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SUS430とは?メリットやデメリット、類似素材との違いを解説

SUS430はコストが安く加工しやすいステンレスで、さまざまな製品に使われています。
ステンレスには、この他にもSUS303やSUS314などいくつか種類があり、それぞれ特徴があります。コストや耐食性、強度や硬度などに特徴があるので、どのようなメリットとデメリットがあるのか理解して適切な素材を選定する必要があります。
今回の記事では、SUS430の特徴やメリット・デメリット、ほかの素材との違いなどを解説します。

SUS430とは?その特徴や類似素材との違いを解説

SUS430とは?

SUS430とは、ステンレス鋼の一種で、クロムを16~18%含むフェライト系ステンレス鋼です。ニッケルを含まないため比較的安価で、加工性にも優れていることから、家庭用器具や建築材料など、幅広い用途に使用されています。

SUSは大きく分けると200番台、300番台、400番台があり、材料が含む元素の種類が変わります。200番台のSUSはオーステナイト系のステンレスで、クロム、ニッケル、マンガンを含んでいます。300番台のSUSは、オーステナイト系で、クロムとニッケルを含んでいます。
400番台のSUSはフェライト系、マルテンサイト系のステンレスです。SUS430はクロム18%を含むフェライト系のステンレスで、400番台の代表的な素材です。

SUS430はステンレスのなかでは耐食性が劣りますが、加工性に優れておりコストも安いので、さまざまな製品に使われます。
また、強い磁性を持っているという特徴もあり、磁力を使うような製品ではSUS430を使う場合が多いでしょう。

SUS430は、フェライト系ステンレス鋼の代表的な材料で、以下のような物性を持っています。

SUS430の化学成分(単位:%)は以下の通りです。

種類の記号 C Si Mn P S Cr Mo N Al
SUS430 0.12以下 0.75以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 16.00
~18.00

※Niは0.60%を超えてはならない。

SUS430の機械的性質は以下の通りです。

種類の記号 耐力

N/mm2

引張強さ

N/mm2

伸び

%

絞りa)

%

硬さb) 適用寸法

(径,対辺距
離又は厚さ)

HBW HRBS c)

又はHRBW

HV
SUS430 205以上 450以上 22以上 50以上 183以下 90以下 200以下 75 mm

以下

注a) 平鋼には適用しない。ただし、注文者の指定がある場合は,受渡当事者間の協定による。
b) 硬さは、いずれか1種類を適用する。
c) HRBの測定は、HRBS又はHRBWのいずれかでよいものとし、測定値の表示には、HRBS又はHRBWを明記する。ただし,疑義が生じた場合の判断は、HRBSによることとする。

SUS430の物理的性質は以下の通りです。

種類の記号 密度

g/cm³

融点

比熱

cal/g/℃

熱伝導率

cal/㎝ /sec/℃

線膨張係数

10‒⁶ 1/℃

SUS430 7.70 1430~1510 0.11 0.062 10.4

SUS430の板厚は以下の種類があります。

種類の記号 板厚

mm

SUS430 0.3,0.4,0.5,0.6,0.8,1.0,1.2,1.5,2.0,2.5,3.0,4.0,
5.0,6.0,7.0,8.0,9.0,10,12,15,16,18,20,22,25,30

この中でも、0.5、0.8、1.0、1.2、1.5、2.0、2.5、3.0mmの厚さが多く流通しています。

ステンレスは表面の仕上がりの状態に応じて細かい規格があります。おもなSUS430の仕上がりは以下の通りです。用途に応じて仕上げを選択しています。

SUS430-No.1

No.1はつやがなく白っぽい表面です。熱間圧延後、熱処理されています。

SUS430-2B

2Bは一般的な仕上げです。市販のSUS430の多くは2Bです。表面は滑らかで、ある程度の光沢があります。

SUS430-HL

HLヘアラインの意味で、長い研磨の目がストレートヘアーのような見た目になります。建材で多く使われています。

SUS430-BA

BAは鏡面に近い光沢の仕上げです。自動車部品や家電、装飾品などに使われています。

SUS430の特徴

ステンレスは鉄に比べて軽く、そこそこの強度があり、アルミほど軟らかくないため使いやすい金属です。錆びにくく、耐食性があって熱伝達率も低い高性能な素材です。
ステンレスは性能がよくて使いやすい素材ですが、種類によって特徴があり、用途に応じて使い分けられています。
ここでは、SUS430の特徴をメリットとデメリットに分けて解説します。

