TIG溶接はアーク溶接の一種です。溶融池の状態を確認しながら入熱や溶加材を調整しやすく、一般的なMIG溶接やMAG溶接と比べてスパッタが少ない傾向があります。一方、施工速度やコスト、熱ひずみの面では、ほかの溶接方法が適することもあります。
この記事では、TIG溶接のしくみと特徴、ほかの溶接方法との違い、材質ごとの注意点、機械設計者が押さえておきたい設計上のポイントを解説します。また、3D CADデータをアップロードするだけで溶接箇所を自動で判定、価格・出荷日をすぐに確認できる「meviy(メビー)」の板金溶接加工についてもご紹介します。
目次
TIG溶接とは
TIG溶接は「Tungsten Inert Gas Welding」の略で、「TIG」は一般に「ティグ」と読みます。
TIG溶接では、タングステン電極を非消耗電極として使用します。電極と母材との間にアークを発生させ、その熱で母材を溶かして接合する方法です。
タングステン電極は、MIG溶接やMAG溶接のワイヤのように、溶加材として連続的に溶かすものではありません。接合部に金属を補う必要がある場合は、電極とは別に溶加棒やワイヤを加えます。
電極と溶加材が分かれているため、溶融池の状態を確認しながら、アークによる加熱と溶加材の供給をそれぞれ調整しやすいことが特徴です。ただし、実際の施工では電極先端の消耗や損傷が起こるため、「電極がまったく消耗しない」という意味ではありません。
シールドガスで溶接部を空気から守る
高温で溶けた金属が空気に触れると、酸素や窒素の影響を受け、酸化や気孔などの溶接不良につながることがあります。
そこでTIG溶接では、トーチからアルゴンなどの不活性ガスを流し、電極、アーク、溶融池の周囲を空気から保護します。このガスをシールドガスと呼びます。
シールドガスが風で乱れると、溶接部を十分に保護できなくなる可能性があります。ですので、屋外や送風のある環境では、施工環境を整える必要があるといえます。
TIG溶接のメリット
スパッタが比較的少ない
スパッタとは、溶接中に飛散する溶融金属の粒です。
TIG溶接では、消耗電極式のように溶接ワイヤの溶滴をアーク中で母材へ移行させません。そのため、一般的なMIG溶接やMAG溶接と比べて、スパッタが少ない傾向があります。
スパッタ除去の手間や外観面への影響を抑えたい部品で選ばれることがありますが、外観品質は工法だけで決まるものではありません。母材の表面状態、シールド、溶接条件、作業技能、溶接後の仕上げによっても変わります。
溶融池を確認しながら調整しやすい
TIG溶接では、アークを発生させる電極と溶加材が分かれています。作業者は溶融池の形や広がりを確認しながら、トーチの移動と溶加材の供給を調整できます。
適切な設備、溶接条件、作業技能がそろえば、ビード形状や溶け込みを細かく管理しやすい方法です。その反面、手動溶接では作業者の技能が仕上がりに影響しやすくなります。
薄板にも用いられる
TIG溶接は、比較的低い電流域でもアークを維持しやすく、溶融池を確認しながら条件を調整できるため、薄板や小型部品にも用いられます。パルス制御を用いることで、電流を周期的に変化させ、平均入熱や溶融池の状態を調整しやすくなる場合もあります。
ただし、TIG溶接が薄板に用いられるのは、単に入熱が小さいからではありません。低い電流域でもアークを維持しやすく、溶融池を確認しながら、溶けすぎや穴あきを抑えるよう条件を調整しやすいためです。
TIG溶接のデメリット
溶接速度が遅くなりやすい
一般的なMIG溶接やMAG溶接では、電極を兼ねるワイヤが連続的に供給されます。これに対して手動TIG溶接では、トーチを操作しながら、必要に応じて別の溶加材を加えます。
このため、TIG溶接はMIG溶接やMAG溶接と比べて溶着量が少なく、施工速度が遅くなりやすい傾向があります。長い溶接線や大量生産品では、半自動溶接や自動化しやすい方法のほうが有利な場合があります。
