前回は3D CADで組立図面を設計する時に使用する合致について、自由度という視点でお話しました。
今回は、「誰もが理解できる図面」という視点でお話を進めます。
さて、3D CADでも2D CADでも図面の目的は同じですJISにはこんな規定があります。
JIS Z 8310-2010 製図総則
④ 図面の目的 |
※参照元:JIS Z 8310-2010製図総則(日本産業規格)
1.設計の考え方を表す
「3Dモデルは誰でも形がわかるからいいだろう」と思われるかもしれませんが、その形の意味がどこにあるのかを示す必要があります。
- どんな手順で3D部品を考えたのか
- どんな手順で3D組立図を考えたのか
手描きや2D CADを使っていた頃、2D部品図からその図形から、「設計の考え方」の設計手順を知ることはできませんでした。
2D組立図もレイヤー(階層)構造により、サブアセンブリの構成などを知ることはできたものの、その図形からだけで、設計の考え方を知ることは簡単ではありませんでした。理由は、2D図面は2次元空間上に描かれた形だけで、他の情報をもっていなかったからです。
ちなみに、3D CADで設計された3D部品や、3D組立図の属性情報はデジタルな情報として持つことが技術的に可能になりました。その情報を見ることで、他の情報を読み取ることができるというわけです。
これまでの話を振り返り、「設計に考え方」のお話をしましょう。
カットする寸法を指示する場合
次の図に示すように、カットする寸法をスケッチとして表します。3D部品図化されたモデルはこのカットする部分の寸法(サイズ)が重要であることを意図しています。
この部品の測定を行う場合は、赤―赤、緑-緑、それぞれの距離を測定することになります。
カットした部分に別の部品が入ってくるような設計意図が理解できます。
カット後の形状を指示する場合
次の図のようにカットされて残された寸法をスケッチとして表した場合、残されたモデルの寸法が重要であることを意図しています。
この部品の測定を行う場合は、赤―赤、緑-緑、それぞれの距離を測定することになります。別の部品にこの部品を挿入するような設計意図が理解できます。
これら二つの方法の共通点としては、ベースフィーチャーも、カットのためのスケッチも、モデルの基準面として[スケッチ平面:正面]をスケッチ平面として選択してスケッチ作成していることにあります。これにより部品の基準が明らかになっているというわけで、これもまた設計意図を示しているわけです。
SOLIDWORKSではFeatureマネジメントツリーに、「どのような順番で3D部品図を設計したのか」という履歴を情報として持っています。データが大きいといわれる一方、これを見ることができることは「設計の考え方」を知る上でもとても有効です。これがヒストリー系CADの大きな特徴だといえます。
さらに、3D図面に示された設計意図は、3D CADで2D図面を設計する時に役立ちます。
図のように、3D CADから2D図面を設計する時に、フィーチャーを認識して寸法を自動的に記入することが可能です。3D部品を設計した際に、公差値を設定していれば、図のように2D図面に公差値が反映できます。まだまだ2D図面の利用も必要な現在、3D図面と2D図面の設計者が異なる場合など、このように設計意図を直接的に2D図面に反映できる機能は効果的です。
現状、meviyでは公差値を含む3D CAD情報をそのまま反映させることはできませんが、公差追加機能を使用すると、必要な寸法として公差とともに表示することができます。
※meviyにアップロードできるCADファイル形式・バージョン情報はこちら
このように、3D CADは三面図を頭の中で立体化しなくてよいばかりか、その考え方も示してくれます。さらには、meviyを使用すると、部品見積もり、部品番号発行、発注まで行うこともできます。明らかに2D設計時代の仕事の感覚とは異なり、仕事のやり方も変えることができそうです。
これこそ、製造業のDXです。
さて、一番初めにJISに規定されている図面の目的についてお話しましたが、ここまでの説明で、3D CADによって3D部品図を描くことで、「図面使用者に要求事項を、確実に伝達することにある。」ということが実現可能だということがイメージできるのではないでしょうか。
