機械部品や電子部品の高耐熱性や高耐摩耗性、電気絶縁性を満たす材料として「アルミナ」が多用されています。アルミナは、その優れた特性からエレクトロニクス、産業機械、医療機器まで幅広い分野で活躍するファインセラミックス材料です。
しかし一方で「アルミナって酸化アルミニウムのこと?」「硬いけど割れやすい?」「加工コストは高いのでは?」など、具体的なメリット・デメリットや設計採用時の考慮点などに悩むことはないでしょうか。
本記事では、アルミナの基本特性やメリット・デメリット及び設計採用時のポイントを解説します。機械部品・電気部品の材料選定に関わる設計・開発者は、ぜひご覧ください。
目次
アルミナとは?
アルミナは酸化アルミニウム(Al₂O₃)の総称で、工業分野では高純度のものを指すのが一般的です。純度99%以上の高純度アルミナは「ファインセラミックス」の中で最も広く使用されており、96%程度のものは電子基板などに多く用いられます。純度により特性は異なりますが、いずれも高硬度・耐熱性・絶縁性・耐薬品性といった基本特性を備えています。これらの優れた性質から、アルミナは半導体製造装置、電子機器、航空宇宙、医療機器など幅広い分野で活用されています。
アルミナと他セラミックスの違い
セラミックスは、無機材料を高温で焼き固めた固体の総称で、酸化物系・非酸化物系・複合系など多様な種類があります。素材により異なりますが、一般に高強度・高耐久・高耐腐食性を備え、粉末射出成形やホットプレス成形などで製造されます。
以下は、主なファインセラミックスです。
- アルミナ(Al₂O₃) :絶縁性・耐摩耗性に優れる
- ジルコニア(ZrO₂) :高靭性で摺動部品に適用
- 窒化ケイ素(Si₃N₄) :耐熱衝撃性に優れる
アルミナはファインセラミックスの一種で、酸化物系セラミックスの代表的な材料です。
アルミナの特性
アルミナが広く利用されているのは、その優れた特性によるものです。ここでは、アルミナの主な機械的特性および電気的・化学的特性について解説します。
機械的特性(硬度・耐摩耗性・強度)
非常に高い硬度は、アルミナの代表的な特性の一つです。一般に硬い材料は脆い印象がありますが、アルミナは曲げや圧縮に対する機械的強度のバランスに優れています。高い剛性(ヤング率)と非常に高い圧縮強度を備え、曲げ強度(耐荷重性)も良好です。寸法安定性と強度を両立しており、産業用構造部品だけでなく、精密部品の材料としても広く使用されています。
|
項目 |
単位 | 特性値 | ||
純度96% | 純度99.5% | 純度99.9% | |||
密度 | g/cm3 | 3.9 | 3.9 | 3.9 | |
機械的特性 | ビッカース硬さ | GPa | 13.7 | 15.7 | 17.5 |
3点曲げ強さ | MPa | 350 | 370 | 500 | |
圧縮強さ | MPa | 2992 | 2984 | 3229 | |
ヤング率 | GPa | 320 | 370 | 380 | |
ポアソン比 | ー | 0.23 | 0.23 | 0.23 | |
破壊靭性(SEPB) | MPa・m1/2 | 2.9 | 4.3 | 4.5 |
(引用:京セラ株式会社 アルミナAl₂O₃ https://www.kyocera.co.jp/prdct/fc/material-property/material/alumina/index.html)
熱・電気・化学的特性(耐熱性・電気絶縁性・耐薬品性)
アルミナは耐熱性に優れ、融点2072℃、実用域でも約1500℃まで安定使用が可能です。この特性により、電気炉や焼成炉の構成部材、断熱材、ガスバーナー部品など、高温下で幅広く利用されています。
