meviyマーケットプレイス 金属・樹脂の材料 ものづくり基礎知識

SUS440Cの特性と用途を徹底解説!加工方法や選定ポイントも紹介

SUS440C

ステンレス鋼SUS440Cは、焼入れ後にHRC58~60の卓越した硬度と耐摩耗性を発揮し、ベアリング球・軸受・刃物・ゲージなど過酷な摩耗環境の用途に欠かせない材料です。しかし高硬度の代償として加工性が低く衝撃に対して脆いため、設計段階から後加工や仕上げ工程まで見据えた製造計画を立てなければトラブルの原因になりかねません。

本記事では、SUS440Cの基本的な特性からメリット・デメリット、他の材料と比較した選定のポイントまでを解説します。紹介する内容を参考に適材適所で使いこなし、製品の性能を最大限に引き出しましょう。

あらゆる機械加工部品が手配できる<br />
日本最大級の製造業マーケットプレイス
あらゆる機械加工部品が手配できる
日本最大級の製造業マーケットプレイス

焼入れ材のSUS440Cとは?

SUS440Cは日本産業規格(JIS G 4303)で定められたマルテンサイト系ステンレス鋼の一種です。熱処理(焼入れ・焼戻し)を施すことで工具鋼に匹敵する硬度が実現できるため、「焼入れ材」とも呼ばれています。SUS440Cの化学成分は以下のとおりです。

単位%

C Si Mn P S Ni Cr Mo Pb
0.95〜1.20 1.00以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 a) 16.00~18.00 b)

a)Niは、0.60%を超えてはならない。
b)Moは、0.75%を超えてはならない。

SUS440Cがステンレス鋼の中で最も高い硬度を実現できるのは、鋼材の硬度を決定づける炭素の含有量が約0.95〜1.20%と非常に高いからです。ただし、熱処理前の「焼なまし」状態では加工性に優れる一方で性能は平凡です。適切な熱処理によって初めてその真価を発揮します。

SUS440Cの特性

SUS440Cの性能を理解するために、多角的に特性を把握しましょう。ここでは以下の3つの視点でSUS440Cの特性について解説します。

  • 機械的特性
  • 物理的特性
  • 耐食性

各特性について詳しく見ていきます。

SUS440Cの機械的特性

SUS440Cの最大の特長は、熱処理後に得られる極めて高い機械的強度です。適切に焼入れ・焼戻しを行うことで、ビッカース硬さで約HV653以上(HRC58以上)にも達します。この硬度は、一般的なステンレス鋼SUS304の値を大きく上回り、ステンレス鋼の中で最も高い
数値です。また、引張強さや0.2%耐力も高い数値を示しており、高負荷下でも変形しにくいのも特長です。

高い強度と硬度により、接触荷重の大きい部品や摩耗しやすい部位で圧倒的な性能を発揮します。ただし、高硬度と引き換えに延性や靱性は低い傾向にあり、衝撃に対して脆い性質を持つため、設計時には注意が必要です。

SUS440Cの物理的特性

SUS440Cの主な物理的特性は以下のとおりです。

比重 熱膨張係数 縦弾性係数(ヤング率)
7.78 10.2×10⁻⁶/℃ 199920 N/mm² 20400 Kgf/mm²

SUS440Cの比重は7.75であり、一般的な鉄鋼材料とほぼ同じ値です。熱膨張係数はオーステナイト系ステンレスSUS304(17.3×10⁻⁶/℃)と比較すると小さな値となっていて、温度変化による寸法変化が少ないことが理解できます。

また、マルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS440Cは、電気的に強磁性を示すため、非磁性が要求される用途には向きません。熱伝導率はSUS304と比較すると高いものの、炭素鋼よりは低く、加工時に切削熱がこもりやすい一因となるため注意が必要です。

SUS440Cの耐食性

クロムを約16〜18%含有するSUS440Cは、表面に不動態皮膜を形成するためステンレス鋼として錆びにくい性質を持ちます。一般的な炭素鋼や工具鋼と比較して、優れた耐食性を示し、水や大気中では容易には錆びません。

ただし、SUS440Cは炭素の含有量も多いため、ステンレス鋼全体の中で見ると耐食性は高い方ではありません。熱処理時にクロム炭化物が生成され、母材の有効なクロム濃度が低下してしまうからです。特に、SUS304やSUS316といったオーステナイト系と比較すると耐食性は劣ります。

また、塩化物イオンを含む環境(海水など)や酸性環境では腐食が進行しやすいため、使用環境は慎重に選ばなければなりません。

SUS440Cのメリット

高い硬度・耐摩耗性

SUS440Cを採用する最大のメリットは、ステンレス鋼の中でトップクラスを誇る高い硬度です。HRC58以上に達する硬度がもたらす優れた耐摩耗性は、部品の長寿命化につながります。具体的には以下の場面で重宝します。

