産業機械や家電、自動車、食器、調理器具などさまざまな製品に樹脂が使われています。なかでもフッ素樹脂は高機能な素材として知られており、さまざまな用途で使われています。
今回の記事ではフッ素樹脂の種類やメリットとデメリット、用途などを解説します。
目次
フッ素樹脂とは?
フッ素樹脂( fluorocarbon polymers )はフッ素を含むオレフィンの重合で得られる樹脂の総称です。
フッ素樹脂は、耐熱性や耐候性、低摩擦係数など優れた特性がたくさんあります。自動車や、半導体製造装置、精密機械、製薬設備、家電、OA機器などに使われています。身近な例では、調理器具にも使われています。
「テフロン」の商標でよく知られているフッ素樹脂は、デュポン社によって開発されました。のちにケマーズ社に分社されフッ素樹脂の事業が移管されています。フッ素樹脂の中でもとても多く使われています。
フッ素樹脂のおもな用途
フッ素樹脂は、耐薬品性や耐熱性、耐候性など、過酷な環境であっても劣化しない特性をもっています。そのため、半導体製造装置や医療機器、電子機器などさまざまな機械で利用されています。身の回りでよく見かける製品では、食器や調理器具などはフッ素樹脂製の場合があります。
また、摩擦係数が低いため、滑りやすくするためコーティング剤としても活用されています。例えば、フライパンはフッ素樹脂コーティングによって焦げ付きにくいです。
フッ素樹脂の種類
フッ素樹脂には、下記の7種類があります。
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)
PTFEは世界一生産量が多い代表的なフッ素樹脂で、分子構造内のフッ素の密度が高く、熱をかけてもほとんど流動性がありません。
加工に関しては、射出成形には向いておらず、切削加工は可能ですがMCナイロンなどと比べると仕上がりの精度は劣ります。
また、切削加工は射出成形に比べて加工に時間がかかり、PTFEは加工コストが高くなります。
PTFEは、高温高圧環境で使用される場合が多く、パッキンの素材としても使われます。また、摩擦係数が低く滑りやすいので、摺動部の摩擦係数を下げるために使われる場合も多いでしょう。
PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)
PFAは、耐薬品性や絶縁性、粘着しにくいなどの特性を持ったフッ素樹脂です。高機能な素材で、PTFEとほぼ同等の引張り強さや耐熱性を持っています。ショア硬さ はPTFEがD50~55程度に対してPFAはD62~66程度と優れています。
PFAは熱を加えると溶けて流動性を持つので、射出成形で加工でき、コストが安く済みます。
PFAは耐薬品性を活かして医薬品のボトルや、ビーカーなどに使われます。ほかには半導体製造装置にも使われています。
FEP(パーフルオロエチレン-プロペンコポリマー)
FEPは熱可塑性樹脂なので流動性があり、射出成形しやすいフッ素樹脂です。PTFEの融点が327℃程度に対してFEPは260℃程度、最高使用温度はPTFEが260℃に対してFEPは200℃程度となっています。しかし、引張強さや伸び、ショア硬さや絶縁性などは同等以上の特性を持っています。
素材の色は半透明で、PFAなどと同じように耐薬品性も高いです。
ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー)
ETFEはPTFEとエチレンの共重合体です。PTFEとエチレンの両方の特性を合わせたような特徴を持っています。
ETFEは、溶媒に溶けるのでコーティング剤として使われます。また、PFAと同等の耐薬品性、低摩擦性を持っています。
一方で、絶縁性や耐候性、耐熱性などはPTFEに劣っています。
PVDF(ポリビニリデンフルオライド)
PVDFはフッ素樹脂の中で最も機械的強度に優れています。加工しやすくさまざまな機械部品の素材として使われています。
ETFEと比べるとPVDFの方が融点が100℃程度低いため、使用環境の温度が高温になる場合は溶けないように注意が必要です。
PVDFは産業機械のバルブやキャップ、パイプ、フィルムシートやベルト類など広く使われています。
PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)
