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ハステロイとは?特性・用途・加工ポイントを徹底解説

ハステロイは、卓越した耐食性と耐熱性から、化学プラントや航空宇宙といった過酷な環境で使われる部品に欠かせない材料です。しかし、高価で加工が難しい「難削材」の代表格でもあるため、材料選定や加工に不安を感じる方もいるでしょう。 

本記事では、ハステロイの基本特性からメリット・デメリット、用途・加工のポイントまで解説します。設計・開発担当の方は最後までご覧ください。 

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ハステロイとは? 

ハステロイの基本情報 

ハステロイは、ニッケルを主成分とし、クロムやモリブデンなどを添加して耐食性や耐熱性を高めたニッケル基超合金の商標名です。日本産業規格(JIS H4553)では化学成分を以下のように定めています。 

単位% 

合金番号 

NW0276 

NW6455 

NW6022 

NW6002 

合金記号 

NiMo16Cr15Fe6W4 

NiCr16Mo16Ti 

NiCr21Mo13Fe4W3 

NiCr21Fe18Mo9 

通称 

ハステロイC-276 

ハステロイC-4 

ハステロイC-22 

ハステロイX 

Al 

 

 

 

 

B 

 

 

 

0.010 

C 

0.010 

0.015 

0.015 

0.050.15 

Co 

2.5 

2.0 

2.5 

0.52.5 

Cr 

14.516.5 

14.018.0 

20.022.5 

20.523.0 

Cu 

 

 

 

 

Fe 

4.07.0 

3.0 

2.06.0 

17.020.0 

Mn 

1.0 

1.0 

0.5 

1.0 

Mo 

15.017.0 

14.017.0 

12.514.5 

8.010.0 

Ni 

残部 

残部  残部  残部 

P 

0.040 

0.040 

0.025 

0.040 

S 

0.030 

0.030 

0.020 

0.030 

Si 

0.08 

0.08 

0.08 

1.0 

Ti 

 

0.7 

 

 

W 

3.04.5 

 

2.53.5 

0.21.0 

その他 

 

 

V0.35以下 

 

※NW0276Vは、最大0.35%以下を含有してもよい。 

もともとは米国のヘインズ社が開発しましたが、現在では一般名称として広く認知され、国内外のメーカーが同等材を製造しています。優れた耐食・耐熱性を持ち、成分組成によって「C-276」や「C-22」など多くの種類を持つ材料です。 

環境規制(RoHS)と鉛フリー対応 

ハステロイは、製造工程で意図的に鉛を添加しないため、鉛の含有量を厳しく制限しているEUの環境規制(RoHS)に適合する鉛フリー材料です。「鉛含有材料は使えないが、厳しい腐食条件もクリアしたい」という場面で、ハステロイは性能と環境適合を両立する有効な選択肢となります。 

ただし、鉛フリーである代わりに加工が難しくなるというトレードオフも存在するため、設計・開発の際には注意が必要です。 

ハステロイの特性 

機械的特性 

ハステロイはニッケルを主成分とするオーステナイト系の合金で、非常に高い靭性と延性を持ちます。JIS H4553で示されている主な機械的特性は以下のとおりです。 

項目  NW0276  NW6455  NW6022 
引張強さ(N/mm²)  620以上  690以上  690以上 
0.2%耐力(N/mm²)  275以上  275以上  310以上 
伸び(%)  40以上  35以上  45以上 

常温では比較的柔らかく、引張強さはステンレス鋼(SUS304)より高いものの、インコネル718のような時効硬化型ニッケル基超合金と比較すると突出して高いわけではありません。 

構造用材料には不向きとされており、腐食や熱から保護するための容器や保護材として使用されるのが基本です。 

物理・化学的特性 

耐食性の高さはハステロイ最大の特徴です。ニッケルにクロムやモリブデンの添加により塩酸や硫酸などの強酸、さらに酸化性・還元性どちらの環境にも極めて強い耐性を持ちます。ステンレス鋼が苦手とする塩化物イオンによる孔食や応力腐食割れに強いです。表面処理なしで腐食性薬品の容器などに使用できます。 

