ものづくり基礎知識 石川玲子の四方良し!設計塾 -上級設計者への道-

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板金部品の剛性アップ設計。制約があっても諦めない、ワーク搬送コンベアの足回りの例

板金部品は、少量多品種生産に向いていることもあり、FAラインを構成する独自部品の製造などによく使われています。しかし、材料が比較的薄い金属になってしまうため、条件によっては剛性や強度に課題を抱えるケースも少なくありません。この記事では、板金部品の強度(剛性)をアップさせる方法を3回にわたり、実例を交えながら紹介します。

今回の題材は、ワークを搬送するコンベアの足回りです。ワークを回転させ、流れる方向を切り替える装置において、ワークを回転ステージまで送るコンベアと、回転ステージから排出されてきたワークを次の工程に運ぶコンベアがあります。このコンベアを任意の高さに固定するためのブラケットの設計をしていきます。
最もシンプルな設計としては、下図のように板金をL字型に曲げただけの形状になります。しかしこの形状では、板金の曲げ部分の強度が足りず、コンベアの横揺れが発生するなどの問題が想定されます。
このような場合、ブラケットの剛性をアップさせるためにできる工夫には、どのようなものがあるのでしょうか。

板金部品の剛性アップ設計。制約があっても諦めない、ワーク搬送コンベアの足回りの例

①リブを溶接する

最初に思いつくのが、リブを追加して強度をアップすることです。下図のような形状をブラケットに溶接します。板金の剛性を増す方法としては最も多く見る方法といっても過言ではないでしょう。

リブを溶接する

この設計を行う際に考慮したいポイントは、図中の赤丸で示した曲げ加工の部分です。追加されるリブの角部を切り欠き、ブラケットの曲げRに対して隙間を空けています。このような空間があることで、リブがブラケットの曲げRの影響を受けにくかったり、溶接がしやすくなったりするなどのメリットがあります。

②曲げの角に絞りを入れる

もしリブが溶接できない場合には、ブラケットの曲げ部に絞り加工を入れる方法もあります。

曲げの角に絞りを入れる

これはシンプルなやり方で剛性をアップできる方法です。部品を追加したり、使用する部材の量を増やしたりする必要がなく、1工程加えるだけの変更で、剛性が増すのがポイントになります。
しかし前述のリブを追加する方法に比べると、強度はあまり高くありません。
材料などを追加せず、ほんの少しだけ剛性を上げたいときなどに使うといい方法です。

③リブをネジで留める

ブラケットの取り付け後に曲げ部分の強度不足が判明した場合には、下図のようにネジでリブを取り付ける方法もあります。

リブをネジで留める

基本的な考え方としては、溶接の例と同じになります。しかし今回は、ブラケットの取り付け後にリブを追加する想定であるため、リブに曲げを追加し、ネジを取り付けられる面を作りました。
このような設計を行う際には、赤い丸で示した部分で、ネジの頭同士が干渉しないように注意する必要があります。そのため、この例においても、溶接の例よりも切り欠きを大きくとっています。
またブラケットを取り付けてある台座(ベース)に対し、リブを固定するタップが開けられない可能性もあるため、ネジ部の設計に注意が必要です。

④ブラケットの内側に補強材を入れる

他にもブラケットの取り付け後に剛性不足が判明した場合には、リブではなく、対になるブラケットと連結させる補強ブラケットを入れる方法もあります。

ブラケットの内側に補強材を入れる

この設計のポイントは2つあります。
1つ目は追加する部材もL字型で1回曲げの非常にシンプルな形状であることです。2つ目は、向かい合うブラケット同士を連結することで、コンベアの横揺れに対して非常に効果的な構造になっていることです。
赤丸で示したネジの貫通穴は、長穴になっており、コンベアの幅寸法のバラツキを吸収できる設計になっています。一つ前の例のようにリブをネジで締結するケースでは、リブを固定するネジと台座との干渉が心配されましたが、この設計ではその心配もありません。

まとめ

比較的加工が容易なのは①の例でしょう。③や④も、①よりは現場での作業が増えるものの、難しい加工にはなりません。一方で設備などの条件が問われるのは②の絞りを加える方法になります。
剛性を比較してみると、①、③、④は寸法によって順位が前後するものの、あまり大きな差はないでしょう。しかし②の案は、あまり強くはできません。そのため、剛性をわずかに上げたいときに使える方法になります。