PCTFEはフッ素と塩素の重合体です。
無色透明なフッ素樹脂で、耐熱性や絶縁性、粘着しづらいなどの特徴を持っています。また、水蒸気や各種ガスなどが透過しにくいため、シール材やポンプ部品、チューブなどに使われます。
PCTFEは、滑りやすいので樹脂性の軸受としても使われています。
ECTFE(エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー)
ECTFEはエチレンが重合しているので、流動性がよく加工しやすいフッ素樹脂です。
高強度や溶解加工性、非燃焼性、耐薬品性、耐放射線性などさまざまな特性に優れています。
ECTFEは高温環境であっても機械強度を保っており、熱のかかる容器やパイプなどの素材として使われます。
特性 | 単位 | 試験法 | PTFE | PFA | FEP | PCTFE | ETFE | ECTFE | PVDF |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
融点 | ℃ | JIS K 6935 | 327 | 310 | 260 | 220 | 270 | 245 | 151-178 |
密度 | g/cm^3 | K 7112 | 2.13-2.20 | 2.12-2.17 | 2.15-2.17 | 2.10-2.20 | 1.73-1.74 | 1.68-1.69 | 1.75-1.78 |
引張り強さ | MPa | K 7162 | 20-35 | 25-35 | 20-30 | 31-41 | 38-42 | 41-48 | 30-70 |
伸び | % | K 7162 | 200-400 | 300-350 | 250-330 | 80-250 | 300-400 | 200-300 | 20-370 |
ショア硬さ | [D スケール] | K 7215 | D50-55 | D62-66 | D60-65 | D75-80 | D67-78 | D53-57 | D64-79 |
曲げ弾性率 | GPa | K 7171 | 0.53-0.58 | 0.54-0.64 | 0.55-0.67 | 1.25-1.79 | 0.90-1.20 | 0.66-0.69 | 0.60-1.99 |
引張り弾性率 | GPa | K 7161 | 0.40-0.60 | 0.31-0.35 | 0.32-0.36 | 1.03-2.10 | 0.70-0.85 | 1.55-1.70 | 0.37-2.58 |
動摩擦係数 | [0.69MPa, 3m/min] | K 6935 | 0.1 | 0.2 | 0.3 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.4 |
熱伝導率 | W/m・K | A 1412 | 0.23 | 0.19 | 0.2 | 0.22 | 0.24 | 0.16 | 0.17 |
線膨張係数 | 10^-5/ K (-30℃~+30℃) | 10 | 12 | 9 | 6 | 6 | 8 | 16 | |
最高使用温度(連続) | ℃ | K 7226 | 260 | 260 | 200 | 120 | 150 | 150 | 150 |
体積抵抗率 | Ω・cm[50%RH,23℃] | K 6911 | 10^18 | 10^18 | 10^18 | 10^18 | 10^17 | 10^15 | 10^15 |
絶縁耐力(短時間) | MV/m [3.2mm 厚] | K 6935 | 19 | 20 | 22 | 22 | 16 | 20 | 11 |
難燃性 | [3.2mm厚] | K 7140,UL-94 | V-0 | V-0 | V-0 | V-0 | V-0 | V-0 | V-0 |
耐薬品性 | 酸 | 超優秀 | 超優秀 | 超優秀 | 優秀 | 優秀 | 優秀 | 優秀 | |
アルカリ | 超優秀 | 超優秀 | 超優秀 | 優秀 | 優秀 | 優秀 | 秀 | ||
有機溶剤 | 超優秀 | 超優秀 | 超優秀 | 秀 | 優秀 | 優秀 | 良 | ||
超優秀:ほとんどの薬品、溶剤に過酷な条件下でも侵されない。 優秀:一部の薬品、溶剤には特定の条件下では使用を留意する必要がある。 秀:使用する薬品、溶剤、使用条件を詳細に検討する必要がある。 良:一部の溶剤に溶ける。 |
