前回より、ノーコードによるデジタルトランスフォーメーション(DX)についてお話をしています。このノーコードによるDXですが、初めて聞く人もいます。情報格差([英]digital divide:デジタルディバイド)という言葉があるように情報技術(IT)には、これを使いこなせる人とそうでない人、積極的に情報を取りにいく人とそうではない人にはITリテラシーに格差が生じます。また都心部と地方では、ITインフラの充実具合に格差があります。
前回は、ノーコードとは何か、そしてDXへの効果について解説しました。
ノーコードによるDXとしてのポイントをおさらいします。
- プログラミングをせずに業務アプリを作って業務改革をするという考え方
- 企業規模や事業内容に合致した自分たちなりのDXが可能
- DXを進めるためにしっかりしたビジョンを持つこと
※参考:ノーコード開発で何ができる? – 企業サイズに合ったDX推進
今回は、ノーコードによるDXを「地方創生」という位置づけの中で進めているアステリア社に、その取り組みについて伺いました。
目次
1.DXによる地方創生
令和4年6月7日閣議決定「デジタル田園都市国家構想基本方針」を読んでみました。
この取り組み方針には、様々な分野におけるデジタル技術の実装を行い、多岐にわたる地方の社会課題をデジタルの力を活用して解決していくために「地方におけるデジタル基盤や、デジタル人材の確保の重要性」、「デジタル技術に馴染みが薄い高齢者や障害者などに対し、デジタル化の恩恵を享受できる取組」という考えが述べられています。
地方創生とは、首都圏一極集中の構造を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、地方を活性化することにより、日本全体の活力を上げることですが、この国家構想はまさにデジタルによる地方創生を目指したものだといえます。
アステリア社中山氏の前回のお話に続き、同社が取り組む地方創生について「なぜ、地方創生を目指すのか」を松浦氏に伺いました。
アステリア株式会社 中山 五輪男(なかやま いわお)氏 CXO(Chief Transformation Officer/最高変革責任者) 首席エバンジェリスト |
アステリア株式会社 松浦 真弓(まつうら まゆみ)氏 ノーコード変革推進室 副室長 兼エバンジェリスト |
アステリア社が目指すDXを活かした地方創生について、松浦氏は次のように話をしてくれました。
都市部と地域の格差が見られるITに関わる情報提供、データやツールの活用を促進し、人の輪を作りたい。
人口減少、少子高齢化など社会課題は全国共通。働き方の多様化による人材の流動でより地方の注目度が上がっていく中で、各地域の魅力を伸ばすお手伝いをして、全国に伝えたい。CSR、SDGs的な観点。
個人的には私が出会う各地域の人たちが魅力的だから、何かお役に立つことをしたいという気持ちです。
CSRとは、「Corporate Social Responsibility」の略。企業が社会に対して持つべき責任のこと。
SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略。持続可能な開発目標のこと。
私も同感です。
働く場所という概念が変わり人材の流動が起こり、デジタル技術の普及によって、地方が活性化するためには、どうしても地方だけでは思うように進みません。私も積極的に情報を求めているものの、首都圏に比べ情報量が少ないことは実感しています。
DXの技術、先進企業の取り組みといった情報には興味津々です。
中山様や松浦様のようなエバンジェリスト([英]evangelist:伝道者)が、地方で技術的な話題を解説していただくことだけでも、地方にとっては貴重な経験となります。これをCSR(企業の社会的責任)としての取り組みという言葉には感動します。
SDGsとしては、17項目の多くの目標に合致すると思いますが、「9.産業と技術革新の基盤をつくる」「10.人や国の不平等をなくす」はまさにぴったりです。「だれも置き去りにすることなく、持続的成長する」というのも、DXの本質にあるものと改めて感じました。
私の住む地域、働く地域にも地方創生の取り組みが始まり、私もまたこれを推進する一員として努めたいと思いました。
2.ワーケーションによる地方創生の加速
アステリア社では、ワークショップ([英]workshop:体験型講座)を地方で展開されています。
私も、ワークショップというイベントにはこれまでも参加した経験がありますが、一方通行の講座ではなく、参加者自身が自発的の発言や作業ができるこの環境はとても良い経験になり、自身の成長につながります。
普段の働く環境とは違う場所で、またそれまで知らなかった人と意見交換をすることで、これまでとは異なる考えを生み出すことができそうで、楽しそうです。