また、電気絶縁性にも優れ、体積抵抗率や絶縁破壊電圧が高いため、優れた絶縁体として機能します。高温環境でも絶縁性を維持でき、高周波領域でも誘電損失が小さく、電子部品には欠かせない材料です。化学的安定性が高く、空気中で錆びず、優れた耐食性を示します。フッ酸や高温・高濃度の苛性ソーダには注意が必要ですが、大半の無機酸やアルカリには安定であり、腐食環境下でも長期間性能を維持します。それにより、化学プラントのポンプ部品や真空・プラズマ環境の治具材料としても多く用いられます。
項目 | 単位 | 特性値 | ||||
純度96% | 純度99.5% | 純度99.9% | ||||
熱的特性 | 平均 線膨張率 |
40-400℃ | ×10-6/K | 7.2 | 7.2 | 7.2 |
40-800℃ | 7.9 | 8 | 8 | |||
熱伝導率 20℃ | W/(m・K) | 24 | 32 | 34 | ||
比熱容量 | J/(g・K) | 0.78 | 0.78 | 0.78 | ||
耐熱衝撃温度差(相対法、水中投下) | ℃ | 150 | 180 | 180 | ||
電気的特性 | 絶縁破壊強さ | kV/mm | 15 | 15 | 15 | |
体積抵抗率 | 20℃ | Ω・cm | >1014 | >1014 | >1014 | |
300℃ | 1010 | 1013 | 1013 | |||
500℃ | 108 | 1010 | 1010 | |||
比誘電率(1MHz) | ー | 9.4 | 9.9 | 9.9 | ||
誘電正接(1MHz) | (×10-4) | 4 | 1 | 1 | ||
損失係数 | (×10-4) | 38 | 10 | 10 | ||
耐薬品性 | 硝酸(60%)90℃、24H | Weight Loss mg/cm2 |
0.02 | 0.01 | 0.01 | |
硫酸(95%)95℃、24H | 0.01 | 0 | 0 | |||
水酸化ナトリウム(30%)80℃、24H | 0.86 | 0 | 0 |
(引用:京セラ株式会社 アルミナAl₂O₃ https://www.kyocera.co.jp/prdct/fc/material-property/material/alumina/index.html)
アルミナのメリット
優れた耐摩耗性と耐熱性
アルミナは非常に硬く摩耗しにくく、摺動部や粉体・流体と接触する部品の長寿命化に寄与します。約1500℃まで耐熱性が安定しており、高温下でも形状や機能を保ちます。
電気絶縁性と高純度による安定性
アルミナは電気を通さない絶縁体であり、高温や高周波環境下でもその性能を安定して保ちます。高純度アルミナは不純物が少なく、イオン溶出が抑えられるため、半導体装置などの真空環境でも安心して使用可能です。
幅広い形状への加工が可能
アルミナは長年にわたる研究と利用実績があり、製造プロセスや加工技術が確立されています。粉末を用いた射出成形やプレス成形など、多様な方法に対応し、小型の複雑形状から板状・筒状の大型部材まで幅広く製造可能です。
コストパフォーマンスが高い
アルミナは材料自体が安価で入手しやすい点が大きな特長です。ジルコニアや窒化ケイ素は特殊な原料・製造技術を必要とし高価ですが、アルミナは豊富なボーキサイト鉱石から精製でき、コストを抑えられます。性能とコストのバランスに優れ、費用対効果の高い材料として多用途に選ばれています。
アルミナのデメリット
脆性が高く割れやすい
アルミナは高硬度・高強度を持つ一方で、破壊靱性(割れに対する粘り強さ)が低く、衝撃や曲げ荷重、急な温度変化による熱応力に弱く、脆性破壊を起こしやすい特性があります。引張や曲げ応力が限界を超えると突然破断する恐れがあります。
加工コストが高くつきやすい
アルミナは難削材で、焼結後の加工にはダイヤモンド工具による研削が不可欠です。加工には時間がかかり工具の摩耗も激しいため、金属部品に比べてコストが大きく増加しがちです。そのため、設計段階で形状をできるだけ単純にし、仕上げ加工を最小限に抑えることが重要です。
