ものづくり基礎知識 金属・樹脂の材料

MCナイロンとは?特徴や類似素材との違いを解説

雑貨や食品用フィルム、衣料品など、わたしたちの身の回りでよく使われているナイロン。ナイロンは非常にポピュラーな樹脂ですが、世の中にはナイロンの性能を総合的に向上させた特別な樹脂があることをご存じでしょうか?その樹脂の名は、「MCナイロン」です。
MCナイロンは、一般のナイロンとは異なる方法でつくられます。一般のナイロンに比べて機械的強度や耐摩耗性、耐熱性、化学的性質などにおいて優れています。金属に比べて軽量で取り扱いやすいため、金属部品の置き換え材料としても重宝されています。
今回の記事では、MCナイロンの概要、メリットやデメリット、ほかの樹脂との違いなどを解説します。

MCナイロンとは?特徴や類似素材との違いを解説

MCナイロンとは?

MCナイロン(モノマーキャストナイロン)は、ポリアミド樹脂の一種である6ナイロンの弱点を克服して、その性能を全体的に向上させた樹脂です。「青色のエンジニアリング・プラスチック」としても知られています。
MCナイロンの本質的な構造は、6ナイロンと同じです。では、なぜ性能に違いがあるのでしょうか。理由は製造方法の違いにあります。ポイントは、重合と成形のタイミングです。
一般的な6ナイロンは、成形前にすでに重合が完了しています。ペレット状にした6ナイロンを加熱してやわらかくし、射出成形押出成形などで形をつくる方法が一般的です。
一方のMCナイロンは、金型内にモノマーを注入して重合させる「キャスト法」で製造されます。重合と成形を同時に行うイメージです。キャスト法を使えば、ほかの成形方法よりも樹脂のひずみを少なく抑えられるため、強くて高性能なナイロンを製造できます。モノマーキャストナイロンという名前は、このキャスト法に由来するものです。
MCナイロンにはさまざまなグレードの製品が存在し、用途に応じて使い分けることができます。代表的なグレードとそれぞれの性質は次の通りです。

MC901

基本グレードです。一般の6ナイロンに比べて機械的強度や耐摩耗性、耐熱性、化学的性質などに優れた樹脂です。

MC801

MC901に特殊グラファイトを加えて耐候性を向上させた製品で、屋外での使用に適しています。

MC703HL

MC901よりさらに自己潤滑性・耐摩耗性に優れる摺動グレードです。

MC501CD R2

特殊なカーボンを配合し、導電性をもたせたグレードです。

※MCナイロンは、三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ株式会社の登録商標です。

MCナイロンの色とグレード

MCナイロンというと青いイメージが強いですが、実はMCナイロンの元々の色は白です。青いものは着色された色なのです。
MCナイロンはいくつかのグレードがあり、グレートによって色が分けられています。メーカーによって多少の差はありますが、おおよそ次のような色分けで取り扱われています。

  • :一般グレード(MC901など)
  • :一般グレード(MC900など)
  • :耐熱性グレード(MC602など)
  • :耐候性、導電性など(MC501R2、MC501R6など)
  • 紫、灰、緑:摺動性グレード(MC703など)

青と白には一般グレードを割り当てているメーカーがほとんどです。流通量は青の方が多く、白の方が少なくなっています。どちらも一般グレードなので、色以外の性質の差はありません。
茶色には耐熱性グレードを割り当てているケースが多いです。
黒は、耐候性や導電性、帯電防止など複数のグレードが割り当てられているケースが多いです。そのため黒のMCナイロンについては、どのグレードなのかを丁寧に確認する必要があります。
一方で、摺動性グレードについては、メーカーによって異なる色を割り当てているケースが多いです。紫や灰色、緑などの色があるようです。
MCナイロンの色とグレードの関係は、あくまで傾向であり、複数のメーカーをまたぐ共通の規格として決まっているわけではありません。そのため、材料を購入しようとしているメーカーのカタログなどで確認するようにしましょう。

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MCナイロンの特徴

ここでは、MCナイロンのうち最もよく使用される基本グレード「MC901」のメリットとデメリットを解説します。

MCナイロンのメリット

耐衝撃性や耐摩耗性が高い

MCナイロンの耐衝撃性は、常温ではあまり高くありませんが、温度が上昇するにつれて向上します。また、摩擦に対してもきわめて強い材料であり、軸受けやギヤといった摩耗しやすい箇所にもよく使用されています。

