プロフェッショナル連載記事 中小企業経営から学ぶ生産性向上の秘訣 仕事の付加価値を上げよう!

企業活動のグローバル化(前編)ー日本企業と海外事業の実態

今回は、海外投資にも関係の深い企業活動のグローバル化について取り上げていきたいと思います。私たち企業にとって、今後国内や海外とどのように付き合っていくべきなのか、日本企業の意外な実態を知るとともに、付加価値や生産性向上のために目指すべき方向性についても共有していきたいと思います。

1. 企業活動のグローバル化とは

グローバル化は、国境をまたいでヒト、モノ、カネ、情報がより自由に“相互に”行き来するようになることを意味しますね。企業活動におけるグローバル化は、主に次の3つの側面があります。

1つ目は、貿易
他国への輸出や他国からの輸入といった活動が活発化していくことです。
日本は輸出大国というイメージがあると思いますが、経済規模の割には少ない水準という意外な事実があります。今回はこのあたりから話を進めていきます。

■2つ目は、海外活動
企業が他国に拠点を持ち、その進出先国での事業活動を活発化していくことです。

もちろん、自国企業が他国に進出する方向と、他国企業が自国に進出してくる方向があります。日本は先進国の中でも、自国企業の他国進出ばかりが一方的に増える特殊なグローバル化が進んでいます。

■3つ目は、金融投資の国際化
他国企業への株式投資などが活発化していくことです。
今や日本の上場企業の約3割の株式は外国が所有しています。日本も他国企業の株式を多く所有しています。海外企業の株式保有については、対象企業の支配を目的とした「対外直接投資」と、配当金などのリターンを目的とした「対外証券投資」に分かれます。

ここでは、対外直接投資は「海外活動」に含まれると考えます。日本企業は対外証券投資も増やしてはいますが、対外直接投資の方が圧倒的です。日本の場合、対外証券投資は金融機関と政府が多い状況です。

意外と少ない日本の貿易

さて、まずは日本の貿易のファクトから確認してみましょう。図1は、OECD各国と中国の輸出のグラフです。

図1 輸出 ドル換算

図1 輸出 ドル換算

日本も含めて全体的に右肩上がりに増えていることがわかりますね。

ただし、日本は1989年あたりまではドイツとほぼ同じくらいで、アメリカに次ぐ高水準でしたが、その後ドイツから大きく引き離され、2004年には中国に抜かれています。直近の2018年では中国、アメリカ、ドイツの存在感が大きく、日本は4番手ながらも上位3か国との差が大きいことが確認できます。

日本は900Gドル(G:ギガは10の9乗)で、約100兆円です。中国やアメリカとは3倍近く、ドイツとも2倍程度の差があります。グラフでは示しませんが、輸入についても概ね同じような状況です。

各国で抱えている人口が異なりますので、人口あたりで評価した方がより公平な比較ができますね。人口1人あたりの輸出額や輸入額についても眺めてみましょう。図2が各国の輸出額を人口で割った1人あたりの水準を比較したグラフです。

図2 輸出 1人あたり ドル換算

図2 輸出 1人あたり ドル換算

ルクセンブルクやスイスなど人口の少ない国は極端に大きな数値になりやすいですが、人口の多い国でもドイツは比較的上位に入っています。

日本は1人あたり7,259ドルでOECD 36か国中33番目、G7で最下位という水準です。同じ工業国と見なされるドイツ(22,647ドル)や韓国(13,934ドル)と比較すると大きな差があります。

人口あたりではなく、輸出額の対GDP比(輸出依存度という指標になります)で見ても、日本は18%程度で47%のドイツや44%の韓国と比較すると格段に少ない水準です。OECD 35か国中34番目(最下位は12%のアメリカ)です。

日本は輸出大国というイメージが強いと思いますが、意外にも経済規模や人口からすると輸出が少ない国と言えそうです。

図3は輸入(1人あたり)についてのグラフです。

図3 輸入 1人あたり

図3 輸入 1人あたり

やはり輸出と同様に日本の順位がかなり低いですね。日本は1人あたり7,168ドルでOECD36か国中33番目、G7最下位です。輸出も輸入も増加傾向ではありますが、その水準は他国と比較すると小さいということになります。