  • ベアリングのボールやレース(軌道輪)
    接触面の摩耗や圧痕を防ぎ、高荷重下でもスムーズな回転を長期間維持できる。
  • 刃物
    鋭い切れ味が摩耗しにくく長持ちする。
  • ゲージブロックのような測定工具
    表面に傷がつきにくいため、形状精度を維持できる。

このように摩擦や摩耗が問題となる過酷な環境下でSUS440Cは、他のステンレス鋼では実現不可能な耐久性を発揮します。

高強度・高荷重耐性

SUS440Cのメリットは硬さだけではありません。高い引張強さと0.2%耐力を併せ持つため、大きな荷重がかかる部品にも安心して適用可能です。部品が荷重を受けても変形しにくく、高い剛性を確保できるため、同じ強度を保ちながら部品の断面積を小さく、すなわち小型化・軽量化設計ができる大きな利点につながります。

具体的には、強い力がかかるシャフトや、高い締め付けトルクが必要で防錆性も求められるボルトなどに最適です。これまで工具鋼に頼らざるを得なかった高負荷部品を、より錆びにくいステンレスで実現できる点がSUS440Cの強みです。

高温下でも強度低下が起きにくい

SUS440Cは、ある程度の高温環境下でも硬さを維持できる優れた耐熱性も備えています。これは焼戻し処理によって組織が安定化しているためで、モーター軸のように発熱を伴う機械の摺動部品や、プラスチック成形用金型の一部など、運転中に温度が上昇するような用途で特に有利に働きます。

加えて、鏡面仕上げや鋭利な加工が可能なこともメリットです。研磨仕上げが可能で、防錆油で表面を保護する必要もありません。清浄な状態で耐熱性と耐摩耗性を両立できる点は、SUS440Cならではの設計上の大きなメリットと言えるでしょう。

SUS440Cのデメリット

靱性の低さ

SUS440Cを選定する上で最大の注意点は、その靱性の低さです。HRC60近い高硬度を達成した代わりに材料の粘り強さは失われ、衝撃に対する抵抗力が著しく低くなるからです。引張試験における破断伸びはわずかであり、強い衝撃や急激な曲げ応力がかかると突然割れてしまう危険があります。

設計時には応力が集中するシャープな角部を避け、必ずRを設けるといった配慮が求められます。「硬いが脆い」という特性を理解せず、衝撃的な荷重がかかる箇所に使うと、重大な破損事故につながる恐れがあるため注意しましょう。

加工の難しさ

硬度の高いSUS440Cは、加工が難しい材料として知られています。熱処理前の焼なまし状態では、一般的な炭素鋼と同程度の切削性を持つものの、熱処理で硬化した後の加工は困難です。焼入れ・焼戻しによってHRC60前後に達したSUS440Cは、フライス盤用の超硬工具ではほとんど歯が立ちません。

硬化後に追加工が必要な場合は、砥石で削る研削加工や、電気エネルギーで溶かして加工する放電加工といった、硬い材料向けの特殊な加工法に頼らざるを得なくなります。加工コストと時間の大幅な増加に直結するため、設計段階から注意しなければなりません。

溶接や熱加工の困難さ

SUS440Cは溶接には極めて不向きな材料です。炭素含有量が高いため、溶接による急激な加熱とその後の冷却過程で、極端に硬く脆くなってしまうからです。溶接部には高い確率で割れ(溶接割れ)が発生するため、接合部の信頼性をまったく確保できません。

したがって、設計者はSUS440Cは溶接しないことを前提とし、部品の接合が必要な場合はボルト締めや圧入、カシメといった機械的な方法を選択する必要があります。また、熱処理時の寸法変化や歪みも発生しやすいため、熱を伴う加工全般に注意が必要です。

あらゆる機械加工部品が手配できる<br />
日本最大級の製造業マーケットプレイス
あらゆる機械加工部品が手配できる
日本最大級の製造業マーケットプレイス

SUS440Cの主な用途

SUS440Cは、ステンレス鋼で最も硬い特性を活かし、他の材料では代替できない専門分野で活躍しています。高い耐摩耗性と一定の耐食性が両立できる代表的な用途を以下に示します。

業界 主な用途
機械・製造業 高負荷下での摩耗を防ぐボールベアリング・シャフト・金型部品など。
医療機器・精密機器 切れ味の持続性が重要な手術用メスや、長期にわたり寸法精度を維持するゲージ類。
食品・化学プラント 一般のステンレスでは摩耗してしまう粉砕機のカッターや高圧ポンプ部品。
自動車・輸送機器 高温・高負荷となるエンジン周辺のベアリングや、燃料噴射システムの精密部品。