2.3D CAD標準化のすすめ
3D CADを使うことで、設計の考え方が見えるようになりますが、3D CADは同様の形状を設計する時に、様々な方法を使用することができるフレキシブル性の高いシステムです。多くの設計者が、それぞれがそれぞれの方法で3D部品図を設計してしまっては、設計の考え方がわかりにくいものになってしまいます。
では、どうやって3D CADを使用したらよいでしょうか。そのためには、3D部品図の設計の方法を標準化することが必要です。3D組立図についても、合致の考え方から「設計の考え方」を示してきています。
この標準化のポイントについてSOLIDWORKSを例にお話することにしましょう。
まとめると次のようになります。
3D CAD運用標準化のポイント
- 基準面の設定方法
- 3D組立図(アセンブリ)の基準
- 3D部品図の基準
- 3D部品(パーツ)
- スケッチの書き方
- スケッチの基準面
- スケッチ作成方法
- 3D部品設計時のフィーチャーの選択方法
フィーチャー=機能
- スケッチの書き方
- 3D組立図(アセンブリ)
- 合致の方法
- アセンブリ編集機能の標準化
これらのことは、実はこれまで全部お話してきている内容です。
※『3D CADを使って ものづくり は楽しく!』の記事一覧はこちら
ここからさらに、“どこから”3D組立図を設計し始めるのかというお話もしました。「ワークから描く」というお話をしていますね。運用当初から、ガチガチに定めてしまうと、「なんだか3D CADは使いにくいな」と設計者は感じてしまいます。これでは、3D CADの普及につながりません。しかし、何でも自由にしてしまえば、標準化できていないデータはあふれていきます。
SOLIDWORKSでは、パラメトリックな設計が可能です。まずは、最小のコンセプトとして標準化してはいかがでしょうか。これまで、この連載記事で紹介した「【#03】パラメトリックに3D CADを使ってみよう」の内容にどれを外しても、効果的な3D CAD運用にはつながりません。
これから3D CADを導入していこうとお考えの方や、お困りの方がいましたら、ぜひ参考にしてみてください。
標準化するためにも、効果的な3DCAD運用を行うためにも、「〇〇株式会社、○○事業部、○○設計部 3D CAD作業標準書 Ver0.0」を作成することをおすすめします。Ver0.0の運用を行い、不具合や足りない部分、CADのバージョンアップによりブラシアップや改訂されていくと、さらに良いです。
作業標準書が整うことで、作業標準書を準拠した3D CAD教育も充実していくことと、3D CADによる設計品質はより高まります。
そして、3D CADは単なる道具(ツール)ではなく、設計者のスキルとして定着することでしょう。
“標準書-教育―運用” のPDCAをうまく回していって、3D CADにより仕事のやり方を変えていきましょう。次回はさらに、3D CADの優れた機能についてお話をします。
3.ユーザーコミュニティー速報!
皆さんはル・マン24時間レースをご存知でしょうか。
フランス、ル・マンのサルト・サーキットで8月21日(土)16時にスタートし、翌22日(日)16時にフィニッシュをする世界耐久レースです。
このレースと同時刻スタート、フィニッシュでSOLIDWORKS USER GROUP NETWORKでは世界各国のユーザーによりリレー講演による第6回目となるSLUGME#6(SOLIDWORKS Largest User Group Meeting)がバーチャル形式で行われ、私も日本クルーとして参加、発表をさせていただきました。どんな話をしたのか、次回お話しします。
各国のユーザーからは、SOLIDWORKS運用方法その成果について発表がされました。
日本ではダッソーソリッドワークス社による年次カンファレンスが2021年11月16日から12月3日までバーチャル開催されます。こちらでも良いお話も聞けるので、ぜひ参加してみたらいかがでしょうか。私も登壇しています。
次回はこちらのレポートも行います。お楽しみに。
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