プロフェッショナル連載記事 中小企業経営から学ぶ生産性向上の秘訣 仕事の付加価値を上げよう!

小規模事業でも高い生産性が可能に(後編)-多様性の経済という経済観の軸を!

後編では、小規模である事の合理性や、メリット/デメリットについて具体的に確認していきます。中小企業がニッチ市場で強みを発揮する「多様性の経済」も、生産性向上のポイントになるはずです。

1ページ目‐小規模事業でも高い生産性が可能に(前編) – 付加価値を高めていく合理性

5.小規模である事の強みや弱みとは?

ここでは、小規模だからこそできることやその強みについて整理してみましょう。もちろん、これらの強みは弱みと表裏一体であることが多いと思いますので、両側面を書き出してみます。

(1)事業運営が柔軟で速い

規模が小さいほど、経営者の意思決定から実行までのスピードを速く、きめ細やかに行えます。時代に合わせて柔軟に事業を変化させていくことが可能です。

大企業では組織として仕事をしますので、経営者の意思決定から実行までに様々なステップや、伝達経路が発生します。もちろん、対象とする事業自体が大きいためこのようになるわけですが、経営者と実行者との間にタイムラグや伝達の不一致などが発生しがちです。

その分、多数の目で見てより確からしい手段へと変換され、致命的な失敗に繋がりにくいというメリットもあるかもしれません。

一方で、小規模事業者では、意思決定一つ間違えば、業績に大きく影響を与えてしまうことにもなりかねません。拙速な判断が、会社を傾かせることに直結しかねない危うさを孕んでしまいます。

とはいえ事業環境の変化が著しい昨今では、変化に対応できず停滞している方がリスクになりがちで、柔軟でスピーディな経営姿勢は強みとなりやすいですね。

(2)小さな成果で大きな成功を得やすい

大企業では、基本的にはある程度以上の規模の仕事しか取り扱えません。
例えば、1件100万円の単発の仕事は、なかなか大企業では引き受けられないのが現実です。組織として動く最低限の事業規模が必要となります。

特にメーカーでは、大企業は非常に大きな生産設備を抱えています。その償却費用も直接作業員の時間単価に上乗せされるため、製造部門の作業者が1時間働くとすると10,000円以上は付加価値を稼ぐ必要があります。

このように、1人あたりが稼がないといけない付加価値の水準も、大企業の方が大きいことになり、安請け合いできないわけです。

一方で、小規模事業者からすれば、1件100万円の単発案件でも非常にありがたい仕事になり得ます。労働生産性が5,000円/時間の企業であれば、労働者1人が稼ぐ付加価値の1月分以上の仕事に相当するためです。

このように、大企業でしかできない仕事と、中小零細企業でしかできない仕事は異なります。

小規模事業者からすれば、小さな仕事を細かく拾い集めて成果とすることもできますし、外部とも連携しつつ大きな仕事にチャレンジすることもできます。少しの成功でも、会社としては大きな成果となりやすいのが強みですね。

必ずしも大は小を兼ねるわけではないことは、実際に事業をした人であれば誰しもが実感するところではないでしょうか。

(3)個性を打ち出しやすい

私の観察する中で、飛躍している中小企業の多くは自社の得意なものに特化している企業が多いです。自社業務についてしっかりと棚卸しをしたうえで、自社の強みを認識し、それを明確に打ち出して存在感を発揮しています。何か特定の強みに尖れるというのも、小規模ならではではないでしょうか。

一方で、特化した分野で競合や代替品が出てきてしまい、その強みが失われてしまうと、即座に危機に陥ってしまいかねません。個性を出しやすい反面、不安定さも抱えていることになります。

大企業だと、誰もが納得するような無難な製品やサービスになったり、リスクを分散するために多角化したりなど、個性が失われがちです。

しかし、大企業にまで成長する過程で培ったノウハウや知名度、事業基盤がありますので、少しの失敗や変化では、会社が傾くことは考えにくく、企業としての安定性があります。

(4)優秀な人材を抜擢しやすい

小規模事業者では、優秀な人材がいれば重要なポジションに抜擢して、大きな権限を与えることで縦横無尽に活躍してもらうことができます。小規模であるほど、その貢献度合いは大きくなります。

国内では大企業ほど人員過剰感が強いこともあり、大企業で経験を積んだ専門性の高い人材を中小零細企業で活用する機会も増えているようです。また、無料や安価な人材採用サービスが増え、ホームページ等で気軽に自社の特色も打ち出せることから、新卒でも自社のニーズに合った人材を採用しやすい時代です。