有機溶剤やアルカリ性薬剤、油脂などに強い

MCナイロンの耐薬品性は、一般のナイロン6とほぼ同じです。有機溶剤やアルカリ性薬剤、油脂などに強いことが知られています。

耐熱性が高い

MCナイロンは耐熱性が高く、120℃の高温でも連続して使用できます。耐熱グレードのなかには、150℃で使用できる製品もあります。このほか、荷重たわみ温度が高い点も特徴です。

軽量で取り扱いやすい

MCナイロンの比重は金属の約1/6~1/7であるため、軽量でかんたんに取り扱えます。軽さと強度を両立している点は大きな強みで、自動車をはじめ軽量化が進む分野でもよく使用されています。

MCナイロンのデメリット

吸水性および吸湿性が高く、寸法精度が低い

MCナイロンは水分を吸収しやすいため、水中や高湿な環境では寸法が増加してしまいます。MCナイロン製の部品を別の部品と組み合わせる際に、寸法が変化したため「はめ合い部分がうまく入らなくなる」事例もあるようです。MCナイロン製の部品を設計する際には、保管中や設置後の寸法変化も忘れずに考慮しましょう。

食品衛生法に適合させるには、沸騰水に1.5時間浸漬する必要がある

MCナイロン中には、残留モノマーや添加剤といった不純物が残っている可能性があります。このため食品衛生法に適合させるには、沸騰水に1.5時間浸漬して不純物を取り除かないといけません。

強酸に弱い

MCナイロンは有機溶剤やアルカリ性薬剤、油脂などに強い一方で、強酸には弱い点が特徴です。特に、有機酸よりも無機酸に弱いことが知られています。常温かつ低濃度であっても、無機酸との使用はおすすめできません。

MCナイロンの用途

MCナイロンは、強度や耐摩耗性、耐熱性、化学的性質の高さなどを生かして、さまざまな用途に活用されています。以下に例を示します。

  • ベアリング
  • 軸受け
  • ライナー
  • 歯車
  • 車輪
  • シーブ
  • スプリング
  • ビス
  • パイプ
  • 衣料品

また、製品グレードによっては避けるべき用途があります。たとえば、摺動性を高めた「MC703HL」は油脂食品にかかわる用途には使用できません。導電性を向上させた「MC501CDR2」「MC501CDR6」「MC501CDR9」などは、電機部品としての使用を避ける必要があります。目的とする用途に応じて、使用するグレードを選択しましょう。

MCナイロンとPOM(ジュラコン)の違い

MCナイロンとよく比較される材料に、POMがあります。
POMはホルムアルデヒドやエチレンオキシドをモノマーとするエンジニアリング・プラスチックで、ホルムアルデヒドのみが重合したホモポリマーと、エチレンオキシドを10モル%程度含んだコポリマーの2タイプがあります。MCナイロンと同じく、歯車やビス、軸受けなどに使用される樹脂です。
以下で、コポリマータイプのPOMである「ジュラコン」とMCナイロンの性質を比較してみましょう。

※ジュラコンは、ポリプラスチックス株式会社の登録商標です。

吸水性と耐衝撃性

一般に、吸水性が高いほど耐衝撃性も向上します。MCナイロンはPOMと比べて吸水性がきわめて高いため、衝撃に対してより柔軟に対応できます。
一方で、長期的な寸法安定性は吸水性が低いPOMの方が優れています。高い精度が要求される部品には、MCナイロンよりもPOMを使用する方がいいでしょう。

連続使用温度

連続使用温度は、MCナイロンが120℃程度(グレードによっては150℃程度まで使用可能)、POMが95℃程度です。MCナイロンの方が熱に強く、より高温での用途に適しています。

耐薬品性

MCナイロンとPOMの耐薬品性は似ています。どちらも有機溶剤に強く、強酸には弱い点が共通の特徴です。

まとめ

MCナイロンは、6ナイロンの性能を全体的に向上させた樹脂です。基本的な構造は6ナイロンと同じですが、モノマーキャスト法で製造するため、ひずみが少なく高性能な樹脂となります。
耐衝撃性や耐摩耗性が高い点、有機溶剤に強い点、熱に強い点などは、MCナイロンのメリットです。一方で、吸水性が高くて寸法が変化しやすい、強酸に弱いといったデメリットもあります。
MCナイロンには基本グレードのほか、添加剤を加えて特定の性質(耐候性や耐衝撃性など)を向上させたグレードの製品も存在します。目的の用途に応じたグレードを選択しましょう。