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開発設計製造×AI-ものづくりの現状とAIによる開発設計製造の変化

前回は、富士通株式会社のシニアエバンジェリスト 松本国一氏のお話から、AIのこれまでの変化について話ました。
今回は、AIによって「開発設計製造はどう変化するのか」について話を続けます。

開発設計製造×AI-ものづくりの現状とAIによる開発設計製造の変化_TOP画像

日本流のものづくりと、海外に見るものづくり

スタートアップ企業について皆さんはご存じでしょうか? スタートアップ企業とは、革新的なビジネスモデルによって社会にイノベーションをもたらす企業のことを指します。イノベーションは、単なる技術の発明ではなく、新しいアイデアから社会的に価値のある変革を生み出すことを意味します。これまでにない新しい技術やアイデアを通じて社会を変えることがスタートアップ企業の特徴であり、その速さも注目すべき点です。

スタートアップ企業はイノベーションを起こし、急成長する企業の代表例です。スタートアップとベンチャーはしばしば混同されますが、異なる概念です。スタートアップ企業はスモールビジネスの特徴を持ち、大企業ができない軽快さで新規事業を立ち上げ、成長段階にある企業を指します。

日本でも多くのスタートアップ企業が台頭しており、世界的に見ても活発な活動が行われています。ただし、北米や中国と比べてその規模やアプローチは異なることが多いと感じています。

今回、松本氏から中国の状況をお聞きしました。

日本の平均年齢は48歳です。まもなく50歳に到達します。
一方、海外では、インド:28歳、アメリカ:38歳、中国:38歳、ベトナム:32歳といったように世界は若いといえます。この若い世代の人たちは”デジタルネイティブ”といわれる人たちで、デジタルを駆使して、「便利な世界」を実現するために会社を作っています。
日本ではDXの重要性がいわれていますが、海外ではDXという言葉を聞くことは多くありません。
これはこのデジタルネイティブといわれる人たちが「デジタルを駆使することが当たり前」だからなのです。このような人たちが、スタートアップ企業を企業しているわけです。
中国でのスタートアップ企業の寿命は3年です。3年で成功しなければ、起業家は次の事業を始めます。

私も、これを実感しています。2月に渡米した際も、DXという言葉を聞くこともなく、3D CAD、CAE、PDM、プラットフォーム、3D プリンタ、CAMなどの「デジタルを駆使したものづくり」をただただ体感するばかりでした。

米国では、スタートアップ企業は、その事業が成功すると事業を売却し、資金を手に入れた起業家はその資金によって新しい事業を開始しています。ここにはスピード感があります。
そのスピード感には日本のように「橋をたたいて渡る」という考え方とは異なる「まずはやってみる」という考えの違いがありそうです。

特に中国ではスタートアップ企業ばかりか、街や公共交通機関、移動手段など、日本との法規制などの違いはあるものの、目まぐるしい発展の姿には、圧倒されるものを松本氏からのお話から感じました。

事務局説明資料3(スタートアップについて)_出典 経済産業省 第4回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会

事務局説明資料3(スタートアップについて)

出典 経済産業省 第4回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会

日本のスタートアップが置かれている状況

  • 日本もユニコーン(企業価格10億ドル超の非上場企業)を創出しているが、そのスピードは米国のみならず中国やインドにも及ばず、世界との差が開いている状況。
  • 米国等では、デカコーン(100億ドル超)へクローン(1,000奥ドル超)と呼ばれる企業価値の大きい目がスタートアップも存在しており、数に加え、大きさでも世界と差が生じている。

G(Google)A(Amazon)F(現Meta)A(Apple)M(Microsoft)はアメリカの成長を牽引しつつ、上図のようにスタートアップ企業は成長のドライバーとなっており、将来の雇用・所得・財政を支える担い手になっています。アメリカだけではなく、インド・中国とのスタートアップの格差は広がるばかりです。

