ものづくり基礎知識 金属・樹脂の材料

透明樹脂の用途・種類・特徴を紹介 -ポリエチレンテレフタレート、アクリル、ポリカーボネート、塩ビ

透明樹脂には、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートやポリ塩化ビニルなどさまざまな種類があり、それぞれ違った特徴を持っています。

透明樹脂の用途・種類・特徴を紹介 -ポリエチレンテレフタレート、アクリル、ポリカーボネート、塩ビ

透明樹脂の特徴

透明樹脂は透明性樹脂ともよばれ、数多くある合成樹脂のうち、透明性を持つものを指します。ここでは透明樹脂の特徴や用途を解説していきます。

透明とは、光を反射や吸収せず、また内部で拡散せずに透過させること

まずは一番のポイントである「透明」について整理していきましょう。
私たちが生活している空間を照らす「光」にはさまざまな色が含まれています。全ての色がバランスよく含まれていると白い光に見え、含まれる色のバランスで、赤っぽい光や青っぽい光などが作られます。これらの光が物質に当たって反射してきた光により、私たちは目で風景を認識しています。
通常、物質に当たった光は一部が吸収されて、残りが反射されます。たとえば植物の葉が緑色に見えるのは、葉に当たった光のうち、緑色以外の色は吸収され、緑色の光のみが反射されているからです。どの色の光を吸収し、どの色を反射するかにより、物質の色が決まります。つまり全ての色の光を反射する物質は白く見え、全ての色の光を吸収する物質は黒く見えます。
また光を反射せず、拡散する物質もあります。たとえばすりガラスなどは、ガラスの表面に微細な凹凸が作られており、そこで光の向きがバラバラに拡散されてしまいます。そのため紙のような「白」とは異なる、濁った色に見えるのです。
透明とは、色が見えたり濁って見えたりしない物質をいいます。つまり光の反射や吸収がなく、物質の内部でも光が拡散せずに透過される物質になります。
工業用途の透明樹脂の場合、光の反射や吸収が少なく、内部で光が拡散しにくい分子構造や結晶構造になっています。

透明樹脂の特徴

透明樹脂は1930年代から工業用途で使用されるようになりました。ガラスより軽いため、航空機の風防に使われ、その後は機械部品のカバーや容器などでも使用が広がりました。
透明性はあるものの、当初は材料の密度の不均質さや寸法特性などの問題がありました。しかし近年では、成形性や耐衝撃性も向上し、メガネのレンズをはじめとした光学部品の分野でも透明樹脂の使用が広がっています。
透明樹脂は種類によってさまざまな性質がありますが、透明性が高い、軽くて衝撃に強い、ガラスに比べると成形性が高いなどの特徴があります。

透明樹脂の用途

透明樹脂は、水槽やペットボトルのような液体の容器のほか、機械のメーターのように中を見通したい部分のカバー、車のヘッドライトのカバーのような照明器具、メガネのような光学部品など、非常に多くの場所で使用されています。またCDやDVDのような情報機器にも使われています。

透明樹脂のメリットデメリット

上記のように、透明樹脂ならではの特徴や用途がありますが、良し悪しを整理すると下記のようになります。

メリット

  • 透明性が高い
  • 軽い
  • 耐衝撃性に優れる
  • 成形しやすい
  • 耐候性が高い

透明樹脂の透明度は種類によって異なりますが、基本的に高い透明度を持っています。特に高い透明度を持つアクリル樹脂は、ガラスよりも高い透明度を持つ場合もあります。また比重も、ガラスは約2.5であるのに対し、透明樹脂の比重は0.8~1.3程度と、非常に軽いのが特徴です。さらにガラスと比較して割れにくく成形しやすいのもメリットです。一方で耐候性についてはガラスの方が高いですが、透明樹脂は工業用途で使用される樹脂としては、劣化しにくいのが特徴です。

デメリット

  • 燃えやすい素材もある
  • 摩擦や引っかきに弱い
  • 耐熱性に劣る

特に性能が高いとされるアクリル樹脂は燃えやすいのが難点です。また多くの透明樹脂は摩擦や引っかきによって傷がつきやすく、透明性が失われる場合があります。またガラスに比べると耐熱性は大きく劣ります。