施工条件によっては入熱や熱ひずみが大きくなる
溶接による単位長さ当たりのアークエネルギーは、主にアーク電圧、溶接電流、溶接速度の関係から求められます。母材へ実際に伝わる熱量を考える場合は、これらに溶接方法ごとのアーク効率を加味します。
TIG溶接は、一般的なMIG・MAG溶接より施工速度が遅くなりやすいため、条件によっては単位長さ当たりの入熱が大きくなり、熱ひずみが増えることがあります。ただし、入熱やひずみの大小は溶接方法だけでは決まりません。電流、電圧、溶接速度、板厚、継手形状、溶接順序、拘束条件などによって変わります。
そのため、「TIG溶接はMIG・MAG溶接より必ずひずみが大きい」とは一律にいえません。ひずみを抑える必要がある場合は、完成品に求める寸法精度を示したうえで、溶接方法や施工条件を加工先と検討します。
作業者の技能が品質に影響する
手動TIG溶接では、アーク長、トーチ角度、移動速度、溶加材を加えるタイミングなどが変わると、ビード形状や溶け込みも変化します。
外観や強度が重要な部品では、工法名を指定するだけでなく、必要な外観、強度、検査方法などの要求を明確にし、具体的な溶接条件や作業手順は加工先とすり合わせることが重要です。
コストが高くなる場合がある
TIG溶接は、施工時間が長くなりやすく、一定の技能も求められます。そのため、外観や入熱の細かな管理を必要としない部品では、ほかの溶接方法よりコストが高くなる場合があります。
「品質が高そうだからTIG溶接を指定する」のではなく、求める強度、外観、精度、数量に対して本当に必要かを検討しましょう。
TIG溶接とほかの溶接方法の違い
| 溶接方法 | 主な特徴 | 選定されることが多い場面 |
|---|---|---|
| TIG溶接 | 非消耗電極を使用し、必要に応じて溶加材を別に加える | 薄板、ステンレス、アルミニウム、外観や条件管理を重視する部品 |
| MIG溶接 | 不活性ガスを使用し、消耗ワイヤを連続供給する | アルミニウムやステンレスなどで、施工速度を重視する溶接 |
| MAG溶接 | 活性ガスを含むシールドガスを使用し、消耗ワイヤを連続供給する | 主に鉄鋼製のフレームやブラケット |
| レーザー溶接 | エネルギーを狭い範囲に集中させやすい | 薄板、精密部品、自動化を前提とする部品 |
| スポット溶接 | 重ねた板材を電極で挟み、点状に接合する | 薄板カバー、筐体、重ね継手 |
TIG溶接とMIG・MAG溶接の大きな違いは、電極と溶加材の扱いです。
TIG溶接では、タングステン電極を熱源として使用し、必要に応じて別の溶加材を加えます。MIG・MAG溶接では、連続供給されるワイヤが電極と溶加材を兼ねます。
そのため、MIG・MAG溶接は溶着量や施工速度を高めやすく、TIG溶接は溶融池を確認しながら調整しやすいという違いがあります。ただし、実際の選定は材質、板厚、継手形状、溶接長、数量、外観要求などによって変わります。
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材質別に見るTIG溶接のポイント
ステンレス鋼
ステンレス鋼は、TIG溶接が用いられる代表的な材料です。カバー、筐体、タンク、配管など、外観や耐食性が求められる部品で採用されます。
一方、溶接熱によってひずみや焼けが生じます。溶接後の耐食性や外観が重要な場合は、要求に応じて焼け取りや研磨などの後処理を検討します。
アルミニウム合金
アルミニウムは熱を伝えやすく、表面には酸化皮膜が形成されるため、鉄鋼とは異なる条件管理が必要です。また、合金の種類や調質によって溶接性が異なり、溶接部や熱影響部の強度、割れ、変形を考慮する必要があります。