もう一つ貿易に関するグラフを見てみましょう。図4が人口あたりの純輸出のグラフです。

図4 純輸出 1人あたり

図4 純輸出 1人あたり

純輸出は輸出から輸入を差し引いた正味の数値で、GDPに加えられる項目です。

純輸出 = 輸出 – 輸入

GDP(支出面)= 民間最終消費支出 + 政府最終消費支出 + 総資本形成 + 純輸出

図4を見ると明らかなように、日本の場合は輸出と輸入が相殺してほぼゼロです。一方で、ドイツ韓国は純輸出がプラスなので、輸出超過の国です。逆にアメリカは輸入超過のため、純輸出が大きくマイナスです。

いかがでしょうか、日本は貿易が「少ない」国というちょっと意外な事実があるようです。資源の少ない日本にとって、貿易は極めて重要な要素だと思います。

実態としては、外需よりも内需型の経済構造になっているということが考えられますね。

2. 成長する日本企業の海外事業活動

次に、企業の海外活動についてみていきましょう。

企業は他国に拠点を設け、国境をまたいで事業活動を拡げています。このような企業は、「多国籍企業」とも呼ばれていますね。

一般的に、企業の海外活動は主に「支店」と「現地法人」の2つの方法があります。それぞれメリット・デメリットがありますが、本格的な事業活動を伴う場合は現地法人が選ばれるようです。現地法人は、本国の親会社の出資を受けますが、親会社とは別の事業体ということになります。

海外活動の場合、現地での労働者の多くは現地で雇用されますね。そこで行われた生産活動(GDP)や、その事業に対する税収も進出先国のものになります。そして、海外活動の利益の一部を配当金として、親会社に還流させるのが一般的なようです。親会社からすると、この海外子会社からの配当金は、「営業外収益」となりますね。したがって、国内での付加価値(GDP)にはなりませんが、利益の底上げとなります。また、この配当金には「外国子会社配当金益金不算入制度」が適用され、その95%相当が課税対象外となります。もちろん、2重課税を避ける措置と言えます。

日本企業の場合、進出先国での事業活動の販売先は、日本への逆輸入が約20%で、それ以外は進出先の国かまたはさらにそれ以外の国への輸出となります。(「内閣府 企業行動に関するアンケート」より)

整理すると、自国企業の他国進出は、経済統計上次のような変化となります。

・ 自国にとって増加するもの  親会社の利益
・ 自国にとって増加しないもの 雇用、付加価値(GDP)、税収

当然、他国企業の自国進出はこの逆ですね。

まずは、日本企業の海外活動状況から見ていきましょう。日本企業は前回ご紹介した通り国内事業活動は停滞していますが、実は海外活動は大きく成長しています。図5は日本企業の海外現地法人について、企業数と常時従業者数をグラフ化したものです。

図5 日本企業の現地法人 企業数・常時従業者数

図5 日本企業の現地法人 企業数・常時従業者数

1988年からのグラフとなりますが、どちらも右肩上がりで大きく増加しています。
企業数は約0.8万社から約2.5万社へと3倍程度、従業者数は約1.5百万人から約6百万人へと4倍程度に増加しています。

日本の労働者数が6,000万人ほどと言われていますので、その1割にあたる労働者が日本企業の海外現地法人によって海外で雇用されていることになりますね。

図6が日本企業の海外現地法人の売上高(左軸)、経常利益、当期純利益、設備投資(それぞれ右軸)をまとめたグラフです。

図6 日本企業の現地法人 売上高・経常利益・当期純利益・設備投資額

図6 日本企業の現地法人 売上高・経常利益・当期純利益・設備投資額

リーマンショックの影響を受けるなど、アップダウンがみられますが全体的には右肩上がりで成長しています。特に売上高は300兆円に達する水準ですね。日本企業全体の売上高が1,500兆円程度、日本の輸出額が100兆円程度の水準から考えると、現地法人の売上高は非常に高水準であると思います。

このように、日本企業は国内事業の停滞がありながらも、海外事業を大きく成長させていることになります。前回の日本企業のデータで、売上高や付加価値が横ばいにもかかわらず、営業外収益や当期純利益が大きく増加している要因の一つがこの海外投資によるリターン分だと考えられます。

3. 海外進出を進めているのは大手製造業が多い

それでは、どのような企業が海外進出を進めているのでしょうか。やはり大手企業が多いようですが、なかでも製造業が多いようです。製造業の海外進出がどう進んできたのか、データから状況を見てみましょう。

