人材不足、開発競争が激化する中で、業務効率化は製造業において大きなテーマの一つとなっています。この記事を読んでいる方の中にも、業務効率化のアイディアを模索している方が多くいるでしょう。
そこで、メカ設計の経験が豊富であり、3D CADの導入推進や業務効率化につながるアイディアの立案・実践を経験してきた設計者の岡山氏に、仕事に取り組む際に大事にしていることや業務効率化の経験について聞きました。
初回である今回は、若手からベテランまで多くの方が活用できる「ECRS」を中心に紹介していきます。メカ設計者はもちろんですが、さまざまな業種の方の参考になる内容です。ぜひ一度、目を通していただければと思います。

ECRSを意識して業務に取り組む

岡山氏
機械設計者。大手メーカーで内製向け装置の設計・開発にあたるなど豊富な経験を有するプロフェッショナル。業務効率改善のプロジェクトをリードし、仕組み化やルール策定、効率化する意識の浸透など、設計業務の効率化にも取り組む。
一之瀬隼(インタビュアー)
国内外のメーカー向けに機電一体システムの開発・量産展開を担当する中堅エンジニア。制御設計寄りの業務が多いが、プロジェクトマネジメントに携わる過程で、メカ設計まで含めたシステム設計全体の業務効率改善に関心を持っている。

 

一之瀬:岡山さんは、これまで業務効率化につながる取り組みを多くされていますよね。日常業務に取り組む中で、アイディアを出すことは難しく感じます。どのような点を意識して、業務に取り組んでいるのでしょうか?
岡山氏:いつも、「面倒なことは繰り返しやりたくないなぁ」とか、「どうしたら、楽に仕事を進められるかな」、「ミスなく進めるためには、どうすればいいかな」ということを考えながら仕事をしています。笑
真面目に答えると、設計者のなかでも意識して取り組んでいる人はあまり多くないかもしれませんが、ECRS(イクルス)という考え方は常に意識していますね。
ECRSを意識していると、メインの設計業務はもちろんですがそれ以外の業務でも、「この仕事は効率化できそうだなぁ」と感じるポイントに気づけると思います。
ECRSという単語は意識していなくても、実際にこういうことを考えながら業務に取り組んでいる人は多くいるんじゃないですかね?
一之瀬:ECRSというのは聞き覚えがありませんでしたが、内容を聞くと確かに意識しながら仕事をしている人はいそうですね。私自身は、業務負荷が高い時期が続いているときに、「どうすればこの仕事をやらなくて済むようになるかな(Eliminate)」と考えています。


■ECRS(改善)の4原則
ECRSはもともとIE(Industrial Engineering)の手法ですが、設計開発や調達、営業など幅広い業務に適用できます。ECRSは排除(Eliminate)、結合(Combine)、交換(Rearrange)、簡素化(Simplify)の頭文字をとったもので、引き算の考え方で業務効率の見直しを行う際に活用できる手法です。E→C→R→Sの順に改善の効果が大きいため、改善を検討する際にはこの順番で取り組むことで、効果を最大化できます。

ECRSの具体的な事例

一之瀬:ECRSそれぞれについて、岡山さんがこれまで経験してきた具体的な事例を教えてください。まずは排除(Eliminate)からお願いします。
岡山氏:排除(Eliminate)は、メカ設計で図面を扱う人の場合、ペーパーレス化がイメージしやすいと思います。
紙の図面って俯瞰して全体を見やすいんですけど、仕事のアウトプットには直接影響しない、事務的な作業がすごく多いんですよね。例えば、複数の配布先向けにコピーするとか、コピーした用紙をすべてチェックするとか、関係部署に送るとか。
こういう煩わしい業務のほとんどは、図面をデジタル化することで解消できます。デジタル化することで、画面の範囲内しかチェックできないことをネガティブに感じる人もいますが、例えば図面を俯瞰できる大型のディスプレイを導入すれば、そういう課題も解消できます。
一之瀬:お話を聞いていて、大型のプリンターが遠くにしかなくて、しかも交換用の紙を準備して交換するのに、かなり時間がかかったことを思い出しました。図面を折るのも大変ですよね。
岡山氏:そうですね。大判の図面は自動で折りたたんでくれるプリンターもありますが、そもそも大型の高性能な設備導入も不要になるので、コストの削減効果もあります。

