ポリカーボネートは透明性が高く、丈夫な樹脂材料として知られています。工業用途や一般用途で用いられることも多く、身近な樹脂の一つです。ここではポリカーボネートの特徴や用途、同じく透明樹脂として有名なアクリルとの違いなどについて解説していきます。
目次
ポリカーボネート(PC)とは?
ポリカーボネート(polycarbonate)とは、熱可塑性樹脂の一種で、高い透明性や耐衝撃性が特徴のエンジニアリングプラスチックです。省略してポリカともよばれ、材料記号ではPCと表記されます。有機ガラスともよばれ、カメラのレンズや、ヘッドランプのような光学用品のほか、パーテーションや水槽などのインテリア用品、防弾材料など、非常に幅広い用途に利用されています。
ポリカーボネート(PC)の特徴
優れた性質をもち、さまざまなシーンで使用されるポリカーボネートですが、メリットだけでなくデメリットも持っています。それぞれのポイントを解説します。
ポリカーボネート(PC)のメリット
- 透明性が高い
- 耐衝撃性が高い
- 耐候性が高い
- 吸水性が低い
- 加工性が高い
- 自己消火性が高い
透明性と耐衝撃性の両方が非常に高いのが、ポリカーボネートの大きな特徴です。透明性は樹脂の中でも上位に位置し、ガラスとほぼ同程度といわれています。さらに耐衝撃性も高く、他の透明樹脂の50倍、ガラスの200倍の耐衝撃性を持っています。この特性を活かし、水槽やパーテーションのような一般用途だけでなく、戦闘機の風防や防弾用の盾のような、特に耐衝撃性を求められる場面でも使用されます。樹脂は紫外線や湿度により劣化が進みますが、ポリカーボネートは耐候性も高く、他の樹脂に比べると劣化しにくいのも特徴です。また樹脂のなかにはナイロンのように水を吸って膨張しやすい素材もありますが、ポリカーボネートは吸水性が低く寸法変化が起こりにくいため、寸法精度が高いのもメリットです。また成型加工だけでなく、切削加工などにも対応できる加工性の高さも特徴です。更に燃えにくく、着火しても火が広がらない自己消火性に優れているため、電機機器の外装などにも向いています。
ポリカーボネート(PC)のデメリット
- 有機溶剤や界面活性剤に弱い
- 傷が付きやすい
- 価格が高め
非常に優れた性質を持っている一方、薬品に弱いというデメリットを持ちます。特に有機溶剤や界面活性剤などに対しては、応力がかかった状態でこのような薬品に触れたままにすると、割れや変形などを起こす応力腐食性をもっています。さらに硬度はあまり高くないため、摺れや引っかきにより傷がつきやすいのもデメリットです。傷がつくと、透明性も失われ、美観を損ねたり視認性を損ねたりしてしまうため注意が必要です。また、ポリカーボネートを切削加工すると、加工面は透明度が下がり、白く濁った表面になります。他の樹脂に比べると価格がやや高いので、たとえば洗濯ばさみのような、耐候性は必要なものの安価な製品にはあまり使用されません。
ポリカーボネートの設計時や使用時の注意点
ポリカーボネートを使用する際は、以下の点に注意が必要です。
化学薬品との接触
アセトンやトルエンなどの有機溶剤、界面活性剤など、特定の化学薬品に対する耐薬品性は高くありません。化学薬品と接触する可能性がある場合は、事前にポリカーボネートへの影響を確認してください。
また、パッキン類に含まれる可塑剤に触れると、クラックが生じる場合があるため注意が必要です。
傷が付きやすい
表面が傷つきやすいため、運搬時や取り付け時は保護フィルムを貼るといった対策が必要です。使用時も、硬いものとの接触や摩擦を避ける必要があります。
紫外線対策
耐候性は高いものの、長期の屋外使用では紫外線による劣化(耐衝撃性の低下、変色)が進みます。必要に応じてUV保護コートの追加を検討してください。
荷重・応力集中を防ぐ
ポリカーボネートはガラスに比べて耐衝撃性に優れ、大きな荷重を受けた場合、破壊することは少ないものの、大きくたわむ性質があります。板厚や寸法は破壊強度ではなく、たわみ量の許容範囲で設定します。
設計時は応力集中を防ぐため、鋭角を避けて適切なRを設けましょう。また、組み立て時に過度な応力がかからないよう、適切な締め付けトルクで固定します。
成形
溶融状態の粘度が高いため、成形時には適切な金型設計や成形条件の設定が求められます。成形条件や金型設計に無理がある場合、成形後の製品にひずみが残り、そこから変形や割れなどの不具合が生じることがあります。
ポリカーボネート(PC)のおもな用途
ポリカーボネートは、一般用途や工業用途を含め、非常に多くの場所で使われている身近な材料です。代表的なものをいくつか紹介します。
- レンズ
- DVD基盤
- 車のヘッドランプ
- スマートフォンのケース
- スマートフォンのボディ
- 高速道路の遮光板
- 看板
- 防弾素材
透明度が高く加工性に富み、寸法精度も高いため、カメラやメガネのレンズのような光学部品にも使われます。透明度が高く耐衝撃性も高いことから、DVDや車のヘッドランプなどに、光を通しつつ割れにくい素材として使用されます。光沢性が高く見た目が美しいので、スマホケースやスマートフォンのように、美観を求められる場面での使用も多いです。また、耐候性が高いことから、遮光板や看板などの屋外で使用する製品の材料にも適しています。さらに高い耐衝撃性から、防弾素材などの特殊用途で使用されるケースも多いです。
ポリカーボネートとアクリルの違い
ポリカーボネートと同じように透明性の高い樹脂としてアクリル(PMMA)が挙げられます。透明度はアクリルのほうがやや上ですが、ここではその他の違いを解説します。
耐衝撃性
ポリカーボネートのほうが耐衝撃性が高く、アクリルのおよそ50倍です。そのため、防弾素材のように、強い衝撃が予測される場所ではポリカーボネートが選ばれるケースが多いでしょう。
加工性
どちらも加工性の高い素材ですが、ポリカーボネートはアクリルに比べると曲げや接着が難しいというデメリットがあります。
難燃性
難燃性はポリカーボネートの方が高く、燃えにくい性質をもっています。高い自己消火性を備えていることに加え、連続耐熱温度も高いため、パーテーションなどにはアクリルよりもポリカーボネートのほうが向いています。
コスト
アクリルのほうがコストは低いです。ポリカーボネートはさまざまな優れた性質をもっている一方、比較的高価な樹脂材料です。そのため大量に使われる製品や、買い換え頻度が高い製品、高い耐衝撃性などを求めない製品などにおいては、アクリルなど他の素材を検討してみるのもいいでしょう。
ポリカーボネート | アクリル | |
---|---|---|
耐衝撃性 | ◎ | ○ |
加工性 | ○ | ◎ |
難燃性 | ◎ | △ |
コスト | △ | ◎ |
まとめ
ポリカーボネートは熱可塑性のエンジニアリングプラスチックの一種です。透明性が高く、耐衝撃性に優れるのが大きな特徴で、耐候性の高さや加工性の高さ、自己消火性、吸水性が低いことによる寸法精度の高さなどのメリットをもっています。一方で有機溶剤や界面活性剤に弱く、応力腐食性をもっているのがデメリットです。さらに傷がつきやすく、価格も比較的高めです。カメラのレンズやDVDの基板、車のヘッドランプや看板、防弾素材などに用いられます。よく似た素材としてアクリルが上げられますが、ポリカーボネートのほうが耐衝撃性や難燃性に勝る一方、加工性やコストにおいてはアクリルのほうが優れています。