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六価クロムとは?用途・規制・設計時の注意点まで解説

クロムは、大きく分けて三価クロム(Cr³⁺)と六価クロム(Cr⁶⁺)の二つの酸化状態があり、それぞれ毒性や用途が異なります。本記事では、より有害性が高く規制も厳しい「六価クロム」に焦点を当て、その特性・用途・規制動向・設計時の注意点を詳しく解説します。

六価クロムとは?

六価クロムの概要と問題点

六価クロムはクロム(Cr)が+6の酸化状態を取る化合物群で、クロム酸塩に代表される強力な酸化剤です。水溶液では橙〜黄色を呈し、金属表面に不動態皮膜を形成して耐食・耐摩耗性を高めるため、メッキや顔料に利用されてきました。

六価クロム_水溶液

六価クロムは自然界にはほとんど存在せず、工業的に製造されます。鉄クロム鉱石クロマイト(FeCr₂O₄)をソーダ灰・石灰とともに約1,100℃で酸化焼成し、得られたクロム酸ナトリウム(Na₂CrO₄)を酸処理して二クロム酸ナトリウム(Na₂Cr₂O₇)やクロム酸(CrO₃)へ精製するプロセスで製造されます。

発がん性を含む高い毒性のため、国際がん研究機関(IARC)は「人にがんを起こす証拠が十分」とするグループ1に分類しており、これはアスベストやカドミウムと同等の最もリスクが高い分類です。日本でも労働安全衛生法で「特定化学物質」として厳しく管理されており、製品設計では有害性評価と法令順守を最優先する必要があります。

三価クロムとの比較

クロムには、六価クロム(Cr⁶⁺)の他に、酸化数が+3の三価クロム(Cr³⁺)が存在します。この二つの主な違いは以下のとおりです。

表1 六価クロムと三価クロムの比較 

六価クロム 三価クロム
毒性・健康影響 発がん性・皮膚炎・呼吸器障害 低毒性(六価化リスクあり)
規制状況 RoHS/ELV:0.1wt%以下
REACH:高懸念物質(SVHC)
原則対象外(六価化防止要件あり)
メッキ外観 青みがかった高光沢シルバー やや暗いシルバー
耐食性 優秀(自己修復能を持つクロメート皮膜) 六価と同等〜やや劣る程度
環境負荷 極めて高い 六価クロムに比べて低い

三価クロムは、自然界にも広く存在する比較的安定した物質です。EUのRoHS指令やREACH規則といった主要な環境規制では、六価クロムは原則として使用が禁止または厳しく制限(例:RoHSでは均質材料あたり0.1wt%=1,000ppm未満)されていますが、三価クロムは基本的にこれらの規制対象外です。

ただし注意点として、三価クロムは特定の条件下(例えば、強酸性や高温環境)で有害な六価クロムに変化(酸化)する可能性が指摘されています。そのため、三価クロムを利用するメッキプロセスなどでは、工程管理(特にpH管理)を適切に行い、製品に六価クロムが残留・生成しないことを確認しなければなりません。

性能面では、従来の六価クロムメッキは、青みがかった美しい銀白色の外観と、自己修復性を持つクロメート皮膜による優れた耐食性が特長です。一方、代替として普及が進む三価クロムメッキは、色調がやや暗めになる傾向があるものの、耐食性や耐摩耗性などの基本性能は六価クロムメッキに匹敵するレベルまで向上しており、皮膜の密着性などはむしろ優れている場合もあります。

毒性の強さ以外にも六価と三価で性質に差異がありますが、昨今は有害な六価クロムを避けるため、性能面の多少のハンデは許容してでも三価クロムや他の代替処理へ移行する流れが主流です。

なお、メビーでは環境に配慮された三価クロメートメッキに対応しています。白と黒の二種類を用意しており、全サービス対応可能です。

三価クロメート(黒)処理をした切削部品

三価クロメート(黒)処理をした切削部品

六価クロムの用途

ここでは六価クロムの用途について見ていきます。

メッキ処理

六価クロム_メッキ処理

六価クロムは、その強力な酸化力と金属表面への優れた密着性、そして形成される皮膜の硬度や耐食性の高さから、電気メッキの浴成分として長年にわたり主流でした。代表的なのがクロムメッキ(装飾クロム、ハードクロム)で、銀青色の高硬度皮膜が自動車バンパーや工具、機械部品の耐摩耗・防錆コーティングに採用されてきました。

また、亜鉛メッキ後に実施するクロメート処理でも六価クロムは防食成分として不可欠で、ボルト/ナットや電子機器シャーシに黄橙色の皮膜を形成し、自己修復性の高い防錆効果を付与します。しかし、2000年代以降、EU RoHS・REACH規制により六価クロムメッキは順次制限され、三価クロムや無クロム化成処理への代替が進行中です。

顔料・塗料用途

六価クロム化合物の代表格である鉛クロメート(クロムイエロー)や亜鉛クロメートは、鮮やかな黄橙色と卓越した耐候・防錆性から産業用塗料・道路標示・航空機外板などに長年使用されてきました。

しかし、鉛と六価クロムの複合毒性が問題視されているため、EU RoHS・REACHや国内化審法で段階的に規制が強化されています。現在は、三価クロム顔料、酸化鉄黄、無毒な有機アゾ顔料などへの置換が進行中で、防錆目的にはアルミフレーク+リン酸亜鉛を組み合わせたクロムフリー塗装や高固形分エポキシ塗料が主流です。

