プロフェッショナル連載記事 設計開発に活用したい「ECRSの4原則」に基づく業務改善の取り組み

3D CAD導入を例とした、新たなシステムやツールを導入する際の環境整備

本連載では、メカ設計の経験が豊富で、3D CADの導入推進や業務効率化につながるアイディアの立案・実践を進めてきた設計プロセスアドバイザーの岡山 陽さんに話を聞いています。
2回目となる前回の記事では、3D CADの導入を事例として、自社で新しい取り組みを始める際のポイントや注意点について具体的に聞きました。3記事目である今回は、3D CADの導入を事例として、新しい環境に慣れるために必要な時間の確保や、新しく取り組んだものを使い続けるためのポイントを紹介します。
3D CADを頻繁に使用する人にとっては、継続して3D CADを使い続けるために効率的な作業環境の構築や工夫は必要不可欠です。また、3D CADに限らず新たなツールやシステムを導入する際には参考になる取り組みです。
今回紹介する取り組みの中で参考になるものがありましたら、ぜひ試してみてください。

岡山 陽さん: 機械設計者、設計プロセスアドバイザー。大手メーカーで内製向け装置の設計・開発にあたるなど豊富な経験を有するプロフェッショナル。業務効率改善のプロジェクトをリードし、仕組み化やルール策定、効率化する意識の浸透など、設計業務の効率化にも取り組む。
一之瀬隼(インタビュアー):国内外のメーカー向けに機電一体システムの開発・量産展開を担当する中堅エンジニア。制御設計寄りの業務が多いが、プロジェクトマネジメントに携わる過程で、メカ設計まで含めたシステム設計全体の業務効率改善に関心を持っている。

3D CAD導入後に職場で浸透させるまでの課題

一之瀬:3D CADの導入後は、すんなり職場で浸透し使われるようになったのでしょうか?
岡山氏:3D CADを導入することが決まり実際に運用が始まりましたが、導入したばかりの頃はメンバーから「3D CADは使いにくい」という声が多く挙がりました。3D CADに限りませんが、新しいものを導入した場合には、実際にはいいものだったとしても正しい評価をするまでには一定の評価が必要ですよね。
一之瀬:具体的には、どのような不満が挙がったのでしょうか?
岡山氏:例えば、「これまで使ってきた2D空間に慣れているので、3D CAD空間において寸法やサイズ感がつかめない」という意見や、「アッセンブリ部品を扱う際に部品同士の相対関係が認識しにくい」といった意見がありました。このような課題は、3D CADに慣れることで解決できます。そこで、継続して利用してもらうために、導入初期はできるだけ抵抗なく効率的に3D CADを扱えるような工夫をしてあげることが望ましいです。
また、最初に大事だからと考えて厳格に細かいルールを定めすぎてしまうと、新しく導入したものを扱う際に気にしないといけないことが多すぎて使われなくなってしまいます。特に、過去のシステムから受け継がれてきた根拠のわからないルールは、なくしてしまう方がいいでしょう。

3D CADの導入時に取り組んだ効率化

一之瀬:3D CADの導入時には、具体的にどのような効率化の取り組みを行ったのでしょうか?
岡山氏:3D CADの導入時には、できるだけシンプルにすること、作業手番を減らすことを考えました。実際に取り組んだ取り組み事例をいくつか紹介しますね。

CAD環境のプラットフォーム化(CAD中心の作業環境構築)

岡山氏:例えば、CADを扱う際の環境をプラットフォーム化してCAD中心の作業環境を構築できれば、作業の効率化が図れます。プラットフォーム化というのは、CADの画面からWEBや図面フォルダなどのよく使うソフト、データなどにアクセスできる状態です。Windowsなどのデスクトップ画面の代わりに、CADの画面をトップ画面として扱う状態をイメージするとわかりやすいでしょう。
一之瀬:プラットフォーム化は、ECRSでいうとどの項目に分類されるのでしょうか?
岡山氏:CAD以外の作業を行うたびにデスクトップ画面に移動して、別ソフトで作業後にまた戻ってくるという手間を無くすことが可能です。これは、ECRSでは遷移作業の排除(Eliminate)に当てはまります。また、デスクトップ画面の機能を一部CAD画面に結合することから、ECRSの結合(Combine)とも考えられます。

マクロの導入による作業の自動化

岡山氏:作業効率化を検討する際には、Excelのマクロを活用することがあると思います。3D CADでも、マクロを活用すれば作業を自動化できます。3D CADでは繰り返し同じ作業を行う場合が多くありますが、同じ作業の繰り返しは慣れからミスが生じやすいです。このように、ミスが起きやすい繰り返し作業をマクロによって自動化できれば、作業の効率化と品質の向上を実現できます。
一之瀬:作業のチェックについては、どのように行うのでしょうか?
岡山氏:使用するマクロのプログラムに対して、適用するシーンで正常に動くことの確認や意図しない動作をした際の対処が明確になっていれば、作業ごとのチェックも不要です。
ECRSの観点では、繰り返し作業の排除(E)や作業の簡素化(Simplify)に繋がります。