複数に分かれた機能を1つにまとめる

一之瀬:結合(Combine)は、私の仕事に照らし合わせてみると、なかなかいいアイディアが思い浮かばないですね。
岡山氏:確かに、「これ!」っていうポイントが見つけづらいかもしれませんね。メカ設計で考えると、複数の機能を1つに結合できないか考えることができます。うまく結合できれば合理的な機能になり、部品の数を減らすことができれば図面の作成・管理コストも減らせますし、部品のコストも低減できるので、効率化に大きく貢献できます。メカ設計以外の業務でも、複数の作業・工程をまとめられないかというのは、常に意識しながら業務に取り組めるといいですよね。
もう一つは、内容はほとんど同じなのに用途の違いで部品リスト、手配リスト、納品リストの3種類の帳票を作っていたことがありました。これも、それぞれの用途で必要な情報を抽出しまとめることで、一つの帳票に結合できました。どこの職場でも似たような事例はあるんじゃないかなと思っていますので、改善できるといいですね。

標準化が業務効率化に貢献する

岡山氏:交換(Rearrange)は、私が過去に取り組んだ設備設計での事例が参考になると思います。
設備は多くの部品を組み合わせて構築しますが、一昔前には用途・要求仕様にぴったり合うような購入品、標準品はそれほど多くありませんでした。要求を実現するためには、新規で設計・加工する部品が必要であり、新規で作った図面を扱うのに工数がかかります。
ある設備の設計のタイミングで、できるだけ購入品、標準品に置き換えられないか?という取り組みを提案しました。実際に、その前提で設備全体を設計してみると、部品調達も楽になりましたし、図面関係の効率化や全体のコスト低減も実現できています。
一之瀬:広範囲に大きな成果につながったんですね。確かに、制御設計でもソフトウェアに織り込む定数を共通化することで、大きな工数の削減につながります。
岡山氏:そうですね。標準化を進めて、まずは標準化したものを使えないか?という観点で検討することが、業務効率化につながると考えています。

作業の数を可視化・低減する

一之瀬:簡素化(Simplify)は、業務効率化に取り組む際に最初に思いつく要素だと思うので、多くの人がイメージできそうですね。
岡山氏:そうですね。効果をわかりやすくするために、数値で表現してみるといいかもしれません。例えば、ある作業には20回のクリック操作が必要でしたが、Excelのマクロや関数を活用して1回のクリックで完了するようにできれば、業務効率化につながります。
メカ設計の観点では、機能追加を繰り返して複雑な形状になってしまった部品は、簡素化できる可能性があります。現在、その部品に求められている機能を実現できる形状を考えてみると、実は複雑な形状は不要だったということもあるでしょう。

設計開発業務にECRSを活用するポイント

一之瀬:ECRSの考え方を業務に適用する際に、どのようなことに気を付けていますでしょうか?
岡山氏:ECRSの考え方というのは、仕事を経験しているからこそ思いつきます。未経験ではアイディアが出てこないので、まずはいろいろな業務を経験し、その過程で工夫できることはないか、ECRSの観点で考えてみるといいのではないでしょうか。
あとは、「理由はわからないけど過去から引き継がれていること」や「先輩の指示にそのまま従っていること」については、理由を明確にすることが重要です。なぜその作業が必要なのか、本当に今も必要なのか。疑ってみると改善点が見つかるかもしれません。
また、一部の設計者は、個人で使うために便利なツールを開発していることがあります。個人で使用するだけではなく、少しずつでも輪を広げて全体で使うようになっていけば、よりよいツールになっていくでしょう。

設計プロアドバイザー 岡山陽

制御設計者の独り言

今回は、メカの設計をメインで担当していた岡山氏に話を聞きました。筆者は機電一体の製品開発の中で、制御設計、ソフトウェア設計よりの仕事をしていますが、今回紹介していただいたECRSは業種を問わず活用できる考え方だなと感じました。
実際、読者の方も職場で、ECRSという言葉は知らなくても似たような取り組みをしている人は多いのではないでしょうか。ECRSの概要や具体例に触れ、少しでも業務効率化のアイディアにつながればいいなと思います。
業務効率化による負荷低減で、設計開発を担当するエンジニアの負荷が減り、その結果として優れた製品が多く開発・生産されることを願っています。