ポリエチレンテレフタレートはペットボトルの材料としても非常によく知られています。日常を含め、工業分野においても非常に多く使われる、汎用的な樹脂素材のひとつです。この記事ではポリエチレンテレフタレートの用途や特徴、類似素材について解説します。
目次
ポリエチレンテレフタレートとは
ポリエチレンテレフタレート(Poly Ethylene Terephthalate)は、テレフタル酸とエチレングリコールを結合させて作られた樹脂です。英語表記を略して、PET(ペット)ともよばれます。世界で最も多く使用される樹脂といわれており、ペットボトルや衣類をはじめ、食品用のトレーや工業用のフィルム、磁気テープなどにも使われています。
1941年にイギリスのキャリコプリンターズ社で、J.R.ウィンフィールドとJ.T.ディクソンによって製法が発明され、1948年にポリエステルとして販売が開始されました。国によって商標が分かれており、アメリカではデュポン社の商標である「ダクロン」とよばれていますが、日本では帝人と東レの共同商標である「テトロン」、イギリスでは「テリレン」ともよばれています。
ポリエチレンテレフタレートの原材料
ポリエチレンテレフタレートは、石油を原料とするテレフタル酸(芳香族化合物)とエチレングリコール(アルコール)を270~280℃の高温・高真空条件下で化学反応させて製造します。
この重合プロセスにより、ポリエチレンテレフタレートの特徴的な分子構造が形成されます。ポリエチレンテレフタレートの優れた物性を生み出すには、原料を適切な比率で反応させる必要があります。原料の品質管理と製造プロセスの最適化が、製品品質に大きく影響します。
ポリエチレンテレフタレートのおもな用途
特に食品用の用途も多く、日本でも1977年にペットボトルの生産が開始されて以来、飲料容器として大量に流通してきました。それまで主流だったガラス瓶に比べて、軽くて割れにくいなど、多くのメリットがあったためです。ペットボトルの「ペット」は、ポリエチレンテレフタレートの「PET」に由来しているのです。
用途によりさまざまなグレードがありますが、材料メーカーにより名称や取り扱いグレードが異なるため、メーカーのカタログなどで確認しましょう。
合成繊維
ポリエチレンテレフタレートは合成繊維としての使用量も非常に多い素材です。繊維としてはポリエステルとよばれ、合成繊維のうちおよそ30%を占めています。ポリエステルは肌触りがよく、保温性にも優れているため、フリースやセーター、シャツなど、多くの衣類に使われます。繊維として使用した場合には、耐久性と速乾性に優れるため、衣類以外でもカーテンやカーペット、紐やロープ、テント素材、アウトドアシートなど、多様な用途があります。合成繊維として使用されるものには、触媒や重合などによりさまざまなグレードがあります。
エンプラ
工業用途で使用されるポリエチレンテレフタレートは、高機能なプラスチックであるエンプラに分類されます。フィルムや磁気テープなどにも使われるほか、電子機器部品や電化製品ハウジング、パーテーション、ディスプレイなどにも使用されます。また、ガラス繊維を混ぜて繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)としても使われるケースも多く、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート(GF-PET)は軽くて丈夫な素材として自動車部品などに利用されています。また、機械材料、切削材量としてプレートの状態でも販売されています。エンプラとしては静電グレード、帯電防止グレードなどが取り扱われています。
食品容器
ポリエチレンテレフタレートの主な用途のひとつが、ペットボトルや皿、卵パックなどの食品容器です。食品容器に利用されやすい理由には透明性の高さと、成型のしやすさ、軽さなどがあります。さらに食品容器は繊維などにリサイクルしやすく、日本では多くの場所でリサイクル用の回収が行われています。食品容器として用いるものには、食品衛生グレードに適合する材料を使用します。
ポリエチレンテレフタレートの特徴
ここではポリエチレンテレフタレートの物性や長所、短所などについて解説していきます。
性質
物理的、機械的性質は次のようになっています。
単位 | 数値 | |
---|---|---|
比重 | – | 1.29-1.4 |
引張強さ | Mpa | 48-73 |
破断伸び | % | 30-300 |
曲げ強さ | Mpa | 96-131 |
引張弾性率 | Mpa | 2800-4200 |
圧縮強さ | Mpa | 76-103 |
衝撃強さ | j/m | 14-37 |
ロックウエル硬さ | – | M94-101 |
荷重たわみ温度(1.82Mpa) | ℃ | 210-227 |