働く側からしても、自分1人の活躍で会社全体に大きな影響力を及ぼせるのであれば、やりがいを感じるという人も多いのではないでしょうか。こういった人材はいわゆるベンチャー企業に集まりやすいかもしれませんが、伝統的な中小零細企業でも活躍の機会は多いように思います。

人数の少ない中小零細企業では、1人1人のアウトプットが企業業績に与える影響が大きいです。良くも悪くも属人的になりがちで、優秀な人材が突如退職してしまった場合などに、急激に生産性が低下する事態にもなりかねません。人材という面でも余力がなく、不安定になりがちであるところが弱みでもあると思います。

一方で、大企業は優秀な人材が集まりやすく、しかも組織として効率的に仕事を分担するため、多少の人員の出入りがあっても大勢に影響しません。

ただし、組織化によって分業が進んでいる分、1人あたりの担当範囲が狭く、事業全体を見渡せるような人材が育ちにくいのも確かだと思います。いわゆるセクショナリズムにも陥りがちで、部門間で反目し合ってしまうこともしばしばあるようです。また、その企業で必要なスキルや処世術は身に付けることができますが、それが一般的に通用するかどうかはわかりません。

(5)きめ細かい管理がしやすい

第1回で述べたような業務の棚卸しは、小規模であるほど取り組みやすいですね。自分たちの仕事がどれだけの付加価値や生産性があるのか、よりきめ細かく分析し、管理する事が可能です。

参考:第1回「あなたの「仕事の価値」は適正ですか?業務の棚卸と生産性

経営者と従業員、従業員間の報連相も、無料アプリケーションなどでタイムリーに行えます。クラウドでのデータ共有や配信も気軽に利用できますので、情報共有や業務管理なども手間なく安価に行えます。ただし、きめ細かい管理が行き過ぎて、過剰に干渉してしまうマイクロマネジメントに陥ってしまうと、かえって非効率になったり、従業員のモチベーションを低下させたりしかねないことには注意が必要です。

とはいえ、ITツールなどで気軽に業務管理ができるようになったのは、非常に大きなポイントだと思います。

昨今ではオンラインミーティングが一般的となっていますので、遠隔でも企業内、企業間のコミュニケーションを取りやすくなっています。特に、コミュニケーションに移動を伴わなくて済むというのは、人的リソースの限られている小規模事業者にとって大きなメリットだと思います。

小規模事業でネックとなるコミュニケーションコストを大幅に引き下げることができるようになりました。DXやIT化による生産性向上の恩恵も、小規模なほど大きいのではないでしょうか。

一方、大企業の場合は、工数管理という業務管理方法が採用されることが多いようです。予めどの従業員が、どの作業をどれだけの時間(工数)行うかが割り振られます。

業務量や管理項目を事前に把握しながら進捗管理するのには便利ですが、割り振られた仕事以外は業務外となるため、セクショナリズムに陥りやすく、柔軟性に欠けてしまいます。

(6)外部リソース活用の恩恵が大きい

近年では、会社の経理処理や採用活動などを受託する事業者も増えてきました。以前ではそのような間接業務を担う従業員を雇うのが負担だった小規模事業者でも、気軽に外部リソースとして活用できるようになっています。

このようなことは大企業でも進んでいるようですが、その恩恵の度合いは小規模事業者ほど大きいのではないでしょうか。

もちろんmeviy(メビー)など、モノづくりのプラットフォームサービスが台頭してきていることも大きいですね。自社にない工程で、このようなサービスを補完的に活用することが可能となっています。

また、小規模事業者同士が緩い連携をすることで、プロジェクトベースで仕事を回すような事例も増えてきています。

前回ご紹介した、中小製造業のクラスタハブ企業のように、営業と製造工程をそれぞれの企業が分担することで、顧客に多様性を供給することが可能です。お互いに自社の得意分野だけに集中することで、生産性を上げられる余地もあります。大きなプロジェクトをリスク分担しながら取り組むことも可能ですね。

各企業の独自性や特徴を生かしつつ、各社の共通機能だけを持ち株会社に集約するような連携の方法も取られ始めています。

(7)長期的な視点で事業運営しやすい

中小零細企業は、経営者が株主を兼ねるオーナー企業であるケースが多いです。オーナー企業は、目先の利益よりも長期的な事業の発展や継続性を重視した事業運営がしやすいメリットがあります。

