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炭化ケイ素とは?特性・用途・加工方法までを徹底解説

炭化ケイ素(SiC)は、高い硬度と耐熱性に加え、半導体としての性質も併せ持つ高性能セラミックスです。製造業の設計・開発担当者にとって、過酷な環境下での信頼性向上や、省エネ化に欠かせない材料です。

ただし、その優れた性能を最大限に引き出すには、特有の脆性や、ダイヤモンド工具を必要とする加工の難しさなど、材料への深い理解が求められます。

本記事では、炭化ケイ素の基本特性からメリット・デメリット、代表的な用途、さらには加工時のポイントまで解説します。高性能部品の材料選定に関わる設計・開発担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。

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炭化ケイ素とは?

炭化ケイ素(SiC)は、ケイ素(Si)と炭素(C)が結合した化合物で、「シリコンカーバイド」とも呼ばれるファインセラミックスです。炭化ケイ素が注目される理由は、ダイヤモンドに似た強固な結晶構造により、極めて高い硬度、優れた耐熱性、化学的安定性を実現している点にあります。

さらに、多くのセラミックスが絶縁体であるのに対し、炭化ケイ素は半導体としての性質も併せ持つというユニークな特徴を持っています。

天然では稀ですが、19世紀末に確立された合成法によって大量生産が可能になり、当初は「カーボランダム」の名で研磨材として普及しました。現在では黒色や緑色の粉末から高純度の半導体ウェハーまで多様な形態で供給され、構造部材から最先端の電子デバイスまでを支える重要なエンジニアリング材料となっています。

炭化ケイ素の特性

炭化ケイ素が注目される理由は、他の材料にはない優れた特性にあります。ここでは機械的、熱的・化学的、電気的な特性に分けて見ていきましょう。

機械的特性

炭化ケイ素の主な機械的特性は以下のとおりです。

材質記号 ビッカース硬さ(GPa) 曲げ強さ(MPa) 圧縮強さ(MPa) ヤング率(GPa) ポアソン比 破壊靭性(MPa・m¹/²)
SC120O 23.0 500 4,300 430 0.16 2.5
SC121P 22.0 296 3,064 410 0.16 2.3
SC211O 22.0 600 4,200 430 0.16 4~5
SC1000 23.0 500 4,200 440 0.17 2~3

出典:炭化ケイ素 SiC | ファインセラミックス|京セラ

炭化ケイ素の最大の機械的特徴は、ダイヤモンドに次ぐ極めて高い硬度と、高温下でも低下しにくい強度です。ケイ素と炭素の原子がダイヤモンドに似た強固な共有結合で結びついているためで、優れた耐摩耗性と機械的強度を実現しています。ビッカース硬さは22GPaにも達し、金属材料を圧倒します。

このため、ポンプのメカニカルシールや軸受けなど、激しい摩耗環境下で使われる摺動部品に最適です。ただし、セラミックス特有の脆さも併せ持つため、急な衝撃荷重には弱く、設計上の配慮が求められます。

物理・化学的特性

炭化ケイ素の主な熱的特性は以下のとおりです。

材質記号 平均線膨張率(×10-6/K) 熱伝導率20℃(W/(m・K)) 比熱容量(J/(g・K)) 耐熱衝撃温度差(℃)
40-400℃ 40-800℃
SC120O 3.7 4.4 190 0.67 300
SC121P 3.6 4.3 190 0.70 250
SC211O 3.7 4.4 60 0.67 400
SC1000 3.7 4.4 200 0.67 350

出典:炭化ケイ素 SiC | ファインセラミックス|京セラ

炭化ケイ素は、1,400℃の高温環境下でも強度低下を起こさない優れた耐熱性と、金属に匹敵する高い熱伝導性を併せ持ちます。表面に形成される緻密な酸化膜(SiO₂)が内部を保護するため、高い耐酸化性も示します。

また、熱膨張係数が小さいため、温度変化による寸法変化が少なく熱的安定性に優れた材料です。熱伝導率はアルミナの数倍にも達し、熱を素早く拡散させるためパワー半導体の放熱基板にも利用されます。

化学的にも安定しており、ほとんどの酸やアルカリに侵されないため、化学プラントの耐食部品としても活躍します。高温、熱、腐食といった複合的な過酷環境下で安定して性能を発揮できる点が、炭化ケイ素の大きな強みです。

電気的特性

炭化ケイ素は、他の多くのセラミックスとは異なり、優れた半導体としての電気的特性を持ちます。これは、シリコン(Si)の約3倍という広いバンドギャップを持つためです。シリコン半導体では動作できない高温環境下でも安定して機能し、かつ高い電圧にも耐えられます。

また、絶縁破壊電界強度はシリコンの約10倍と高くなっています。この特性を活かしたSiCパワーデバイスは、シリコン製に比べて電力損失を劇的に低減可能です。電気自動車(EV)のインバータや太陽光発電のパワーコンディショナーに採用が進んでおり、システムの小型化と高効率化を実現しています。