設計時には、穴や切り欠きなどを溶接部に近づけすぎず、必要強度や完成品の寸法精度について加工先と確認しましょう。
鉄鋼
鉄鋼もTIG溶接できます。薄板、小型部品、外観やスパッタの管理を重視する部分では、TIG溶接が選ばれることがあります。
一方、長い溶接線をもつフレームや溶着量が必要な構造部品では、生産性の面からMAG溶接などが選ばれる場合があります。鉄鋼では、TIG溶接が可能かどうかだけでなく、TIG溶接を指定する必要があるかを検討することが大切です。
TIG溶接部品を設計するときの注意点
トーチを入れられる空間を確保する
CAD上で部材同士が接していても、トーチを必要な位置や角度から近づけられなければ溶接できません。
深い箱の内側、狭いコーナー、短いフランジの内側、リブに囲まれた部分などは注意が必要です。トーチやノズルだけでなく、必要に応じて溶加棒を差し込む空間も考慮します。
仕上げについても同様です。グラインダーなどの工具が入らない内側では、ビードを平坦に仕上げられないことがあります。
溶接後の完成寸法を考慮する
穴、スリット、細いリブ、薄肉部などが溶接線に近いと、熱によって変形し、寸法精度が低下することがあります。
また、溶接前の各部品が公差内であっても、溶接後の収縮や角度変化によって、完成品の穴間距離、平面度、直角度、取付面の位置が変化する可能性があります。
高い精度が必要な部分では、穴や基準面を溶接部から離す、溶接後に機械加工する、完成状態で保証する寸法や測定基準を明確にするなどの方法を検討します。
溶接範囲を要求機能から決める
溶接長が増えると、入熱、ひずみ、作業時間も増える傾向があります。ただし、全周溶接や連続溶接が必要かどうかは、強度だけでは判断できません。
次のような要求も確認します。
- 疲労荷重や振動
- 気密性や水密性
- 接合部の剛性
- 水や異物の侵入防止
- 腐食への配慮
- 清掃性
- 外観
断続溶接へ変更すると、溶接されていない隙間に水分や異物が入り込む場合があります。溶接範囲を変更するときは、使用環境を整理したうえで加工先と確認してください。
仕上げ条件を明確にする
「きれいに仕上げる」といった指示だけでは、必要な品質が加工側に伝わりません。
図面や発注仕様では、必要に応じて次の項目を明確にします。
- 溶接する箇所と範囲
- 全周溶接または断続溶接
- ビードを残すか、平滑に仕上げるか
- 焼け取りの要否
- 外観面
- 気密性や水密性の要否
- 漏れ試験の要否
- 溶接後に保証する寸法と測定基準
溶加材の種類や細かな施工条件は、材質、板厚、継手、必要強度によって変わります。設計側で一律に決めるのではなく、機能上必要な条件を示したうえで、加工先とすり合わせることが重要です。
板金溶接部品の見積もりはメビーへ
「meviy(メビー)」では、3D CADデータをアップロードするだけで溶接箇所を自動で判定、価格・出荷日をすぐに確認することができます。溶接種類や溶接箇所、仕上げをブラウザ上で指定可能ですので、設計や部品手配にかかる時間を大幅に短縮できます。
メビーでは「おまかせ」「アーク溶接」「スポット溶接」を選択でき、「おまかせ」ではアーク溶接またはレーザー溶接、「アーク溶接」ではTIG溶接または半自動溶接で接合されます。
まとめ
TIG溶接は、タングステン電極と不活性ガスを使うアーク溶接です。溶融池を確認しながら条件を調整しやすく、一般的なMIG・MAG溶接と比べてスパッタが少ない傾向があるため、薄板、ステンレス、アルミニウム、外観を重視する部品などに使われます。
ひずみが設計要件になる場合は、必要な溶接範囲、溶接順序、治具、完成状態で保証する寸法を加工先と確認しましょう。形状や要求品質によっては、レーザー溶接やスポット溶接など、ほかの接合方法も候補になります。