従業員への教育も、将来付加価値を生むための投資として、長期的視点で捉えやすいと思います。

経営者の思い描いたようにコントロールしやすい反面、その事業の成否は経営者の舵取り次第となります。特に小規模事業者ほど事業承継の問題が生じやすいです。既に多くの小規模事業者が後継者不在で廃業を余儀なくされているのも事実です。経営についての経験や知識がないアトツギが突然経営者になり混乱するといった話もよく聞きます。

一方、大企業は株主の意向を反映した経営が必要となり、必ずしも経営者の思い通りとはいきません。その代わり、経営のプロや社内で様々な経験を積んだ生え抜きが役員になり、安定した事業運営が行われやすいという特徴もありそうです。

(8)利益よりも付加価値を追求しやすい

小規模なほど付加価値向上や生産性向上の余地が大きく、そのリターンも大きいはずです。

値付けが適正かどうか、生産工程の中でボトルネックはどこか、顧客とのコミュニケーションは十分か、仕入れ先との関係は良好か、投資により生産性が向上できる工程はないか、など様々な細かい要素を分析して、付加価値向上に取り組む余地があると思います。

逆に、経営者にその意思がないと、漫然と従来通りのやり方を踏襲しがちで、生産性が全く高まらず従業員の不満ばかり高まるような企業も多く見かけます。

大企業では利益を最大化して、株主への配当金を増やしたり、企業価値を高めたりすることが求められます。特に製造現場での改善活動ムダ取り活動も盛んです。製造現場の生産効率向上能力は極めて高いのではないでしょうか。

しかし、間接業務では超大人数での会議、大名行列のような取引先訪問、社内稟議を通すためのハンコリレー、社内提案の事前提案のための資料作成、上司が帰るまで部下がサービス残業をするなど、非効率な慣習が根強く残っているのも事実かと思います。

(9)気軽に顧客ターゲットを変えられる

小規模であることの最大のメリットは、気軽に事業領域や、顧客ターゲットなどを変えていけることではないでしょうか。

規模の経済が先鋭化するのに伴って、その隙間であるニッチ市場は広がっていきます。小規模事業者からすれば、どの領域のどの顧客をターゲットとするかの選択肢が無数に存在することになりますね。

昨今は製品やサービスに画一的な品質の安定性や安さよりも、ストーリーや独自性を求める消費者も増えているようです。

クラウドファンディングが一般化しつつありますが、このような活動が増えている背景にも、消費者のニーズの多様化が見て取れるのではないでしょうか。

また、近年製造業メーカーのあり方が変化しつつあります。従来のようにメーカーがマーケティングを行い、製品開発をして市場に製品として市場に供給するというアプローチだけでなく、例えばIT産業などの非製造業が自分たちのサービスや技術にハードウェアとして組み込む形で製品開発を行う事例が増えているようです。

製品を開発、販売・運用する主体が従来のメーカーだけでなく、様々な領域の事業者に拡がっています。

開発や製造工程でも、1つの組織で統合的に完結するのではなく、複数のプレーヤーが地域や国、組織を跨いで連携する事例も増えています。プロジェクトベースで気軽にチームアップしたり、分散的なネットワークの一員として参加したりするのは、小規模なほど都合が良いことが多いですね。

このような環境の変化がある中で、小規模なほど自社の特徴にあった顧客ターゲットを気軽に変えながらアプローチしやすいというメリットは計り知れません。

逆にターゲットに合わせて、自社サービスや製品を変更しやすいというのも、小規模ならではのメリットですね。大企業だと、ターゲットを絞るためにマーケティング活動を行い、製品開発やプロモーションに反映し、そのための資金や人員を莫大に投じていくことが必要になります。

以上のように、小規模であることはリスクやデメリットも伴いますが、現在はメリットも大きい事業形態であると思います。言い方を変えれば、敢えて小規模であることを選択肢にできる時代とも言えそうです。

そして、上記のようなことを踏まえるならば、小規模であることによって市場は広がり、その中で付加価値を高めていくことは、むしろ大きな成長の可能性を秘めているのではないかと思うのです。

6.多様性の経済という経済観の軸を!

小規模事業者として成長し続けることがもう一つの大きな選択肢になることで、社会にどのような変化がもたらされるでしょうか?