高精度加工には専用設備が必要
アルミナに高い寸法精度や滑らかな表面仕上げが求められる場合、対応可能な設備・工具が限られます。焼結後の穴あけやネジ加工はダイヤモンドホイールやリューターが必要で、一般的な加工機では対応が困難なこともあります。さらに、大型部品の高精度加工が可能なメーカーは限られるため、製作サイズや精度に制約が生じる場合があります。このリスクを避けるには、セラミックス加工に精通したメーカーと連携し、設計公差や加工工程の事前調整が不可欠です。
アルミナの用途
アルミナの主な用途は以下の通りです。
用途 | 製品例 | 要求特性 |
電子部品 | セラミック基板、絶縁体、X線管部品 | 絶縁性、耐熱性、寸法安定性 |
半導体装置 | ウエハチャック、
プラズマライナー |
耐プラズマ性、耐摩耗性、高純度 |
医療機器 | 人工関節、研磨材、
内視鏡部品 |
生体適合性、耐摩耗性、化学安定性 |
機械部品 | ベアリング、ノズル、
バルブ |
高硬度、耐摩耗性、耐熱性 |
アルミナは、電子・半導体から医療・機械分野まで幅広く活用される材料です。用途に応じた純度・グレード選定により、特性を最大限に引き出せます。
アルミナの加工種類と設計ポイント
アルミナ製品の製造は、主に「成形加工 → 焼結加工 → 仕上げ加工」の3つの加工工程で構成され、各加工工程で留意すべきポイントがあります。
成形加工(射出成形、ドライプレス など)
アルミナ粉末の成形加工では、製品の形状・サイズ・数量に応じて適切な手法を選定します。小型かつ複雑形状の量産にはセラミック射出成形(CIM)、板状や円盤状などの単純形状にはドライプレス(乾式圧縮成形)、中・大型部品や異形材には静水圧プレス(CIP)や押出成形が有効です。いずれの方法でも、粉末の充填ムラを抑え、均一な収縮を行うことで品質確保ができます。
焼結加工(温度・収縮率の管理)
焼結では成形体を1600~1700℃に加熱し、粉末を緻密に焼き固めて強固な構造にします。全方向で約15~20%の収縮が生じるため、寸法精度には収縮率を見越した設計と工程管理が重要です。加熱・冷却は緩やかに行い、熱割れや応力集中によるクラックを防止します。必要に応じて焼結助剤(例:MgO)を加え、温度低減や歪み抑制を図ります。焼結後は高硬度・高強度が得られますが、反りや寸法誤差が生じやすいため、仕上げ研削による精度調整が行われます。
仕上げ加工(機械加工)ダイヤモンド工具使用時の注意点
焼結後のアルミナ部品は、必要に応じてダイヤモンド工具で仕上げ加工が行われます。研削盤による研磨や、ドリル・ブローチによる穴・溝加工、放電加工などの手法により対応可能です。ただし加工コストが高いため、必要最小限に抑える設計が重要です。作業時は、工具焼け防止の冷却や、ひび割れを防ぐ切り込み・送り条件の最適化など、脆性材料に特有の配慮が行われます。
アルミナを設計する際の注意点
アルミナを設計するに際し、主要なセラミックス材料であるアルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素の主要特性を比較・理解し、材料選定の判断に役立てましょう。
アルミナ vs ジルコニア vs 窒化ケイ素 – 特性比較表
特性項目 | アルミナ(Al₂O₃) | ジルコニア(ZrO₂) | 窒化ケイ素(Si₃N₄) |
硬度・耐摩耗性 | 高耐摩耗性◎ | 高靭性で耐摩耗性〇 | 高靭性で耐摩耗性〇 |
強度(曲げ・圧縮) | 圧縮強度◎
靭性は低め |
曲げ・圧縮とも高強度 | 高温でも強度維持、
曲げ強度は最高 |
最大使用温度 | ~1500℃
(融点2072℃) |
~1200℃
(融点2715℃) |
~1400℃ |
熱衝撃抵抗 | 弱い (急冷急熱不向き) |
