アルミニウム合金の中でも「ジュラルミン」として知られるA2017は、軽量で強度が高く、航空機や機械部品に広く活用されている素材です。ジュラルミンは、アルミニウムに銅やマグネシウムなどの元素を添加し、強度や硬度を高めた合金で、アルミニウムの軽さと銅の強さを融合させた特徴があります。この結果、耐久性や加工のしやすさが求められる場面で、その優れた性質が活かされています。
この記事ではA2017の概要や特徴について解説していきます。
目次
一般的なアルミニウム合金について
アルミニウムは軽量で加工性に優れる反面、強度が低い点が課題とされてきました。その解決策として利用されるようになったのが「ジュラルミン」をはじめとするアルミニウム合金です。
ジュラルミンには、主に銅やマグネシウムが添加されるA2017の他、強度をさらに高めたA2024(超ジュラルミン)やA7075(超々ジュラルミン)があります。A2024はA2017よりも銅とマグネシウムの含有量が多く、さらに高い強度を持つ一方、耐食性にはやや劣る点が特徴です。A7075は亜鉛を加えており、ジュラルミンの中で最も強度が高く、航空機や競技用機材に用いられる一方、耐食性や溶接性がよくないというデメリットもあります。
A2017とは?
A2017とは「ジュラルミン」の名称で知られている、アルミニウム合金の一種です。アルミニウムに銅やマグネシウムを添加しており、それぞれの配合は、銅が3.5~4.5%、マグネシウムが0.40~0.80%となっています。アルミニウムは非常に軽い金属ですが、強度が低いのが弱点でした。純アルミニウムの硬さは65HB程度です。しかしA2017は、銅を含ませることで硬さは105HBまで向上しました。使用する環境によっては、鉄鋼材料に匹敵する強度をもつともいわれます。
また、A2017は、軽量で強く、しかも加工しやすいのが特徴です。そのため、航空機の材料や機械部品の材料などに多く使用されています。
A2017の特徴
ここではA2017の加工性とメリット、デメリットについて解説します。
A2017の加工性
A2017はマグネシウムが添加されているため切削性加工性が高く、切削加工に向いている素材です。熱処理や鍛造などの加工にも適しています。
A2017のメリット
- 炭素鋼などに比べて軽量
- 他アルミ材と比べて強度が高い
A2017の比重は2.79であり、炭素鋼の7.8と比べると非常に低いことがわかります。金属としては非常に軽量なアルミニウムを主体としているため、金属材料としては非常に軽いのが大きなメリットの一つです。
また前述のように銅を添加しているため強度が向上しており、純アルミの1.6倍ほどの強度をもっています。
A2017のデメリット
- 溶接性が低い
- 耐食性に劣る
元々アルミニウムは酸化皮膜を生成することや、熱伝導性の高さから溶接にはあまり向かない素材ですが、A2017も同様に、溶接性の低い素材です。表面に生成する酸化皮膜が母材よりも融点が高く、事前に酸化皮膜の除去が必要なことや、母材の熱が逃げやすいため、溶込みが不安定になりやすいなどのデメリットがあります。
また、銅が添加されているためアルミニウムと比べると耐食性に劣るのもデメリットです。腐食しやすい環境で使用する際には、十分な防食処理が必要です。ジュラルミンは汎用アルミや純アルミに比べて、アルマイト加工が難しいため、防食処理としてアルマイト加工を行う際には注意しなければいけません。
アルミ系合金のJIS表記
A2017も含むアルミ合金系素材について、JISの表記ルールは次のようになっています。
①アルミまたはアルミ系合金を表す「A」が表記されます。
②アルミ合金の系統を表します。1が純アルミ、2が銅系のアルミ合金、5がマグネシウム系アルミ合金です。1から8までの数字があります。
③流通時の形状を表します。Pは板や円板を意味します。PC、BE、W、Sなどの記号があります。材料としての形状を表す記号であるため、この記号の有無や記号が変わっても素材そのものの質が変わるわけではありません。
