金属部品 ものづくり基礎知識

ヘリサートとは? ねじインサートの加工手順・選び方・設計上の注意点

アルミ部品のめねじが繰り返しの着脱で摩耗する、損傷したねじ穴を補修したい。こうした場面で検討されるのが、ヘリサートと呼ばれるコイル状のねじインサートです。

ねじ穴に入れるだけの部品に見えますが、使用する製品に対応した下穴加工や専用タップ加工、適切な挿入作業が必要です。また、母材の強度や穴周辺の肉厚、止まり穴の深さ、ボルトとの干渉なども考慮しなければなりません。

この記事では、コイル状ねじインサートの仕組み、種類と選び方、加工の流れ、設計時の注意点、meviy(メビー)でねじインサートを指定する際のポイントを解説します。

※「ヘリサート」は、かつて商品名として使用されていた呼称です。本記事では一般に通用している呼び方として「ヘリサート」と表記し、E-サートやスプリューなどのコイル状ねじインサートを含む一般的な技術事項を解説します。各社製品の仕様や工具の互換性を示すものではありません。

ヘリサート

ヘリサートとは

コイル状のねじインサートでめねじを補強する

ヘリサートとは、一般にコイル状のねじインサートを指す呼称です。母材に設けた専用のねじ穴へコイル状のインサートを挿入し、その内側にボルトなどのおねじがかみ合うめねじを形成します。

母材へ直接タップ加工した通常のめねじとは、ボルトを受ける部分の構造が異なります。通常のタップ穴では母材自体のねじ山がおねじを受けますが、コイルインサート穴では、挿入したコイルの内側がおねじを受けます。

「ヘリサート」は現場で広く使われている呼称ですが、コイル状ねじインサートには、E-サートやスプリューなどメーカーごとの商品名と仕様があります。製品によって下穴寸法、専用タップ、挿入工具、挿入方法などが異なる場合があるため、設計・発注時は通称だけでなく、採用する製品系列や型式、必要な仕様を明確にします。

補強と補修で使う場面

コイル状ねじインサートは、アルミや樹脂などの比較的軟らかい母材に設けためねじを補強したい場合や、組立て・分解を繰り返す場合、損傷したねじ穴を補修する場合などに用いられます。

補修部品として使用されるだけでなく、新規設計の段階から、めねじの摩耗を抑え、繰り返し締結に対応することを目的として採用されることもあります。

ただし、ねじインサートを使用すれば、ねじ結合全体の強度が無条件に向上するわけではありません。母材の強度や肉厚、端面までの距離、インサートの呼び長さなどによっては、母材側のねじ部や穴周辺が先に損傷する可能性があります。

また、インサートを使用しても、すべての損傷したねじ穴を補修できるわけではありません。母材に割れがある場合、周囲の肉厚が不足している場合、穴位置が大きくずれている場合などは、所定のねじ穴を加工できないことがあります。補修の場合は、損傷の範囲と周囲の残存肉厚を確認したうえで方法を決めます。

比較項目 通常のタップ穴 コイルインサート穴
ねじを受ける部分 母材に直接加工したねじ山 挿入したコイルの内側
基本工程 下穴加工、タップ加工 下穴加工、専用タップ加工、インサート挿入、必要な仕上げ
主な検討点 母材強度、ねじのかみ合い長さ 母材強度、保持側の穴寸法、呼び長さ、肉厚、挿入位置
手配時の指定 呼び径、ピッチ、有効深さなど 呼び径、ピッチ、製品種類、呼び長さ、完成状態など

ねじインサートの種類と選び方

呼び径、ピッチ、長さ、材質を選ぶ

まず、組み合わせるボルトの呼び径とピッチに合う製品を選びます。インサートを保持する母材側のねじ穴は、完成後にボルトがかみ合うめねじより大きくなるため、同じ呼び径の通常タップで代用することはできません。

呼び長さは、ねじの呼び径Dに対して1D、1.5D、2Dなどで表されます。例えば、呼び径M6の1.5Dは、呼び長さが6×1.5=9mmであることを示します。

ただし、この値は挿入前の自由状態で測定した実際の全長や、止まり穴に必要なドリル深さを直接表すものではありません。止まり穴では、インサートを収める長さに加えて、不完全ねじ部、工具の逃げ、穴底形状などを考慮する必要があります。

