう。
  • 安全対策が必要
    レーザーは使い方を誤ると重大な事故につながる可能性もあるため、全てのレーザー製品はJIS規格「レーザー製品の安全基準」で安全に関する規格が定められています。レーザーを用いた手溶接の装置は全て最も危険度が高い「クラス4」に分類されており、メーカーもさまざまな安全対策を施しています。レーザー管理区域を設定すること、レーザー溶接専用の溶接面/メガネを使用すること、安全装置付きのハンディトーチを使用すること、装置の鍵を適切に管理することなど、規格と取扱説明書に準じた正しい使用方法を心がけましょう。

    レーザー管理区域の例

    レーザー管理区域の例

レーザー溶接の加工事例

では、ここからはレーザー溶接の実際の加工事例を見ていきましょう。
(テスト機種:ハンドトーチ型ファイバーレーザ溶接機 OPTICEL FH-450)

まずはSUS304の板厚0.5mm、板厚1.0mmの突合せ溶接の加工事例を紹介します。レーザー溶接が得意とする薄板で、低ひずみ溶接を実現できています。溶接後にひずみ取りも焼け取りもしていない状態で、美しい仕上がりを実現できています。

SUS304 板厚0.5mm(写真左)と1.0mm(写真右)の突合せ溶接

SUS304 板厚0.5mm(写真左)と1.0mm(写真右)の突合せ溶接

続いて、SUS304 板厚1.0mmの板にパイプを溶接しました。パイプ下の奥に見えるのが溶接ビードで、溶接棒を入れずに母材溶接をしています。ビードが見やすいように板を傾けて撮影しましたが、SUS板側にひずみはほとんど発生していません。裏の溶接焼けもありませんでした。

SUS304にパイプを溶接

SUS304にパイプを溶接

最後に、SUS304 板厚1.2mmの箱物溶接のサンプルです。ワークを治具で保持して、レーザーで仮付け後、本溶接を実施。低ひずみで製品が完成し、仕上げの手間も省けました。

SUS304 箱物溶接

SUS304 箱物溶接

レーザー溶接のコツ

レーザー溶接は溶接強度と美観を両立可能で、薄板の低ひずみ溶接や条件管理の容易さなどメリットが多い接合方法ではありますが、一方でスキマに弱い、肉盛りが苦手などのデメリットもあります。レーザー溶接を上手に活用するコツとしては、以下のポイントを意識してみましょう。

  • 曲げ工程の精度向上や治具の整備を進め、スキマのない状態を作ってから溶接する
  • 熟練者が加工条件を求めてレシピ登録しておけば、非熟練者が加工を再現しやすい
  • TIG溶接などの従来工法を前提とした図面のまま、工法だけをレーザー溶接に変えるとうまくいきにくい。時には設計変更も視野に入れて検討すると良い
  • 強度、美観などレーザー溶接のメリットを最大限活かしたい場合は、設計段階からレーザー溶接を前提に設計するのがおすすめ

まとめ

レーザー溶接の最大のメリットは、薄板を低ひずみで溶接できる点です。しかも非熟練者も溶接できるようになるので、これまで職人さんの腕に頼ってきた溶接工程が劇的に改善する可能性もあります。デメリットを正しく知って適切に対処することができれば、残るはメリットのみ。レーザー溶接のメリットを最大限に活用しましょう。

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サンプル・写真協力:株式会社レーザックス

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この記事の著者

ものづくりライター
新開潤子

月刊誌の編集部員、フリーライターとして20代を過ごした後、結婚を機に機械装置メーカーに転職して10年半勤務。輸出入手続きや取扱説明書の翻訳、海外ユーザーの装置トラブル対応等の業務を通じてものづくりをゼロから学び、その後レーザー溶接機の営業担当に異動して、ライター経験を活かした営業と補助金申請支援で大きな実績を上げた。

201610月に独立しオフィス・キートスを設立。現在は製造業の営業強化や補助金対策で中小企業をサポートをしながら、「ものづくり×文系」のハイブリッドな視点からものづくりの難解な部分をわかりやすく紐解く活動を続けている。

 共編著に「ものづくり補助金 最強の採択メソッド 実践ワークブック」「中小製造業のための補助金獲得ハンドブック 2020」(いずれも日刊工業新聞社)。

・オフィス・キートス:https://office-kiitos.biz/

 

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