地域課題を考えるワークショップの目的
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普段とは異なる環境の中で、企業がワークショップを地方・地域の人たちと行うことは、その地元で活用するアプリのアイデアの創出と、プライベートの旅行では経験できない地域の人とのつながりを生みます。
これこそ地方創生の始まりです。
その一例ですが、実際、アステリア社では、2021年度に観光庁の「新たな旅のスタイル促進事業」を活用し、熊本県の人吉・球磨地域で2回のワーケーションを実施しました。そして、2022年7月に実施した第3回目のワーケーションのタイミングで、水上村の地域再生計画である「新たな人の流れを作る事業」に賛同し、企業版ふるさと納税を実施したそうです。ワーケーションをきっかけに生まれた地域と企業の関係、これが地域創生の新しい形のひとつとなりました。
さらに、ワークショップのディスカッションから生まれた水上村の自然体験アプリのアイデアは、2022年7月のワーケーションで、実際にアプリを作成し、現地を訪れたアステリア社の社員が地元の事業者の方々と協力した実証実験が行われています。
アステリア社側としては、アステリア社の得意とするアプリやIT技術がどのようにその地域に役に立つのかを社員一人ひとりが自分ごととして考え、地域と企業が共生するビジネスという観点で、水上村との関係づくりに活かそうとしています。
そして地域側からは、「水上村のワーケーション」のテーマが提示され、さまざまなアイデアや提案、意見が出されたそうです。
そのアイデアの一つとして、現場の課題を解決するノーコードでアプリが開発されました。
3.ノーコードアプリ開発で解決できる現場の課題
まず、なぜノーコードなのか考えてみましょう。
従来のシステムは、必要としている人と開発者が別々に存在していました。ノーコードアプリは、専門知識がなくても作ることが可能で、すぐ作ることができます。作ったアプリをすぐ試すことができるので、デバック作業を開発者に依頼することも必要ありません。
このことは、一番問題を理解して、どんなものが欲しいかを理解している本人が、専門家に依頼することもなくタイムリーに作ることができるといえます。
ここから、ノーコード開発なら「ないものを作る」イノベーションを現場ですばやく実現できるという考え方が生まれます。
ノーコード活用で得られる視点
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今回お話を聞いたノーコードでアプリを作成する製品は、「Platio(プラティオ)」です。製造業に限らず、業務を見渡してみた時、いろいろな業務に適用できそうです。
「Platio」の得意とする用途
- 業務報告
- チェック・管理
- 情報収集
ノーコードでアプリ開発できる作業の例
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ノーコードアプリとして重要なのが、これらのデータ入力の簡便性と入力結果の可視化です。エクセル集計をするような場合、手作業で入力ことが多いのですが、複数人でこの入力すると、入力ミスや入力形式が異なるなどの問題が起こることや、メールやチャットから情報を見つけるのに要する時間や、集計結果、グラフ化など、リアルタイム性に欠けることもあり、情報の正確さと速さにおいて課題があります。
今回紹介したアステリア社のノーコードアプリ開発を行うPlatioという製品は、①業務報告 ②チェック・点検 ③情報収集情報 を得意としています。情報の正確さや速さ、見やすさから、その効果があるだけではなく、正確かつタイムリーに可視化された情報によって、次の行動と判断に結びつけることができそうだという点に優位性を感じます。
このノーコードにより開発されたアプリによって仕事のやり方は変わり、その効果が得られることは、今求められているDXです。
4.まとめ
前回から2回にわたり、ノーコードによるDXについて説明を受けました。
中山様からはノーコードDXの全体像を、松浦様からは地方創生についてお話を聞く中で、これから取り組むべきDXの一部はもっと軽快にできそうだという印象を受けました。
- データを集めることを目的にせず、正しい情報を早く収集して、正しく次のアクションに移す
- ノーコードDXにより仕事のやり方を変えることで、DXはその先への相乗効果を生む
まずは、この仕組みを知ることから始まり、DXという全体像を俯瞰する中で、自分ごととして何ができそうなのか?を、考えることの必要性を強く感じました。
さて、次回ですが、地方の教育機関にて実施されたVR(Virtual Reality)講習会を通して私が感じたことをお話します。