ものづくり基礎知識 石川玲子の四方良し!設計塾 -上級設計者への道-

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設計次第で37%コストダウン!板金部品の設計3選、事例を交えた解説

コストダウンは、製品の競争力強化や顧客満足度の向上のためには欠かせない課題です。そのため設計者はたくさんのコストカットアイディアをストックしておかなければいけません。
この記事では機械部品や筐体として数多く利用されている板金部品に対し、設計段階からできる工夫を紹介します。今回は例として、FAライン上にワーク有無判別センサを取り付けるための板金ブラケットの設計を取り上げます。

これはワークを回転させる機構です。右上から流れてきたワークが回転テーブルに乗ると、回転テーブルが回ってワークの向きを変えます。その後、右下の押し出し機構によりワークは押し出され、左上に流れていく仕組みです。
このとき、回転テーブル上のワークの有無を確認するためのセンサを取り付けるため、回転テーブルと押し出し機構をかわすように(干渉しないように)、透過型の判別センサを設置します。 ワークを回転させる機構

①部品を小さくすることで、原材料費を減らす方法

不必要に大きな部品は、コストアップの原因になります。材料費の増加だけでなく、体積や重量が増すことによる輸送費の増加など、さまざまな理由でコストが上がってしまいます。そのため必要最小限の大きさで設計するのもコストダウンのためには非常に大切です。
初期の設計では、左のような形状でした。しかし板幅にムダが見られます。これを改善したのが右の形状です。

Before After
板幅が長く、無駄がある 板幅を短く調整
板幅が長く、無駄がある 板幅を短く調整

この設計のポイントは、部材を不必要に使わないようにしたことです。
センサを支える部位には大きな荷重や振動はかかりません。そのため、板金の幅もセンサの取り付けと板金ブラケットの取り付けに必要な幅に合わせたものに変更しました。
meviyの試算によれば、最初の設計では3,760円であったものが、設計変更後には3,690円にダウンしました。

Before After
合計3,760円 合計3,690円
合計1,890円

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合計1,850円

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合計1,870円 合計1,840円

②曲げ回数を減らすことで、加工費も減らす方法

曲げ回数が少なければ、コストダウンにつながります。板金においては、プレス機で1回部品を挟むごとに、1つの曲げを作ります。そのため曲げる場所や回数が多ければ、作業の量が増え、コストの増加につながります。まずは改善前の設計と改善後の設計を見比べてみましょう。

センサ取り付け面と固定面の間に2回の曲げがあります。しかしこれを下のように設計変更することで、折数を1回削減できました。

Before After
2回折っている 折りが1回
2回折っている

この設計では、それまでは台の側面に板金を固定していたものを、台の上面に固定する形に変えました。
これにより曲げ回数が減り、コストも3,690円から3,630円にダウンできました。
それだけではなく、板金を固定するためにネジを入れる方向が水平から垂直(下)方向になったため、板金を固定する際の作業性も向上しました。

Before After
合計3,690円 合計3,630円
合計1,850円 合計1,820円
合計1,840円

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合計1,810円

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③一体化することで、部品点数を減らす方法

部品点数を減らすのも、コストダウンには有効です。
この設計ポイントでは、回転テーブル、押出機構、コンベアとの干渉を避けるため、2部品に分割して設計してきました。

しかし、これを下のように1部品にすることで、板金のコストダウンできました。

Before After
2つの部品に分かれている 1部品に統合

これまでセンサから下方向に板金を伸ばしていたものを、一旦水平方向に伸ばすことで、モータとの干渉を避けました。
この設計により、板金を締結するためのネジの本数も減り、さらに1つの部品にすることによってセンサの光軸を保ちつつ、位置合わせをしやすくなりました。
コストも3,630円から2,350円にダウンできました。

Before After
合計3,630円 合計2,350円
合計1,820円 合計2,350円

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合計1,810円

また、これまでの設計では、材質をSUS304で設計していましたが、特に高い強度や耐食性が求められる部品ではないため、SUS430に変更することも可能です。そこでSUS430に変更してみました。
これによりコストは2,350円から2,280円にダウンできました。
最初の設計では3,760円でしたので、1,480円のコストダウンになります。

Before After
合計2,350円 合計2,280円
合計2,350円 合計2,280円

その部品は本当に必要か?

コストダウンのためには、時に、対象とする部品だけでなく装置やライン全体の構成から改めて見直す必要もあります。もしかしたら、ワーク有無のチェックは、すでに前の作業の段階で行われており、そのあとにはワークを確認する必要がないのかもしれません。そのような場合には、該当の場所で改めてチェックする必要がないケースもあります。
今回のケースではセンサをなくすことはできませんが、ラインの流れを変えるなど、動作フローそのものを見直すことで、今回設計してきた部品や、ワークの向きを変える装置自体が必要なくなるケースもあります。
部品の設計をしていると、その部品のみに思考が集中してしまいがちですが、視野を広く持つことも、コストダウンには欠かせないポイントなのです。

※3Dモデル提供:パーソルエクセルHRパートナーズ株式会社