呼び長さや材質は、母材、荷重、使用温度、腐食環境、着脱頻度などに合わせて選びます。インサートを長くすれば常に十分な耐力を得られるわけではありません。母材側の強度や穴周辺の肉厚を含め、ねじ結合全体として選定することが重要です。

タング付き、タングレス、ロックタイプを区別する

タング付きタイプは、挿入工具を掛けるためのタングを持つねじインサートです。挿入後にタングの除去が必要な場合は、製品および用途の指示に従って折り取り、確実に回収します。

タングレスはタングを持たず、対応する専用工具で挿入するタイプです。タングの折取りと回収が不要なため、折り取ったタングを製品内に残せない用途などで検討されます。

また、一般的な標準タイプのほか、コイルの一部でおねじに抵抗を与えるロックタイプもあります。タングの有無とロック機能の有無は別の区分です。すべてのねじインサートにロック機能があるわけではなく、ロックタイプでは対応する工具や締結条件の確認も必要です。

下穴径は呼び径だけで決めない

インサート用の下穴径を調べる際は、最初に採用する製品の呼び径とピッチを特定し、メーカーが提示する下穴表を参照します。

「M6用」などの表示だけを見て、通常のM6タップ用下穴径を流用してはいけません。インサートを保持するための専用ねじを加工するため、完成後にボルトがかみ合うめねじとは、必要な下穴寸法とタップが異なります。

工具を準備する場合は、下穴加工用ドリル、対応する専用タップ、挿入工具の組合せを確認します。止まり穴では、必要な深さまで保持側のねじを加工できるか、挿入後のインサートとボルト先端が穴底に干渉しないかも確認します。

メーカーが異なる製品の数値や工具を安易に組み合わせず、原則として同じ製品系列の仕様書と工具適用表に基づいて選定します。

ねじインサート加工の基本的な流れ

下穴と専用タップのねじ穴を作る

最初に、採用するインサートの指定に合う下穴を加工します。下穴径や深さは、呼び径とピッチ、母材、止まり穴か通り穴かなどの条件を基に決めます。

続いて、インサート用の専用タップを使用し、コイルを保持するためのねじを加工します。メーカーの下穴表と工具指定を確認し、必要な入口面取り、ねじ深さ、切りくずの除去まで含めて準備します。

インサートを挿入し、仕上がりを確認する

採用製品に対応する挿入工具を使用して、インサートをねじ込みます。入口からの挿入深さや工具の扱いは製品によって異なるため、メーカーが指定する位置へ収めます。

挿入時は工具を穴に対して適切に保持し、インサートを無理に押し込まないようにします。過度に押し付けると、コイルが保持側のねじ山を越えて進んだり、変形したりする可能性があります。

また、挿入完了後に工具を逆転させてよいかどうかは、工具の構造によって異なります。自己判断で工具を逆転させず、採用する挿入工具の取扱説明書に従ってください。

タングの除去が必要な場合は、指定された方法で折り取り、穴内や製品内部へ残らないように回収します。最後に、採用製品の検査方法に従い、ねじの通り、インサートの挿入位置、飛出し、傾きなどを確認します。

設計時に確認したい穴周辺の条件

下穴深さ、有効ねじ長さ、肉厚を分けて考える

止まり穴では、次の寸法を分けて考える必要があります。

  • ボルトが有効にかみ合う長さ
  • インサートを収める長さ
  • 専用タップによるねじ加工深さ
  • ドリルによる下穴の深さ

ドリル先端の円すい部分、不完全ねじ部、工具の逃げなどがあるため、ドリルで加工した穴の深さ全体を有効ねじ長さとして使うことはできません。必要な下穴深さは、採用する製品の技術資料に基づいて決めます。

また、通常のタップ穴より大きい保持側のねじ穴を加工するため、部品外周や隣接穴まで十分な肉厚が必要です。肉厚や端面までの距離が不足すると、締結荷重によって穴周辺が変形・破損したり、母材側のねじ山とともにインサートが抜けたりする可能性があります。