3D CADを前提とした業務環境の整備

岡山氏:3D CADを導入したばかりで2D CADから切り替えたばかりのタイミングでは、一緒に仕事をする関連部署の人や顧客も3D CADを前提とした業務プロセスには慣れていない状況です。
特に3D CADに慣れていない顧客の場合には、3D CADと2D CADの両方の情報を求められることがあります。その都度外部の要求に対応していては、本来必要のない仕事にも対応することで3D CADに慣れる時間が確保できず、3D CADの導入が進みません。
一之瀬:2Dの情報が求められる場合には、どのような対応が望ましいのでしょうか?
岡山氏:2Dの情報が必要とされる場合には、3D CADの情報から簡単に2Dの情報が出力できるような仕組みを構築し、それが難しい場合には要求を変更してもらうように調整するといいでしょう。この件はECRSのように引き算の考え方ではありませんが、3D CADの導入によって余計な仕事を増やさない、足さないという考え方は重要です。

シンプルなルールの構築

岡山氏:3D CADに限りませんが、新たなツールやシステムを導入する場合には、厳格なルールを作ってしまいがちです。ルールが多すぎると、2D CADから変わったインターフェースへの対応に加えて、新たなルールも気にしながら作業を行う必要があります。導入したばかりのタイミングでは、最低限守らなければならないルールに限定して、早く慣れることを優先することが重要です。
一之瀬:新しいルールを作らなければいけない場合には、どのような点に気を付ければいいのでしょうか?
岡山氏:新たなルールが必要な場合には、なるべくそのルールを作業者が意識しなくてもいいように自動化とセットで導入するといいでしょう。また、過去のシステムでは必要だったから新しいシステムでも引き継いでいるが、実際には新しいシステムでは不要なルールは積極的に廃止することが重要です。これは、ECRSの観点ではルールの簡素化(S)に繋がる取り組みですね。

効率的な作業環境を構築していくための協力体制

一之瀬:効率化に向けてさまざまな取り組みを行っていますが、効率化に向けたアイディアを一人で出すのは難しいですよね。リードしていける人がいない場合には、どうすればいいのでしょうか?
岡山氏:実は、個人で効率的な取り組みを考えて実践している人は多くいると思います。でもいろいろな理由で、個人での使用に留めていて共有されていないだけという場合が多くあります。あとは、最初から広範囲で始めると大変なので、スモールスタートで課題を出しながらルール構築、効率化を進めるということも重要です。

他の人を楽にしてあげれば、結局自分も楽になる

一之瀬:効率的な取り組みを行っている人に、それを共有してもらえるようにするには、どのようにすればいいのでしょうか?
岡山氏:自身で取り組んでいる効率化のアイディアを共有していない人は、共有することで面倒なことになるのを嫌だと感じているのではないでしょうか?例えば、自分で使っている分には必要なかったのにツールに対する改善要望が来たり、質問に対応しなければいけなくなったりするため、負担が大きくなります。
考え方の一つとして、他の人の要望に応えることで自身のスキルアップや作業効率化にも繋がります。また、他の人の業務が効率化すれば、自分の仕事を手伝ってもらう時間ができると考えることもできるのではないでしょうか。

スモールスタートの考え方で取り組む

一之瀬:組織が大きいほど、いろいろなしがらみでスモールスタートが難しくなりますよね。
岡山氏:そうですね。本当は、大きな組織ほど影響が大きいのでやるべきです。新しいシステムを導入する場合に広範囲で一斉に切り替えてしまうと、うまくいかないことがあった際に影響が大きくなります。シンプルで効率的なルールを構築し、実践しながら効率化のための環境整備やシンプルなルールを作りこんでいくといいですね。

制御設計者の独り言

私自身も、会社の中では新しい取り組みを全体に導入する前に試して、意見を出す立場になることが多いです。自分の感覚では問題ないことでも、いろいろな感じ方をする人がいる職場では、全体導入後にまったく異なる意見が出てくることがあります。
すべての意見を網羅して対応することは難しいですが、自分の感覚だけで判断するのではなく、これまでの経験から他の人がどう感じるかを観点に加えてみます。一方で、新たに導入したものを活用する側になる場合には、導入担当の苦労を考慮して、積極的に活用し前向きな改善案を出していこうと思いました。
今回紹介した取り組み・工夫の中で一つでも気になるものがあれば、ぜひ業務の中で実践し、前向きに取り組むことで効果を体感してみてください。

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