次の画像は個人の資金によって、中国の電気街に行けば何でも入手できる部材によりボックス型のVRスペースを製作し、街中に設置しています。

街中のVR スペース 出典:松本国一氏

街中のVR スペース

出典:松本国一氏

開発者(画像左端)は利用者から感想を聞き、製品にフィードバックし、性能や顧客満足度を上げていくことで、製品の完成度を高めていきます。イノベーションはこの例のように、VRとボックスというように、これまで組み合わせたことのない要素を、街中に置くというようなアイデアという新結合によってもたらされます。

めざましい発展を遂げる中国深圳_出典:松本国一氏

めざましい発展を遂げる中国深圳

出典:松本国一氏

もしかしたら、日本ではデジタルネイティブ世代よりも前の人たちが、デジタルネイティブの自由な発想からのイノベーションを阻害しているのではないでしょうか。

デジタルネイティブ (digital native)
Windowsの登場となる1985年、インターネットが一般にも普及したのが1995年、それ以降、学生時代からパソコンやインターネットのある生活環境の中で育ってきた人たちのことをいいます。いわば、パソコンやインターネットは当たり前に使いこなせる世代の人たちです。

AIによるものづくりの転換

デジタルネイティブによって、ビジネスのあり方は転換期を迎えています。
様々な話題を提供している中国発のファッションブランドSHEIN(シーイン)を例に松本氏からお話がありました。

SHEINはファストファッションビジネスをアプリ上で確立しています。
SNS上でのデジタルマーケティングによって、人気のあるものを、少量で素早く、自社のサプライチェーンで生産し、製造をし、売ることが特徴です。
売れ行き次第で在庫調整や生産指示を行う仕組みを持っています。
SHEINは、アパレルメーカであってメーカではなく、プラットフォーム企業です。

デジタルを駆使することで、ビジネスそのものがプラットフォームによって運営されるような仕組みは、かつてはなかったものです。

日本でも印刷関連事業をプラットフォーム化し、顧客から注文内容や希望納期に応じて、印刷企業の特徴や稼働状況をモニタリングする中、最も適切な印刷会社への発注を行う企業があり、一見印刷企業に見えるもののものづくりは行わないプラットフォームを用意した企業があることを、松本氏からのお話を聞いたことがあります。皆さんもTV CMをきっと見たことがあることでしょう。

SHEINもそうですが、顧客の要望に応じて「ものづくり」を行うという仕組みが既に動いています。これもデジタルを駆使したビジネスプランであることに違いありません。
ここにAIというものが作用し始めるとどのようなことが実現可能となるのか考えてみました。

前回話したように、第4次AIブームとなった今、AIは判断から生成を行うことができるようになりました。開発設計では、「こんな製品設計をしたい」と入力すれば、アプリケーションの3D CADやCAEとAIがAPIで繋がり、自動設計を行うことも可能になることでしょう。

自分用の〇〇な製品が欲しい」と入力すれば、簡単なものであれば、誰でもパーソナライズされたものが、設計を知らない人でも設計ができるようになって、3D プリンタで製作できることは難しいことではないように思えます。さらに機械学習が進めば、難しい設計だったとしても、誰にでも設計できるようになる可能性があるということなります。

まとめ

機械学習を個人や、企業ごとに行うのではなく、プラットフォームの中で共有する環境を構築して、その環境の中で開発設計製造を行うという仕組みを作る企業が出てくるのではないでしょうか。
この環境を利用する企業は、そのプラットフォームを利活用するためのサブスクリプションを支払います。しかし、そこには高品質なものを、誰よりも早く、効率的に作るメリットがあるわけです。

では、人は何をするのか。
人は要求される仕様を正しく定義するためのスキルが必要となり、生成されたものを正しく判断するスキル、未来のものづくりを作るための仕組みを作るためのスキルや、AIによって得られた結果(データ)を正しく判断していくスキルが求められます。

松本氏とのお話から、かつては遠い存在のように思えたAIへの可能性を身近に感じることができました。

次回からは、CADベンダーにおけるAIについて話していきます。