炭化ケイ素のメリット

ここでは、炭化ケイ素が持つ3つのメリットについて解説します。

高硬度・高耐摩耗性

炭化ケイ素の最大のメリットは、優れた硬度と耐摩耗性です。ダイヤモンドに次ぐ硬さを誇るため、摩耗が激しい環境でも部品の長寿命化を実現します。

例えば、ポンプのメカニカルシールに炭化ケイ素を用いると、スラリー(固形粒子を含む液体)による損傷が格段に減り、メンテナンス周期を延長できます。また、表面が傷つきにくく平滑性を長期間保てるため、摺動部品の性能を安定させることが可能です。

このように、炭化ケイ素は過酷な摩耗条件下で、他の材料では達成できない高い信頼性と耐久性を提供します。

高温環境下での安定性

炭化ケイ素は、1,400℃を超える高温環境でも安定して使用できる点が大きなメリットです。多くの金属材料が高温で強度を失い、酸化してしまうのに対し、炭化ケイ素は自己生成するSiO₂皮膜が保護してくれます。

そのため、ガスタービンや航空機エンジンのような高い温度にさらされる部品に適用すれば、システムの軽量化やエネルギー効率の向上に貢献します。また、電子部品としても高温で安定動作するため、冷却機構の簡素化も可能です。

軽量かつ高い剛性

炭化ケイ素は、鉄の半分以下の軽さでありながら、鋼の2倍以上という高い剛性(ヤング率)を持つ点もメリットです。単位重量あたりの剛性(比剛性)が非常に高く、部品の軽量化と高剛性を同時に実現できます。

例えば、ロボットアームや高速回転機器の部品に用いれば、慣性重量を低減し、装置の応答速度向上や省エネルギー化につながります。また、熱による変形も少ないため、宇宙望遠鏡の鏡のような高い寸法安定性が求められる精密部品にも最適です。

炭化ケイ素のデメリット

多くの利点を持つ炭化ケイ素にも、以下のようなデメリットが存在します。

加工が難しい

炭化ケイ素の最大のデメリットは、加工の難しさです。ダイヤモンドに次ぐ高い硬度を持つため、焼結後の素材を通常の切削工具で加工することはほぼ不可能です。そのため、ダイヤモンド砥石を用いた研削加工が主な手段となりますが、これには非常に時間がかかり、工具の消耗も激しくなります。

特に複雑な形状や精密な公差が求められる場合、加工コストが増加する一因となります。炭化ケイ素部品の製造には高度な技術と専用設備が不可欠であり、設計の自由度を制約する要因にもなっています。

成形コストが高い

炭化ケイ素は、部品を形作る焼結プロセスに起因するコストの高さもデメリットです。原料となるSiC粉末を成形し、2,000℃を超えるような高温の炉で長時間焼いて固める(焼結する)必要があるため、工程には多くのエネルギーと時間を要します。

特に大型の部品や複雑な形状の部品を製造する場合、設備的な制約からコストはさらに増大します。前述の加工の難しさも相まって、同じ形状の金属部品と比較すると、桁違いに高価になることも珍しくありません。

脆く割れやすい

炭化ケイ素は硬い一方で脆く、衝撃に弱いというデメリットも持ち合わせています。金属のように力が加わった際に変形してエネルギーを吸収できず、許容範囲を超えると瞬時に割れてしまう「脆性破壊」を起こします。そのため、部品の落下や衝突はもちろん、組立時の過度な締め付けなどでも破損するリスクがあります。

設計段階においても、応力が集中する鋭利な角を避け、角に丸み(R)を持たせるなどの配慮が不可欠です。この脆性を理解し、慎重な取り扱いと設計を行うことが、炭化ケイ素を有効に活用する上での鍵となります。

炭化ケイ素の用途

炭化ケイ素は、古典的な工業製品から最先端分野まで、さまざまな用途で活用されています。ここでは代表的な4つの分野での用途について見ていきましょう。

半導体(SiCパワーデバイス)

炭化ケイ素の用途として注目されているのが、電力制御に使われるSiCパワーデバイスです。炭化ケイ素が持つ半導体としての性質が、従来のシリコン素子を上回る性能を発揮するためです。

具体的には、電力変換時のエネルギー損失を低減し、高温でも安定して動作します。この特性を活かし、電気自動車(EV)のインバーターや太陽光発電のパワーコンディショナー、データセンターのサーバー電源などに採用が進んでいます。

自動車(ブレーキ・センサー部品など)

自動車分野では、高温・高摩耗といった過酷な環境下で性能を発揮する部品に利用されている材料です。炭化ケイ素が持つ優れた耐熱性と耐摩耗性が、自動車の安全性と環境性能を高めるからです。

代表例が、高級スポーツカーに採用されるカーボンセラミックブレーキディスクです。高温でも安定した制動力を発揮し、鉄製ディスクより軽量です。また、ディーゼル車の排ガスを浄化する粒子状物質除去フィルター(DPF)にも、高温の排気に耐える炭化ケイ素が使われます。

産業機械(軸受・シール材など)

産業機械の分野では、装置の長寿命化とメンテナンス性向上のため、耐久部品として炭化ケイ素が採用されています。炭化ケイ素の優れた耐摩耗性と耐腐食性が、機械部品の消耗を抑制するためです。