フッ素樹脂の特徴
各材料の特徴をまとめると以下の表のようになります。
PTFE | 耐熱性、耐薬品性、電気的特性に優れるほか、高い非粘着性、自己潤滑性を持っている。そのためコーティング材などに適している。 |
---|---|
PFA | PTFEと同等の高い特性を持っている。さらに熱溶融成形で複雑な形状も作ることができる。 |
FEP | PTFEと比較すると耐熱性が60℃ほど低いが、それ以外ではほぼ同等の特性を持つ。熱溶融成形が可能。 |
ETFE | 加工性がよく、カットスルー抵抗などの機械的強度に優れている。また、高い電気絶縁性や耐放射線性も持ち合わせている。 |
PVDF | PTFEよりも高い機械的強度をもつ。耐候性、耐薬品性にも優れており、長期間劣化せずに使用できる。 |
PCTFE | PTFEよりも機械的強度や耐衝撃性が高い。また光学的性質に優れていることや、極低温における寸法安定性が高いなど、特徴的な性質を持つ。 |
ECTFE | PTFEよりも機械的強度に優れている。また溶融加工性が高い。 |
また、ここでは代表的なフッ素樹脂であるPTFEについてさらに解説します。
PTFEのメリット
耐熱性が高い
PTFEは連続使用温度が260℃程度で、樹脂のなかでは高い耐熱性をもっています。機械内部の熱源近くの部品や、調理器具、食器類などの材質としても使われています。
耐薬品性が高い
フッ素樹脂は薬品にさらされても劣化しにくいメリットがあります。
耐薬品性は産業機械にとっては重要な特性の一つです。例えば、半導体製造や薬品製造の機械ではさまざまな薬品と触れる部品があります。薬品に触れて劣化しない素材を使わなければなりません。
そのため、耐薬品性のあるフッ素樹脂は、パイプ材など媒体を運ぶ部品の素材として適しています。
耐摩耗性が高い
フッ素樹脂は摩擦係数が低くすべりやすい特性を持っています。工業製品の内部には摺動箇所がたくさんあるので滑りやすい素材を使う場合があります。
PTFE製のシートを貼り付けて擦っても傷つかないようにしたり、軸受として使ったりなどさまざまな活用ができます。
非粘着性が高い
PTFEは物質が付着しにくい特性を持っています。
例えば家庭用調理器具は、さまざまな食材や調味料が付着する場合があります。PTFEを使うと汚れが付着しにくかったり、洗いやすかったりします。
ほかには、プリンタやコピー機などの内部では、紙やインク、トナーなどが接触する部品にはPTFE製のローラーを使っています。インクや紙の成分が部品ローラーに付着して汚さないようにしています。
絶縁性が高い
フッ素樹脂は電気抵抗値が高く、絶縁性が優れています。
機械の内部にはモーターやセンサー、高圧基板などさまざまな電子部品があります。電流が周辺の部品にリークしないように絶縁性が高い素材で覆う必要があります。
フッ素樹脂はシート材やコーティング剤、チューブなどにも加工できるので絶縁に適しています。
また、リークしてしまった場合のために燃えにくい素材であることが大切です。PTFEは難燃性の高い素材でもあるので、電子部品周りの絶縁部材としてよく使われています。
耐候性が高い
耐候性とは、紫外線などに長期間さらされた場合に特性が劣化しないことです。PTFEは20年など長期間紫外線にさらされても特性がほとんど変化しません。そのため、建造物の屋根や農業のビニールハウスなどに活用されています。
PTFEのデメリット
流動性がほぼないため加工性に乏しい
PTFEは熱をかけても流動性が悪く、射出成形に向いていません。射出成形ができないと、大量生産する場合に効率が落ちてしまいます。
ETFEなど射出成形可能なフッ素樹脂もあります。
樹脂そのものが高価である
さまざまなメリットがあるPTFEですが、コストが高い点はデメリットとなります。PTFEは、素材コストだけでなく加工コストも高いので、部品の材料選定をする際には機能上必要な箇所にだけPTFEを使うように気を付けましょう。
まとめ
フッ素樹脂は高機能な素材で、さまざまな工業製品や生活用品に使われています。強度が高く、滑りやすい、耐薬品性が高い、絶縁性などさまざまな特徴がありますが、同時にコストが高いので、必要な箇所にだけフッ素樹脂を使うなどの工夫をお勧めします。