融点が12701390℃と耐熱性も高いことが特長です。物理的には、鉄やステンレスより重く、熱を伝えにくい(熱伝導率が低い)性質があるため、切削加工時に工具に熱がこもりやすい点に注意が必要です。 

項目 

単位 

物性値 
比重 

 

8.94 

融点 

 

12701390 

熱膨張 

10-6/K(20℃) 

10.811.3 

熱伝導率 

W/m・K(20℃) 

10.112.5(23℃) 

導電率 

106 S/m 

0.8 

ハステロイのメリット 

ハステロイの主なメリットは以下のとおりです。 

  • 卓越した耐食性
    ハステロイ最大のメリットは、並外れた耐食性にあります。酸・塩基・塩素イオンなど、ステンレス鋼では対応できない幅広い腐食環境で長期間安定して使用できるため、化学プラントなどでメンテナンス間隔を大幅に延長可能です。 
  • 高温環境での使用
    種類によりますが、600℃以上の高温でも強度と耐食性を維持し、一部の合金は1100℃級の耐熱性を持ちます。ジェットエンジンやガスタービンなど、高温かつ腐食性の厳しい環境で性能を発揮します。 
  • 表面処理不要と加工性
    耐食性が極めて高いため、メッキや塗装などの防錆処理が不要です。コスト削減や納期短縮につながります。難削材ではあるものの、溶接や曲げ加工も可能であるため、さまざまな形状で利用可能です。 
  • 高い信頼性と環境規制適合
    低温から高温まで割れにくい性質を持ち、圧力容器など高い信頼性が求められる部品に最適です。 有害な鉛を含まないためRoHS指令など国際的な環境規制にも適合します。 

ハステロイのデメリット 

次に、ハステロイのデメリットについて見ていきましょう。 

  • 高額な材料コスト
    ニッケルやモリブデンといったレアメタルを多量に含むため、原材料価格がステンレス鋼の数倍以上と高価です。 溶解・鋳造にも特殊な工程が必要で、製造コストも高くなるため、部品単価は一般材より一桁以上高くなります。
  • 加工の難しさと高い加工費
    「難削材」の代表格で、切削や研削が極めて困難です。 工具の摩耗が激しく、加工に高度なノウハウと長い時間を要するため、加工費用もステンレスの数倍以上になることがあります。 
  • 平凡な物理的強度
    優れた耐食性や耐熱性に比べ、強度自体は中程度です。 繰り返し荷重に耐える疲労強度や高温で長時間荷重に耐えるクリープ強度は高くないため、フレームやボルトのような構造部材には適していません。 
  • 入手性と重量の問題
    特殊な材料であるため汎用材ほど流通量が多くなく、必要な時にすぐ入手できない場合があります。 鉄より比重が大きく重くなるため、軽量化が求められる設計には不利です。 
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ハステロイとステンレス鋼・インコネルとの違い 

ハステロイとステンレス鋼(SUS316)・インコネルとの違いに関して、以下の表にまとめます。  

特性項目 

ハステロイ 

ステンレス鋼(SUS316) 

インコネル(625) 

耐食性 

非常に高い 

(あらゆる酸・塩化物環境に耐える) 

良好だが強酸・塩化物には弱い 

(錆・腐食の可能性) 

高い 

(海水・酸化環境に強いが、酸でハステロイに劣る) 

耐熱性(使用温度) 

高い 

600℃程度まで使用可、一部合金は1000℃超も可) 

中程度 

(約300℃550℃が実用上限) 

非常に高い 

800℃超でも高強度を維持) 

高温強度・クリープ 

中程度 

(高温での強度維持は限定的) 

低い 

(高温下では強度低下が大きい) 

非常に高い 

(高温でも強度・クリープ耐性優秀) 

機械的強度(常温) 

中程度 

中程度 

中~高 

(析出硬化処理で更に向上) 

加工性(切削・成形) 

切削は非常に難しい 

塑性加工は可能だが加工硬化しやすい 

良好 

(切削・溶接とも容易。加工硬化に注意) 

切削は難しい(ハステロイ同様難削材) 