誰もが大規模化することをゴールにして、市場や製品カテゴリを限定し、そのシェアを奪い合う経済観だけだと、現在のような国内経済の停滞からはなかなか脱せないように思います。

「多様性の経済」とは

熾烈な競争に勝ち残るために、より安い労働力や仕入先、より大きな市場を求めると、必然的に国内ではなく海外進出が加速していきます。

日本企業ばかり流出する日本型グローバリズムが進んでいるのは、このような規模の経済一辺倒の経済観が支配的である証左とも言えないでしょうか。

確かに消費者からすれば、安定して安価な製品やサービスが増えることでメリットもあるかもしれません。しかし、規模の経済を追求する中でコストとみなされる人件費を抑制すれば、それを受け取る労働者は消費者でもありますので、消費者が困窮しより安いものを求めるというスパイラルから脱することはできません。

これまでご紹介してきた通り、日本では消費者でもある労働者の給与は増えず、国内の付加価値(GDP)も頭打ちです。成長する世界から見れば、日本だけ後れを取り続け、既に先進国での立ち位置を低下させてしまっています。

その隙間のニッチ市場で強みを持つ中小零細企業が、付加価値が高く多様な製品やサービスを展開することが増えれば社会に多様性が出て、労働者も消費者もより豊かになる余地が出てくるのではないでしょうか?

既に小規模ほど淘汰の進んだ製造業では、現在生き残っている企業は何かしらの強みを持っているのではないでしょうか。このような、特化した強みというのは、社会全体からすれば多様性の一部を担っているとも言えます。

ニッチ市場で規模の経済が働かないからその市場を切り捨てるのではなく、そのような市場が無数に広がるからこそ、多様で価値の高い豊かな製品やサービスを創造する余地が出てくるのだと思います。

このように、多様性があり小規模だからこそ成長できるという経済観を、「多様性の経済」として育んでいくことが必要だと考えます。成長とはその企業の生産性と給与水準が適正な規模で向上していくことで、必ずしも規模の拡大を伴う必要はありません。

「規模の経済」の特徴

表1に規模の経済を主体とした経済観と、多様性の経済を軸とした経済観をまとめてみました。

どちらが優れているとか、優先すべきといったものではありませんが、規模の経済一辺倒な経済観を改め、多様性の経済の経済観とバランスさせていくことが肝要と思います。

表1 規模の経済と多様性の経済

経済観 規模の経済 多様性の経済
価格 安価 適正価格
種類 画一的・限定的 多様
生産量 大量 少量~適正規模
事業領域 グローバル市場 ニッチ市場
主な生産者 大企業 中小零細企業
主な生産拠点 海外(特に新興国) 国内
主な販売先 海外 国内及び海外(輸出)
経営目的 利益・規模・シェアの拡大 付加価値の継続的増大
経営の時間軸 短期的 長期的
労働者 コスト 投資対象
主な分配先 株主 労働者→消費者
主な投資先 金融・海外 技術・人材

多様性の経済の経済観で事業を実践する事は、それほど難しいことではありません。事業領域がどちらに属するのかによって、頭を切り替えるポイントを示しているにすぎません。

大量生産前提の仕事をしていても、考え方を切り替えた上で小ロットの仕事をミックスさせていくことだってできます。逆に、そのような切り替えができず、付加価値の高い仕事を逃している事業者も多いのではないでしょうか。

実は身近な「多様性の経済」

身近な町工場の事業で、少し極端な例をご紹介しましょう。

金属プレス加工を請け負っている受託製造業のA社があったとします。主に自動車や弱電業界などの大企業の下請けとして、厳しい品質とコスト要求に応えながら事業を営んでいました。通常は1ロットあたり数千個生産し、1個あたり何銭の単位で鎬を削るような業界です。

ある時、ベンチャー企業B社から、小ロットの製品に使用する部品Cが1ロット100個で合計2,000個必要なため、見積もってほしいという依頼が来ました。

このような量産品の製造には、初期費用として金型製作費がかかりますし、生産のために機械の立ち上げなどの作業がロットごとにかかります。

例えば金型製作費用が50万円、ロットごとに発生する立上げ作業が5時間、材料費が1個あたり20円、加工と検査・梱包に要する時間が1個あたり1分、時間単価が3000円/時間だったとしましょう。