化学プラントで腐食性の液体を送るポンプの軸封部品(メカニカルシール)や、半導体製造装置で使われる精密ステージの部品が挙げられます。これらの部品は、過酷な環境下でも長期間にわたって安定した性能を維持可能です。

航空宇宙・エネルギー分野

航空宇宙やエネルギーといった最先端分野では、極限環境下での信頼性を確保するキーマテリアルとして炭化ケイ素が期待されています。軽量でありながら高い剛性を持ち、高い耐熱性や耐放射線性を備えているため、従来材料では達成困難な要求仕様を満たせるからです。

具体的には、宇宙望遠鏡の鏡や、次世代ジェットエンジンのタービンブレード、安全性を高めた原子力発電所の燃料被覆管などで開発・採用が進んでいます。

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炭化ケイ素の加工種類とポイント

炭化ケイ素部品を製造するには、硬さと脆さを考慮した特殊な加工技術が必要です。ここでは、主な加工法である「研削」「焼結・成形」「コーティング・接合」のポイントを解説します。

研削加工

焼結後の炭化ケイ素の仕上げ加工は、ダイヤモンド砥石による研削が基本です。炭化ケイ素が極めて硬いため、より硬いダイヤモンドでなければ精密な形状や寸法を出せないからです。

平面研削や円筒研削により、マイクロメートル単位の高い寸法精度や滑らかな表面を実現します。しかし、加工に時間がかかり工具の消耗も激しいため、コストが高くなる傾向があります。

そのため、設計段階から研削による仕上げ代をできるだけ少なくするような、最終形状に近い形での焼結がコスト削減の鍵です。

焼結・成形加工

炭化ケイ素部品の製造は、原料粉末を成形し高温で焼き固める「焼結」がプロセスの中心となります。炭化ケイ素は融点が非常に高いため、金属のように溶かして鋳造ができません。粉末冶金の手法で緻密なセラミック体を作る必要があります。

具体的には、SiC粉末を金型でプレス成形した後、2,100℃程度の高温炉で焼結させます。この際、製品は大きく収縮するため、収縮率を精密に見越した金型設計が必要です。いかに狙い通りの形状に焼結できるかが重要なポイントです。

コーティング・接合技術

炭化ケイ素は、他の材料にコーティングしたり、部品同士を接合したりする技術も重要です。炭化ケイ素単体では作れない複雑な形状や、異種材料との複合部品を実現でき、優れた特性をより幅広い用途に活用できるからです。

例えば、グラファイト製の部品表面にCVD法でSiC膜を形成し、耐酸化性を付与する技術があります。また、分割して焼結した部品同士をろう付けで接合し、内部に流路を持つ複雑な構造を作ることも可能です。これらの技術は、炭化ケイ素の加工性の低さを補い、応用範囲を広げる鍵となります。

炭化ケイ素と他素材の比較

炭化ケイ素の採用を検討する際は、他の材料との特性の違いを理解しておきましょう。ここでは代表的なセラミックスや金属材料と比較します。

アルミナや窒化ケイ素との違い

炭化ケイ素は、他のセラミックスと比較して特に熱的特性と硬度に優れています。安価で汎用的なアルミナよりも熱伝導率や耐熱性が高く、高靭性で知られる窒化ケイ素よりも高温での安定性に優れています。

高い放熱性が求められる半導体関連部品ではアルミナより炭化ケイ素が適し、衝撃がかかるベアリング球では靭性の高い窒化ケイ素が選ばれるといった使い分けがされます。

したがって、用途に応じて耐熱・硬度の炭化ケイ素、靭性の窒化ケイ素、コストのアルミナというように、それぞれの長所を活かした材料選定が重要です。

金属材料(SUS・チタンなど)との比較

炭化ケイ素と金属材料との最大の違いは、硬度や耐熱性と、加工性や靭性がトレードオフの関係にある点です。炭化ケイ素はステンレス鋼などを圧倒する硬度・耐熱性・耐摩耗性を持つ一方で、金属ははるかに加工しやすく、衝撃で割れずに変形する靭性に優れます。

摩耗が激しいポンプのシール部品には炭化ケイ素が最適ですが、複雑な形状で衝撃がかかる構造部品には金属が選ばれます。このように、耐摩耗性や耐熱性が最優先される場合は炭化ケイ素、加工のしやすさや衝撃への信頼性、コストを重視する場合は金属というように、要求特性に応じた明確な使い分けが必要です。

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まとめ

炭化ケイ素(SiC)は、極めて高い硬度と耐熱性を持つ高性能なセラミックス材料です。最大の特徴は、機械部品の長寿命化を実現する優れた機械的特性に加え、次世代パワーデバイスとして社会の省エネルギー化に貢献する半導体としての性質も併せ持つ点です。 

また、軽量・高剛性、化学的安定性から航空宇宙分野など極限環境でも活用される一方で、性能を最大限に引き出すには、特有の脆性や加工の難しさを理解し、適切な設計を行う知識が求められます。 

本記事でまとめた炭化ケイ素の特徴を理解して、材料選定や設計、調達業務にご活用ください。 

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