溶接は可能 

比重(密度) 

8.9(重い) 

7.9(基準) 

8.4(やや重い) 

材料コスト 

非常に高い 

(ステンレスの数倍以上) 

低~中 

(量産材で安価) 

非常に高い(ハステロイ以上の場合も) 

主な用途 

強酸・海水・高温腐食環境の部品 

(化学プラント、海洋、ガス設備) 

一般的な耐食用途(食品産業、建築、配管など) 

高温構造部材(タービン、排気系、宇宙航空部品) 

ハステロイの主な用途・適用事例 

ハステロイは、優れた耐食性と耐熱性から、ほかの材料では耐久性が不足するような過酷な環境で採用されます。主な業界別の用途は以下の通りです。 

分野  主な用途・適用事例  適用される理由 
化学・石油化学プラント  ・反応容器 

・熱交換器チューブ 

・バルブ 

・ポンプ内部品 

強酸や塩化物への圧倒的な耐食性 
石油・ガス・エネルギー  ・油井管 

・海水ポンプ 

・排煙脱硫装置 

硫化水素や海水による腐食・割れへの強い耐性 
航空宇宙  ・ジェットエンジン燃焼室 

・タービン部品 

・ロケット部品 

優れた耐熱・耐酸化性 
計測・半導体・医療  ・圧力計隔膜 

・半導体製造装置チャンバー 

・医療機器部品 

優れた耐食性による高い清浄度と装置の信頼性 

ハステロイの加工種類とポイント 

切削加工(機械加工)のポイント 

ハステロイは「難削材の王者」とも呼ばれ、切削加工には多くの困難が伴います。主な理由は以下の4つです。 

  • 高温でも強度が落ちにくいため切削抵抗が大きく、工具への負荷が大きい 
  • 加工硬化しやすく、一度切削した面が硬化して次の加工が難しい 
  • 熱伝導率が低いため切削熱が工具の刃先に集中し、工具の摩耗や欠損が早い 
  • 切りくずが工具に溶着しやすく、加工精度や仕上げ面の品質が低下する 

 上記の課題を克服するには、十分な冷却、剛性の高い加工設備、そして切削速度や工具材質といった加工条件の最適化など、高度な技術とノウハウが求められます。 

溶接のポイント 

切削加工の難しさとは対照的に、ハステロイの溶接性は良好です。開発段階で溶接割れの原因となる炭素やケイ素の含有量を極限まで低減しているためです。TIG溶接やMIG溶接といった一般的な手法で接合でき、専用の溶加材も市販されています。 

最高の耐食性能を引き出すためには、溶接後に「溶体化熱処理(アニール)」を施し、溶接で生じた内部応力や有害な析出物を除去することが推奨されます。作業上のコツは、予熱をせず、低入熱で手早く溶接することです。難削材のイメージとは裏腹に、溶接で困ることは比較的少ない材料といえるでしょう。 

塑性加工(鍛造・成形)のポイント 

ハステロイの塑性加工(鍛造、プレス、曲げなど)は、熱間・冷間ともに厳密な管理が求められます。熱間加工では、適正な加工温度範囲が他の合金に比べて狭く、温度が低すぎても高すぎても割れや組織の劣化につながるため、精密な温度管理が必須です。加工後は必ず溶体化熱処理(アニール)を行い、耐食性と延性を回復させる必要があります。 

冷間加工では、加工硬化が著しいため、大きな変形を加える場合は途中で「中間焼鈍」を複数回挟むことが不可欠です。適切な温度管理と段階的な加工、要所での熱処理が、ハステロイの塑性加工を成功させる鍵となります。 

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まとめ 

ハステロイは、ニッケル基の耐食・耐熱合金として半世紀以上にわたり実績を積んできた信頼性の高い材料です。本記事ではハステロイについて、特性やメリット・デメリット、用途や加工時の注意点を解説しました。極限環境で力を発揮する材料であるため、特徴を知っておくことは不可欠です。 

本記事で紹介した内容を参考に、ハステロイの特性を正しく理解し、適材適所で活用しましょう。 

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