前回はゼネラルセッションから見る3D CADソリューションの未来像について話しました。
3D CADソリューションはクラウドとプラットフォームにより繋がり、情報の共有が始まっています。
今回参加したテクニカルセッションをはじめ、ワールドワイドのソリッドワークスユーザー会(SWUGN※)セッションなどでも、3年前の3DEXPERIENCE WORLD 2021ではクラウドに批判的だったとも思われた北米ユーザーが、クラウドとプラットフォームを受け入れ、その運用が始まり、広がりを見せることを感じました。
※SOLIDWORKS USER GROUP NETWORK
新しいものを受け入れるという北米を中心とした海外ユーザーの特徴なのでしょう。
今回の3DEXPERIENCE WORLD 2023では、Day2で新たに「ドメインセッション」が設けられました。
このドメインセッションでは、設計・解析・製造の3つのパートごとに、「3DEXPERIENCE Worksポートフォリオ」の活用事例が紹介されました。そしてこの活用事例のテーマがプラットフォームになります。
レポート第3弾では、このDay2ドメインセッションの中から、設計と解析の活用事例について話します。
目次
設計領域-The Future of Design:設計の未来
SOLIDWORS社CEO(最高経営責任者) 兼 R&D担当バイスプレジデントのManish Kumar(マニッシュ・クマー)氏が進行役になって、セッショが開始されました。
私は様々な場所で、マニッシュ氏の多くの話を聞いています。
Day3後に開催されたUser Advocacyパーティーでもほんの少しだけ話をさせていただきましたが、SOLIDWORKSへの情熱を持つ人物だと感じています。
さて、SOLIDWORKS、3DEXPERIENCE Worksポートフォリオの活用によって、設計業務の変革とイノベーションが創出されていくのでしょうか。
命を救う3D CAD設計ソリューション
医療機器メーカーBoston Scientific社 シニア R&D マネージャーのMatt Shedlov(マット・シェドロフ)氏が登壇し、Boston Scientificが開発した心臓再同期療法(CRT-D)用除細動器「VIGILANT X4 CRT-D」が、多くの人命を救っていることを紹介しました。
同社は会社の設立当初からSOLIDWORKSユーザーとのことですが、PDM(Product Data Management:製品データ管理)システムを運用することで、設計情報管理をグローバルに行っていることが紹介されました。
それは、グローバルに共有されている。
ということです。
建物・建築設計と製造の自動化
House of Designの共同創設者 Ryan Okelberry(ライアン・オケルベリー)氏が登壇しました。同社は、モジュラーハウス向けの建築資材製造の自動化を行う企業です。
SOLIDWORKSで機械設計、電気設計を行い、構造解析を利用した自動化設備の改善や最適化を行い、更にはシステム全体をバーチャルツインで再現することで、検証を行っています。
私自身もメカと制御との連携(エレ-メカ連携)を立ち上げた経験がありますが、講演内容から「すごい」と感じながらも、日本でこの仕組みと運用の普及を考えた時、危機感さえ感じるものでした。
ということです。
2Dと3Dの共存環境を構築
製品などの梱包製品と、これらに関連する機器やシステム、サービスなどのパッケージングソリューションを提供するSEALED AIR社のシニアCADマネージャーであるBrandon Foster(ブランドン・フォスター)氏が登壇しました。
あの、「プチプチ」は皆さんご存じでしょう。同社では、システム構想図の作成に2D CAD「DraftSight」を使用しています。
3D CADでも構想設計はできますが、これまでの経験で構想設計にモジュール的なレイアウト図があり、この編集によって顧客提案の迅速化を実現しています。詳細設計では”もちろん”3D CADを運用していて、2Dと3Dの共存環境が構築されています。
ということです。
3D CADプラットフォームで作業の効率化を実現
Storyteller Overland社のエンジニアリングディレクターを務めるMichael Austell(マイケル・オーステル)氏が登壇しました。