既存のねじ穴へ後からインサートを採用する場合は、損傷後の穴径だけでなく、周囲に加工可能な肉厚が残っているかも確認します。

端面からの距離と組立条件を確認する

ねじ穴の中心から部品端面までの距離、隣接穴との距離、挿入工具が入る空間を確保します。必要な距離は、母材の材質と強度、荷重、インサート仕様などによって変わるため、一律の倍率だけで決めるのは適切ではありません。

組立条件としては、ボルト長さ、穴底への底付き、締付条件、着脱頻度、使用温度などを確認します。異なる金属を組み合わせる場合は、水分や腐食性物質にさらされる環境などを考慮し、異種金属接触腐食にも配慮します。

ボルトやインサート単体の強度だけを見るのではなく、母材側のねじ山、インサートの保持状態、ボルトのかみ合い長さを含むねじ結合全体として判断します。

挿入不良やボルトが入らない場合の確認項目

インサートが途中で入りにくくなった場合は、無理に押し込まず、次の項目を確認します。

  • 保持側のねじが正しく加工されているか
  • 穴内に切りくずや異物が残っていないか
  • インサートと挿入工具の組合せが正しいか
  • インサートが変形していないか
  • 工具を穴に対して適切に保持しているか

工具の逆転方法や、挿入済みインサートの抜取り方法は製品・工具ごとに異なります。自己判断で工具を逆転させたり、挿入後のインサート内側を通常タップでさらったりせず、メーカーの作業手順を確認します。

ボルトが奥まで入らない場合も、めねじの加工不良だけが原因とは限りません。ボルト長さ、穴底への底付き、残ったタングとの干渉、インサートの挿入位置、コイルの変形などを切り分けて確認します。

原因を確認しないまま締付トルクを上げると、ボルト、インサート、母材の損傷につながる可能性があります。「穴加工」「挿入状態」「組立条件」に分けて確認すると、原因を切り分けやすくなります。

発注時は挿入後の完成状態を伝える

加工を外注する場合は、インサート用の保持ねじまで加工するのか、インサートを挿入した完成状態まで必要なのかを区別します。

発注時には、少なくとも次の項目を整理します。

  • 完成後のめねじの呼び径とピッチ
  • 採用する製品系列または必要なインサート仕様
  • インサートの呼び長さ
  • タング付き、タングレスなどの種類
  • ロック機能の要否
  • 対象穴の位置と個数
  • インサート挿入の要否
  • 挿入状態の確認方法
  • タング処理と回収の要否

同一部品に通常のタップ穴とインサート穴が混在する場合は、図面や指示書で対象箇所を明確に識別できるようにします。

また、損傷した既存部品の補修依頼と、新規部品の製作依頼では確認事項が異なります。新規製作サービスを利用する場合は、一般的なねじ穴補修まで対応範囲に含まれると考えず、指定可能な完成仕様を確認してください。

メビーでねじインサート穴を指定する

meviy(メビー)では、アルミや樹脂プレートなどの加工部品にねじインサート穴を指定できます。ねじインサートはステンレスの硬い材質で、ねじ山を補強します。ぜひご活用ください!

板金加工 ねじインサートの仕様について

切削角物「各種穴の認識条件」を確認する

切削角物「各種穴とポケットの規格」を確認する

部品加工事例

材質 PET(スタンダード/透明)
サイズ 150 × 100 × 5
インサート穴 M4×5
出荷日 5日目~
参考価格 2,740 円
材質 アクリル(スタンダード/透明)
サイズ 140 × 123 × 10
インサート穴 M4, M5, M6, M8
出荷日 5日目~
参考価格 4,850円

※2024年7月時点

まとめ

ヘリサートと呼ばれるコイル状ねじインサートは、アルミや樹脂などのめねじ補強、繰り返し締結への対応、損傷したねじ穴の補修などに用いられます。

ただし、インサートを使用すれば、ねじ結合全体の強度が無条件に向上するわけではありません。呼び径とピッチだけでなく、母材強度、呼び長さ、穴深さ、周囲の肉厚、端面までの距離、挿入位置、タング処理などを確認しましょう。

メビーでは、ねじインサート穴を指定できます。自動見積もり対応によって簡単にご注文いただけますので、ぜひご活用ください!