設計段階においては、要求される色や機能(耐候性、防錆性など)を満たす「六価クロムフリー」の顔料・塗料を前提として選定し、その性能を評価することが不可欠です。

六価クロムの規制

強い毒性と環境残留性を持つ六価クロムは、各国で法令により厳しく規制されています。ここでは、日本国内の規制と主に欧州を中心とした海外の規制について、最新動向を含め解説します。

国内の規制

日本では六価クロムを含む排水の基準値が水質汚濁防止法で0.2mg/L以下に強化され、土壌溶出基準も0.05mg/L以下と厳格です。作業環境については労働安全衛生法が0.05mg/m³以下を定め、PRTR法では第一種指定化学物質として届出と排出削減が義務づけられています。

参考:環境省ホームページ「 水質汚濁防止法施行規則等の一部を改正する省令の公布について

製品への直接規制こそありませんが、J-Mossや国内ELV指針を通じて事実上RoHSと同等の六価クロムフリーが求められます。違反すれば浄化命令や行政処分が科され、排水設備の更新や無クロム化投資を余儀なくされます。

海外の規制

海外では含有化学物質規制が進み、六価クロムも対象です。

RoHS指令

欧州連合(EU)による電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する指令です。六価クロムは、製品を構成する均質材料ごとに0.1wt%以下となるように制限されています。

参考:European Union「EUR-Lex

REACH規則

EU域内で製造・輸入されるすべての化学物質(製品に含まれるものも含む)の登録、評価、認可、制限を行う包括的な規則です。クロム酸塩類は高懸念物質(SVHC)に指定され、許可がない限り域内での使用ができません。

 

EUは2025年以降に、追加10種類の六価クロム塩を一括制限する方針です。また、米国カリフォルニア州大気資源委員会(CARB)は、六価クロムの段階的廃止を正式に承認しています。製品を世界市場で展開するためには規制動向を把握し、設計段階から遵守することが不可欠です。

参考:東京環境経営研究所(TKK)「六価クロムのREACH規則の制限提案の背景~認可物質から制限物質へ~
参考:日本貿易振興機構(ジェトロ)「米カリフォルニア州大気資源委員会、金属表面加工用途での六価クロムの利用を段階的廃止へ

製造業の設計者・製品開発者が知るべき六価クロム注意点

六価クロムのリスクと規制を理解したうえで、設計者・開発者は具体的にどのような点に注意するべきでしょうか。実務における重要なポイントをまとめます。

法令・規制の遵守

製品を展開する市場の最新規制(RoHS、REACH等)を正確に把握し、要求される基準値や手続きを遵守することが不可欠です。設計図面や仕様書には「六価クロムフリー」や具体的な代替処理名を明記し、必要に応じて適用規格や要求性能も示します。

部品表(BOM)で化学物質情報を管理し、サプライヤーから非含有証明書(chemSHERPA等)を入手・確認する体制を整えることも重要です。サプライヤーに対しても六価クロム不使用の要求を明確に伝え、その遵守状況を管理します。過去の図面も定期的にレビューし、六価クロム指定があれば速やかに代替へ切り替えるプロセスを確立しましょう。

健康・環境リスクの評価と対策

製品の企画から製造、使用、廃棄に至る全ライフサイクルにおいて、六価クロムが人や環境に及ぼすリスクを認識することが重要です。自社工場のみならず、サプライヤーの製造工程(特にメッキや塗装)におけるリスクも考慮に入れる必要があります。

設計の初期段階から六価クロムを使用しないことを前提とし、代替技術の採用を最優先で検討すべきです。代替が難しい場合は、緊急手順と情報開示でリスクを抑制しましょう。ライフサイクルアセスメント(LCA)の視点を取り入れ、材料選定やプロセス選定において有害物質の使用・排出を抑制し、製品全体の環境負荷を低減する設計を目指すことが求められます。

安全な取り扱いと製品ライフサイクルでの環境評価

表面処理などを外部委託する際は、サプライヤーが薬品管理、作業環境、排水処理、品質検査体制を適切に構築・運用しているかを確認し、必要に応じて工程監査を実施します。製品使用時に摩耗や劣化により六価クロムが溶出・飛散するリスクを考慮し、最も確実な対策として代替技術を採用すべきです。

廃棄・リサイクル段階で処理業者が適切な対応を取れるよう、部品への材質表示やBOM情報を活用した情報提供も重要です。法令遵守は最低限の要求であり、積極的に環境負荷の少ない材料・プロセスを選ぶグリーン設計思想を持つことが企業の持続可能性を高めます。

代替技術の積極的な調査・選定・評価と性能検証

三価クロムメッキやノンクロム化成処理、特殊合金メッキ、高機能塗料など、利用可能な代替技術の種類、特徴、メリット・デメリット、コスト感、適用可能なサプライヤーについて積極的に情報を収集・調査します。製品に求められる耐食性、耐摩耗性、外観などの要求性能を明確にし、各技術がその要求を満たせるか比較検討することが不可欠です。

代替技術はサプライヤーによる技術力や品質管理レベルに差があるため、実績や技術資料に基づき信頼できる業者を選定します。最終的には必ず試作品で実機評価や各種試験を行い、要求性能を満たすか、品質は安定しているかを従来品と比較しながら徹底的に検証しましょう。

まとめ

六価クロムは優れた防食性能を持ちながら高い健康・環境リスクを伴うため、世界的に使用が制限されています。設計者・開発者は最新法令を常に把握し、サプライチェーン全体で非含有を証明できる体制を整えることが不可欠です。

三価クロムメッキやジルコニウム系化成皮膜など代替技術は実用域に達しており、防錆性能も遜色ありません。法令順守と品質を両立させ、環境と調和した持続可能なものづくりを推進しましょう。

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