同社は、3DEXPERIENCEプラットフォームを活用して、デザイナー、設計者、外部サプライヤーとのコラボレーションによる効率的な開発と、生産部門や経営層も3DEXPERIENCEプラットフォームによって3D CADデータを見ることができるようになることで、生産や経営の判断が可能になっているとのことでした。
まさに、
ということです。
ぜひとも日本の経営層、特に中小企業の経営層の方々に、この優位性を感じてほしいと思います。
コスト削減とイノベーションを創出する3D設計ソリューション
X CUSTUM ENGINEERING GMBH社CEOのFlorian Fischer(フロリアン・フィッシャー)氏が登壇しました。
同社はCAD、CAM、CAEおよびPDMの連携によってコスト削減とイノベーション創出を可能にするモノづくりを行っているとのこと。
とても印象的だったのは画像にあるように仕事をする場所の制約から解放するということでした。会社以外でも、どこでも仕事をすることができるということです。
また、ハードウェアやツールといった制約から解放することを目的とし、Webブラウザベースの3D設計ソリューション「SOLIDWORKS Cloud」を導入しています。
確かに、「ひらめき」はいつ出るかはわかりません。
私も解放されている時、ふと思いつくことがあります。エンジニアの皆さんはこんな経験があるのではないでしょうか。
ということです。
解析領域-Simulation Without Limits:進化し続ける解析技術
SIMULIA ROLES Portfolio Director Delphine Genouvrier(デルフィン・ジュヌブリエール)氏とSOLIDWORKS ROLES Portfolio DirectorのStephen Endersby(ステファン・エンダースビーデルフィン・ジュヌブリエール)氏が登壇しました。
開発設計プロセスにCAE(シミュレーション)を追加することは、これまで日本でもその必要性が言われ続けています。勘や経験だけ設計を行うのではなく、根拠や証拠に基づいた設計への転換が求められているからです。解析領域のテーマになったSimulation Without Limitsは、これまでの解析の限界を超えていくものと私は解釈しています。
Simulation Based Design という言葉を聞いたこともあることでしょう。
「解析によって検証された設計」といえば良いでしょうか。
CAEが使われ始めた頃、CAEは学術研究者や、専任解析者のものでした。
それが設計者CAEと言われ、開発設計者が使用できるものになったものの、より高度な解析や、トポロジー(Topology)や非線形解析は、設計者CAE向けのシステムでは必ずしも対応できるものではありませんでしたが、高度な解析でさえも、設計者CAEの中で実現可能になっていることが、このセッションの中で示されていきました。
このセッションでは、MODISM(MODELING & SIMULATION)という語句が使われていました。
これもまたクラウド環境化において実現される3DEXPERIENCEといわれるプラットフォームの中で、核となるものです。プラットフォーム上で繋がった設計と様々な解析をどう結び付けて最適化された設計を行っていくのかがこのセッションでは話されていました。
結び付けられるのは単にツールやデータだけではありません。人を結びつけることが可能です。
図のような電動アシスト自転車でも、メカ系の強度解析や衝突解析、疲労解析や、バッテリー周りからはする熱伝導解析と応力連成解析(マルチフィジックス)、電気的な磁場解析、製造検証での樹脂流動解析など必要とされる検証は様々です。
衝突解析 | 樹脂流動解析 | 疲労解析 |
ひとりの解析者でこれらが行われているだけではないでしょう。
チームとしてプラットフォーム上に参加するそれぞれの解析者が情報をリアルタイムで共有するクラウドベースの環境というものが3DEXPERIENCEだと私は考えます。
今回のまとめ
開発設計環境では、3D CADとCAEを使用します。これらの可視化技術の使用は拡大されながら、データ共有と技術によって、ソリューションだけではなく人と人とのコラボレーションが行われるようになりました。
これにより開発設計環境は、個人で行うのではなく、チームとして効率的に、また効果を産むものへの変化が始まっています。単にソリューションだけを考えるのではなく、「仕事のやり方」を変えていくプラットフォームというものを感じたドメインセッションとなりました。
まだまだ話したいことはたくさんあります。
次回はドメインセッションの製造について、教育、コミュニティーの話などお話します。