エンプラに分類されていることもあり、引張強さや曲げ強さなど、優れた性質を数多くもっています。一方で衝撃強さはあまり高くなく、汎用樹脂であるABSの衝撃強さ(75-640)と比較しても劣ります。
長所
ポリエチレンテレフタレートの長所には次のようなものが挙げられます。
耐寒性
使用雰囲気温度が-15~55℃(※使用する際に想定される周囲の温度の上限と下限の設定値)であり、低温環境でも十分な耐性を発揮します。これにより、ポリエチレンテレフタレートを使用したフィルムや容器は冷凍保存時の内容物の保護や輸送時の破損防止に役立ち、食品産業や物流業界での信頼性が確保されています。
透明性
全光線透過率が87%(※全光線透過率:入射した全ての光を100%としたときに、対象物を通過した際に何パーセントに変化するかの値)と非常に高く、視認性が優れているため、中身の色や状態が容易に確認できます。これにより、飲料ボトルや食品容器、化粧品容器など、視覚的な魅力を重視する製品の包装に最適です。
耐水性
PETの吸水率は24時間浸漬で約0.1%と極めて低く、水分の影響を受けやすい食品や飲料の包装に適しています。PETボトルが飲料容器として広く普及しているのも、この耐水性が理由のひとつです。
電気絶縁性
耐アーク性は90~120秒と長く、汎用プラスチックに比べても高い電気絶縁性を持ち、電気製品の絶縁材料としても利用されています。特に、PETフィルムは薄くて柔軟性があるため、電子部品の絶縁やコンデンサの誘電体など、さまざまな用途で使用されています。
環境への負荷
焼却時に有毒ガスを発生しにくい特性を持つため、適切に処理すれば環境影響を最小限に抑えられます。特に、PETボトルはリサイクルの仕組みが整っており、環境負荷が抑えられています。
短所
次に、ポリエチレンテレフタレートの短所を解説します。
単体では脆い
性質でも述べたとおり、衝撃強さは劣ります。そのためエンプラとして使用する際には、ガラス繊維などで強化したものを使用するケースが多いです。
高温やアルカリ環境下で加水分解を起こす
ポリエチレンテレフタレートは高温や強アルカリ環境下で加水分解反応を起こしやすい特徴があります。加水分解が起こると分子鎖が切断されてしまい、材料の強度や物性が低下する恐れがあります。製品の寿命が短くなる可能性があるため注意が必要です。
酸に非常に弱い
酸性環境に曝されると分解が進み、材料の劣化や変形を引き起こし、製品の耐久性や安全性に影響を及ぼします。
ポリエチレンテレフタレート(PET)とPE、PVC、PPの違い
ポリエチレン(PE)
ポリエチレンは、耐薬品性や電気絶縁性に優れた素材です。容器としても使用されますが、ビニール袋として利用されるケースも多いです。ポリエチレンテレフタレートに比べて柔らかい材質であるため、傷つきやすいです。PETと比べると透明性が低く、厚みによっては薄い乳白色に見える場合もあります。
ポリ塩化ビニル(PVC)
ポリ塩化ビニルは耐薬品性、電気絶縁性、難燃性、耐候性など、バランスに優れた素材です。しかしポリエチレンテレフタレートに比べると耐熱性には劣ります。ポリエチレンテレフタレートは150℃ほどまで耐えられるのに対し、およそ70〜80℃で軟化してしまいます。また透明性も劣ります。
ポリプロピレン(PP)
ポリエチレンテレフタレートよりも安価ですが、耐熱性や耐薬品性にも優れるため、似たような用途に使われています。しかし特に低温下においては衝撃に弱いため、注意を要します。また紫外線により白化するのもデメリットです。
メビーの加工事例
メビーでは板金加工サービスでPETを選択できます。標準3日目出荷、最短2日目出荷から対応します。3Dデータをアップロードするだけで、1分で価格と納期の確認が可能です。
写真 | ![]() |
サービス名 | 板金加工 |
材質 | PET(スタンダード/透明) |
サイズ | W200×D200×H5 |
出荷日 | 3日目~ |
参考価格 | 5,059円 |
※表中は2025年3月時点の情報
まとめ
ポリエチレンテレフタレートは、ペットボトルやポリエステルとして、私たちの日常生活でも非常に多く使用されるエンプラです。工業用途では、フィルムや磁気テープ、電子機器部品などにも利用されます。耐熱性、耐寒性、電気絶縁性など、優れた性質を持ち、一般的な樹脂材の中では耐薬品性にも優れています。そのため工業用途で使用される場合にはガラス繊維を混ぜて強化したFRPとして使用されるケースも多いです。また基本的には耐熱性が高い素材ですが、ペットボトルとして使用される場合には50℃程度で変形してしまうため注意が必要です。
よく似た素材としてはポリエチレンやポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどが挙げられます。
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