④調質を表わす識別番号です。Fは素材として製造されたそのままであることを意味します。Hは加工硬化、Oは焼きなまししたもの、などのように記号ごとに行われた処理が異なります。鋼の調質識別番号とは異なるため注意が必要です。
A2017の板厚、標準寸法
A2017の板厚はJIS H 4000:2014などに標準寸法が定められています。しかし、材料メーカーによってはJISの標準寸法にあるものでも取り扱っていなかったり、逆にJISの標準寸法外の素材を取り扱っているケースもあります。
A2017材の寸法については、メーカーのカタログなどから確認しましょう。
A2017の用途
A2017は、軽量で高い強度をもつため、非常に幅広い分野で使われています。代表的な例として次のようなものがあります。
- 航空機やロケットの部品
- 船舶用の材料
- 油圧装置やギヤなどの機械部品
- アタッシュケースなどに代表されるトランク
- ねじ、リベットなどの締結部材
- 家屋の窓枠
- テントやアウトドアチェアのフレーム
A2017はかつて、飛行船の骨組みなどに使用されていた素材でした。その後、航空機などにも使用されるようになり、特に戦闘機に使用されたことから需要が大きく膨らみました。現在では、航空機などの他、窓枠やトランクなど、私たちの身近でも使用されるようになっています。
A2017とほかの素材との違い
ジュラルミンにはA2017のほか、超ジュラルミンとよばれるA2024や超々ジュラルミンとよばれるA7075などがあります。A2017と他のジュラルミン、または汎用アルミなど、他の素材との違いを解説します。
超ジュラルミンや超々ジュラルミンとの違い
ジュラルミンと呼ばれるアルミニウム合金にはA2017(ジュラルミン)とA2024(超ジュラルミン)、さらにA7075(超々ジュラルミン)の3種類があります。比重はどれも2.79~2.8程度で、あまり差がありませんが、強度や性質には差があります。
A2024はA2017に比べ、銅やマグネシウムの含有量が高く、強度も高いのが特徴です。しかし一方で、銅の添加量が増えていることから、耐食性はやや劣ります。
A7075はアルミニウムに銅のほか、マグネシウムと亜鉛を添加したアルミ合金です。ジュラルミンの中では最も高い強度をもちます。しかし、A2017と異なり、切削加工が難しいことや、引っ張り応力が加わった状況で腐食環境にさらされると割れを起こす、応力腐食割れなどのデメリットがあります。
A5052との違い
A5052はアルミニウムに亜鉛を添加した、最も一般的なアルミ合金です。汎用アルミともよばれており、ジュラルミンや純アルミなどの指定がなく「アルミ」というと、このA5052を指すケースがほとんどです。
A5052はアルミニウムの特徴である軽さや加工性には優れますが、強度が低いというデメリットがあります。しかし一方で銅を含んでいないため、A2017よりは耐食性が高く、ジュラルミンよりもアルマイト加工しやすいというメリットもあります。
ステンレスや鉄との違い
A2017とステンレスや鉄などの金属材料との最も大きな違いは、比重です。ステンレスや鉄に比べると、A2017の比重は半分以下です。そのため、特に近年では軽量化などの目的からA2017が使用される部品も増えています。
しかし、強度や溶接性ではステンレスや鉄に劣るため、加工の際には注意が必要です。
まとめ
A2017とはアルミニウム合金の一種で「ジュラルミン」ともよばれています。アルミニウムに銅やマグネシウムを添加しており、非常に軽いながらも強度もある金属として、航空機や機械部品などに使用されています。軽く丈夫で加工性に優れる一方、耐食性には劣る、鉄鋼などに比べると強度が低いなどのデメリットもあります。ジュラルミンの仲間には超ジュラルミンや超々ジュラルミンなどもあり、これらはA2017よりさらに強度があります。