SUS430のメリット

ステンレス鋼に比べるとSUS430は熱膨張が少ないので熱による歪みが小さくなります。また、応力腐食割れが発生しにくい素材です。

SUS430はコストが安いというメリットがあります。
コストが安い理由はニッケルを含んでいないためです。ニッケルはレアメタルでコストが高い材料です。ニッケルはステンレスの強度や粘り気を高める効果があり、SUS304に含まれています。強度が上がるのはメリットとなりますが、その分、切削しづらくなります。

SUS430はニッケルを含んでいないため、ステンレスのなかでは切削性がよく、加工しやすいです。
さらにオーステナイト系ステンレスのような加工変態は起きません。

SUS430のデメリット

SUS430は溶接時などの高温状態で「475℃脆化」を起こす可能性があるので、注意しなければなりません。
475℃脆化とはフェライト系ステンレスにみられる現象です。475℃付近まで加熱すると、硬度が上がるのと同時に延性や靭性が低下します。その結果、衝撃などに弱くなりもろくなってしまいます。
475℃脆化の対策は、溶接時の温度コントロールです。素材の熱が上がりすぎないように調整します。
また、一度脆化した素材を600~800℃程度で熱処理をして脆化を解消するといった方法もあります。

ステンレスは耐食性に優れた金属です。しかしあえて比較すると、SUS430は、ニッケルを含むSUS304,SUS316に比べると耐食性が劣っています。
また、焼入れで硬くできないので、特に高い荷重がかかるような部品としての使用はおすすめしません。

SUS430の用途

SUS430は屋内での使用に適しています。屋外では耐食性に優れているSUS304などを用いる場合が多いです。
SUS430のおもな用途を紹介します。

台所のシンク、厨房機器などの水回り

SUS430はコストが安く加工しやすいため、家庭用の水回りの製品によく使われます。台所のシンク、水道周りなどです。
ステンレスは錆びにくいので、水に触れる製品に使われています。

洗濯機

洗濯機も水に触れるため耐食性が必要です。ステンレスが使われており、コストが安くて加工しやすいSUS430が使われています。

自動車

自動車にはステンレスがたくさん使われています。例えば、自動車の排気管や燃料の噴射部、固定部材など細かい部品にもSUS430が使われています。

キッチン小物類

鍋ややかんなどの調理器具もSUS430で作られています。ほかには、スプーンやフォーク、ナイフなど食器類もSUS430で作られています。

建築関連

建物の構造体を固定するための金属の部品がSUS430で作られています。例えばL字型の固定部材などは木造住宅の構造で一度は見たことがあるでしょう。
ほかには、建物の内装もSUS430で作られています。

SUS430とほかのステンレス素材との違い

ほかのステンレス素材や鉄との違いを解説します。

SUS304との違い

SUS304に含まれているNi(ニッケル)は素材の粘り気をあげる作用があります。粘り気が上がると破損しづらくなり、引張強度があがります。
そのため、SUS430よりも強度が高く、伸びも大きいので、SUS304は破損に強い素材だといえます。
耐食性に関しても、SUS304はSUS430よりも高いです。どちらもクロムを含んだステンレスなので、金属表面には、不動態皮膜が形成され、酸化しにくいのですが、SUS304はクロムに加えて、ニッケルも含んでいるためより安定して不動態皮膜を形成でき、耐食性があがります。屋外など過酷な環境で使用する場合は、SUS304を使うことをおすすめします。