比較的良好 | 非常に優れる
(急冷急熱に強い) |
電気絶縁性 | 非常に優れる | 絶縁体(やや劣る) | 優れる |
化学的安定性 | 酸・アルカリに強い | 酸にやや弱い | 酸・アルカリに強い |
材料コスト | 安価・入手容易 | 高価・加工費高 | 高価・量産性に課題 |
主な用途 | 電子基板、絶縁体 | 人工関節、摺動部品 | エンジン部品 |
※上記は一般的な傾向をまとめたもので、実際の特性値はグレードや製法により変化します。設計時には各メーカーの物性表を参照し、必要特性を満たす材質を選定してください。
アルミナ選定時の設計ポイント集
アルミナを材料に選んだ際に考慮すべき設計上のポイント例を紹介します。
項目 | 設計ポイント | 目的 |
形状単純化/肉厚確保 | ・形状は極力シンプルに設計する
・薄肉・細孔は避ける ・複雑形状は部品を分割して構成する |
・割れ・欠け低減
・加工性向上 ・歩留まり向上 |
応力集中の緩和 | ・角部にはフィレット(R)を設ける
・内コーナーや溝は丸める(楕円不可) ・段差部にはテーパーや逃げを設ける |
・破損防止
・加工工具のアクセス性向上 |
公差・仕上げの最適化 | ・公差指定は必要最小限
・鏡面仕上げや高精度寸法は限定的に ・焼結素地のまま使用を検討 |
・加工コスト抑制
・過剰品質の回避 |
荷重方向の設計 | ・外力は圧縮方向にかける構造とする
(圧縮応力 > 引張応力) |
・脆性破壊の防止 |
熱膨張差への配慮 | ・異種材料との組み合わせはクリアランスを設ける
・接着剤や樹脂を介して接合する |
・熱応力の緩和
・接合部の信頼性向上 |
グレード選定 | ・用途に応じて純度を選定
(例:96%=安価・加工性良/99.5%以上=高耐性・高価格) |
・費用対効果の最適化 |
材質の妥当性 | ・アルミナは耐熱衝撃性が低いため、急速昇温部には不向き
・必要に応じて窒化ケイ素などを検討 |
・用途に応じた適材選定 |
純度による加工限界 | ・96%は99%以上に比べて割れやすく、最小穴径・ピッチに制約が出る | ・加工時の割れ防止
・設計限界の明確化 |
焼結収縮の考慮 | ・焼結時に15〜20%の収縮が発生するため、グリーン寸法(未焼結)を逆算設計 | ・寸法精度の確保
・後加工の最小化 |
測定・検査性の確保 | ・基準面からの寸法記載を徹底する
・測定困難な箇所は設計で回避(作らない)
|
・品質保証性の向上
・検査工数の削減 |
加工方法の妥当性 | ・穴径・深さ・数量に応じてレーザー/超音波/研削などを選定 | ・加工精度とコストの最適化 |
プラズマ耐性の確保 | ・高純度アルミナ(99.5%以上)を選定
・表面粗さRa≦0.2μmで粒子付着を抑制 |
・耐久性向上
・品質確保 |
熱伝導性の補完設計 | ・アルミナの低熱伝導性を補うため、冷却チャネルや金属部材とのハイブリッド構造を検討 | ・温度安定性の確保 |
アルミナ加工の見積もり依頼は「meviyマーケットプレイス」へ
アルミナ加工には、ぜひメビーマーケットプレイスをご活用ください。
メビーマーケットプレイスは、製造パートナーからあらゆる機械加工部品を手配できる日本最大級の製造業マーケットプレイスです。ミスミのIDがあれば新規の口座開設なしで加工部品を手配できます。
3Dもしくは2Dの設計データをアップロードし、加工方法・材質・表面処理などの見積条件を設定すると、条件に合ったパートナーが提案されます。複数の加工会社に個別で問い合わせる手間を削減できるほか、見積もりや出荷日などの条件を比較・検討する時間も短縮できます。
まとめ
アルミナは、「頼れる万能型セラミックス」ですが、使いこなすには材料特性の理解と設計上の工夫が欠かせません。本記事が、設計・材料選定の参考となり、アルミナのメリットを最大限に引き出した製品設計・開発につながれば幸いです。