デジタルトランスフォーメーションの先をよむ - 今、そこにある未来 -プロフェッショナル連載記事

AIで創造性の高い設計を行う時間を創出-ダッソー・システムズのAIソリューション

今回は、ダッソー・システムズ株式会社の技術部ディレクターである、高橋直希氏とのお話から、「AIの可能性とこれからの開発設計」について考えます。

ダッソー・システムズ株式会社 技術部ディレクター
高橋 直希 氏

フランスに本拠地を置くダッソー・システムズ(Dassault Systèmes)社は、3DEXPERIENCEプラットフォームとソフトウェア製品群の開発・提供を通じて、持続可能な社会づくりに貢献しています。
今回、お話いただいた高橋直希氏は、ダッソー・システムズのCATIA(キャティア)とCAEのSIMULIA(シムリア)およびMODSIM技術組織のマネジメントを担当されていて、製品の目的やその特徴について詳しく説明をしていただきました。

モデリングとシミュレーションをシームレスに連携させるMODSIM

今年2月に開催された3DEXPERIENCE World 2023(米テネシー州ナッシュビル開催)では、MODSIM(「モドシム」ー)という言葉が強調されていました。

MODSIM(モドシム)とは

MODSIMとは?「MODeling」と「SIMulation」の頭文字をとって「MODSIM(モドシム)」。モデリング(CAD)とシミュレーション(CAE)を単一環境の共通データモデルで統合することで、製品開発の迅速化や品質の向上を図ることが可能になります。これにより、製品開発の迅速化や品質の向上を図ることが可能となる。_出典:ダッソー・システムズ株式会社

図1 MODSIM

出典:ダッソー・システムズ株式会社

「MODeling」と「SIMulation」の頭文字をとって「MODSIM(モドシム)」。
モデリング(CAD)とシミュレーション(CAE)を単一環境の共通データモデルで統合することで、製品開発の迅速化や品質の向上を図ることが可能になります。

  • 製品開発に関わる仕事の合理化
  • 分野を横断した協調でイノベーションを加速

MODSIMではCADモデルとシミュレーション (CAE) をシームレスに連携させます。
シームレスというのは、例えばCADモデルの更新に対してCAEモデルが自動更新されるような仕組みを指します。これにより、V字プロセスの早期段階からシミュレーション(CAE)を積極的に活用して設計品質の検証を行い、試作頻度を低減させ、試作以降の設計への手戻りを大幅に低減させることが可能となります。

図2 V字プロセス

図2 V字プロセス

MODSIMについて私は、これまでもあったマルチフィジックスのことかと考えていましたが、高橋氏からの説明を受け、その考え方について、さらに理解を深めることができました。

高橋氏:

MODSIMは、設計段階で現実世界の物理現象を考慮しながら設計を行うことを示していて、モデリングとシミュレーションの統合のことをいいます。
これまでは設計とCAEがそれぞれ独立した形で運用されてきましたが、これらが統合されることで、シミュレーションで設計要件の確認を行い、最適化したものとして設計を行うことができます。
このMODSIMでは概念設計から詳細設計に至るまで、モデリングとシミュレーションが統合された形で運用することが可能です。

高橋氏から具体的なプロセスの説明が続きます。

マルチフィジックス
異なる物理現象を組み合わせて解析することをいい、連成解析と同じような意味があります。
例えば、熱伝導と熱の分布による熱膨張への影響から応力を解析することや、さらに複雑な事象を連成させて解析を行うことをマルチフィジックスといいます。
複雑な連成を行うことで、実際の物理現象と同じように解析でその現象を捉えることが可能になります。

AIによる設計プロセスへのイノベーション

AIによって設計プロセスはどんな進化を成し遂げているのか、その具体的な例をあげていきます。

コンセプトモデリング(構想設計)

構想設計では、設計者は様々な要求仕様を満たす設計案の探索のために、何度も試行錯誤を繰り返して製品の構想を描きます。ここでは設計空間においていまだ確定していない、より多くの自由度に対して、設計パラメータ、つまり設計上の変数を利用したパラメトリック設計を行います。

図3 CATIA Concept Structure Engineering(CSE)_出典:ダッソー・システムズ株式会社

図3 CATIA Concept Structure Engineering(CSE)

出典:ダッソー・システムズ株式会社

図3にある矢印のフレーム部品を動かす場合を考えると、一般的な3D CADを使用したモデリングでは、動かす部品はその接続先にあたる部品に合せて形状変更を行い、再度アセンブリ化を行うという設計作業が必要となります。このような変形を伴う形状の最適化を行うためには、設計者は形状変更とアセンブリを何回も繰り返す必要があります。

一方、CATIA Concept Structure Engineering (CSE) を使用すると、動かすフレーム部品の形状が相手の部品の形状に合わせてリアルタイムに変更しながら自動的にアセンブリされます。
CSEでは構想設計段階において、3D CADモデルを一定の設計ルールの元、自由に変更できます。

コンセプトモデルとシミュレーション

3DEXPERIENCEプラットフォームでは、CSEで設計した構想モデルをそのままCAEで性能検証することが可能です。上図は設計パラメータと組み合わせた最適化の検証の例ですが、CSEによって得られた複数の構想設計案をSIMULIA Structural Performance Engineer(SFO)等を活用しながら解析を行います。