金型製作費用は、総生産数で割り掛けて償却するものと考えます。すると、この部品を製作するための1個あたりの費用は次のように計算されます。

  • 金型償却費用:50万円 ÷ 2,000個 = 250円
  • 立上げ工数費用:3000円/時間 x 5時間 ÷ 100個 = 150円
  • 加工費用:3000円/時間 x 1/60 = 50円
  • 材料費:20円

製品単価:250 + 150 + 50 + 20 = 470円

製品は1個あたり470円で、その中でも金型の償却費用やロットごとの立上げ工数費用の割合が大きくなります。

通常A社が請けている仕事では、このような案件は、1ロットあたり5,000個、トータル200,000個ほど製作します。

この場合は同様に計算すると、製品1個あたり金型償却費用2.5円、立上げ工数費用3円ほどです。

1個あたりの製品単価は、これに材料費と加工費用を足して75.5円となります。

このような単価で、日々競合他社と何銭の単位でコスト競争を繰り広げてきているわけです。このA社の社長Dさんは、通常の単価よりも明らかにコストが高くつくため、B社に受け入れられるわけがないと考え、この仕事を断ってしまいました。

実は顧客であるB社では、1個あたり470円は想定の範囲内で、むしろ安いと感じたかもしれません。600円程度でも喜んで発注した可能性もあります。Dさんは、普段から接している大量生産前提の規模の経済の価値観で、自らB社の仕事の可能性を絶ってしまったことになります。

この例のように、自分たちの経済観を切り替えることができず、小規模だけど付加価値の高い仕事を見逃している事業者が多いです。受託製造業だけでなく、メーカーについても同じことが言えるのではないでしょうか。

経済観の転換で高付加価値化へ

実は、このように多様性の経済に属する仕事は、中小製造業の淘汰が進んだ日本では、現在いたるところに存在するのです。少し頭を切り替えるだけで仕事が増えるばかりか、むしろ通常の仕事よりも高付加価値な仕事にもなり得ます。

大量生産品を一度受注すれば、経営は安定しますし、稼働率も高い水準をキープできます。営業も必要以上にする必要がありません。しかし、このような仕事は日本からなくなりつつあるのが現実です。

小さな仕事を拾い集めることは、営業サイドも現場サイドも大変です。逆に、事業の棚卸しをした上で、自社の強みを把握し営業体制を整え、それを打ち出していくことができれば、高付加価値な仕事の可能性が大きく広がっているとも言えますね。

無数に散らばる多様性の経済の市場の中で、自社の強みをマッチさせて高付加価値な仕事に繋げ、適正な企業規模で成長していく事が可能な時代になっているように思います。

7.まとめ

今回は企業規模と生産性について考えてみました。

<日本の製造業の企業規模に関する特徴>

(1)企業規模が小さいほど生産性や給与水準が低い

(2)企業規模の大きさに限らず、生産性や給与水準が停滞している

(3)既に小規模事業者が淘汰され多様性が失われている

(4)小規模事業者で働く労働者が多すぎるわけではない

(5)大企業の労働者も減少している

今後必要な変化としては、もちろん小規模事業者が規模を拡大し生産性や給与水準を向上させていくということも考えられます。

しかし、小規模なままでも、生産性を向上させることができる時代になってきています。

<小規模事業者のメリット>

(1)事業運営が柔軟で早い

(2)小さな成果で大きな成功を得やすい

(3)個性を出しやすい

(4)優秀な人材を抜擢しやすい

(5)きめ細かい管理がしやすい

(6)外部リソース活用の恩恵が大きい

(7)長期的な視点で事業運営しやすい

(8)利益よりも付加価値を追求しやすい

(9)気軽に顧客ターゲットを変えられる

様々なITツールが活用できることにより、小規模であることのメリットが生かせるようになってきました。また、規模の経済に属する事業だけでなく、多様性の経済という経済観を持つことで、新しい事業領域を見つけることも可能です。

むしろ、小規模であるほど、多様性の経済により生産性を向上させる余地が大きいと言えます。

第1回で業務の棚卸しについてご紹介しましたが、その際に事業や製品がどちらの経済観に属するビジネスなのか?も、一緒に棚卸しをすると良いのではないでしょうか。自ずと事業ごとの戦略が異なり、より明確に自社の強みを打ち出せると思います。

 

次回(最終回)は、中小企業の付加価値経営についてまとめるとともに、その実践例についてもご紹介していきたいと思います。

 

1ページ目‐小規模事業でも高い生産性が可能に(前編) – 付加価値を高めていく合理性