AIとはArtificial Intelligenceの略で人工知能を指します。学習したデータを基に、リクエストされたタスクを実行します。製造業では、「設計:3D CAD」、「設計検証:CAE」、「データ管理:PDM」というようにデジタル化が進み、更には多くのデジタル化されたデータベース(例えば特許情報など)化が進んでいます。
AIによってこれらデジタルデータを用いていく可能性は高いと考えます。
今回から2回にわたり、富士通株式会社 シニアエバンジェリストの松本国一氏より、製造業×AIをテーマにお話を伺い、製造業・ものづくり業界におけるAIの可能性を探っていきます。
富士通株式会社 シニアエバンジェリスト
First Creative Agent代表エバンジェリスト
松本氏はエバンジェリストとして、IT全般、働き方改革分野を得意とされています。年間講演数170回を超えるというお忙しい中、お話をお伺いすることができました。
エバンジェリストとは
語源はキリスト教の「伝道師(evangelist)」。IT業界を主体とする新しい職種で、最新のテクノロジーやITのトレンドなどをユーザーにわかりやすく解説し、広く知らせる役割を担っている。 |
目次
これまでのAIブーム
「製造業×AIという可能性をどう考えるか」という質問に対して、まずはAIの進化について説明していただきました。
今日、ChatGPTという言葉を聞かない日はなく、空前のAIブームといえますが、これまでも何回かブームがあったとのことです。まとめてみました。
第1次AIブーム
1960年~1970年:推論と探索の時代
Lispというプログラミング言語が1958年にはじめて設計されました。
この言語は高水準プログラミング言語の中でもFORTRANに次いで2番目に古いものといわれています。これにより、推論と探索がコンピュータで可能になったことにより、特定の問題について人間よりも高速で問題を解くことができるようになりました。
出典:松本国一氏
第2次AIブーム
1980~1990年:知識獲得の時代
専門分野の知識を取り込むことで、専門家のようにふるまうプログラムによって、適切な判断ができるようになりました。例えば、判例を踏まえた法律の解釈などになります。しかし、対話型のAIとは異なり、知識をプログラム化する必要がありました。これらはエキスパートシステムともいわれています。
出典:松本国一氏
皆さんもファジー制御をご存じでしょう。「あいまい性」ともいいますが、ファジー制御の扇風機がありました。
ニューラルネットワークといわれる人間の脳の神経回路を模した数理モデルによって、人間の感覚や判断を模倣することで、複雑で不確かな状況に対応できる技術が生まれました。
第3次AIブーム
2000~2010年:機械学習の時代
従来は困難だった膨大なデータの収集や管理が可能になり、「ビッグデータ」から機械学習をできるようになりました。前回お話した画像から判断するようなものがこれにあたります。つまり「いい画像」「わるい画像」のその具合を判断します。
出典:松本国一氏
この頃から、機器にAIが組み込まれるようになり、無意識のうちにAIを利用するようになりました。
例えば、ディ-プラーニングが搭載されたカメラによる自動車ナンバー読み取りなどがあります。製造業でも画像検査装置にAIが搭載され、機械学習によって良品・不良品判別を行うことも可能となりました。
第4次AIブーム?
2022年~ :大規模モデルの時代
ChatGPT(3.0)が登場しました。これは1750億個のパラメータ(外部から投入されるデータなどを指す数)がありました。このパラメータを計算式に当てはめ学習させることによって40兆を超える知識を導くことができるようになったわけです。これは人の一生涯に得る1000倍の知識とのこと。
これまでのAIと徹底的に違うところは、判断から生成を行うことに変わったことです。
出典:松本国一氏
そしてChatGPT(4.0)では、1兆個を超えるパラメータに拡張されています。
これにより下記の構図が可能になります。
自分の知識にないもの ↓ 検索エンジン ↓ 最新の事例 ↓ 知識と照らし合わせ記憶にあるもの以外の内容を引っ張ってくる |
エンジニアの世界では、原理と原則が基本です。定量的なものにより開発設計が行われます。
機械設計でいえば、物理学や力学といった工学に反した事象の事実はその時代にひとつの真実しかありません。
新たな開発を行う場合、「自分の知識に無いものを得る」ことが可能になることは、この産業界を変える大きな可能性があるということです。その判断を行うのは人ではありますが、もしかしたらそれさえもAIが考えてくれるかもしれないと私は考えます。
クラウドコンピューティングとAI
松本氏に、「DXとしてAIを利用したアプリケーションがありますか?」と質問しました。
その答えは、「クラウドコンピューティングとAPIによるChatGPTの連携にある」ということです。
クラウドコンピューティングサービスは私たちの身の回りに溢れています。旅行予約サイトでは、ChatGPTユーザーの旅行計画を簡素化する目的で、ChatGPTのOpenAIと連携を開始するという報道もありました。
クラウドコンピューティングのサービスがAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース英:Application Programming Interface)によりインターフェースが作られChatGPTと、すでに繋がり始めているとのことです。
製造業向けの開発設計ソリューションの多くがクラウド対応化しています。3D CAD業界でもクラウドへの傾向が強まっており、これからの製造業においてクラウドコンピューティングとAIの可能性は非常に大きいと私は考えます。
AIによる変化する環境への対応
対話型AIは質問したことへの回答を得ることが可能ですが、進化するAIの更なる可能性について「進化するAIは答えてくれるだけなのでしょうか?」と、質問しました。
その答えは、「質問した内容に答えるだけではない。」ということです。今でも、AIはその人が必要とするものを生成してくれます。
例えば、エクセルファイルをグラフ化する時に、次のようなことを行ってくれるとのことです。
- 複数ファイル → ChatGPT → グラフ化
- マーケットデータ → ChatGPT → 将来予測
ここではその意図を理解して、ベテランのマーケッターが必要とするグラフ化処理を行うことも可能とのことです。これは何を意味するのでしょうか。
その目的を理解した上での作業と判断ができるということは、次の可能性を意味します。
- 図面を読んで検図する
- バグのある図面を修正する
- 図面が「正常か異常か?」の判断だけではなく、改善案を出す
まとめ
なんと言ってもAIの知識量は膨大です。人智を超えた判断もしてくれるかもしれません。そのためには、すでに存在するエンジニアのアナログ的な知識や経験、世の中で確立されている工学的な理論をデジタルとしてAIに学習させていくことが必要です。
<技術者の認識をインプットする> ●用語 ●技術 ●工学的な理論 <図面の描き方を学習する> ●たくさんの図面を覚えさせる |
これらのことは、すでにデータ化されています。
JISやISOの規格、材料の特性、特許データなど様々なデータがデジタル化されているので不可能ではありません。しかもローカルでは、企業ごとに膨大なCADデータとしてのデジタルデータや、生産管理システムなどによる調達部品の一品ごとのデータも存在しています。
「こんな設計がしたいのだけど?」ということで正しく設計仕様を質問することができれば、その設計案を図面として生成してくれる日も遠くないのかもしれません。
次回は、引き続き、松本氏のお話から「AIで大きく変化するものづくり」についてお話します。