図7 海外現地生産を行う企業の割合 製造業

図7 海外現地生産を行う企業の割合 製造業

内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」によれば、製造業のうち海外現地生産を進める企業の割合は、上場企業で増加傾向が続き、直近では約65%にまで達しています。一方、中堅・中小企業では15%未満の水準です。

図8が海外現地生産比率(金額ベース)です。

図8 海外現地生産比率 製造業

図8 海外現地生産比率 製造業

製造業においては、上場企業の増加ぶりが非常に大きいですね。1987年には2%程度でしたが、2019年には23%に達しています。およそ4分の1にあたる生産活動を海外で行っていることになります。中堅・中小企業は4%程度で、上場企業とは大きな隔たりがあるようです。

図9 逆輸入比率 製造業

図9 逆輸入比率 製造業

一方逆輸入比率については、上場企業で約20%とそれほど高くはありません。やや減少傾向ですらありますね。現地で生産し、現地国で売るか、もしくはそこからさらに他国へ輸出している割合が圧倒的に多いということになります。中堅・中小企業は25%強で上場企業よりも高い水準というのも特徴的ですね。

このように、海外事業への取り組み方は、上場企業と中堅・中小企業とで異なるようです。

4. 流出に偏った独特の「日本型グローバリズム」

これまで見てきたように、日本企業の海外活動は非常に活発化しています。「貿易」が輸出と輸入の2方向あるように、「海外活動」にも当然2方向あります。つまり、自国企業の他国進出(Outward Activity:流出)と、他国企業の自国進出(Inward Activity:流入)です。

流出: GDP、雇用、税収の多くは進出先国、 利益の一部は自国親会社へ還流
流入: GDP、雇用、税収の多くは自国、 利益の一部は進出元国親会社へ還流

実は日本企業の海外活動(流出)はこれまで見ていただいたように非常に活発ですが、反対に流入が極めて少ない特徴的なグローバル化が進んでいるようです。特に製造業でその傾向が顕著なようです。

具体的な統計データで確認してみましょう。図10が多国籍企業のうち製造業の流出についての売上高の比較です。

図10 多国籍企業 製造業 売上高 流出 2016年

図10 多国籍企業 製造業 売上高 流出 2016年

日本は1,037Gドル(約120兆円ほど)で、アメリカに次いで2番目に高い水準です。次いでドイツフランスと続きます。経済規模からすれば順当なレベルと考えられますね。

図11が流入のグラフです。

図11 多国籍企業 製造業 売上高 流入 2016年

図11 多国籍企業 製造業 売上高 流入 2016年

日本は103Gドルで、この中では中位となります。アメリカドイツイギリスなどは流出と相応の規模であることに対して、日本だけ極端に流入が少ないようです。

図12が流入から流出を差し引いた正味の数値となります。

図12 多国籍企業 製造業 売上高 正味(流入-流出)2016年

図12 多国籍企業 製造業 売上高 正味(流入-流出)2016年

日本の場合、流出はアメリカに次ぐ水準ですが、流入が極端に少ないので正味では最もマイナスが大きい国となりますね。つまり、海外活動においては、流入により入ってくる付加価値よりも、流出により出ていく付加価値の方が圧倒的に多いということになります。いわゆる「産業の空洞化」と呼ばれている現象ですね。

図13が流出に対する流入の割合をグラフ化したものです。

図13 多国籍企業 製造業 売上高 割合(流入/流出)2016年

図13 多国籍企業 製造業 売上高 割合(流入/流出)2016年

投資の集まる東欧諸国は圧倒的に流入が勝っていて100%を大きく超える水準ですね。カナダイギリスも100%を超えていて、流出よりも流入の方が大きい国です。イタリアドイツアメリカは流出の方が大きいですが、70%前後と流入もそれなりの水準に達していますので双方向的と言えそうです。

日本は10%未満です。つまり、日本企業が他国で行う事業活動に対して、他国企業が日本で行う事業活動が10分の1にも満たない圧倒的に流出に偏ったグローバル化が進んでいるということになります。

このように「産業の空洞化」がここまで極端に進んでいるのは、実は先進国で日本だけです。これは「日本型グローバリズム」とも言える特殊な状況と言えます。

 

2ページ目‐企業活動のグローバル化(後編)ー国内と海外との向き合い方