図4 SIMLIA Structural Model Creation(SFO)_出典:ダッソー・システムズ株式会社

図4 SIMLIA Structural Model Creation(SFO)

出典:ダッソー・システムズ株式会社

これにより、どの構想案が最適なのかを判断することが可能になります。

設計のアルゴリズム化

以前Blogでノーコードのアプリケーションについて紹介したことがあります。ノーコードで作成する仕組みは、プログラミングコードを理解できない人でも、アプリケーションを作ったり、いろいろなシステムのデータ連携を行えるようになることが特徴です。

図5 CATIA Visual Scripting_出典:ダッソー・システムズ株式会社

図5 CATIA Visual Scripting

出典:ダッソー・システムズ株式会社

このCATIA Visual Scriptingもまたノーコード的にモデリングのプロセスを構築できるVisual Scriptingという仕組みがあるとのことです。

高橋氏:

設計者は、ある一定の手順によってモデルを作成します。これはアルゴリズムともいえます。
図5はルアーの設計を例題としていますが、ルアーには、ルアーの大きさ、形、うろこの有無・形状、色など、設計諸元があると考えることができます。モデリングを行う場合もそのような手順で行うので、ヒストリーベースでパラメトリックモデリングに対応する3D CADであれば、手順や設計パラメータの情報をモデル内に保持しています。
この手順のひとつひとつを関数化し、図の右側の画面でアルゴリズムの組み合わせを作成、さらにそのアルゴリズム内のパラメータを設定すれば、図5左側の画面のような多数のうろこ形状をモデル上に作成することができます。

AIを使いこなす開発設計のパートナー

ユーザー独自でAIとの連携を行ってきた企業もありますが、このような連携に関する相談をユーザー単独で行うことから、ダッソー・システムズにお願いするような相談する企業が増えているというお話を聞きました。これはダッソー・システムズが多くのインダストリアルナレッジを持っていることによるものです。

いくつかの製品には既にAIに近い機能を有したものがあります。
3DEXPERIENCEプラットフォームを提供するダッソー・システムズを”AIを使いこなすための重要なパートナー”とお考え下さい。

設計者CAEと何が違うのか?

高橋氏のお話を聞いてMODSIMについて考えてみました。
構想設計段階から始まり詳細設計に至るまで、設計(モデリング)と検証(シミュレーション)を別工程で行うのではなく、同じ工程の中で行うという印象を私は受けました。
さらに、そのシミュレーションで検証する事象は広い範囲となります。その概念は下図となります。

図6 設計者CAEとMODSIMの概念(筆者の解釈)

図6 設計者CAEとMODSIMの概念(筆者の解釈)

従来の設計手法では、構想設計では、設計者は様々な要求仕様を満たす設計案の探索のために、何度も試行錯誤を繰り返して製品の構想を描きます。
また、詳細設計内で繰り返しCAEによってその設計検証を行い、最適化されたものを得ています。

MODSIMでは、構想設計や詳細設計に検証というものが組み込まれるという考えによって、開発設計のプロセスを最適化し、効率を上げることになります。この考え方にはパラメータというものが大きく寄与しています。

自動車をはじめとする様々な業界で、設計パラメータといわれる設計上の変数を利用したパラメトリック設計が行われています。簡単にいうと、用途やその大きさに応じて、設計が変更できるような変数を駆使して設計する方法を採用しています。

このような、パラメトリック設計を実践する中で、CATIA Concept Structure EngineeringやSIMLIA Structural Model Creationによって構想設計段階からの最適化と設計効率化が一気に進むということになります。
さらには、CATIA Visual Scriptingでは、従来設計者の頭の中にあった設計手法がアルゴリズム化されることによって設計手法の共有化と効率化、設計の自動化が可能となり、結果としてMODSIMの適用を大きく加速することが可能となります。

また、ダッソー・システムズが推進する3DEXPERIENCEプラットフォームは効率的なソリューションの連携や、AIとの連携を行うことができます。AIはオペレーションの自動化や、設計や解析そのものの支援として活用されていくことでしょう。

そして、開発設計での人やプロセスの連携を行う中心がプラットフォームであることは明確です。

まとめ

プラットフォームからAIを利用したソリューションの連携、3Dモデリング作業以外の、例えば、Model Based Systems Engineering(MBSE)領域、故障解析(FMEA)などにおけるAIの活用というものも、このプラットフォームと繋がり運用されることで開発設計ばかりか企業内の情報が共有されていくものだと確信しました。

そのポイントをまとめます。

<設計と製造のポイント>
● 設計者が設計品質を上げながら効率化を図ることができる
● 設計者が新規設計や、より創造性の高い設計を行うための時間の創出ができる
● 設計のナレッジ化を行うことができる
● AIはMODSIM領域、さまざまな検証領域で進む
● プラットフォームはこれからの開発設計の中心

今後のダッソー・システムズの展開から目が外せません。

次回は、ソリッドワークスの日本での年次イベント3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2023から「開発設計製造×AI」についてお話します。