SUS440Cの加工種類と設計ポイント

SUS440Cの性能は加工方法に大きく左右されるため、設計段階から各工程の注意点を理解しておきましょう。主な注意点は以下のとおりです。

加工種類 ポイント
切削加工 熱処理前の軟らかい状態で加工を完了させることが鉄則。

硬化後は研削が必要。

熱処理 性能を決める最重要工程であり、適切な温度管理が不可欠。

寸法変化(膨張)も考慮が必要。

溶接 割れリスクが極めて高く、原則として行わない。

ボルトなど機械的接合を推奨。

表面処理 通常は不要。

窒化処理でさらに硬化できるが耐食性は低下。

仕上げ加工 硬化後の研削やラップ研磨が主体。

「研磨焼け」による硬度低下を防ぐために冷却が必須。

SUS440Cを選定する際のポイント

SUS440Cは非常に尖った特性を持つため、採用の判断は慎重に行わなければなりません。ここでは、以下の4つの視点で選定する際のポイントを解説します。

  • 使用環境(腐食・温度)
  • 要求性能(硬さ・強度・靱性)
  • 加工・製造プロセス
  • コスト・供給性

使用環境(腐食・温度)

まず、部品が使用される環境を最優先で検討しましょう。SUS440Cの耐食性は万能ではなく、水分や塩分に頻繁に触れる環境、あるいは酸・アルカリ性の薬品がかかる環境では錆が発生するリスクが高まります。

以下の表は、JIS H 8502で定めるサイクル試験方法に準拠した形式で行ったステンレス鋼の耐食性結果です。

上記表の結果からSUS440Cの耐食性は、オーステナイト系ステンレス鋼のSUS304やSUS316に劣ることがわかります。

また、使用温度も重要な判断基準です。SUS440Cの優れた硬度は、高温環境で長時間使用すると硬度が低下してしまいます。高温下での強度が求められる場合は、析出硬化系ステンレスのSUS630や、より専門的な耐熱合金の採用を視野に入れましょう。

要求性能(硬さ・強度・靱性)

部品に求められる機械的性能も重要です。表面の硬さや耐摩耗性が最も重要な要求性能であるならば、HRC58以上に達するSUS440Cは他に類を見ない、非常に有力な選択肢です。しかし、衝撃的な荷重がかかる、あるいはある程度の「粘り強さ」が必要な用途の場合、SUS440Cの低い靱性は致命的な弱点となるでしょう。

脆性破壊のリスクを許容できない場合は、より靱性の高いマルテンサイト系ステンレス(例:SUS420J2)や、強度と靱性のバランスに優れる析出硬化系ステンレス(SUS630)への変更が賢明です。

加工・製造プロセス

設計した部品が、実際に製造可能かどうかという視点も材料選定には欠かせません。SUS440Cは熱処理後の加工が極めて困難であるため、部品形状が複雑で、硬化後に追加の切削加工が避けられない設計の場合、製造上のリスクとコストが非常に高くなります。追加の切削加工が必要な場合は、溶体化処理状態で容易に機械加工ができ、低温の時効処理で硬化させる析出硬化系ステンレス(SUS630)が有効な代替案となります。

また、溶接が必須な構造であれば、SUS440Cは不向きであるため、溶接性に優れるSUS304などの材料に変更するか、ボルト締め構造に設計変更するといった判断が求められます。

コスト・供給性

最後にコストと供給性も考慮しましょう。SUS440Cの材料単価自体は、一般的なSUS304と大きく変わらないものの、トータルコストは高くなる傾向にあります。熱処理後の加工に必要な高価な研削加工や放電加工、また、性能を最大限に引き出すための真空熱処理に費用がかかるからです。最終的な部品単価は通常材より割高になることも珍しくありません。

また、供給面では、SUS440Cは主に丸棒で流通しているため、板材は入手困難な場合もあります。採用を決定する前に、必ずサプライヤーに希望の形状とサイズの材料が安定して供給可能かを確認しましょう。

SUS440Cの見積もり依頼は「meviyマーケットプレイス」へ

SUS440Cの部品製作には、ぜひメビーマーケットプレイスをご活用ください。
メビーマーケットプレイスは、製造パートナーからあらゆる機械加工部品を手配できる日本最大級の製造業マーケットプレイスです。ミスミのIDがあれば新規の口座開設なしで加工部品を手配できます。

3Dもしくは2Dの設計データをアップロードし、加工方法・材質・表面処理などの見積条件を設定すると、条件に合ったパートナーが提案されます。複数の加工会社に個別で問い合わせる手間を削減できるほか、見積もりや出荷日などの条件を比較・検討する時間も短縮できます。

まとめ

SUS440Cは、ステンレス鋼の中で最高の硬度と優れた耐摩耗性を持つ特殊な材料です。この特性は、ベアリングや刃物など多くの機械部品の性能向上と長寿命化に大きく貢献します。一方で、靱性の低さ(脆さ)や加工の難しさ、限定的な耐食性といった明確なデメリットも存在します。

設計者は本記事で紹介した特性や選定のポイントを参考にして、SUS440Cの真価を引き出してください。適材適所で活用し、高性能で信頼性の高い製品設計を実現しましょう。

あらゆる機械加工部品が手配できる<br />
日本最大級の製造業マーケットプレイス
あらゆる機械加工部品が手配できる
日本最大級の製造業マーケットプレイス