透明樹脂でよく使われる加工

透明樹脂は、その特徴を活かし色々な加工が施されます。下記が代表的なものです。

  • 射出成形
    透明樹脂の中でも熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂では、射出成形が行われます。基本的には汎用プラスチックやエンプラと同じですが、金型の摩耗速度が早めで、カジリやウェルドによって樹脂の透明性が失われる可能性があるため注意が必要です。
  • 切削加工
    透明樹脂は樹脂の中でも切削加工が多く行われます。光学部品のような精密部品や、射出成形では作りにくい横穴形状などは切削加工で行われるケースも多いです。また機械部品の透明モデルや可視化モデルなどを作る際も、透明樹脂を切削し、仕上げとして磨きを行います。
  • 磨き(研磨)
    透明樹脂の透明性を向上させるために、磨き加工が行われる場合もあります。樹脂レンズやツヤ感が求められるパーツなどは切削の後に磨きの工程が入るケースがあります。磨き加工はほかの樹脂ではあまり行われない加工ですので、透明樹脂ならではの加工といってもいいでしょう。

代表的な透明樹脂

透明樹脂の種類はたくさんありますが、工業的に特によく使用されている5種類の透明樹脂を紹介します。

  • アクリル樹脂(PMMA)
    アクリル樹脂は、透明樹脂の中でも特に透明性が高いのが特徴です。ガラスよりも高い透明度を誇ります。さらに耐久性や耐衝撃性にも優れ、航空機の風防や水族館の水槽など、透明性も強さも求められる場所に多く使われます。切削性にも優れ、機械部品の透明モデルの材料にもなります。曲げ加工や接着も可能です。一方で薬品や引っかきにはあまり強くありません。
  • ポリカーボネート(PC)
    ポリカーボネートは、透明樹脂の中でも特に高い耐衝撃性を持っています。透明性もアクリル樹脂に次いで高く、さらに熱や寒さに強いのも特徴です。自己消火性があるため、火にも強いです。警察などで使われる盾(シールド)のほか、メガネのレンズや光ファイバーなどにも使用されます。デメリットは、加熱して溶かした際の樹脂の流れがほかの樹脂より悪いため、金型の寿命が短くなったり、専用の設計が必要になったりする部分です。またアルカリに対して弱いため、洗剤を使用するとひび割れを起こす場合があります。
  • ポリエチレンテレフタレート(PET)
    ポリエチレンテレフタレートは、ペットボトルの材料としてよく知られている材料です。透明性はやや劣りますが、軽く、アクリル樹脂よりも高い耐衝撃性を持ちます。食品トレイや液体のボトル、機械のカバーやフィルムなどにも使われます。燃焼時に有毒ガスが発生しにくく、樹脂材料の中では環境にやさしい材料です。しかし熱にはあまり強くありません。
  • ポリ塩化ビニル(PVC)
    ポリ塩化ビニルは塩ビともよばれ、軟質と硬質の2つの素材があります。軟質のポリ塩化ビニルは、ソフビ(ソフトビニール)という通称でもよばれます。加工性に非常に優れており、汎用樹脂の一種として私たちの生活の中で非常に多く使われています。ほかの透明樹脂に比べ材料の価格も安く、コストダウンに適しています。一方、寒さや光に弱く、割れや変形などを起こします。また有機溶剤にも弱く、溶けてしまいます。
  • ポリスチレン(PS)
    ポリスチレンは発泡スチロールや食品トレイなどにも使用されますが、発泡剤を加えずに射出成形を行う場合もあります。射出成形で使われるポリスチレンには汎用ポリスチレン(GPPS)と耐衝撃ポリスチレン(HIPS)の2種類がありますが、このうち透明樹脂に該当するのは汎用ポリスチレンです。耐衝撃ポリスチレンは白色をしています。
    ポリスチレンは高い透明性を持ち、材料の価格が安く、非常に成形しやすいのが特徴です。CDケースなどの梱包材に使用されています。しかし耐衝撃性や強度はあまり高くなく、薬品にもあまり強くありません。

こちらの記事では、上記で紹介した透明樹脂の特徴を一覧で紹介しています。

透明樹脂の標準寸法

透明樹脂はペレットの状態で納入して射出成形を行う場合と、板材やブロック材、パイプ材として販売されている場合があります。そのため標準寸法はありません。各メーカーのカタログなどから確認してください。

ミスミmeviyでは、短手が10mm~1,000mm、長手が10mm~2,000mm、板厚が3mmと5mmの透明樹脂を取り扱っています。

まとめ

透明樹脂は、光を反射や吸収せず、また内部で拡散せずに透過させるプラスチックです。透明素材として知られるガラスよりもずっと軽いのが特徴で、多くの透明樹脂はガラスよりも高い耐衝撃性を持っています。航空機の風防や機械の窓のほか、光学部品や容器などに使用されます。
よく使われる透明樹脂は、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)の5種類です。アクリル樹脂やポリカーボネートは透明性も耐衝撃性も非常に優れています。ポリ塩化ビニルやポリスチレンはあまり高い強度は持っていませんが、価格が安く、加工性にも優れています。
JISなどで定められた強度や寸法はないため、各メーカーのカタログなどを確認しましょう。