マルテンサイト系との違い

ステンレスの400番台にはマルテンサイト系もあります。マルテンサイト系の400番台は鉄に13%程度のクロムを含有しており、SUS430よりも含有率は低いです。
マルテンサイト系のステンレスは、SUS403、410、420などです。

SUS430はフェライト系のステンレスなので焼入れができませんが、マルテンサイト系は焼入れができるため、硬度が上がります。
欠けや摩耗などを防止できるので、工具や刃物、回転軸など摩擦が発生する部品に使われます。

またコスト面では、マルテンサイト系のステンレスは、SUS304より安価です。しかし耐食性の面では、SUS430やSUS304のほうがマルテンサイト系のステンレスよりも優れています。

鉄との違い

SUS430はニッケルが含まれていないため、ステンレスの中では強度が低い素材です。しかしながら、鉄に比べると引張強度は高く、硬度も高いです。

SUS430にはクロムが含まれているので熱が伝わりにくい性質をもっており、熱伝導率は鉄に比べて低いです。
この性質を活かして、SUS430は保温が必要な食器や、ステンレス製の水筒などに使われています。

SUS430はステンレスの中では切削や曲げ加工などがしやすい素材です。また、熱による歪みもすくなく溶接もしやすいです。しかしながら、溶接や切削性などでは鉄に劣ります。
また、フェライト系であるSUS430と違って、鉄は焼入れで硬くすることができます。

熱伝導率、切削性、耐食性、磁性の比較

SUS430とSUS304、SUS403、鉄の性質の比較は次のようになります。

SUS430 SUS304 SUS403
熱伝導率[W/(m・K)] 27.0 16.0 26.9 80.3
被削性指数 50 35 50 50
耐食性 ×
磁性 あり なし あり あり

熱伝導率については、オーステナイト系のSUS304が大きく下がりますが、SUS430とSUS403ではあまり変わりません。一方、鉄に比べるとSUS430のほうが低くなります。
切削性については、SUS430をはじめとするステンレス材は基本的に難削材に分類され、切削加工がしにくい素材に分類されます。被削性指数は高い方が切削しやすく、低い方が切削しにくい素材となります。この数字を見てみるとSUS304に比べてSUS430は切削しやすい素材になります。SUSの中にはSUS303に代表されるような快削材とよばれる素材もあるため、切削する量が多い場合には、そのような素材を選んだほうがいいでしょう。
耐食性では、高い方から順にSUS304、SUS430、SUS403、鉄となります。ここに挙げた素材としてはこのような順番になりましたが、SUS403でも鉄に比べるとかなり高い耐食性を持っています。決してSUS403の耐食性が低いという意味ではありません。
ステンレスは磁石につかない(磁性をもたない)というイメージがありますが、実は磁性を持たないのはオーステナイト系のステンレスのみになります。そのためSUS430やSUS403は磁性を持ち、磁石につきます。

メビーのSUS430の加工事例

メビーではSUS430を選択できます。標準3日目出荷、最短1日目出荷から対応します。

写真
対応サービス 板金 板金溶接 切削角物
材質 SUS430(2B) SUS430(2B) SUS430
サイズ W60×D40 W496.8×D426×H123.1 W100×100D×H6
板厚 1.5mm 1.5mm
溶接種類 おまかせ(アークまたはレーザー)

 

仕上げ方法 焼け取りのみ
出荷日 3日目~ 7日目~ 10日目~
参考価格 2,112円 25,720円 65,182円

※表中は2025年1月時点の情報

 

まとめ

SUS430はクロム18%を含むフェライト系のステンレスで、400番台の代表的な素材です。 加工性がよくコストが安いステンレスで、身の回りのさまざまな製品に使われています。SUS304よりも耐食性や強度で劣っていますが、屋内で使用する製品や、大きな荷重がかからない使い方であればコスト面で優れているSUS430を選定するメリットは十分にあります。

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